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【ぷりかる】夜消えた世界

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【ぷりかる】夜消えた世界

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「ところで、この塔に関してですが……正式な作戦と言う事は報告書も必要だと思いますが」

 神代 明日香(かみしろ・あすか)の言葉に、アーシアは面倒臭そうに溜息をつく。

「結果だけ言えですぅ、とか言うと思うけど……まあ、いいや。丁度いいから授業代わりに説明したげる。はーい、皆集合ー」

 パンパン、と手を叩くアーシア。シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が真っ先にやってきたのを見ると、アーシアは溜息をつく。
 隣に護衛として立っているマクフェイル・ネイビー(まくふぇいる・ねいびー)と、偉そうなシェヘラザードを除けば、一番の反応だ。

「うんうん、百合女は教育実習生も立派だねー。はい、そこの葦原明倫の学生諸君も駆け足!」

 テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)を抱えてやってくるレオニダス・スパルタ(れおにだす・すぱるた)達を見ると、アーシアは咳払いをする。

「えー、一見凄そうに見えるこの太陽の塔だけど、魔力と光の相互変換を行いながら構成されてる、いわば外部配線の塊なの。細かく編みこんでるから、硬度は金属以上だね」

 つまり外部からは壊せないって事なんだよー、と説明するアーシア。
 中から激しい戦闘音が聞こえてくる割に塔が揺れすらしていないのは、そういった理由によるものなのだろう。

「で、この塔の役割だけど。冗談でもなんでもなく、そこの村に昼を作り続ける為だけのものだから。他の存在理由とかは一切なし」
「それって、どういう悪なの?」
「どうなんだろうな……迷惑そうではあるけどな」

 シェヘラザードに話を振られて、シリウスは困ったようにそう答える。
 先輩としてほおっちゃおけない、という理由で来たシリウスではあったが、この塔の存在がどう悪かと問われると難しいものがあった。

「悪の秘密結社? が作ったものだから悪ということでいいかと思いますわ」
「そうよね! リーブラ、お前冴えてるわね!」

 その議論を聞いていたアーシアは、溜息をつきます。

「うーん。じゃあ、問題。この塔を戦略兵器と仮定した場合に、効果的な仕様と効果について述べてみてくれる? えーと、明日香。どうかな?」

 話を振られた明日香はメモをとる手を止めて、少し考える。

「魔力を搾取している現状から考えると、それによる何かの転用が一番考えられる線だと思います」
「うん、そうだね。じゃあ、シリウスはどうかな? 教育実習生らしい回答を期待してるよー?」
「うっ……」

 ニヤニヤするアーシアに一瞬ひるんだシリウスは、真面目に考え始める。
 百合女の教育実習生として、シェヘラザードの前で格好悪いところは見せられない。
 考えに考えて、ようやく合理的な答えを見つけ出す。

「短期的には、昼間と同等の状況を作り出す事による身体的なリズムへの影響ってとこが考えられるか? ただ、戦略兵器として考えた場合には微妙なんじゃねーか?」
「そうだね。だとすると、この塔の基本的仕様から考えられる一番効果的な使い方は?」
「強力な光術を発する砲台か爆弾としての使用が一番効果的だと思うぜ」

 シリウスの答えに、シェヘラザードもリーブラも感心したような声をあげる。

「この塔は、そんな使い方が出来るのか?」

 チンギス・ハン(ちんぎす・はん)の言葉に、シリウスは頷く。

「光に変換してるってことは、光術を自動実行する装置に類するものってことだからな。当然できると思うぜ」
「しかし、そういう使い方はしてない……ということであるな?」
「どういうことなのよ」

 なにやら納得しているシリウスとクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)の間に、シェヘラザードが顔を突っ込む。

「つまり、この塔は戦略兵器としては価値がない……ということじゃな? その上で、魔力を何処かに転送するような仕掛けもない、と」
「はい、正解。ぶっちゃけ超高度で超最先端にして超未来志向の魔法儀式を贅沢に無駄遣いした究極にバカな作品っていうのが私の評価かな」

 佐倉 薫(さくら・かおる)の言葉に、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)も成程と頷く。

「そうなると、内部の防衛装置とやらは、魔力を内部で使い切る為の手段でもあるってことか?」
「待ちなさいよ。そうなると、この規模の塔を建設する意味は何処にあるのよ。もっと小さいものでいいってことじゃない」
「だから才能を無駄遣いするのが好きなバカなんだってば、作ったヤツが」

 剛利とシェヘラザードの言葉に、アーシアは溜息をつく。
 何やらテラーがシェヘラザードにじゃれついているが、それをレオニダスがジト目で見ている。
 緊張感ないことこの上ないが、こんなものでいいのかもしれない。
 これを作ったネバーランド……ひいてはオルヒトという男自体、世界征服などという言葉とは遠いところにいる男だ。

「さ、これにて授業は終了。オルヒトとかネバーランドとかの事については、また機会があればね」

 まさか村に、オルヒト本人が来ていたとは気付かないままに、アーシアはそう言って話を締めくくる。

「よし、じゃあ話も終わったところで。必要なら手助けさせてもらうぜ、『すぐ』連れて帰れとは言われてないしな?」
「……百合園の先輩として……年がいくつでも……後輩の戦いを見て見ぬふりはできませんから」

 シリウスとリーブラの言葉に、シェヘラザードは満足そうな笑顔を浮かべる。

「勿論、お前達にも力を貸してもらうわ。これは正義の戦いだもの!」
「人の話のどこを聞いたら……まあ、いいや」
「……では、私達も出発ですか?」

 マクフェイルの言葉に、アーシアは溜息をつきながら答える。

「あー、そうなるかなあ。マクフェイル君には悪いんだけどさ。私より、あっちの百合女の子を優先でやってくれる? 危なっかしいったら」
「ええ、分かりました」

 優しく微笑むと、マクフェイルはシェヘラザードの側に佇むように布陣する。

「さーて。すでに潜入してる盗賊団共が静かになり始めてきたところで、私達も突入するよー! 各自、自分の身は最低限自分で守るよーに! どうしてもダメなら、ここの対盗賊部隊のところまで逃げること!」
「問題ないわ! 正義を志す仲間がこれだけ集まったのだもの! 行くわよ皆!」
「襟を掴むなっ! あ、コラー!」

 引きずるようにシェヘラザードに連れて行かれるアーシア。

「がげごるぅがぅ!」
「む、お前も行くのね。よし、私についてきなさい!」

 そのシェヘラザードを追うように、あるいはじゃれつくようにテラーも塔へと向かい。
 
「ちょ、ちょっと! ピンク髪だし!褐色肌だし! 外見似てるんだよ! おかげでテラーもレオニダスとその少女間違えるし!」
「いきなり何よお前! 呪うわよ!」
「ごるぅがぅ!」
「ほら、この、えーと。お前なんて言うの? まあいいわ、そうだって言ってるじゃない!」
「適当言うな!」

 シェヘラザードになつくテラーの姿に嫉妬にも似た感情を覚えたレオニダスが、半ば因縁をつけるようにシェヘラザードとテラーの後を追う。
 そのまま三人はズンズンと扉の入口へと進んでいき……そこで、アーシアが叫ぶ。

「ちょ、待ちなさい! マクフェイル君、立ち塞がって!」
「え?」

 言われて困惑しながらも、マクフェイルは素早くシェヘラザード達の進路を塞ぐ。

「ちょっと、何よ。どかないと呪うわよ」
「いや、説明してなかったけどさ。ここ、二人ずつしか入れない魔法かかってるから。対軍用のエグいヤツ。二人組になって順番に入って」
「……仕方ないわね、はい」
「がごぅ」

 シェヘラザードはテラーを抱えてレオニダスに渡すと、アーシアを引きずったままズンズンと塔へと入っていく。
 扉が壊れかけているのは、先に入った盗賊団がやったのだろうか?

「我様は待機か……まあ、破壊はいいが護衛は苦手だからな」
「金の匂いがするぞ、テラー! 稼ぐのだぞ!」

 チンギスとクロウディアはそう言って、テラーとレオニダスを見送る。

「防衛はあたしの役目だし……あと、あの娘と容姿がかなりかぶってるのが気に入らない!」

 チンギスとクロウディアからテラーとのコンビを任されたレオニダスは、そう呟く。
 初対面からケンカを売ってしまったものの、今回のお役目はシェヘラザードの護衛。

「まあ、私とテラーに任せて、二人は待ってなさい」

 チンギスとクロウディアにそう言うと、テラーとレオニダスも塔へと入っていく。

「私も一応中を調査しますか……」

 明日香も、そう言って中へと入っていく。
 実際に報告するとしても、その目で見なければ信憑性は薄れてしまうからだ。

「う……っ!」

 そうして中に入った明日香が見たものは、眩い光の洪水。
 反射、乱反射。増幅を繰り返し、輝きを強め続ける光達。
 すなわち、塔全体が巨大な増幅装置。

「ほほう、シボラの呪術師とな? ならば探索の呪法もお手の物であろ? 少しばかり手を貸してもらえんかの?」
「こんな一寸先もよく見えないところじゃあ、探索なんかまともに出来ないわよ。まずはそっちをどうにかしないと」
「悪いな、師匠につき合わせて」

 聞こえてくる声はシェヘラザードと……薫、そして剛利の三人だ。

「とにかく、薫と剛利だったかしら? 行くなら一緒に行くわよ。まったく、壁のない迷路みたいだわ」
「……うまい例えだな」

 剛利の声に、薫が小さく笑う声が重なる。
 成程、確かに壁のない迷路だ。
 こんなに眩しくては、人は自然と暗い方向を目指してしまう。
 しかし、この塔の中で「少し暗い場所」とはすなわち、光を反射しない光のゴーレムのいる方向だ。
 そう……これ自体が、天然の防衛機構というわけだ。
 進むだけで困難。
 それが、明日香達の知った太陽の塔の正体だった。