First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Last
リアクション
終幕
黄昏色が混じり始めた空にさゆみの歌が響き渡る。
幸せの音色を織り込んだ風は隅々へと吹き渡り皆の耳に届くだろう。
永谷は次はお風呂の準備でもしようかと塩と同じく大量に持ち込んでいたタオルを手渡しながら村人の間を練り歩いた。
即席の報告書でもって村長に今回の報告を渡し終えたルカルカは手慣れた手つきで卵と豆と肉の入ったスープを作ると村人と協力者達に労いの言葉を添えて配り始めた。とにかく散々な目に遭ったユーリはいそいそと座れる場所を作ると老人を中心に休ませ同じくスープ配りに参加した。
スライムの自重で脆かったり継ぎ目の弱い部分を中心に大きく崩れている家屋を眺め甚五郎は溜息を吐いた。吐いて、瓦礫の撤去に着手する。その隣で複雑な表情のローグが手伝いを申し出た。死人が出なかったことだけがとにかく有り難く、早く安らげる場所を提供したい一心で働いた。肉体労働に率先して動いたのは火炎放射器の手入れを終えた剛太郎と武尊だ。他に動ける男衆に瓦礫置き場等の指定がないか確認し、村の損壊具合に渋く唸った。
唯斗は三十センチ四方のスライムが入り込めそうな場所を中心に魔槍片手で村の中を見回っていた。面倒だったが取りこぼしは目溢しできない。同じく永夜も村内をゆったりとした足取りで巡回していく。
襲撃された村人よろしく暗い空気が立ち込めのかと思われる中、意図せずそれを食い止めてるのはエースだった。「これは素敵なお嬢さん、どうぞ」から始まって「もう心配ありませんよ、大丈夫だから、可愛いお嬢さん」で終わる夢見るような丁寧な扱いにガーベラと薔薇のプレゼント。子供には苺ドロップ。村の女性達は明るく華やかに賑わい子供達は口に広がる甘みに目を輝かせている。そんな妻や子供が喜ぶ姿を眺め男達も笑っていた。
共に薪を集め明かりの準備をしていた忍とカルは落ちゆく太陽に急かされて作業の手を早めた。こちらの方がスライムやら盗っ人やら相手にするより遥かにマシと忍は集めた木材の一部に油を振りかけ、カルはこれも人の為と思えば村人だけでも無事に守れたことにまたひとつ自信をつけた。
「研究資料狙いだ」
そう白状したのはさゆみの一撃で最初に気絶した侵入者の男だった。
「おまえッ」
「裏切る気かッ」
左右から非難の声が上がるが、三人仲良くお縄について抵抗も何もないだろう。
リースと吹雪との疑わしい視線に男達はそれぞれに目を逸らす。
「研究資料を見て利用できると判断したら素体を手に入れようと思っていた」
確かにスライムより資料の方が盗み易い。
「そもそも良くわからない物体を手に入れたいと思うほど我々鏖殺寺院メンバーは馬鹿ではない。 ……と、本当なら吠えたいところだ」
全てが尽く失敗した男は情報提供はここまでだ以後は喋らないぞと固く口を閉ざした。
侵入者の連行をどうするべきか思案していた詩穂の元に村長がその手に手紙を持ってやってきた。
「すみませんが、お願いしたいことがあります」
遠慮がちに差し出された手紙を受け取った詩穂はその紙面に綴られた名前に思わず村長を見た。
「ラズィーヤ様に?」
「はい。村の支援をお願いする内容です。こんな形で貴女にお願いするのは失礼だと重々承知しておりますが、今私が村を離れるわけには行けませんし、他の者も出来れば復興に集中したく、これも何かの縁と思いまして」
「わかりました。そう構えずに、ラズィーヤ様のご支援もすぐに届くと思いますし、村長は一日も早く村の立て直しに尽力してください」
安心してくださいと、丁寧な所作で詩穂は村長を励ますように笑った。
焼け焦げた地面から考古学者は真っ黒な墨色の球体を拾い上げた。
言わなくとも知れる、スライムの核であった物を見下ろし、考古学者は半歩後ろに下がると振り返った。
振り返った先に和輝と祥子のふたりが待ち受けるように立っていた。
祥子が一歩前に出た。その手には一枚の紙が用意されている。
「先生、これ、皆から集めたスライムに関しての今回の結果報告書よ」
これだけの騒動で得られた情報はたったの紙一枚。
村一つ壊滅しかけての結果が形となり、目の前に突き出された考古学者は和輝の厳しい眼差しから逃げるように目を伏せた。
そんな男に祥子は無理やりその手に書類を握らせる。
危機管理能力が低いと評価していた和輝の視線は増々と冷たくなっていく。それに気づいたのか考古学者は顔を上げた。
「一度然るべき機関に相談してみればいいだろ」
「え?」
「研究続けたいなら、こんな誰彼構わず迷惑かけるところよりよっぽどマシだと思うんだが?」
非難めいた口調であったが心情を汲んだ提案に考古学者は押し黙る。
展開の速さについていけず村の惨状の原因が自らに在ると信じられない男は、小さく「時間をくれ」とふたりに、本当に小さな声で消え入るように答えた。
平穏を取り戻した村に漂う大気には、まだ雨の匂いが濃く残っている。
遺跡より発見された軟体生物:仮名『脱走スライム』
○脱走スライムの特徴として色は青み色の強い透明色、大きさは三十センチほどで形状は限りなくスライムに近い。
○水または水属性の攻撃等を受けると十数倍の数に分裂増殖する。分裂速度は早く家一軒なら瞬く間に占拠できる。
○ただ分裂した部分は四十八時間で自然消滅する。本体と思われる核持ちのスライムだけが消滅しない。
○生物を取り込む性質は無いが粘度が高くスライムに触れると鳥もちの様に簡単には取れない。
○しかし、粘度が高い割に火に弱く一定時間高温に当たると沸騰し蒸発する。また核持ちスライムは核のみ残る。
また、下記内容を追加してこの生物についての研究を一時保留とす。
○水を含む水属性、火を含む火属性以外の属性は全て無効。
○統合能力は無し。どんなに重なり圧縮されようとも混じりあわない。逆にスライム同士なら砂のように解け合う。
○無害。素手で触れる。ただし、高粘度の為、間違っても抱きついたりはしない事。
○浮遊系のスキルが有効の可能性有り。(あくまで可能性。検証無し)
○武器とか道具等の攻撃された対象に接着し、切断等は不可能。
○意志があるように見えない為、生物の可能性が限りなく低い。(と思われる)
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Last
担当マスターより
▼担当マスター
保坂紫子
▼マスターコメント
皆様初めまして、保坂紫子です。
今回のシナリオに参加していただき誠にありがとうございました。
たくさんのアクションの様々な内容で驚くことが多く、とても楽しい執筆作業でした。どこまでお返しできたかわかりませんが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
では、ご縁がございましたらまた会いましょう。