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追章3 thereafter
 
 
 水没した『門の遺跡』でのリューリクとの戦いが終わった後。
 トゥレンはトゥプシマティ達を連れてルーナサズに戻り、カサンドロスは、ジールを連れて帝都ユグドラシルへ向かった。
 今や龍を持たないカサンドロスは、手近の村で馬を入手する。
 それに、鬼院 尋人(きいん・ひろと)はついて行った。
 声を掛けても怒られそうな気がするので距離を置いて、しかしどうしても気になって、いつまでも彼等の後を追いかけてしまう。
 気になるのか、ジールが時折振り返る。
 何度か振り返った後、カサンドロスに何事か話しかけ、カサンドロスは手綱を引いて馬を止めた。
 自分も同じく留まって見ているという訳には行かないので、振り返ったカサンドロスへ駆け寄る。
「あ、あの……カサンドロスさんは、この後どうするのですか?」
「答える必要はない」
 にべもない。
 恐らくはジールを帝都に送り届け、それから、マザードラゴンへの報告などもあるのだろうと察するが、知りたいことは、そういうことではない。
「……カサンドロスさんは、龍騎士には戻らないのですか?」
 トゥレンと別れる際、二人が交わした言葉は少なかったように思う。
 彼もイルダーナの元に龍騎士として居ればいいのに、と尋人は思った。
 イルダーナはきっと受け入れるだろう。トゥレンも喜ぶだろうし、心配しているだろう。
 深い事情があるのだろう、とは思うのだが。
 カサンドロスは、少しの間、じっと尋人を見据えていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……我々は、望んで龍騎士を辞したのではない」
 そうとだけ言って、カサンドロスは再び馬を進める。
 それを目で追った後、ジールが尋人に言った。
「あの……本当にありがとう」
 そしてジールもカサンドロスに続き、二度と振り返らない彼等を、尋人は黙って見送った。


◇ ◇ ◇


 今は治まったと言うが、あの後も何度か起きていた地震によってか、エレメンタルドラゴンの棲処に至る入口は塞がってしまっていた。
 消沈して、とりあえずルーナサズに戻った清泉 北都(いずみ・ほくと)達を、イルダーナが目覚めた翌日にはすっかり元に戻ったトゥレンが見かけて、どしたの、と声を掛ける。
「ふうん」
 話を聞いて、トゥレンは何事か考えた。
「……あんたら、魔力どんなもん?」
「え?」
「俺も自慢できる程でもないしな。
 こういうの、アヌが得意だったんだけど……」
 ブツブツ言いながら、ちょっと待ってて、と歩いて行き、暫くして、彼は杖を手に戻って来た。
「それは?」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が訊ねる。
「龍の杖。選帝神様に借りて来た。じゃあ行こうか」
「何処へ?」
「エレメンタルドラゴンのところだよ」

 龍を駆り、確かこの辺だなあと彼が向かった場所は、龍の背山脈の山中、特に特出したものは無い場所だった。
 此処は? と訊ねると、「“震源地”だよ」とトゥレンが答える。
 それで理解した。
 此処は、エレメンタルドラゴンの居る場所の、真上だ。
「ちょっと記憶に自信が無いから、暫く話しかけないでね」
 不安なことを言って、とん、と地面に杖を立てると、トゥレンは呪文を唱え始める。
 杖から現れた光の線が、踊るように紋を描きながら広がって行き、やがて魔法陣を描き上げた。
 す、とそこから杖を抜いて、トゥレンは陣を出る。
 指先で北都達に、中に入るように指示し、最後の一言を呟いた。

 一瞬後、北都達は見覚えのある地の底にいた。
 以前見た龍の形をした光の塊は、今もそこにあって、けれど、以前のような苦しそうな雰囲気は感じられない。
「もう大丈夫、ですか?」
 返答は無い。
 けれどそこにある穏やかな気配に、北都とクナイは安堵した。
「……よかった」
 呟いた北都の口から、歌が零れる。
 ウラノスドラゴンの前でしたように、巨人族の歌、大地を称える、故郷を想う歌だ。

 気がつけば、目の前にトゥレンがいて、北斗は慌てて歌をやめた。
「時間切れ」
 トゥレンは笑う。
 あともう少し居たかったけれど、仕方がないのだろう。
 礼を言おうとした北斗は、自分が両手に何かを持っているのに気付いた。
 光、だ。
「え、っと……?」
 両手の上に乗っている光に戸惑う北都に、トゥレンが言う。
「両手を合わせるように握って、固めて」
 言われた通りにすると、合わせた手の中で、光が収まる。
 開いて見ると、そこには透明な宝石があった。
「ドラゴンドロップだよ。凄いね」
 超稀少品だよ、とトゥレンは笑う。
 クナイは足元を見つめ、心の中で、エレメンタルドラゴンに礼を言った。
 そしてどうかこれからも、パラミタを、大切な人のいるこの世界を護って行って欲しい、と願った。