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リアクション
カツアゲ隊の困惑
「ひゃっはぁ! カッツアゲだよー!」
ぱらりらぱらりら♪
騒音をまき散らして進行してくる、パラ実イコンの集団。
お互いの声すら、腹の底から出さなければ聞こえないレベルの音量だ。
「相手は龍……ということは、弱点なんて逆鱗に決まってるよ。
喉の下一撃でぶっ壊すよー!」
「さあみんな、ついてくるんだー!」
カツアゲ隊の先頭を行くのは鳥丘 ヨル(とりおか・よる)とカティ・レイ(かてぃ・れい)。
「ボクが伝授するカツアゲ方法さえあれば、龍騎士団なんて鴨騎士団だよ!」
ひらひらとした衣装を身にまとい、カツアゲアイドルとしてカツアゲ隊を先導している。
カツアゲ隊に加わっている者たちは、威勢だけは良かったのだが統率が全くとれておらず、どこへ向かったら良いのかも分かっていない状態だった。
そこを、ヨルとカティが隊を乗っ取るかたちで先導。
こうしてカツアゲ隊が結成され、まもなく龍騎士団と接触するところまで来たのである。
「いたっ!」
とうとうカツアゲ隊は、第七龍騎士団が待機している場所を発見した。
「来たか……」
あらかじめカツアゲ隊の情報を得ていた第七龍騎士団は、既にイコンに搭乗し、歩兵を後方に配置して、戦闘陣形を整えていた。
「なんでぇ。オレたちを待っててくれたみたいだぜぇ」
一人のパラ実生が声を上げて笑うと、他のカツアゲ隊たちも一斉に笑い声を上げた。
第七龍騎士団と、カツアゲ隊。
両者は、10メートルほどの間隔をおき、向かい合った。
一触即発。
空気はびりびりと震えていた。
「よっしゃぁ! かかれぇ!」
先にカツアゲ隊が動こうとした、その時!
「ちょっと待て! 一番手は俺に譲れ!」
飛び出してきたのは、一体のモヒカン型イコン。
搭乗しているのはロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)。
他のカツアゲ隊たちにものを言わせぬ速さで、第七龍騎士団に迫っていった。
「……せいぜいハデにぶっ壊してくれよな……」
ロアがつぶやいた一言は、誰の耳にも届かなかった。
「度胸だけはいいけど……勝てっこないって分からないの!?」
シャヒーナが叫ぶが、ロアは止まらない。
「仕方ない……」
ヘクトルが、部下の一機に攻撃命令を出した。
「3柱もの七龍騎士がパラ実にだせぇ負け方しちまったな……おめーも仲間入りさせてやるぜ!」
叫びながら突っ込んでいくロアのイコン!
挑発された団員も、目の色を変えて迎撃態勢に入った!
「うらあぁぁぁぁ!」
ガアァァァン!
イコン同士が正面から思い切り激突した!
両者のイコン性能の差は歴然。モヒカン型イコンは大きくぐらついた。
そこへすかさず、機龍から放たれる一撃!
バリっと、機械というよりは紙が破れるような音が響いた。
もくもくと煙が上がり、モヒカン型イコンとロアの姿が一瞬見えなくなった。
「ここまでだな……」
煙に包まれていたため誰も気がつかなかったが、ロアは素早く脱出した!
そして……。
どぉぉぉーーーーん……。
大きな爆発音が響き渡り、もとはイコンの一部だったと思われる部品があたりに飛び散った。
風に流されて煙が晴れた時、そこに立っていたのは第七龍騎士団の機龍のみだった。
モヒカン型イコンは、あとかたもなく爆発してしまった。
「う……うわあぁぁぁぁぁん!」
静寂を切り裂く、悲痛な鳴き声。
ロアのパートナー、レオパル ドン子(れおぱる・どんこ)が、泣きながらカツアゲ隊の前に出た。
「これでわかったでしょうぉ! 七龍騎士団を舐めてはいけません。
ロアは…ロアは自分の身を犠牲にしてまでみんなを救おうとしたのですよぉ!」
カツアゲ隊たちがざわつく。
「お、おい……あれって……」
「やべぇよなぁ。性能が違うって」
じりじりと後ずさりをする、カツアゲ隊たち。
「いっ、命のほうが大事だよな!」
「ひゃっは〜〜〜! か、帰るぜぇ!」
カツアゲ隊のうち数機が、くるりと後ろを向いて走り去った。
だが、カツアゲを諦めていないおよそ半数が、おどおどしながらもまだその場にとどまっている。
「今のは偶然だろ、偶然……」
まるで自分に言い聞かせているようだ。
「今のが偶然かどうかは、もう一度戦ってみりゃ分かるだろう!」
腰が引けているカツアゲ隊たちを押しのけて、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と上永吉 蓮子(かみながよし・れんこ)のイコンが進み出た。
「この中で一番強えヤツはどいつだ、オレと勝負しろ!」
この中で一番強いヤツとは……間違いなくヘクトルのことだ。
「手っ取り早くいこうぜぇ。タイマンだ!」
竜司がヘクトルに向かってにやりと笑う。
(あの人強いよ。大丈夫なの?)
蓮子が『精神感応』で竜司に話しかけた。
(そうだな、ヤツぁやべぇ。だからこそ戦うんだ)
(え?)
(ヤツの強さにパラ実生がビビったところで、逃げるように指示をしてやれ)
なるほどそういうことかと、蓮子は大きくうなずいた。
竜司も、先ほどのロアと同じく、パラ実生に無駄な怪我人を出さないために、身を削る覚悟で来たのだった。
「オレと戦うのが望みだと言うのなら」
挑発に乗ったわけではないが、ヘクトルがすっと前に出た。
ヘクトルとしても、今回の目的はカツアゲ隊とのケンカではなく、アイシャの確保。
ここで時間をかけたくはないので、ビビらせて逃がすことができれば手っ取り早いと考えたのだ。
「いくぜぇ!」
竜司が勢いよく飛びかかった!
「……無駄なこと」
ヘクトルはそれを回避しようともせず、クローで受け止めようと身構えている。
ズガッ!
さすがにクローひとつで動きを封じられることはないと思っていた竜司だが、今現実に、機龍のクローに掴まれている。
機龍は竜司のイコンの首元を掴み、ものすごいパワーで上に持ち上げている。
竜司のイコンは足が地面から浮いてしまい、身動きがとれない。
そしてそのまま、ぶんっと機龍がクローを振った。
「ちいっ!」
竜司のイコンは勢いよく飛ばされ、大木に激突して機能を停止した。
カツアゲ隊はその様子を、呆然と見ていた。
「何してるの、見たでしょう。逃げてっ!」
蓮子の声に、カツアゲ隊ははっと我に返り、今すべきことに思い至った。
「お、おおおおおい、か、帰ろう、帰ろうぜ!」
とうとう、カツアゲ隊は逃げ出した!
「ばかー、ばかばかー、今度は鴨にしてやるんだからー!」
撤退もヨルとカティが先導し、思いつく限りの悪口を叫びながら、来た道を戻っていった。
「よう、お疲れ」
スクラップになったイコンから脱出した竜司は、少し離れたところで休んでいるロアを見つけ、声をかけた。
「大変だったな」
お互い、同じ目的で戦っていたことは、戦う様子を見れば一目瞭然だった。
どのみち脱出するつもりだったとはいえ、双方とも負傷をしてしまっている。
そこに、一体のイコンが近付いてきた。
ボディに大きく赤十字がペイントされているので、どうやら他のイコンとは異なるようだ。
「おーおー、やっぱり怪我人が出たみてぇだなぁ」
赤十字のイコンに搭乗していたのはナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)とクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)だ。
「いいカンジにやられたじゃねぇか」
ナガンは、怪我人二人の前でイコンを止めた。
「ま、うまいことできたみたいだぜ。
カツアゲ連中は撤退したからな」
ナガンも、二人の目的は重々承知している様子だ。
「そうか、あいつら帰ったか」
ロアがほっと息を吐く。
「こっちの手間も省けたぜ。今はまだ全面戦争の時期じゃない」
つまり、ナガンもパラ実生をうまく撤退させたいと考えていたのだった。
「パラ実の戦力を、いたずらに低下させるわけにはいかないだろう」
ナガンがそう言うと、ロアと竜司も強くうなずいた。
「じゃ、そろそろ行こうかぁ。こちとら赤十字だしぃ」
怪我人をクローで抱え上げた赤十字イコンは、なるべく衝撃が少ないようにそっと歩いて、森の外に向かっていった。
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