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第5章 頂上での決戦

 環菜は砲台を破壊すべく、生徒たちと共に塔の頂上へたどり着いた。
 見下ろすと、捕らわれていた花嫁たちが、続々と塔の外へ救出されていくのが見える。
 機関室から駆けつけた生徒も、「既に機関室には一人の花嫁も残っておらず、砲台への攻撃を開始しても問題ない」と報告してきた。
 それならばと、環菜は、生徒たちに、砲台の破壊を指示した。

 すると突如、メイドの朝野 未沙(あさの・みさ)が、砲台の前に立ちはだかり、叫んだ。
「ダメ! 砲台には手を出させない!」
「お姉ちゃん!!」
 そう呼びかけたのは、行方不明の未沙を心配し、捜しに来ていた朝野 未羅(あさの・みら)だ。
「お姉ちゃん、花嫁さんたちと一緒にさらわれてたんじゃなかったの?」
「そんなわけないでしょ! あたしはこの砲台を調べるために、自分の意思でここに来たんだから!」
 突如現れた光条砲台の構造を徹底的に調査解析し、パラミタでの兵器製造技術を解明したい。それが、未沙の目的だった。学究肌を通り越し、マッドサイエンティストと呼ばれることさえある未沙にとって、光条砲台は絶好の研究対象だった。
 未沙は、「解析が終わるまで、砲台は破壊させない」と言い張り、砲台を占拠しようとした。
 
 しかし、2度目の光条発射の時間が迫っている今、未沙の解析を待つ余裕はなかった。
 環菜は生徒たちに命じて、未沙を砲台から引き離した。

 危険に身をさらしてまで調べようとした砲台から引き離され、未沙はひどく落ち込んだ。
 そんな未沙を、未羅がやさしく気遣った。未羅は、自分を塔までつれてきてくれたレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)にも、未沙を励ましてほしいと頼んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん落ち込んじゃってるの。お願い。慰めてあげて」
 そんな未羅の思いやりが、未沙には嬉しかった。


 そこへ、一人の男が現れた。細身の長身で、全身から不気味な空気を漂わせる男だ。
 彼を見て、環菜が呟いた。

「ラリット……あなただったの?」

 男の名は、ラリット・ゴールデンベルグ。
 かつては、ヘッジファンドの若き天才と呼ばれた男。その彼が、トレードの世界から消えるきっかけを作ったのは、環菜だった。

 環菜は、あるトレードで稼ぎ出した巨額の金を資金にして、蒼空学園を開校した。
 トレードの現場では、誰かが利益を出せば、必ずその分誰か損をする。環菜が学園の創立資金を稼いだトレードで、ラリットは大損失を出し、それ以降、姿を消していた。
 環菜と、蒼空学園への逆恨み……。それが今回の事件の発端だったというわけだ。

 ラリットは先祖から伝わる魔法で、ゴーレム(作り主の命令だけを忠実に行う泥人間)を作り出すことができた。

「あなたは、私のライバルだと思ってた。なのに、こんなことするなんて……。あなたがそんな下らない人間だとは思わなかった!見損なったわ!!」
 環菜の言葉が、ラリットの怒りの炎を更に燃え盛らせた。
「黙れ! お前さえいなければ……。悪いのは全て、お前なんだ!!」

 火術や、雷術を操り、ラリットは攻撃を仕掛けてきた。環菜に同行していた生徒たちが、次々に反撃を始めた。

 西條 知哉(さいじょう・ともや)は、事件の発生を知った際、強い怒りを覚え、「犯人は生け捕りにして、罪を償わせよう」と決めた。
 そこで目の前に現れた黒幕、ラリットを殺さずに捕まえようと試みた。
 後方からラリットに近づき、カルスノウトの柄で後頭部を殴る等してみたのだが、なかなか思うようにいかない。ラリットの攻撃魔法は強力で、こちらも「殺すつもり」で戦わなければ、勝ち目はなさそうだ。

 知哉が考えを変えたことを見抜いたかのように、パートナーの剣の花嫁、ネヴィル・スペンサー(ねゔぃる・すぺんさー)が、光条兵器を知哉に手渡した。
 知哉はネヴィルに向かって頷くと、ラリットに怒涛の攻撃を仕掛け始めた。
 ネヴィルも、ホーリーメイスで知哉に加勢した。


 セイバーの葛葉 翔(くずのは・しょう)は、バーストダッシュでラリットに接近し、ツインスラッシュで攻撃した。更に、翔は、砲台にもツインスラッシュを放った。
「こんな物、撃たせてたまるかぁ!!」
 砲台を破壊しようとする翔に、ラリットが火術で対抗した。

 すると、翔のパートナーでセイバーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)も、翔に習って、バーストダッシュとツインスラッシュによる攻撃を始めた。
 ぶかぶかのフルプレートアーマーを着込み、ふだんは攻めることより、守りに比重を置くアリアだが、「翔と一緒ならワタシにだって、攻撃もできる」と思ったのだ。
「翔くん、いっけぇぇぇ!!」
 アリアがそう叫ぶと、翔は怒涛の攻撃を仕掛けて行った。


 セイバーのカルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)も、パートナーの剣の花嫁、アデーレ・バルフェット(あでーれ・ばるふぇっと)を伴って、この場にいた。
 今回の事件では、運よく、自分のパートナーはさらわれずに済んだものの、カルナスはどうしても犯人を許せないと思った。
 首謀者は、俺自身の手で倒してやる。そう心に決めて、カルナスは環菜に同行してきた。

 アデーレから受け取った光条兵器と、ツインスラッシュ。この二つを華麗に使いこなし、カルナスは砲台とラリットに挑みかかった。
 アデーレも、懸命にカルナスをサポートした。
「もし、カルナスがケガをしたら、すぐにボクがヒールで癒してあげなくちゃ!」
 アデーレはそう思いながら戦っていた。
 ふだんはドジっ娘のアデーレだが、カルナスへの想いが、彼女に戦士の趣きを与えていた。


 セイバーの荒巻 さけ(あらまき・さけ)はこの塔に着いて以来、極力戦闘は避けて、環菜の護衛に徹してきた。
 だが、事件の黒幕と遭遇したからには、もう黙っていられない。爆炎波や、ソニックブレードを繰り出し、ラリットに襲い掛かった。
 
 パートナーでヴァルキリーの日野 晶(ひの・あきら)も、必死にさけをサポートした。いつもなら、さけの無茶な行動は止めようとする晶だが、多くの友人たちと、学園を危険にさらした者を許してなどおけなかった。そんな晶を、さけは頼もしく感じていた。
 二人は味方の攻撃にも注意を払い、皆と協力して戦い続けた。さけにとっては、蒼空に入って以来、初めてパートナー以外の友人と一緒の戦闘だ。
「ラリットは手ごわい相手ですが、みんなで力を合わせれば、絶対に勝てるはずですわ!!」
 そう信じて、さけは懸命に攻撃を続けた。


 樹月 刀真(きづき・とうま)は、このところ、よく環菜の使い走りをさせられており、今回の戦闘でも、ずっと環菜に同行していた。
「いつもはパシリで今日は護衛。いや、黒幕の所へ行ければ文句は無いがね……」
 口ではそんな冷めたことを言いながら、内心、刀真は怒りに震えていた。パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がさらわれたからだ。
 誰よりも月夜を案じながら、刀真はあえて機関室へは向かわず、事件の黒幕との直接対決の道を選んだ。

 しかし、いざラリットと戦う段になると、刀真は思うような攻撃ができなった。月夜がいなくては、光条兵器が使えない。
 止むを得ず、刀真はカルスノウトでラリットに斬りかかっていた。
 そのとき、背後から聞きなれた声が耳に届いた。
「刀真……お待たせ」
 振り返るとそこに、月夜が立っていた。機関室から救出された月夜は、すぐに刀真のもとへ飛んできたのだ。
 月夜は黙って、光条兵器『黒い光の断頭斧』を取り出し、刀真に手渡した。
 刀真が、本来の実力を見せ付けるときが来た。光条兵器の爆炎波による黒い炎が、ラリットに襲い掛かった。


 セイバーの風森 巽(かぜもり・たつみ)も、刀真と同様、環菜の護衛役を務めてここまでやって来た。パートナーが捕らえられたにも関わらず、あえて機関室に向かわなかった点も、刀真と同じだった。
「ティアのことは心配ですが、こんな所で途切れる絆だとは思っていません。事件を解決してから迎えに行っても遅くはないです」
 ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)との間に深い信頼があればこそ、巽はこう考えることができた。
 「ユーアークラッシュ!」
巽はそう叫びながら、怒りを込めてラリットに攻撃を繰り返した。

 
 ナイトの菅野 葉月(すがの・はづき)は、パートナーの魔女、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)と共に環菜の護衛に就いた。
 葉月は、事件の全容をより早く把握し、迅速に事件を解決するには、環菜と行動を共にするのが一番確実だと考えた。
 ミーナはというと、それほど事件に関心はなかったのだが、葉月ががんばるなら手伝おうと考えてついてきた。
 葉月は、環菜の護衛をしながら、「天性の方向音痴」のミーナが迷子にならないよう気にかけねばならず、正直、「連れてきたのは失敗だったか?」と思いかけていた。
 しかしラリットとの戦闘が始まると、葉月はミーナを連れてきて良かったと思いなおした。ミーナは、葉月の攻撃をサポートし、自らも火術や雷術で、ラリットに対抗した。
 葉月は、自らもランスでラリットを攻撃しながら、パートナーを頼もしく感じていた。あとは、方向音痴を治してくれれるとありがたいのだが……。、


「ルオシンさん……」
 パートナーのルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)がさらわれたと分かった瞬間、セイバーのコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は絶句した。
 絶対に許さない。自分のこの手で、事件の首謀者を斬る! その決意だけを胸にこの塔へやって来た。

 コトノハは、レザーソーを手に、ラリットに向かっていった。
「あはははは!」
 完全にキレた状態のコトノハは、敵の攻撃を恐れる様子は全くなく、ラリットにダメージを与えるたび、高らかな笑い声をあげた。その姿には鬼気迫るものがあった。


 セイバーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が届けてくれた光条兵器と、ソニックブレードを駆使してラリットを攻撃した。
「逆恨みでベアトリーチェをさらったなんて……絶対に許せない!!」
 美羽の武器は『音速の剣』と『音速の足』。そして今は、ベアトリーチェを利用した者への激しい怒りも、美羽を強くさせていた。


 その頃、椎名 真(しいな・まこと)は、諜報班が見つけた、光条エネルギーの制御端末を調べていた。
 2度目の光条発射まで、時間は残りわずか。それまでに仲間がラリットを倒しきれない可能性もある。既に砲台にチャージされているエネルギーを無効にし、発射できなくすることはできないかと真は考えた。
 制限時間が迫ってくる中、パニックになりかけた真は、自らの頬を打って、気持ちを落ち着けた。
 真の努力の結果、エネルギーを一気に無効にすることはできなかったが、「漏電」のような形で、チャージされたエネルギーが徐々に減少していくようにすることはできた。これで何とか発射を制止できそうだ。
 緊張の糸が切れた真は、思わずその場に倒れこんでしまう。

 するとそこへ、パートナーの双葉 京子(ふたば・きょうこ)が駆け込んできた。無事、機関室から救出された京子は、真を捜してやってきたのだ。
 優しく抱き上げてくれた京子に、真は謝った。
「ごめん……俺がもっと気をつけてれば、さらわれたりなんかしなかったのに」
 京子は黙って微笑みを返すと、真に肩を貸し、二人で塔の外へ向かった。


 塔の頂上では、ラリットが、砲台からエネルギーが放出され、徐々に光を失い始めていることに気づいていた。
 『剣の花嫁の制作者』は、再び環菜の口を借りて、話し始めた。
「いかん! ヤツは残りのエネルギーで、学園の生徒たちが避難している体育館に向けて発射をしようとしている!」

 その言葉に、生徒たちは最後の力をふりしぼって、ラリットへの一斉攻撃を行った。
 ラリットは、ついにその場に崩れ落ちた。
「……俺は天才だ……天才なんだ! 俺の金に群がり、金が消えると同時に俺を見捨てたヤツら……あいつを……俺は決して許さん!!」
 それが、ラリットの最期の言葉となった。

 完全に光を失い、機能を停止した砲台は、突如砂のように崩れ去ってしまう。
「しかし、封印されていた砲台を蘇らせるとは、一体何者が……」
 そんな言葉を残して、『花嫁の制作者』は消えた。


 皆はホッと胸をなでおろしたが、パートナーの無事を確認できていないコトノハだけは、いまだ怒りが収まらず、興奮状態だった。レザーソーを手にしたまま
「まだ斬り足りない!」
 などと物騒なことを言っている。
 そこへ、コトノハのパートナーのルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)が駆けつけた。
「ルオシンさん……」
 ルオシンは、コトノハに近づくと、言葉もなく、コトノハにキスをした。
 一気に緊張のとけたコトノハは、思わずその場にへたり込みそうになった。それをルオシンが優しく支えた。
「大丈夫。もう何も心配ない」


 花嫁の救出と、砲台の破壊。生徒たちに課された二つのミッションは、皆の協力により、無事達成された。
 
 一同は、パートナーや仲間と連れ立って、学園へ戻って行く。
 その中に、パートナーの風森 巽(かぜもり・たつみ)におぶってもらったティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)の姿もあった。
 ティアは巽の背中で、夢から覚めた。
「……あれ、巽? ……んと……パピーは……?」
「やっと起きたか。夢でも見てたんだろ」
「うん。パピードラゴンのね、背中に乗って空を飛ぶ夢見てた」
「楽しそうな夢だな」
「あったかくて、風が気持ち良かったよ……でも、ボクはこっちの背中の方がいいや!」
 ティアは幸せそうに、巽の背中に身をゆだねた。

 学園へ戻る生徒たちの笑顔を眺めながら、環菜がポツリと呟いた。
「私の命も、あと一年ってところかしら……」
「えっ? 何か言ったか?」
 涼司がそう尋ねた。
「ううん、別に」
 環菜はそれ以上、何も語ろうとはしなかった。
 
<了>

担当マスターより

▼担当マスター

ナカガワ チエコ

▼マスターコメント

はじめまして、ナカガワです。
みなさんのアクションから、パートナーへの思いや仲間たちへの友情がひしひしと伝わってきました!
次のシナリオでもよろしくお願いいたします。

▼マスター個別コメント