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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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狙われた学園~シャンバラ教導団編~1話/全2話

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「ぜー、ぜー、苦しいですな、しかし」
 青びょうたんのミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)がブツブツ文句を言いながら、ワームの森を抜け、やっと草原までたどり着く。
「しっかりして下さい、博士」
 アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)がその肩を支えながら、歩いて行く。
「なぜ情報科の自分がこのような、体力馬鹿育成の訓練に参加せねばならんのですかな〜ぜえぜえ」
「とにかくみんなより遅れがちなんですから。ワームも先に行ったみんなが退治してくれていたから、ほとんど遭遇せずにすんだんですよ」
「お困りのようですね。背負って差し上げましょうか?」
 その時、背後から声がした。
 背の高い男子生徒二人に、女子生徒が一人。不穏分子の数と一致する。
「ああ、そのようなことはしていただかなくても大丈夫です…しかし、この教導団というのは全く、何をさせたいのか、とんと判りません」
 どさり、と座り込むゲルデラー博士に、三人はさわやかな笑顔を見せる。
「そのようなこと、上官に聞かれては大変ですよ…、まあ私たち三人もこの教導団のやり方にはついて行けないことが往々にしてありましたが」
「ああ! 左様ですか! ならば、私たちは【同志】ということになりますな! 私は以前から教導団のやり方に不満を持っていたのです。このような訓練にどれほどの意味があるというのだ〜レニ、教えてほしいですな〜ぜえぜえ」
 ゲルデラー博士は三人組に媚びるように笑い、馴れ馴れしく【同志】という言葉を使った。
「ええ、私も最近の教導団にはついて行けないことが多くて…。ですから私たちの【同志】たちが立ち上がるのを待っているのです」
「それは、一体どういうことですか」
「ここだけの話ですが、この先の森で戦闘が行われる事になっています。葉士官の部下に対して【同志】が襲撃を仕掛けるのです。そこに駆けつけたいのですが、なにせ博士がこの有様ですから…」
 と、その瞬間、森の方で大きな爆音が聞こえ、ドドっと森の木々が倒されるのが見える。
「ああ! ついにその時が来たのですわ!」
 レニは大げさに感動してみせる。
「…それでは私たちはこれで」
 三人組は、あっという間にその場からいなくなってしまう。
 それを確認したゲルデラー博士とアマーリエは顔を見合わせ、にやりと笑った。


 森の中では、セオボルトがドラゴンアーツを使い、森の木を倒しまくっていた。そこへ先ほどゲルデラー博士と接触した三人組が姿を現す。
「おいでなすったか!」
 いきなりセオボルトは三人組に襲いかかる。
「何をする!」
「ここには葉士官の部下もいなけりゃ襲撃もない、ゲルデラー博士の口車に乗りましたな?あなたたち」
 セオボルトははニヤリと、笑う。
 姿を隠していた鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が逃げようとする三人組の背後に、バーストダッシュで回り込む。
「俺はずっと、あなたたちたちをつけてきていました。ゲルデラー博士と接触するのも、ここに来るまでも監視させて貰っていましたよ。…あなたたち三人が【不穏分子】ですか?」
「ふおんぶんし…? くそう、それでは先ほど流れていた無線の情報もウソだったというわけね?」
「そういうことです」
 三人組はどうやら、相沢 洋が流した虚偽の情報に惑わされ、その上、ゲルデラー博士の演技にもだまされてしまったらしい。
「く!」
 女生徒が足で真一郎を蹴り上げようとするのを、ぱっとなぎ払うと背後をとり、腕をねじ上げてしまう。
「俺も出来る事なら女性にこういう行為はしたくない、ですが…任務なら躊躇しない」
 セオボルトもすでに他の男子生徒を素早く拘束し、首周りの入れ墨を確認する。確かに入れ墨は入っているが、不穏分子とされる者たちとは一致しなかった。
「二人は『象形文字』、一人は『コインのマーク』、でしたな…」
「ああ…こいつらはダミーってことですか。想像していた以上にことはやっかいかもしませんね」
「あっれ〜? そこにいるのはセオボルトじゃないか!」
 緊迫したムードを一気にぶちこわしたのは、ケイとカナタだった。
「うわあ、どうしたのですか! こんなところでケイとカナタに会えるとはびっくりですな!」
 今までの緊迫した表情を一転させ、ぱああっと喜びの表情を浮かべるセオボルトに、真一郎は驚いてしまう。
「うん、お弁当を持ってきたんだ。そしたら、こっちですっごい音がして、セオボルトが絡んでるってピン! と来たんだ。勘が当たったぜ。セオボルトが好きな芋ケンピ、作ってきたよ」
「嬉しいですなあ!!」
「そちらのちょっと怖めのお兄さんも、一緒にどうじゃ?」
「俺?」
 カナタは真一郎にほほえみかける。
「ダミーとやらのそこの三人も捕まえたようじゃし、休憩されるが良いではないか」


「ふう。疲れた」
 フラッグに近い小高い丘で、休憩時間を与えられた生徒たちがおのおの、体を休めていた。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)もその一人。ティータイムスキルを使って、お茶の準備をしていた。パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)が声をかける。
「お疲れでしょう、北都」
「ああ、大丈夫だ、クナイ。なにせ僕はバトラーだ。お茶の用意などお茶の子さいさいってところだよ。みんなに配ってあげて」
 北都はお茶をみんなに振る舞っていく。温かい紅茶と甘いお菓子に、みんな体の疲れが癒えてくるようだった。その一方で、北都はちらちらと周囲を見渡し、伊達眼鏡と、シークレットブーツを履いた怪しい人物に目を付け、接近すると、その人物にわざと紅茶を溢してみせた。
「あっとすまない! 紅茶を溢してしまった!」
 思い切り、紅茶をぶちまけられた相良 伊織(さがら・いおり)は酷くうろたえている。
「大丈夫ですから、あの、自分でやりますから」
 強引にタオルで拭こうとする北都を制しようとしたとき、伊織のパートナーのグラン・ブレイズ(ぐらん・ぶれいず)がはっと目を見開く。
「伊織、それはなんだ、その胸元のあざは…」
「あざ?」
 それを聞いて、北都が伊織の胸元に視線を向けると、さっと伊織は教団服の襟元をたぐり寄せてしまうと、立ち上がった。
「どこに行くのだ、伊織?」
「ちょっと着替えてくるよ…」
 グランの声にも、酷くおどおどしている伊織の後ろ姿。それを北都は視線で追った。