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リアクション
「そこの屋根に着陸する。固定後、スナイプは君に任せる」
怪しいピンク色の光を放ちながら飛行する小型飛空艇を発見したファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)は、合体している松平 岩造(まつだいら・がんぞう)に告げた。フライングアーマーの形状に変形したファルコン・ナイトは、松平岩造の背中を被うようにして空を飛ぶ翼となっている。とはいえ、単体での飛行能力も機晶姫は時間的制約を受け、構造上の問題や機晶姫自身への負担の問題から、長時間の飛行はできない。まして、パートナーをかかえ込む形で合体していては、全体重量と翼面積から導き出される揚力があまりにも足りない。せめてブースターでもあれば解消もできるのであろうが、ない物はいたしかたがなかった。
だが、断続的とはいえ、上空からの監視は無駄ではなかった。事実、真珠を所持した者を発見できている。
大運河に面した建物の屋根に舞い降りると、ファルコン・ナイトは合体を解いて松平岩造の身体を支えた。
「さあ、来い!」
松平岩造は落ち着いて小弓を構えると、こちらへむかってくる小鳥遊美羽が持っている真珠に狙いを定めた。
撃つ!
「なあに、攻撃!?」
突然飛んできた矢に、小鳥遊美羽があわてた。幸いなことに、狙いは外れたようだ。
「さすがに、的が小さすぎたか。しかたない、乗り手ごと撃ち落とす!」
松平岩造は、小型飛空艇の基部をめがけて轟雷閃を付加した矢を放った。今度はみごとに命中して小型飛空艇がショートする。
「きゃあぁぁぁ!」
バランスを崩しながら、小鳥遊美羽の小型飛空艇が墜落を始めた。なんとか高度を維持しようとするがうまくいかない。
「よし」
落ちた真珠を発見次第破壊しようと思った松平岩造だったが、その彼らの眼前にコントロールを失った小型飛空艇が突っ込んできた。小鳥遊美羽が機体を立て直そうとしたため、墜落が遅くなって、松平岩造たちがいる建物まで飛び続けてしまったのだ。
「しまった!」
ファルコン・ナイトとともに飛びたつ間もなく、小型飛空艇が屋根に激突した。人間に直撃はしなかったものの、屋根が抜けて三人がそのまま建物の中に落下する。
「なんだなんだなんだ!?」
洋服店の試着室でメイド用の衣装を選んでいた緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、突然天井が抜けて瓦礫とともに落ちてきた小型飛空艇と三人の女の子に驚いて目を丸くした。見れば、超ミニスカートのツインテールの女の子が二人、ピンクの装甲をした機晶姫の女の子が一人気を失って瓦礫に埋まっている。
「ん、なんだこれ?」
足許に転がっている強い光を放つ球体に気づいて、緋桜ケイは小首をかしげた。それを拾いあげたとたん、びくんと身体が跳ねるような感じがして軽くのけぞった。
「あれ? なんか急に胸が……」
試着中で上半身を脱いでいた緋桜ケイは、胸のあたりに少し圧迫を感じた。思わず両手で胸をかかえるようにして押さえ込む。
「何があったのだ。ケイ、大丈夫であろうな」
突然の崩落に、別の部屋にいた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が顔色を変えて駆けつけてきた。
「どうした、怪我をしたのか。見せるのだ」
身体をくの字に折り曲げている緋桜ケイの姿に、悠久ノカナタは心配してその手をどかせて傷を確かめようとした。
ぽよ〜ん。
「こ、これは……。パラミタオオスズメバチにでも刺されたのか!?」
悠久ノカナタが、ぷっくりと腫れあがった……と思われる緋桜ケイの胸を見て目を白黒させた。
「いや、これを拾ったら、突然こんなになっちゃったのぉ」
半分涙目で、緋桜ケイは拾った真珠を悠久ノカナタにさしだした。
カチ……。悠久ノカナタの中で、何かのスイッチが半分入りかける。
「この輝きと、大きさ……。そういえば、なにやら変な放送が聞こえていたようであったが。うーん……」
少し考え込んでから、悠久ノカナタがポンと手を叩いた。
「阿魔之宝珠であろう。確か、イルミンスール魔法学校の記録に、夏合宿でそれらしき物が発見されたが、蒼空学園が大ポカをやらかしてヴァイシャリー湖に遺失したとあったが。うむ。阿魔之宝珠であるならば、男性が女性化しても不思議はあるまい。遙か外つ國(とつくに)で作られたとも噂されておる呪いのアイテムではあるが、呑み込んだりしなければこの程度の楽しい効果ですむというもの」
「えー、これが楽しい効果なのぉ」
半ば胸を隠すようにした右手を口許にもっていきながら、緋桜ケイが言った。
パチン。スイッチが入ってしまった。
むぎゅっ。
「ああん」
「ふむ、ちゃんとした本物の乳であるな」
いきなり緋桜ケイのできたての胸をわしづかみにして悠久ノカナタが言った。
「よし、このままではまずいであろう。この店はもうだめであるから、むかいの店に行って、フリフリロリロリな服を手に入れようではないか」
「ええっ、まだ生き埋めになっている人たちが……」
瓦礫から突き出た松平岩造の艶めかしい生足を指さして緋桜ケイは言った。
「死んでおらぬようであるから、大丈夫であろう。だいたい、パラミタの学生ともある者がこの程度で死ぬものかえ。さあ、行くのだ。さあ、さあ!」
悠久ノカナタは、脱いだ服でかろうじて胸を隠した緋桜ケイの手を引っぱって、むかいの別の洋服店へとむかった。強引に引っぱられた緋桜ケイが店の前で阿魔之宝珠を落としてしまったことにも気づかずに、嬉々として店に入っていく。
「こちら、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)、聞こえるかアリス。現在、小型飛空艇墜落現場上空。場所は繁華街の北東。お目当ての真珠はこの付近にあると思われる」
小型飛空艇に乗ったレイディス・アルフェインが、携帯電話に報告をしている。
地上でも、大事故に周囲の人々が集まりだしていた。
「おや、なんですかねえ、これは」
スーツ姿の朱 黎明(しゅ・れいめい)は、道端に落ちていたピンクの光を放つ真珠を見つけると、ポケットから取り出したハンカチで丁寧につつんで取りあげた。ハンカチ越しにでも、間違っても触れないように細心の注意を払う。
「ふむ、これが噂の呪いの真珠という奴ですか。これは運がいい。この町のブローカーの所へ持っていって換金してしまいましょう」
そのまま立ち去ろうとしたとき、横からのびてきた手が、ひょいと真珠を奪い取った。
「てめえ、何をしやがる。どこのどいつだ」
とっさに本性をむきだしにして朱黎明が振り返ると、そこにはパートナーである朱 全忠(しゅ・ぜんちゅう)がいた。
「ほーう。こいつが、お宝なのだ。ふーん、面白そうなのだ」
そう言いつつ、朱全忠はハンカチのつつみを解いて、中の真珠を確認した。
「こら、全忠、何をしやがる。早く返しやがれ」
「返すのはとは、こういうことなのかな?」
そう言うと、朱全忠は真珠を朱黎明の胸に押しつけた。
ボン。
その場に、眼鏡をかけた威勢のいいチャイナドレスのすらりとした美人と、シニョンもかわいいミニチャイナの小柄な少女が現れる。
「アホか、あんたは。真珠をつかんだら、あんただって女になっちまうんだよ」
ノースリーブからむきだしになった腕をビシッとのばして朱全忠を指さしながら、朱黎明は叫んだ。
「そんなこと言っても、やっぱり弟子を持つなら女の方が断然いいのだ♪」
まあまあ満足だと言いたげな朱全忠であった。
「どうするのよ、これ。もぉうっ。せっかく換金しようと思っていたのに、これは壊すしかなくなっちゃったじゃない。早く光条兵器出して、早くぅ」
そう言って、朱黎明は朱全忠の口に手を突っ込もうとした。
「あがががが、そこ違う、違……う」
朱全忠がじたばたとかわいくもがく。その手から、真珠が零れ落ちた。
「あらあらあら、何をもめていらっしゃるんですか」
ドタバタしている二人に、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が声をかけてきた。彼女の後ろには、パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)とネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)がつき従っている。
「いえ、何もございませんことよ、ほほほほほ」
あわてて朱黎明はごまかそうとした。
「そうですか、それにしても綺麗なお召し物ですね」
言いながら、ガートルード・ハーレックが素早く朱黎明の背後に回った。チャイナドレスを確かめるようにして朱黎明の身体をなでくり回す。
「そうじゃのう。えらい、かわいいけん」
同様に、シルヴェスター・ウィッカーも朱全忠の服をさわさわした。
なんだか、焦げたような腐ったような臭いが、微かにたちこめる。
「何をしやがります」
さすがに怒った二人が反撃しようとする。
「ネヴィル!」
ガートルード・ハーレックがパチンと指を鳴らした。
「どっせぇ!」
ネヴィル・ブレイロックが巨体をジャンプざせた。ズシンと着地するときに、ドラゴンアーツによる衝撃波を周囲に放つ。
突風にも似た波動が、ガートルード・ハーレックたちの髪や波羅蜜多ツナギの裾をはためかせた。だが、朱黎明たちの方はそうはいかなかった。ネヴィル・ブレイロックの放った衝撃波を受けて、着ていたドレスが粉々になって吹き飛ぶ。直前にガートルード・ハーレックとシルヴェスター・ウィッカーが、指先のみに集中させた極小範囲のアシッドミストと火術で、ピンポイントにドレスに切れ目を入れておいたせいだ。
「いやーん」
思わず、朱黎明たちが胸と股間をその手で隠す。
「おお、ナイスショット!」
どこからわいたのか、ヴァーナー・ヴォネガットがすかさず激写を始めた。
「おぼえてらっしゃーい」
捨て台詞を残して、朱黎明たちはその場から逃げていった。
それを見て、
ガートルード・ハーレックたちがカラカラと笑う。
「面白いですね。これにかかったら、ネヴィル・ブレイロックみたいな強面の男もかわいい子ウサギになってしまうみたいですね」
言いつつ、ガートルード・ハーレックが真珠を拾いあげた。
「それだけは御免だぜ」
ブルドッグのような顔をしかめるネヴィル・ブレイロックに、シルヴェスター・ウィッカーがくすくすと笑った。
「さて、次の玩具を……」
次の玩具となる男性をガートルード・ハーレックが物色しようとしたそのときだった。
「そぉっこぉかあぁぁぁぁ!!」
土煙をあげながら、執事ちゃんが突進してくる。
「そぉっこぉを、うごくぅなぁぁぁぁぁ!!」
「あれー」
カメラを構えたヴァーナー・ヴォネガットごと、執事ちゃんがガートルード・ハーレックたちを吹っ飛ばした。鉄拳で粉砕された石畳と一緒に宙に巻き上げられた四人が、頭から地面に落下して気絶する。
倒れたガートルード・ハーレックの手から、真珠がころりと転がり落ちる。度重なる衝撃で傷だらけだが、まだまだ真珠は健在だった。
「これで最後よぉ!」
ジャンプ一番、真珠に止めを刺そうとした執事ちゃんが、突然何者かに飛びつかれて顔面から石畳に激突した。
「きゃあぁぁぁ、かわいいでございますうぅぅぅ」
後ろから執事ちゃんの腰にへばりついた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が、お尻のあたりにくっつけた顔を激しく左右に振った。
「あうわわわわわ……」
執事ちゃんが、声にならない声で悲鳴をあげる。
「よくやりましたわ、つかさ。この隙に真珠を……」
執事ちゃんが身動きできない隙に、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が真珠にむかって走った。レイディス・アルフェインの報告を受けて、駆けつけてきたのだ。
「それは、私が拾おう!」
走る崩城亜璃珠を、林田 樹(はやしだ・いつき)があっけなく追い越していった。
「待てよ、樹ちゃん。拾い物なら、僕がしてあげるからさあ」
緒方 章(おがた・あきら)が、崩城亜璃珠の前に割り込んで邪魔をするようにして現れた。
「ちょっと、邪魔ですわ」
崩城亜璃珠が文句を言う間に、林田樹が真珠を取りあげていた。
「それをお渡しなさい」
「これは女王。いいだろう。だが、ちょっとお待ちを」
芝居じみた礼をすると、林田樹はやってきた緒方章に真珠を突きつけた。彼女の目的は、パートナーの緒方章を女性化することだった。大の男のくせに、やたらとだきついてスキンシップを求めてくるパートナーに、林田樹は辟易としていたのだ。さすがに女性になれば、少しは自制するか、少なくともだきつかれても見てくれだけは多少ましになるだろう。
ボンと、緒方章が女性化する。
「御協力ありがとう」
そう言うと、林田樹は崩城亜璃珠に真珠を投げ渡した。
「ははははは、これで洪庵も、私にだきついたりできま……はああ!?」
パートナーの緒方章を洪庵と呼んだ林田樹が目を丸くした。確かに緒方章は女性化した。けれども、単純にシャンバラ教導団の女生徒の制服姿になると思っていたのだが、予想に反して、緒方章はレースをふんだんにあしらったフリフリのドレス姿の少女になっていたのだ。
「あら、ちょっと胸がきついかしら。でも、素敵。ねえねえ、見て、樹ちゃん」
自分の姿を確かめてから、緒方章がニッコリと笑った。
「ちょ、ちょっと待て。よせ、近寄るな。うきゃあー」
思わず、林田樹は後退った。彼女は、フリフリ・ひらひら・甘いものが大の苦手なのだ。
騒ぐ林田樹を、緒方章はひょいと担ぎあげた。
「さあ、お家に帰って、いろいろとくらべっこしましょ〜♪」
そのまま、緒方章は走り去っていく。
「なんだったんですの?」
唖然としている崩城亜璃珠の許へ、小型飛空艇に乗ったレイディス・アルフェインがやってきた。
「アリスー!」
「いい所へ来てくれましたわ。逃げますわよ」
崩城亜璃珠はレイディス・アルフェインの飛空艇に飛び乗った。
「それではごきげんよう。つかさ、後はその子、好きしちゃっていいわよ」
崩城亜璃珠が、執事ちゃんたちに手を振った。
「あ、こら、待て! 待ってちょうだい〜!」
それを見た執事ちゃんが、あわてて後を追おうとする。
「いやーん、かわいいんだから行っちゃだめ。進みたいんなら、私を逝かせてから〜♪」
「ええい、放してー」
まだ腰につかまったまますりすりし続ける秋葉つかさに、執事ちゃんは全身の寒気を必死で我慢しながらずるずると前進していった。
「今きましたよー。レイの邪魔はさせないわ。えいっ!」
軍用バイクに乗ってきた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、執事君の足許の石畳を氷術でスケートリンクに変えた。
「うおっ、すべるぅ」
足をとられた執事君が完全に転倒する。
「はは、完全につかまえたでございます」
もがく執事ちゃんを組み敷きながら秋葉つかさが言った。
「だ、誰か、助けてぇ」
執事ちゃんの悲痛な悲鳴は無視して、宇都宮祥子は軍用バイクでレイディス・アルフェインたちの後を追った。
「このまま、イルミンスール魔法学校まで逃げますわよ……えっ!?」
今のところは、順調に逃げられていると思った刹那、何もないはずの空中で、突然小型飛空艇が壁にでもぶつかったようにしてきりもみしながら墜落する。
「やーい、引っかかった、引っかかったぁ」
屋根の上を走りながら、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が叫んだ。そこら中にトラップをしかけ回ったかいがあったというものだ。
「ちょっと、待って……はれ!?」
後を追ってなんとか屋根の上を走っていたフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)の姿が突然消えた。直後に、ブレーキの音と何かがぶつかる凄い音がする。
「フル、……消えた。大丈夫カ?」
一緒にピョンピョンと屋根の上を飛び回っていたラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が心配した。
「ほっときな。それよりもお宝だよ」
クールに羽高魅世瑠が答えた。ここでお宝を他の誰かに取られてしまったら元も子もない。
「おタカラ?それ、食べられるのか? 食べられないモノ、ラズ、興味ナイよ?」
「売れば、御飯になるんだよ」
「売ル? 売ルとごはんと交換してくれるカ? それならガンバル!」
一気に元気になったラズ・ヴィシャは、羽高魅世瑠とともに石畳の道路に飛び降りた。そこには、羽高魅世瑠たちがしかけたおいた霞網に絡まって墜落したレイディス・アルフェインの飛空艇があった。
「いただきー。さあ、売りにいくよー」
「いこー」
気絶している崩城亜璃珠の手から真珠をもぎ取った羽高魅世瑠は、ラズ・ヴィシャとともに走りだした。
「いたたたたたた……。なんだって人が落ちてくるのよ」
屋根から落ちてきたフローレンス・モントゴメリーの直撃を受けて八百屋に突っ込んだ宇都宮祥子が、リンゴの山からなんとか這い出してきた。フローレンス・モントゴメリーはリンゴの山に埋まったままのびている。
「レイは、大丈夫かしら。レイディス・アルフェインの貞操は私が守るんだから!!」
叫びながら、宇都宮祥子は墜落場所に駆けつけた。
そこには、崩城亜璃珠とともに、気絶している黒髪ロングの美少女が倒れていた。
「まさか、これがレイ? しっかりして、目を覚まして」
女性化したレイディス・アルフェインの肩をつかんで宇都宮祥子はぶんぶんゆさぶったが、いっこうに目を覚ます気配がない。
「こうなったら、人工呼吸よ。それに、お姫様のキスで元に戻るかもしれないし」
一方的な理由を述べてじゅるりとよだれを拭うと、宇都宮祥子はレイディス・アルフェインにぶちゅうっと熱いベエゼを交わした。それが、後日レイディス・アルフェインのよき思い出となったのかトラウマとなったのかは、レイディス・アルフェインのみの知るところである。
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