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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

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第10章 史上最低の作戦

「服を着てなければ、それほど間違われませんね」
 湯船にいる幸は、もう乙女の鉄槌をあびせる必要はなかった。そばに入ってきた藍乃澪とのんびり話をする余裕もあった。
「先生、こんばんは」
「あら。島村さん。こんばんはぁ」
「のぞき部、みんな掴まりましたね」
「そうみたいですねぇ。まぁいい思い出になったでしょう」
「ふふっ。少し残念そうですね」
「あらぁ。そんなことないわよぉ。島村さんこそ、つまらなそうですねぇ」
「うん……ここだけの話、ちょっとアコガレがありますよね、あのヘルプコールに。『きゃあ! 助けてガートナ!』なんて。あ、ガートナって私のパートナーなんですけどね」
「ふふっ。若いっていいですわねぇ」

 この後、本当にヘルプコールをすることになるとは、この時の幸にはわかるはずもなかった……。

 女子風呂には、どんどん女子が集まってきていた。
 のぞき部をやっつけたパンダ隊のみんなも、汗を流そうとぞろぞろやってきた。
「いやあ、今回も疲れたねー」
「のぞき部はさあ、このまま京都に置いていこうよっ」
「それ賛成ですー!」
「はあ〜。みんなで乾杯したいねー!」
 すると、タイミングのいいことに旅館の仲居さんが酒を大量に持ってやってきた。何故だろうか……?
 躊躇うパンダ隊に、姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が尋ねた。
「そのお酒……わたくしにも少しいただけないかしら」
 そして、どうぞと言われる前からもう飲み始めてしまった。
「ぷはー。最高っですわ!」
 あまりに美味しそうなその飲みっぷりに、パンダ隊も喉を鳴らした。
「これ……キリンさんからのプレゼントじゃないかな?」
「あ、なるほど! そうだね! きっとそうだね!」
「じゃあ〜、いっちゃう?」

「かんぱーーーーーい!!!」

 こうして、パンダ隊だけでなく、その場にいた女子みんなにお酒がふるまわれた。
 しかも、カラオケまで用意され、すっかりお風呂付きの大宴会場となってしまった。
 初島伽耶とアルラミナは、いつの間にか現れた。
「これってもしかして?」
「もしかする?」
 実はCDデビューしていた桃色☆乙女隊の新曲を歌い出す。
 それを聞きながら、みんなどんどん酔っていった。酒は湯に浸かりながら飲むといつもより余計にまわるもの。ほとんど泥酔していた。

「ちょっと! 夏希さん!」
「はい。なんでしょう」
 朝野 未沙(あさの・みさ)に呼び止められたのは、雨宮 夏希(あまみや・なつき)だ。
「夏希さん。マナー違反だよ」
「え……?」
 のぞき部の執念を伝え聞いていた夏希は、念のためタオルで体を隠しながら湯船に入っていたのだ。
「ほらほら。タオルは湯船に入れちゃだめでしょ」
「あ、タオル……ですか」
 恥ずかしそうにタオルを外しながら、ポツリと呟いた。
「でも、まだもしかしたら……」
「ミノムシなら、この下にいるの!」
 朝野 未羅(あさの・みら)が混浴城からのぞき部のミノムシたちを指して教えた。
 夏希はそっと見下ろして、頷いた。
「本当ですね」
「そんなことよりぃ、もういっぺん身体を洗ってもらいたいですぅー」
 朝野 未那(あさの・みな)は未沙に執拗にリクエストしていた。
 そのそばでは、パートナーに身体を触られて嫌がっている久世 沙幸(くぜ・さゆき)がいた。
「あんっ。もう!」
 沙幸は藍玉 美海(あいだま・みうみ)に身体を触られ、もぞもぞ動いていた。
「美海ねーさま。だめっ」
「まあ、沙幸さんたら、また胸が大きくなって」
「ちょっ。やん。だめったら……だめ……」
「まったく……もう少し素直になって頂きたいですわ」
 この2人だけは、酒を呑まず完全なシラフだった……。

「はっはっは。まずは酔っ払ってもらうでござるよ」
 ベルリンの壁ごしに様子を聞いていた坂下鹿次郎は、いやらしーく笑っていた。
 さすがは、のぞき部一のイベンター。
 この酒とカラオケは、キリン隊からのプレゼントではなく、女子を露天風呂に釘付けにするための戦略だったのだ。
 そのとき、パートナーの雪がマイクを握りしめて叫んだ。
「ごはん……食べたいですわ!」
 鹿次郎は首を傾げた。
「おかしいでござるな。食べ物もたっぷり用意したはずでござるが……あ。なるほどでござる」
 鹿次郎の目の前には、湯船に浸かって爪楊枝をシーシーやってるリュース・ティアーレがいた。
 リュースは慌てて楊枝を隠して、わざとらしく遠くを見つめる。
「いい湯ですね〜」
 そして、クルッと振り向いて鹿次郎に釘を刺した。
「のぞき部なんて、やめておいた方がいいですよ? パンダ隊をなめたらいけませんよ。それに……隊長を困らせたら、私が許しませんからね」
「なんのことでござるかな。さっぱりわからないでござるよ」
 2人の会話が聞こえていたガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は、ザバッと立ち上がった。
「な、な、な、なんですとぉ!!!」
 興奮し過ぎて言葉に詰まり、1人でワナワナしている。
「まあまあ、落ち着いて。俺たちも酒でも呑もうよ」
 声をかけたのは、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)だ。こちらは自前の酒である。
「ほら。まあ一杯。こういうところで夜空を見上げながら、のんびり酒を呑むなんて、いいよね」
「あ。これはどうも。悪いですな」
 ガートナもついつい座って酒をいただく。が……
「い、い、いや、しかし! の、の、の、のぞき部ですとぉおおおおお!!!」

「え。のぞき部?」

 女子風呂でこの言葉に異常なほど敏感に反応している者がいた。
 久世沙幸だ。
「沙幸さん。また愛美さんに見られてしまいますわよ」
「はっ!」
 気がついたら素っ裸のまま大股を開き、ベルリンの壁にのぞき穴がないかと探していた。
「愛美さん?」
 朝野美沙は愛美という言葉に尋常でない反応を示した。
「はぁ〜。愛美さんの裸、見たかったな〜。あぁーん、愛美さんのこと考えてたら、身体が火照ってきちゃったよぉ」
 おもむろに未那の身体をまさぐり始める。
 のぼせた沙幸はよろよろとカラオケマシンまで行くと、マイクを握って大きな声で提案した。

「のぞき部、炙り出し! だい! さく! せーーーーーん!!!!」

 沙幸はよろけながらも、みんなに熱く語る。
「みんな! まだ隠れてるのぞき部がボロを出すようにがんばろう!」
 そして、目の前の雪の身体を触る。
「さ、沙幸殿。いけませんわ。……そ、それは……あっ……んっ……はあっあっ……」
「ね。こんな風に、できるだけ色っぽーく、そしてとってもえっちぃー感じでっ!」
 これは蒼空学園の女子更衣室事件と全く同じ提案であった。が、1つ大きく違うことがあった。
 それは……

「あんっ。姉さん。やっ。あ、あ、あぁ〜ん。姉さんの手、ほんと気持ち良いですぅー」

 提案する前から、とっくに始まっていた。
「あん。いやあああん」
「なんで濡れてるのお〜?」
「ちょ。だめっ。そこは……んんっ!」
「そんな風に……いや。さわらないでっ。………………さわって」
「えっ。美海ねーさま。ちょ。なにっ。……それは……えっ……だめっ」
「って、あぁん、姉さん、そんなとこ、あまり擦らないでくださいぃー」
「ああん。ええわぁ。そ、そこ……ええわぁ」
 炙り出し作戦に乗らない女子もいたが、ほとんどの女子が酔っ払って乗っていた。騒動を聞きつけてやって来ていた撮影隊のシーラとアレクスまでも、巻き込まれていた。
「いってまうーーー」
「にゃっにゃにゃうーーー」

 そして、混浴城のミノムシたちは、鼻血をだらだら垂らしていた。

「しまったでござるー」
 壁越しに耳をそばだてて聞いていた鹿次郎は、1人頭を抱えていた。
「女子を露天風呂に釘付けにするのは成功したでござる。でも、でも……のぞくための作戦を考えてなかったでござるーーー」
 そのとき、奇跡が起きた。
「……!」
 鹿次郎が顔を上げると、そこには見まごう事なき女子の姿が!
 バスタオルを巻いて身体を隠してはいるが、あの大きく柔らかそうな胸は間違いなく女子! 断固、女子!!!
「間違えて入ってきたでござるかな……」
 鹿次郎は鼻血を押さえつつ、金閣寺を押さえつつ、いやらしい流し目で女子の一挙手一投足を見つめる。
 すると、なんという幸運だろうか、その女子は湯船に入ってどんどん鹿次郎に近づいてくる。
 そして……
「あんた……のぞくより触った方がイイでしょ」
「えええ!」
「ほら。胸とか」
「い、いいでござるか?」
「ほらほら。胸とか胸とか胸とか」
「はへほひはらふへ……ぶくぶくぶく」
 鹿次郎はもう溺れかけている。

「なーーーーーんてね」

「え?」
「はいザンネーン! 実は男でしたー」
 この女子は、駒姫ちあきである。
 よくできたシリコンおっぱいを自分でも揉んでみながらケタケタ笑い、こっそり持ってきた一升瓶をドンッと置いた。
「ま。酒でも呑もうじゃねえか!」
「そ、そんな……バカなでござる……」
 茫然とする鹿次郎を置いて、ちあきは側にいたシルバに酒を注ぐ。
「ありがとう。ちょうど持ってきた分がなくなったところで」
「せっかくの旅行。せっかくの露天風呂。のんびり酒でも呑むのが一番だよな」
「まったくその通り。それにしても、見事なおっぱいだね」
「まあな。あ、おーい! カチェ! こっちこっち!」
 パートナーのカーチェ・シルヴァンティエとガーヴ・フレイムタン(がーぶ・ふれいむたん)がやってきた。
「!!!!!」
 カーチェを見た鹿次郎は懲りずに驚いて、溺れかけた。ゴボゴボゴボ……
 カーチェは男だが、……女顔なのだ。
「この人が噂ののぞき部かあ!」
「そ、そうでござる……」
 じろじろと鹿次郎の顔をのぞきこみ、鹿次郎は男だとわかっているのにドギマギした。
 ロボット犬のガーヴは、カメラをそばに置いて休憩していた大地に注意していた。
「ぬし。盗撮はいかんのう」
「あ、これは違いますよ」
「盗撮じゃろう。そういう無粋なことは許せん」
「あ! こらこら!」
 ガーヴはカメラを奪い、外に放り投げようとする。必死に止める大地と揉み合いになっていると、
「あれ?」
 大地は新たに男湯に入ってきた者を見て、目を疑った。
 一瞬の静寂が訪れた。

「じょ……女子でござる……」

 鹿次郎が静かに鼻血を垂らしながら、入ってきた女子にふらふらと近づく。
 が、それは支倉遙だった。
 鹿次郎の目の前には、しっかりとおちんちんがぶら下がっていた。
「お・と・こ・だ!」
 ぐいいいいいっっっっっ。
 遙は鹿次郎の頭を踏んづけ、湯船に沈めた。
 ゴボガボゴボガボ……

『坂下鹿次郎、戦死』


 これで、のぞき部はあと1人。
 全のぞき部員の期待が、大草義純の肩に重くのしかかっていた……!