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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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2.陥穽
 
「そこの奴、止まれ!」
 森の中で突然に誰何(すいか)されて、桐生 円(きりゅう・まどか)たちは立ち止まった。
「お前こそ誰だ。俺たちは、ここに来れば面白い仕事ができるって聞いてやってきたんだが。お前も同類か?」
 男装した桐生円が、精一杯乱暴な口調でそう男に言った。チェインメイルの上からブラックコートを羽織り、いかにもはぐれ傭兵のようなふりをしている。同行するオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)も同様のチェインメイルを身につけ、銀髪をいつもと違うポニーテールにまとめていた。
「あたしたちは、パラ実らしい発散できる厄介事を求めてるんだよ。知ってるんなら、さっさと案内しなー」
 オリヴィア・レベンクロンが、パラ実生を装って男に言った。
「お宝ー、戦いー。これぞ、パラ実生の醍醐味だよね。暴れちゃうぞー」
 葛葉 明(くずのは・めい)が元気いっぱいに拳を突き上げて言う。
「ふーん、どこで話を聞いてきたかは知らねえが……」
 男が桐生円たちを値踏みして眺めていると、馬の足音がパカパカと近づいてきた。
「そこの者たち、邪魔なんだもん。さっさと、そこをどいてよね」
 表面に波形加工を施したフリューテッドアーマータイプの軽量鎧に身を固めたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が、馬上から桐生円たちに大声で問いただした。騎士兜を被っているため、その顔をうかがうことはできない。
「なんだ、お前は。お前も、俺たち海賊団の手伝いか?」
「海賊? それはいいことを聞いたもん、成敗して名をあげるんだもん」
 男の言葉に、馬上の鎧騎士が槍を構えた。
「危ない、我が同士よ。さあ、こっちへ」
 桐生円が、海賊の男をわざとらしく後ろ手にかばった。
「正義面した騎士さんよ、さっさとどっかいっちまいな。それ!」
 オリヴィア・レベンクロンが、問答無用で則天去私の高速拳を繰り出した。
「あ〜れ〜、やられたあ〜」
 ミネルバ・ヴァーリイが、わざとらしく吹っ飛ばされたふりをして逃げていく。
 パートナーたちの思いっきりの三文芝居で、桐生円は海賊に疑われたのではないかとヒヤヒヤした。
「助かったぜ。また変な奴が現れないうちに、仲間と合流しよう」
 森の奥へむかう海賊に、桐生円とオリヴィア・レベンクロンはうまくいったと無言で顔を見合わせた。
 少し進んだ森の中では、かなり大勢の海賊たちがすでに集まっていた。
「わあ、なんかペットがいっぱいいる」
 その場にいる動物たちを見て、葛葉明が桐生円たちから離れてそちらへとむかった。
 海賊たちには獣人が多いようだが、ここにいる動物たちのすべてが獣人というわけではなさそうだ。どう見てもペットと思われる動物たちがたくさんいる。きっと、海賊たちの主力はビーストマスターなのだろう。
「リーダーは誰なんだ?」
 桐生円が問うと、海賊が一人の少女を指さした。
 ふんだんにレースをあしらったパフスリーブのブラウスを着たその少女は、どちらかといえば黒っぽい海賊たちの中で鮮やかに目立っていた。白と言うよりは、純白という言葉の方が似合うほどに、ほとんど白で統一された衣装は、この荒くれ者の集団の中で鮮やかに目立つ。インナースカートだけが紺色のレース裾のミニスカートだが、シャフトヘムタイプのオーバースカートでほとんど隠されていた。前が大胆に開いて後ろがかなり長いスカートは、彼女が動くたびにマントのように裾がひらりとゆれる。すらりと伸びた生脚には、左足首に金地に赤い機晶石をはめたアンクレットが、右の太股に小さな宝石を一列にちりばめたガーターリングがはめられていた。その一投足のたびに、アンクレットからはかすかな金鎖のふれあう音がする。右手にはレースの手袋をはめているが、左手は手首にレースでできたブレスレットを巻いているだけだった。左の二の腕には、白いリボンが結ばれ、その両端を長く垂らしている。白い羽根と芙蓉の花飾りのついたカチューシャを被った頭は、美しいプラチナブロンドのロングヘアーで、その長さは腰ほどまでもあった。
「私に何か用か」
 ともすれば幼く見えそうな顔の中で、やや目尻のあがった目で鋭く桐生円を見据えながら、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)が訊ねた。その手には、白銀に輝くヒーターシールドがあった。
「いや、ボスにはちゃんと挨拶しておこうと思ってね」
 言いつつ、桐生円は、ぽけらーっとアルディミアク・ミトゥナに見とれてしまったオリヴィア・レベンクロンを肘でつついた。
「寝顔が見たい……」
「いや、今はそういうときじゃないから」
 つぶやくオリヴィア・レベンクロンを、桐生円が下がらせた。
「わけあって、クイーン・ヴァンガードに入ってはいるが、僕たちはミルザム・ツァンダを認めているわけじゃない。むしろその逆だ。その証拠に、いろいろと情報を渡そうと思ってる。クイーン・ヴァンガードは、ゴチメイ隊とかいう者たちを中心として玄武甲探索隊をむかわせているぜ。こいつらだ」
 そう言うと、桐生円はガントレット型ハンドヘルドコンピュータのカバーを開いて、モニターに映ったココ・カンパーニュたちの姿をアルディミアク・ミトゥナに見せた。
「来たか」
 アルディミアク・ミトゥナが、ニッコリと微笑んだ。
「それは、クイーン・ヴァンガードの装備じゃないですか。あなたたちは、スパイですね」
 桐生円のコンピュータを見た藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が、高周波ブレードに手をかけて叫んだ。
「おやおや、話を聞いていなかったかのかねえ〜」
 後ろにいたオリヴィア・レベンクロンが、素早く妖刀村雨丸を鞘走らせた。藤原優梨子にむけた切っ先が、カチンと見えない何かにあたる。
「話をしたいんなら、剣を抜く前にしてほしいもんだぜ」
 奇っ怪な姿をしたゆる族が、光学迷彩を解いて姿を現した。ラウンドシールドで妖刀村雨丸の切っ先を弾いたのは、藤原優梨子のパートナーの宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)だ。
「騒ぐな!」
 アルディミアク・ミトゥナが、一同を一喝した。
「でもねぇ〜」
 オリヴィア・レベンクロンが刀を引かないでいると、突然飛んできたロングソードが妖刀村雨丸とラウンドシールドを同時に弾いて二人を分けた。
「あわてなくとも、じきに戦わせてやる。私たちは、そのために集まっているのだからな」
 アルディミアク・ミトゥナが言った。
 高く掲げた彼女の手に、鍔(ガード)の部分から光の翼を両脇に広げたウイング・ソードが、ふわりと羽ばたいて戻ってくる。光の翼が消えると、アルディミアク・ミトゥナは、ウイング・シールドの裏面につけられた鞘に剣を収めた。
「スパイがいようがいまいが、関係ない。誰であろうと、私に敵対すればそれは死を意味すると知れ」
 そう言うと、アルディミアク・ミトゥナは、その場を離れていった。
「やれやれ、スパイがいたら、それはそれで困るんだがなあ。まあ、好きにさせるか」
 スーツにサングラスという姿のシニストラ・ラウルスが、困ったようにつぶやいた。以前のヴァイシャリーの一件では、忍び込んできた一部の学生にいらぬ手間をとらされたことが思い出される。
「相変わらず甘いねえ」
 相棒のデクステラ・サリクスが、やってきて言った。ふんだんにファーのついたロングケープをふわりと広げると、うっすらと獣毛に被われた肢体を顕わにする。マイクロタンクトップと、ビキニの下にパレオを巻いただけの姿は艶めかしい。半猫半人のこの姿を好むデクステラ・サリクスは、身体をつつむ布の量にはあまり興味がないようだ。
 さりげに後ろからのしかかるようにしてだきつくと、デクステラ・サリクスはシニストラ・ラウルスの脚に自分の脚を絡めた。
「そんなことだと、そのうち寝首を掻かれるよぉ」
 長い爪の伸びた指を、すっとシニストラ・ラウルスの喉に這わす。青と銀のオッドアイが、相棒の顔をなめるように見つめた。
「それは退屈しなくてすむな」
 サングラスの奥に表情を隠しながらシニストラ・ラウルスが言った。
「どうでもいいが、お前、重くなったか?」
「もう!」
 ひょうひょうと言うシニストラ・ラウルスの腕に、デクステラ・サリクスがカプリと噛みついた。
「いたたた、よせ、やめろー」
 あわててシニストラ・ラウルスが逃げ出していく。
「あーらよっと」(V 攻撃汎用)
 シニストラ・ラウルスとぶつかりそうになって、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)があわてて彼を避けた。
「おや、お前は……」
 トライブ・ロックスターの顔を覚えていたシニストラ・ラウルスが、彼を見てつぶやいた。
「あのときはパラ実の学生かと思ったが、鏖殺寺院に関係していたのか」
 トライブ・ロックスターの着ている鏖殺寺院の制服を見て、シニストラ・ラウルスが言った。
「あのときは世話になったな。結果は、まあ、残念だったが、今日はささやかな情報を持ってきてやったぜ」
 あくまでも鏖殺寺院のメンバーを装いながら、トライブ・ロックスターは言った。鏖殺寺院のメンバーというのは手に入れた制服を使った方便だったのだが、信用してもらうには充分なアイテムだったようだ。いや、それどころか、女王器を狙う海賊たちと鏖殺寺院に何かつながりがあるのかもしれない。もしかして、さらにその先もあるのだろうか……。
「できれば、リーダーに直接伝えて顔を売りたいんだが、あんたがまたリーダーだと思っていいのかい」
「いや。俺にもちゃんと情報は教えてほしいが、今回のリーダーは別の者がやっている。いいだろう、情報をもらえれば、会わせてやる」
 そうシニストラ・ラウルスに言われて、トライブ・ロックスターは、パートナーの千石朱鷺から手に入れたココ・カンパーニュたちの進行ルートと到着予想時間、人数などを伝えた。
「いいだろう。こっちだ」
 シニストラ・ラウルスが歩き出した。
「ちょっと待って、情報なら、わたくしも持っておりますわ」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が二人を呼び止めた。彼女もまた、クイーン・ヴァンガードと行動をともにしている崩城亜璃珠から敵の動向を連絡してもらっているのだと言う。
 断っても勝手についてきそうなロザリィヌ・フォン・メルローゼの勢いに、シニストラ・ラウルスは好きにさせた。
「お嬢ちゃん、こいつらが話があるそうだ」
 二人をアルディミアク・ミトゥナの許に連れて行くと、シニストラ・ラウルスはさっさとその場を離れていった。彼としても、やらなければならないことがいろいろとある。
「そう。では、こちらも急いで動かなければね。でも、安心していいわ。すでに遺跡の中の玄武甲はこちらで確認しているから。あなたたちは、私たちがそれを運び出すまでの間、邪魔者を排除してくれればいいだけのこと」
 二人の話を聞いた、アルディミアク・ミトゥナはそう指示した。
「それでもよろしいでしょうけれど、もっと賢い方法もありませんこと?」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼの言葉に、アルディミアク・ミトゥナがどういうことかと聞き返す。
「相手はクイーン・ヴァンガードを中心としていますけれど、ゴチックメイドとその取り巻きたちは、明らかに別のグループですわ。この二つを敵に回すよりも、ゴチメイたちを味方につけて、一緒に、融通の利かないクイーン・ヴァンガードの鼻をあかすのも面白いとは思いません?」
「それはありえない」
 強い調子で、アルディミアク・ミトゥナが否定した。
「どうしてだ。奴らに何か恨みでもあるのか?」
 トライブ・ロックスターが訊ねた。
「ココ・カンパーニュ、奴は私の仇だ。それ以上の理由は必要ない。お前たちは、クイーン・ヴァンガードを遺跡に近づけなければそれでいいのよ。いや、ココ・カンパーニュだけはわざと中に入らせなさい。私が、この手で殺す」
 そう言ってアルディミアク・ミトゥナが左手の拳を握りしめると、その周囲の空間がおぼろげにゆらいだ。