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ホワイトデーはぺったんこ

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ホワイトデーはぺったんこ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「いたいた、こっちだ、こっち」
 今や、無数の追っ手から逃げ回る存在と成り果てた山葉涼司を、物陰から伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が手招きした。
「なんだ、貴様は」
「味方だ、味方」
「おお、味方か」
 やはり馬鹿だ、山葉涼司。あっさりと信じた。
 とはいえ、今やパートナーの花音・アームルート(かのん・あーむるーと)からも見放された山葉涼司としては、藁をもつかむ思いだったに違いない。
「協力してくれ、真犯人は別にいる。フードつきのマントで顔を隠した、いかにも怪しいチビッコだ。きっと、つるつるぺったんな胸に違いない。だから、俺の花音がもってるたっゆんな胸に嫉妬したに違いないんだ」
 その言葉に、少し離れた場所で密かに盗聴していた支倉 遥(はせくら・はるか)が激怒した。
「奴め、この言葉、私たち超ババ様フアンクラブすべてに対する挑戦として受け取るぞ。やれ、藤次郎正宗!」
「ラジャー」
 携帯に繋いだイヤホンから聞こえてきた指令に、伊達藤次郎正宗が小声で答えた。
「ん、どうしたんだ」
 それに気づいて、山葉涼司が訊ねる。
「物見から、連絡が入ったぜ。追っ手が迫ってる。そこの階段を下りて、下の階に逃げろ」
「おお、分かった。サンキュー」
 素直に伊達藤次郎正宗の指示に従った山葉涼司は、急いでそばの大階段にむかった。
「見えた、そこだ!! 貴様……ここで会ったが……百年目!」(V)
 ふらふらしながら階段を上っていたクルード・フォルスマイヤーが、ついに山葉涼司の姿を見つけて叫んだ。
 なんとかここまで引きずってきた刀の鯉口を外し、鞘を捨てる。
「誰だ、お前」
 幼児化していては、誰が誰だか分からんと、山葉涼司は叫んだ。
「問答無用……おとなしく……俺の……刀の……錆に……うっぷ……げろげろげろ……」
 まだ本調子ではないクルード・フォルスマイヤーがふらついた。
「今だ!」
 すかさず、山葉涼司がクルード・フォルスマイヤーの横をすり抜けて逃げようとする。
「そうはさせるものですか」
 スナイパーライフルをキャリングケースから取り出していた支倉遥が、装填したゴム弾を放った。
「うがっ!」
 突然後頭部を殴られた感じとともに、山葉涼司が階段でつんのめった。
「やられるかよ」
 したたかに身体を打ちつけながらも、そこは彼もド素人ではない。巧みに受け身を駆使して、ダメージを最低限にコントロールした。
「クイーン・ヴァンガードです。そこのテロリスト、おとなしく投降しなさい!」
 派手な物音を聞きつけてたナナ・ノルデンが、ヴァンガートエンブレムを掲げながら、全速力で走ってくる。
「誰がテロリストだ!」
 当然、山葉涼司は逃げようとした。
「させるか。貴様には、超ババ様のスケープゴートになってもらう!」
 支倉遥が、上の階からゴム弾を連射した。
「同じ攻撃に、引っかかるか!」
 予測していた山葉涼司が、階段の手摺りをつかんで身を翻す。
「きゃっ」
 跳弾したゴム弾が、運悪くやってきたナナ・ノルデンとズィーベン・ズューデンの行く手をさえぎった。その間に、山葉涼司が逃げだす。
「待ってたぜい。お嬢さんの仇だ。こいや、きっちり息の根止めたるぜ!」
 反対側から駆けつけてきたディー・ミナトが、カタールを構えて山葉涼司の前に立ちはだかった。
「とめてとめて」
 わずかに遅れてやってきた水渡雫が叫んだ。
「さすがに、殺人事件はまずいですねえ。少し頭を冷やしましょうねえ〜」
「ぐはっ」
 ローランド・セーレーンが、氷術でディー・ミナトの頭の上に氷塊を作りだした。当然、落下したそれは、もろに彼の頭を直撃する。
「だめー」
 ふらつくディー・ミナトの足許に、ちっちゃな水渡雫がタックルした。そのまま、倒れたディー・ミナトをローランド・セーレーンが押さえ込んだ。
 
「そちらは危険です。あなたは、我が教団がお救いしましょう。さあ、こちらへ」
「なんでもいい、助けてくれ」
 しつこくナナ・ノルデンたちに追われる山葉涼司は、いんすますぽに夫に手招きされて、彼のいる教室に逃げ込んだ。
「ぐわはっ!」
 一歩中に足を踏み入れたとたん、上から落ちてきたコタツの直撃を受けて倒れる。
「いあいあいあいあ、さあ、声なき非モテたちの声をその身で感じるのです。今、あなたが受けた痛みは、すべての者たちの心の痛みなのです」(V)
 包帯からのぞいた目を、いんすますぽに夫は満足そうに細めた。こうも簡単に罠に引っかかってくれると、実に気持ちがいい。
「でかした。このパラミタ刑事シャンバラン、市民の皆さんの御協力に厚く感謝するぜ」
 山葉涼司が気絶して動けなくなっているところへ、神代 正義(かみしろ・まさよし)大神 愛(おおかみ・あい)が駆けつけてくる。
「こいつが、諸悪の根源か」
「いあいあいあ、全パラミタ民ロリショタ計画の首謀者です」(V)
 山葉涼司を指さす神代正義に、いんすますぽに夫が答えた。
「なんだと、全パラミタ民ロリショタ計画だと!? おのれメガネめ、このような悪の計画を企てるとは! ちょっとモテるからっていい気になるんじゃないぞ! シャンバランブレード!」(V)
 すっかりいんすますぽに夫と同調した神代正義が、激情に駆られてシャンバランブレードを取り出す。
「殺してどうするんですか!!」
 まさに山葉涼司をぷっすりしようとしていた神代正義といんすますぽに夫の頭を、大神愛が輝くハンマーで強打した。
「きゅう」
「なんで、僕まで……」
 ばったりと、二人が倒れる。
「ええと、どうなったの?」
 やっと追いついたナナ・ノルデンが、状況が分からなくて唖然と立ちすくんだ。
「すいません、今かたづけますから」
 説明する言葉が見つからず、大神愛は神代正義の足を持って彼を引きずりながら去っていった。
「ふむ、容疑者死亡と……。おや、もう一つ死体が……」
 いんすますぽに夫の後をつけてきた風祭優斗が、手帳に状況らしきことを書き込みながら言った。すぐにチョークを取り出すと、いんすますぽに夫と山葉涼司の倒れた形に枠線を引く。また、ぽに夫はただの屍になった。(V)
「ダイイングメッセージはと……。ないじゃないですか。困ったなあ。それがなければ、真犯人への手がかりが……」
 お約束通りの展開で話を進めようと思っていた風祭優斗は、床を調べながら困ったように言った。
「見つけましたよ。山葉君、知らない人から物をもらってはいけませんって子供の頃に教わりませんでしたか?」
 セルファ・オルドリンをかかえた御凪真人が、騒ぎを見つけて加わった。山葉涼司が気絶していることなどお構いなしに、こんこんと説教を始める。
「えー、いいかげん確保したいんだけど」
「ちょっと待ってください。まだ話は終わっていません」
 早く縛りあげて逮捕したいというナナ・ノルデンを、御凪真人は強行に退けて説教を続けた。
 
「せっかく見つけたのに、ちょっと遅かったようですね。おや、こんな所にいい物が」
 遅れてやってきた明智珠輝が、部屋の隅に転がっていた赤いキャンディを拾いあげた。どうやら、山葉涼司がさっき鏡氷雨から取り返した物が、今の騒ぎで転がり落ちたらしい。
「元に戻るキャンディか? よこちぇ、よこちぇ」
 しっかりと左手でマントの前を押さえたリア・ヴェリーが、ちっちゃな右手を必死に明智珠輝の方へとのばした。
「うーん、これは赤ですから違うと思いますよ。これは、私がしっかりと保管しておきましょう」
 その明智珠輝の言葉に、リア・ヴェリーに直感のひらめきが走る。
「なにをするちゅもりだぁ」
「別に、何もしませんよ。あんなことや、こんなこととか。あの方に食べさせたいとか、いつでも使えるようにしておきたいとか……あいたたたた」
 あけすかに陰謀を口にする明智珠輝に、リア・ヴェリーが思いっきりそのむこうずねを蹴飛ばした。
「いたたたた、何をするんです。めっ、ですよ」
 その状況をも楽しむかのように、身をかがめてリア・ヴェリーと目線を同じにしてから、明智珠輝が言った。
「そんなにやんちゃですと、少し困りますねえ。いっそ、もう一つ食べて、赤ちゃんまで戻ってみませんか? 大丈夫ですよ、ちゃんと私のおっぱいを吸わせてあげますし、おしめも、懇切丁寧に替えてさしあげます」
「な……」
 明智珠輝の言葉に、さすがにリア・ヴェリーがこれ以上ないという感じで顔から耳からすべて真っ赤にする。
「はい、じゃ、お口を開けてくださいね。はい、あーん」
 子供に食べさせるときのお約束と言うことで、自ら大きく口を開けながら、明智珠輝は手に持った赤いキャンディをリア・ヴェリーに近づけた。さすがに、リア・ヴェリーがイヤイヤをして抵抗する。
「しかたないですねえ。だったら口移しで……」
 軽く唇で赤いキャンディをはさんで、明智珠輝がリア・ヴェリーに迫った。
「えいっ!」
 まさにカウンターという感じで、リア・ヴェリーが手を突き出す。押し返されたキャンディは、そのまま明智珠輝の口の中へと入っていった。
「えっ!? くっ、ふふ、ふはははははは……」(V)
 みるみるうちに、明智珠輝の身体が縮んでいく。
「おそろいでちゅ」
 服を半分肩からズリ落としながら、明智珠輝はリア・ヴェリーに言った。
 
「みんな……そこを……どけ。今度こそ……止めを……」
 ゼイゼイ言いながら、剥き身の刀を引きずったクルード・フォルスマイヤーがやってきた。
「はいはいはい、ちょっとお邪魔しますわ」
 その場の空気を無視するかのように、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)渋井 誠治(しぶい・せいじ)が間に割って入ってきた。そのまま、いともあたりまえのように、二人で倒れている山葉涼司の足を一本ずつつかむ。
「じゃ、そういうことで」
 ちゃっと片手で渋井誠治が挨拶すると、いきなり二人はその場から走って逃げだした。
「うが、げぼ、あが」
 引きずられて廊下の角の壁や階段に無造作に頭をぶつけられて、やっと山葉涼司が息を吹き返した。吹き返しはしたが、はっきり言ってぼろぼろである。
「待ちなさい!」
 あわてて一同が追いかけようとしたが、廊下に出たとたんに小さな爆発とともに催涙ガスのトラップが作動した。その間に、煙に紛れて渋井誠治たちが逃げていく。
「お前たち、何を……ぐはあ」
「助けにきてあげたのですよ、感謝しなさい」
 悲鳴とも非難ともつかない言葉を発する山葉涼司に、ぴしゃりとガートルード・ハーレックが言った。
「いいですか、これは多分ティセラの陰謀なのです。クイーン・ヴァンガードの母体である蒼空学園に混乱を起こして、きっと何かをするつもりです」
 ガートルード・ハーレックは、山葉涼司を納得させるために、口からでまかせならべたてた。
「いいや、真犯人は別にいる。とにかく、お前にキャンディをくれたっていう人物を探すのが先決だ」
 渋井誠治が、的を射た意見を口にした。
「そこー。まってくだしゃーあい。しあわちぇのきゃんでー、もっとちょーらーい」
 必死に空飛ぶ箒にしがみつきながら、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)が追いかけてきた。
「あたち、いまごしゃいよー。ごしゃいなんだからー。ねえー、どこであめもらっちゅたのー?」
「そういう状況じゃ……いでででで」
 なおも全速力手引きずられている山葉涼司が叫び返した。
「ねえ、おちえてー」
「しつこいわねえ」
 他は足止めしたのに、しつこく追いすがられて、いいかげん撃ち落とそうかと、ガートルード・ハーレックは考え始めた。
「話は聞かせてもらったよ!」
 突然前に立ちはだかれて、あわててガートルード・ハーレックと渋井誠治は急停止した。
「あーれー」
 人と違って空飛ぶ箒では急停止できずに、そのまま開いていた窓からリース・アルフィンが外に飛び出していく。
「うーん、手がかりがない……うわあ」
 外を調べていた樋口戒が、もろにリース・アルフィンに激突されて、二人でもんどり打って地面に転がった。
「どうしたの、戒、なにかあった……!」
 物音に駆けつけてきたユリヤ・グリシンが見たのは、幼児をしっかりとだきかかえている樋口戒の姿だった。
「戒、あなた、とうとうこんな子供にまで手を出して……」
「ちょっと待て、いったい何を言って……」
 あわてる樋口戒だが、ユリヤ・グリシンは聞く耳を持っていない。
「問答無用よ!」
 ユリヤ・グリシンは、ハンマー型の光条兵器を思いっきり振りあげた。
 
    ★    ★    ★
 
「というわけで、私たちを雇ってください。相手が誰であろうと、お役にたてます」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)を従えた琳 鳳明(りん・ほうめい)が、そう山葉涼司に自分たちを売り込んだ。
「情報提供者からの話では、屋上が敵の本拠地のようです」
「じょーほーてきょちゃでしゅ」
 琳鳳明についてきていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言った。
「本当か。よし、雇う、雇う。とにかく、黒幕をとっつかまえて、俺の無実を証明するんだ」
 ぼろぼろになりながらも奇蹟の復活を遂げた山葉涼司は、決意も新たに屋上へとむかった。
 
「やはり黒幕がいるんだ」
「よかったであろう。単純に踏み込んでいたら、分からなかったところであったな」
 林田樹が、緒方章に言った。小さくなっても、指揮能力は衰えていない。
 なんとか緒方章と合流することができたので、とりあえずは冷静に行動するように説得できたのだ。怒りのままに山葉涼司を再起不能にでもされたら、解毒剤のありかが謎のままになってしまう危険性もあったが、ひとまずは安心ということだ。
「みんな、おくじょー、いっちゃうらお」
 林田コタローが、二人をうながした。
「よし、追うよ」
 緒方章は闘志を燃やしながら、密かに山葉涼司たちの後を追っていった。