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第2章 いざ、雪合戦!!

 ラズィーヤが優雅に紅茶のカップを持ちあげると冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)はもそっとカップを持ちあげて、乾杯の意を表した。白を基調にしながらも華やかに彩られた室内。サロンに活けられた花と美しく甘いモノたちが盛り付けられたテーブルを見まわしながら、小夜子は、ほっと一息ついた。
 今朝、登校した時には、百合園女学院が雪に覆われていてびっくりしたけれど、ラズィーヤ様のなさることだから、と思うと納得出来てしまうあたり、だいぶ感化されてきちゃったのかなぁ、なんて思わず笑みがこぼれてしまったりする。
「えへへ、なぁんか、小夜子ちゃん。楽しそうですね」
稲場 繭(いなば・まゆ)が小夜子の顔を見つめながら、にこにこやっぱり楽しそうな口調で言う。エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)が繭の顔にひょい、と自分の頬を寄せて
「自分だって、十分楽しそうじゃないの。ほらほらー雪でテンションあがってるなんて、子どもの証拠よ?」
「いいではないか、繭が楽しいのならそれが一番だ」
ルイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)が、いつも通りのかたい口調で言うと「パーティーなんだから、もっと気楽に楽しみなさいよ」と、エミリアがからかう。
「うっさい、このあーぱー吸血鬼!」
 ルインがふてくされたように答えると、
「はろはろー」
オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がやってきた。行儀悪く桐生 円(きりゅう・まどか)はクッキーを齧りながら歩いてきた。ぽろぽろ。あの、何かちょっとこぼれてますよ?
「おちびちゃんたちが、雪合戦したいって騒いでるのよ。こんな雪、めったにないしー。一緒にどうかしら、って言ってるわよ」
 オリヴィアが視線を流した先には、すでに崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の手によってがっつりと防寒されて着ぶくれている崩城 理紗(くずしろ・りさ)崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)が。もう待ちきれない様子で、きゃっきゃっと飛び跳ねている様子が微笑ましい。
七瀬 巡(ななせ・めぐる)が亜璃珠に何か話しかけ、頭をなでなでしてもらっている横からロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)がまとわりつこうとしている。どうやら自分もなでなでしてもらいたいようだ。
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がコートを半分着かけながら、たったったっと、小走りにやってきた。
「どお?どお?みんなで雪合戦!!」
「うん。いいよぉ。ね、小夜子ちゃん」
 繭がのんびりした口調で答えると、小夜子は「ええと、そうですわね」と言って自分もロングコートを取りに行った。
「繭が行くなら、当然私も行く」
「もっと、気楽に楽しみましょうよー」
「うるさい。おまえには手加減しないからな!」

そんなルインの決意は、案外もろくも崩れ去った。中庭に集まった雪合戦、今回は【姉チーム】と【妹チーム】に分けよう、と言うのだ。
「それは、なんというかその、不公平ではないか?」
 ルインは亜璃珠に言葉を返してみた。うぅ……エミリアと同じチームはイヤだし、何より繭に向かって雪玉を投げつけるなど。
「あら、おちびちゃん同士が本気で投げ合っちゃうほうが、あぶないわ。繭なら大丈夫よ」
 亜璃珠にそう言われてしまっては、ルインも反対する術はなかった。
「とりあえず、チーム分けするねーっ!!」
「歩は、巡のおねーさんだから、今回は姉チームよ」
「もちろん、わたくしもっ!一番の姉としてがんばりますわよー」
 ロザリィヌは張り切った様子で「まずは作戦会議ですわっ!」と言っているが、キミはその格好で寒くないのかい……?

「こっちだって、負けずに作戦会議だ。やるからには勝利をー」
 円が【妹チーム】のちびっこたちをまとめる。小夜子・繭・理沙・ちび亜璃珠・巡は、ひとまず、意味もなく円陣を組んでみる。
「勝利をー」
「をー!」
 ちびっこたちはすでにやる気満々だ。
 【姉チーム】であるオリヴィア・亜璃珠・ロザリィヌ・エミリア・ルイン・歩は、円陣から即離れて小さなおててで雪玉を作り始めたちびっこを眺めていた。
「あらあら、可愛らしいわねぇ〜」
「こちらも姉としての貫録を見せつけなくてはいけませんわっ!」
 ロザリィヌも妹たちに負けじと雪玉を作り始める。すでにその姿に貫録がないことに本人は気がついていないのが、たぶん彼女のいいところ。

 まだ始まってもいないのに、ちびたちは投球練習?小夜子に向かって「やーっ!」と雪玉を投げたりしている。
「きゃっ。仲間に投げたらダメなんですよ〜」
 小夜子はちびたちをさとしながら、逃げ回ってる。しかし、ちびたちの目はけっこう本気だ。やーんっ。
「ボクたちがキャッチボールするのは、ねーちゃんたちとでしょお」
 巡が、めっとばかりにおちび二人を止める。
「ルール守らないと、ねーちゃんたち、遊んでくれないかもよ?」
 遊んでもらえないのはイヤだとばかりに、理沙とちび亜璃珠はぴたりと動きを止めた。始まる前から前途多難―。
「ともかく、マスターたちに勝つには作戦をー」
 円が言うと【妹チーム】はごにょごにょごにょ。何やら相談を始めた。
 そして中庭の端にある庭師の手入れ用倉庫からスコップを取り出してくると、穴を掘り始めたりなんかしている。……やるのは、雪合戦ですよ?

「ちびたちはちびたちなりに、考えているようね」
「よぉしっ!こっちだって負けないよー!……あの、でもね?ここはあんまり本気出しすぎないで、皆が楽しめるくらいに手加減してみるのはどうでしょう?」
 歩も、雪にはしゃいではいるものの、やっぱり【妹チーム】のことが心配なようだ。
「妹たちを楽しませてあげるだけ。大丈夫よ。ちゃんとルールも、作るしね」
 亜璃珠はロザリィヌとエミリアが嬉々として雪玉を作っている姿を見つめながら言った。
 どこから持ってきたのか、小さな赤と白の旗を取り出して、歩に見せる。雪合戦をしつつ、相手の旗を争奪出来たほうが勝ち、というルールらしい。
「あの、これっていくら雪玉に当たってもいいってことですか?」
「ええ、かまわないわよ。ま、当たったら痛かったり、寒かったりはするでしょうけど。あとで温まれるように、ラズィーヤ様がシーツの部屋を用意してくださっているようだし、ね」
 ラズィーヤにそんな気遣いがあったかどうかはわからないが、そう言うことにしておこう。歩は安心したように「そうですね」と笑顔になり【妹チーム】へ赤い旗を渡しに行った。

* * * * * * * * * *


 雪合戦チームがせっせと、ひとまず「雪たま作りタイム」にいそしんでいる間に、中庭のサロン側では、謎の設営が始まっていた。
 雪の中にシートを広げ、その上にテーブルを設置。椅子の背にはふんわりもこもこブランケット、足元にはヒーターを。タニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)が水色の腕章を付けて所狭しと走り回っている。
 タニアの持ってきた大弾幕をミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が手伝ってテーブルの背後にセッティングする。

《雪だるまコンテスト in 百合園杯》

……なんだそりゃ???
ラズィーヤに頼まれたのか神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)も、謎の白い球体を運んでいる。発泡スチロールなのか?軽々と運んできたものを何か器具のようなもので固定しながらテーブルの横にセッティングしている。
ミルディアがタニアの指示を受けながら、大きな黒い画鋲のようなものをぐぐぐ、と球体に押し込む。タニアは鋭い視線を向けながら、微妙なバランスを見極め、もう少し右、もうちょっと上、とミルディアに言い、なかなか上出来に出来たのか、元気いっぱいぴょんぴょんとうれしそうに飛び跳ねているミルディアの頭を、タニアがなでなでと撫でている。ありがとう、と伝えているようだ。
えへへー、といつもの笑顔でミルディアが応える。

テーブルの上には「審査委員長」の立て札や「特別ゲスト」の立て札。
コンテストの準備は着々と進んでいるようである。