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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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(5)御意見頂戴ッ @並木

「はぁー、入れそうな学校ってなかなかないもんだなぁ」
 牙竜のブラックコートのボタンを全て締め、ぱっと見が男の子であることを幾分気にしている並木は少々腹を立てながらもキャンプ場まで足を伸ばした。
「転校させてくれる学校? あるわよ、あんたみたいに日々闘いを挑むコにぴったりの学校が」
「えっ?」
 振り向けば目つきの剣呑な学生たちが腕組をして並木のほうを見ているではないか。声の主はヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)、彼女もまた新人が学校探しをしていると聞き、実力のほどを確かめに来たのであった。羽高 魅世瑠(はだか・みせる)弐識 太郎(にしき・たろう)も同じ学校のものとして後ろに控えていた。
「波羅蜜多実業高校、通称パラ実っていう素敵な学校よ♪」
「弐識だ。一般的には評判がいいとは言えないが、格闘家を目指すなら悪くない環境だろう」
 並木は『格闘家に向いた環境』という言葉に反応したようだ。ヴォルチェはその様子を目ざとく見つけると、興味をひきそうな言葉を並べてターゲットをその気にさせようとした。
「闘神とも崇められるドージェを筆頭に、数多くの格闘家が日夜技を競い合ってるわ。目と目があった時、それが勝負開始の合図よ♪ かく言うあたしも、他のコに負けないよう修行しに来てるってワケ」
「なるほど、パラ実は戦いの神様を信仰している学校なんですね!!」
 並木は若干勘違いしているが、パラ実生徒が半分自己申告制なのを考慮すれば見当はずれでも無いだろう。そもそも校長は現在どこにいるかはっきりとは分からんのだ。
「笹塚並木さん、家出同然で来たってか……。ご両親が今頃心配して涙で海を作っているぜ」
 パラ実生徒のスカウトに言葉をはさんだのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)である。
「というかこんな押しかけで弟子入り志願をするのも、師と仰ぐ人にとって凄く迷惑になるじゃん……。ご両親の不評は師匠やパラミタに向かうかも、だし」
「イキオイでパラミタまで来ちゃったんだね? あははは、オイラはこういうイキオイのある人生も大好きさっ」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)もパートナーの意見に賛同しているが、どうやらこちらは100%親切心というわけではないようだ。
「ま、時と場合によっては、そのままワルイヒトに掴まって売られちゃって、一生イカガワシイトコで馬車馬のように働かされるとか、あるんだけど。そんな事にならなくてよかったねぇ。くす」
「日本は世界一安全な国だからね。生まれも育ちも日本なら、そんな事考えもつかないだろうよ」
「……ああん? 他校生が横から割り込んだり茶々いれたりすんじゃねぇよ。今はあたしらが説得してんだ、順番を待ちな」
 魅世瑠はクマラの言い方が癇に障ったらしく、喧嘩腰で睨みつけた。クマラは怖い怖いと肩をすくめるジェスチャーをしている。
 ……たまにはマトモな服も着てくるもんだな。いつものカッコだったら信用されねぇところだったぜ。それはともかく……。
「笹塚並木くん。君、未成年なんだってね。日本では自由は憲法で保障されているけれども、自由に伴う責任をとるという観点から、未成年者に対してはある程度制限がかけられていることを知っているかな?」
「他人の大江戸さんに弟子入りさせてくれと説得する前に、本当なら、まず、身内であるご両親にちゃんと了承を得るのがスジってものじゃないかな……?」
「いろいろ言う奴もいるが、パラ実は日本の石原ってぇ校長が創立したれっきとした高等学校だ。家柄の成績のってぇ話とは関係なく、有為の人材にゃ広く門戸を開いてる。確かにそのせいでガラは悪いがな」
「エースやメシエさんも堅苦しい……。まあ、笹塚さん一家の事を考えての事だから、キツイ物言いもちょっと許してあげて?」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は法的な視点から、並木に一度地球に帰って両親に許可を取ることを進めてきた。魅世瑠はそれならとパラ実が日本の高等学校であることをアピールしてくる。エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)険悪になってきた空気を和ませようと、やわらかい口調で間に立って喋った。
「それで、並木っちは、その、格闘家で一生の生活設計とか考えたの?」
 そんなエオリアの気づかいを知ってか知らずか、クマラは無邪気さを装って質問をしてくる。エオリアは『あちゃー』という様子で頭を押さえているが、こうなっては放っておくしかなさそうだ。
「10年後、20年後の自分が格闘家としてどういう風に過ごしているっていうの、何かビジョンとかあるの?」
「ビジョンですか」
 並木が何を考えているのかはまだ分からない。ただ、この質問に意地悪な気持ちが入っているのは察しているが腹は立てていないようだ。
「それでしたらやはりパラ実ですわ。いずれあなたも師を越えたいと思っているでしょう?」
「理由があるなら聞かせてほしいなあ。わくわく」
「もしそうなったら、おそらく他校ではもうあなたが最強の拳士になってしまいますわ。でも……パラ実でしたら、まだ上を目指すことができますわ」
 言葉を継いだアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は師匠越えの先について語った。ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)もニコニコと隣で頷いている。
「そう、伝説の人、ドージェ・カイラスがいますもの。ドージェとゴビニャー先生とどちらが強いかはゴビニャー先生に聞かないと判りませんけれど、恐らく互角かそれ以上とお答えになると思いますわ」
「ぱら実たのしいよー。トモダチいっぱいできるよー。だって、ぱらみたでいちばん生徒の数がおおいガッコウだもん」
「転校手続も一番簡単だ。明日からでも修業に入れる、ってのは大きいと思うぜ」
「え、えーと。えーと」
 並木は一度に大量の情報を与えられて混乱している。皆が自分の心配をしてくれてるのは分かるのだが、メモを取って見返してみても人によって微妙に言っていることがずれているので迷っているようだ。


「よく考えろ。その気持ちが本物なのかどうかを」


 先ほどから静かに見守っていた太郎は、並木への注意がそれている間に静かな声で問いかけた。
「良くも悪くも自由な学校だ。格闘家にとっては絶好の修行場だろう」
 好きなだけ自己鍛錬が出来て、組み手の相手を探そうものならあちこちにゴロゴロしている。油断をしてれば、逆にやられる。
「そこの兄さんのいうことはもっともだ。が、そういった中でやっていけないようならば、そもそも無理ではないのか」
「……!」


「とはいえ、これからどういう所で暮らすのか。資料もなくてはご両親の説得もままならないよね。弟子入りするとなると師匠がパラミタでの君の後見人になるんだから」
「君は親の承諾もなしに転校も出来なければ、親の承諾もなしに住む所も借りられないという事なんだよ。法律行為には、法定代理人である親権者の同意が必要なんだからね」
「親御さんの方は心配いらねぇ、パラ実に入ると決めりゃ日本にいる元校長のシンパがきっちり説得してくれるだろ」
「パラ実がオススメな点がまだあるだろ魅世瑠。パラ実にゃ、『分校制度』があるじゃねぇか」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)も加わって、議論はますます白熱していた。ヴォルチェは、面倒くさい奴はドラゴンアーツでぶっ飛ばしちゃえばいいのにぃ〜。と思っているが、魅世瑠は理詰めでいきたいようなので任せていた。パラ実に出席がないことや、街宣車御用達の学生が多いことは伏せているが……嘘は言っていない! すべて真実だ!
「他校だったら、本校に通いながらゴビニャー先生のところに時々顔を出すか、弟子の都合でゴビニャー先生に本校のそばに移ってもらうってぇ不義理なことになっちまう」
「じゃたの森にもいっぱいぱら実生がいるんだよー」
「パラ実なら、ゴビニャー先生のところに「大江戸分校」を開けば、そこがもう学校だ。連日通いつめたって欠席扱いになるこたぁねぇ」
「だから、ごびにゃー先生にそのままじゃたの森で分校をひらいてもらっても、さみしくなったらじゃた族のぱら実生とトモダチになれるんだよー」
「どこの学校を選ぶかについては、エースの資料も参考いただけると嬉しいな」
 フローレンスは暑く、ラズはノホホンとパラ実の良さを紹介した。エースは色々な学校の情報を平等に見ることも大切だろうと、イルミンスールの図書館などから各校のパンフレットなどを取り寄せゴビニャーの家に送るように手配していた。
「まあ、薔薇学にも唯一にして最大の欠点がある。中東気質なのか、生徒は締め切り厳守だけど先生方の課題の添削・結果発表が遅れる事多数でね。並木さんに遅刻癖がついちゃうと大変だから」
「君の幸せを願って大切に十数年間君を育ててきたご両親にちゃんと納得いただいた上でパラミタに来るのが正しい順番ではないのかな」
 いいところ・夢のあるところだけではなく、悪いところもきちんと知るように。エースたちが言いたいのはそういうことなのだろう。パラ実の太郎もそう言ったことを考えていた。なぜなら、彼も裕福な家庭に生まれながら現在ではパラ実で格闘家を目指している身だからだ。並木に対して親近感を持ったのかもしれない。



「でもねぇ、簡単には転校出来ないの」
 エースたちが去った後、ヴォルチェは心底残念そうにつぶやいた。
「え、でもテストはいらないのでは?」
「パラ実の生徒と勝負して「見込みがある」と認められなければ入れないのよぉ。……というワケで勝負しましょ♪」
「あ、ああ。そういう……」
 ヴォルチェは中指を立ててカモンカモンと挑発してきた。
「撤収だ」
「ええー?」
 しかし、太郎に諭されて渋々と引き下がる。1人残った並木は集めた情報をメモにまとめなおすと、それをしばし眺めていた。