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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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「あっ、ミーミル! 探しましたよっ」
「ソアお姉ちゃん、どうしたの?」
 カフェテリアに戻ってきたミーミルを見つけて、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が駆け寄ってくる。
「ミーミル、確か精霊祭の時に、モップスさんにお料理を習ってるって話してましたよね? 今日は絶好の機会ですから、私も一緒にモップスさんに教えてもらおうと思ったの」
「そっか、じゃ、一緒に行こっ♪ ……あれ? カナタお姉ちゃんはどうしたの?」
 笑顔で頷いたミーミルが、アーデルハイトの持ち込んだキノコを見つめ続けている悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を心配するように呟く。
「いや、だってあのキノコ、アーデルハイトの……」
「?」
「……何でもない。それじゃ、モップスのところに行くか。おいカナタ、行くぞ」
 理由を話そうとした緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、ミーミルが何も知らなそうな顔をしていたので言葉を濁し、カナタを呼び寄せる。

「ボクでいいなら、請け負うんだな。誰かのために料理を作るよりはよっぽど有益なんだな」
「モップス〜? その誰かって一体誰のことなのかな〜?」
「ま、あたいじゃないことだけは確かね!」
 ソアとケイから話を聞いたモップスが、リンネとカヤノの言葉を無視して申し出を受ける。
「俺としては、見慣れない材料を使って普段作れないような料理を作ってみたいぜ。あ、もちろん、モップスの没収されたハチミツも生かす方向でな」
「違うよ〜、没収したんじゃなくて提供してくれたんだよ〜」
「優しさに涙が出そうなんだな。それじゃ、他の人が作っていたのを参考にして、この皮を使った巻物でも作ってみるんだな」
「はい、よろしくお願いします、先生!」
 モップスの指示で、ソアとケイ、ミーミルが作業を始める。一方カナタは、傍を歩いていたアーデルハイトを引き止め、キノコの正体を問い詰めていた。
「のうアーデルハイト、このキノコはやはり――」
「ま、おまえぐらいなら容易に察するじゃろうな。大丈夫じゃ、普通に食べる分には問題ない。むしろ濃厚な煮汁が出て美味じゃぞ? まるでこの私のように――」
 どうやら気に入ったのか、魅惑のポーズを取るアーデルハイトへ、いつの間にか握られたハリセンでカナタがツッコミの一撃を見舞う。
「? ケイお兄ちゃん、何か乾いた音がしませんでしたか?」
「……いや、気にする必要はないよ」(カナタのやつ、ハリセン持ってったな……)
 ミーミルの質問をはぐらかして、ケイが巻物に詰める具材を切り揃えていく。
「先生、このくらいでいいですか?」
「もう少し薄い方がいいんだけど、ま、いいんだな。それじゃ、これをこの鍋に入れてほしいんだな」
 ソアの切り揃えた野菜が、キノコの煮汁でダシを取った汁の浸った鍋に放り込まれていく。
「ミーミルの野菜を切る手つきが様になってて、お姉ちゃんびっくりしましたよ」
「えへへ♪ 時間がある時に練習したんだ。最初は力加減が分からなくて、まな板を何枚もダメにしちゃったんだけどね」
 可愛く微笑みながら、ミーミルがとんでもないことを口にする。
「……あの身体のどこにあれだけの力があるのか、さっぱり分からないんだな。それなのに心は子供、まったくもって不思議なんだな」
「あら、でも聞くところでは、少しずつ成長してるって話じゃない」
 首を傾げるモップスに、『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が相槌を返す。
「えっと、次はツバメの巣を飾り付け用に適当な大きさに切る……ベア、取ってくれませんか?」
「ほいきたご主人!」
 ソアの申し出に、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が手元にあった食材をソアへ渡す。
「……ってこれ、違うじゃないですか!」
「ハハハ、いやほらここにくぼみだってあるし、一応スープにもなるし、似てるだろ――」
 ベアの言葉を待たずに、どこからか取り出されたハリセンを握り締めてソアが、その顔面へツッコミの一撃を見舞う。
「いってぇ!! ご主人ツッコミ激しいぜ――」
「えいっ♪」
 顔面をさするベアの今度は後頭部を、3本目になるハリセンを手にミーミルが、ちょん、とやったつもりのしかし盛大な音を立てた一撃を見舞う。
「わ、こんな音がするんですね……あれ? ベアさん、どうしました?」
「……………………」
 感心するミーミルの足元で、ベアが身体を震わせながら地面に倒れていた。ことミーミルとソアが絡む時は、空高くぶん投げられたり、代わりに謎料理を食べる羽目になったりと、何かと災厄に恵まれるようである。
「ソアも今日は凄く楽しそう。私も自己犠牲とか大嫌いだし、こうして皆の輪の中に入れば、これからもっと変わっていくんじゃないかしら」
「そこまでは分からないんだな。……でも、リンネとも他の人とも楽しくやってくれるなら、それはそれでいいことなんだな」
 お笑いの頂点を目指していた――今でもそれは変わらないようだが――モップスには、一緒に笑い合える人がいることの大切さはよく分かっていた。
「ふふ、あなた、口でも態度でもリンネに渋々付き合ってる感じなのに、違うのね。あれかしら、今流行だっていうツンデレなのかしら」
「……ボクがそう思われていたことに、軽く涙を流したくなったんだな」
 不敵に微笑むソラの言葉に、モップスが否定する気力すら無くしかけていたところへ、
「モップス先生、この皮さ、細かく切って揚げたらパンの耳みたくならないか? それにハチミツを垂らせばデザートになるんじゃないかな」
「どうなんだな。とりあえず揚げてみるのが一番なんだな」
 モップスがソラの元を離れ、調理台に向かう。それからも続く賑やかな料理風景を、ソラもどこか楽しげに見守っていた。

「こ、これってアーデルハイト様の身体だったの!? どどどどうしよう、このままにしておいたらアーデルハイト様がニョキニョキ……きゃーーー!」
 ソアとケイの背後で、これまで同様ちょっとつまみ食いをしようと近づいていた少女、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)がカナタとアーデルハイトの話を耳にして、手にしていたキノコを放り投げてしまう。
「えっと、春巻きに肉料理、飴細工にキノコのスープ、海鮮丼にグラタンにドリアにクッキー……ふぅ、色々食べたわね。しっかりメモも取ったし、これで私も一人前の料理人よ! 見てなさい、私だって役に立ってみせるわ!」
「そ、そうですか……」(あぁ郁乃様、まだお知りにならないのですね。学校では郁乃様の手料理は『料理界のオーメン』と呼ばれて、兵器として認識されていることを……)
 ノート片手に、片端から料理をつまみ食いすることで料理を覚えようとしていた芦原 郁乃(あはら・いくの)を、秋月 桃花(あきづき・とうか)が終始心配そうな眼差しで後を付いていく。意気込みは立派なものの、家庭科が苦手&舌が鈍いことで引き起こされた惨劇の数々は、桃花の脳裏に今も鮮明に焼き付いていた。桃花自身は今日の料理教室を楽しみにしていたのだが、郁乃の「料理を覚える」宣言によって一転、何か問題を起こさないかという不安で一杯になっていた。
「次はこれね! ……っぷ、私もうお腹いっぱいだわ。桃花、代わりに食べてくれる?」
「ええ!? 郁乃様、それでは意味が無いのではありませんか?」
「いや、これだけ食べたらもう、舌の方は大丈夫じゃない? それに、他人の意見も参考にしないと料理人として失格かなーって思ったからさ」
(郁乃様……言ってることは立派なのですが……郁乃様の料理下手は早々直るものではないかと……)
 そんなことを思いつつ、ここで拒んで問題を起こされても困るので、桃花が皿に置かれたどこか毒々しい感じのするキノコを口にする。
 
「…………!!??↑↑↓↓←→←→AB!!!!」
 
 直後、何やら訳の分からない挙動を示した桃花が、最後には笑いながらカフェテリアを飛び出してしまう。
「あ、あれ!? ねえ桃花どこ行くの、ちょっと待ってー!」
 突然の事態に驚きつつも、パートナーを放ってはおけず、郁乃が走り去った桃花の後を追ってカフェテリアを後にする。
 彼女は知らない、これ以降カフェテリアが混沌とした事態に陥っていくことを――。