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小ババ様騒乱

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小ババ様騒乱

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「まったく、みんななんて酷いのかしら。絶対小ババ様を保護して、パートナーにしなくっちゃ。小ババ様、どこー」
 ドタドタと小ババ様を追いかけ回す音を気にしながら、葛葉 明(くずのは・めい)は教室の教壇の下あたりを探していた。
「こば?」
「いたあ!」
 至近距離で小ババ様と目があって、葛葉明は歓喜の声をあげた。
「こばぁ!」
 この小ババ様は人なつこいのか、逃げずにニコニコと葛葉明を見つめて笑っている。
 葛葉明はそっと小ババ様を手に取ると、教壇の上においた。
「ぜひ、あたしとパートナー契約を結んで。お願いなんだもん」
 葛葉明が、目の前の小ババ様に手を合わせて頼み込んだ。
「こば、こば、こばぁ」
 なんと、小ババ様が微笑みながらうなずく。
「やったあ。じゃあ、何かあるといけないから、ちょっと大きいけれどこのお守りを持っててね」
「こばあ?」
 葛葉明は、禁猟区を施したお守りを小ババ様に渡した。
「こば、こばあ」
 嬉しそうに、お守りの紐を小ババ様が自分の首にかけた。さすがに、ほとんど自分と同じ大きさのお守りに、ちょっとよたよたとする。次の瞬間、お守りの重さによろけた小ババ様が足をもつれさせて転んだ。
 ころころころ。そのまま、教壇から落下する。
 ぺちっ。
 しゅわわーん。
「きゃー、あたしの小ババ様が!!」
 唖然として、葛葉明は墜落した小ババ様の消えたあたりを見つめた。
「ああ、せめて、消滅する前にぺったんこなちっぱいを揉んでおくんだった……」
 
    ★    ★    ★
 
「ふう、さっきは驚いたな。どれ、すでにしかけておいた、小ババ様ホイホイの方はどうかな」
 閃崎静麻が、情報教室から続く隣の準備室にしかけた小ババ様ホイホイの様子を見に行った。
「くうー、助けてー」(V)
 全身に小ババ様ホイホイの粘着シートを巻きつけて身動きとれなくなっているユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)がそこで呻いていた。
「小ババ様、今、助けてあげるからね。がんばってね」
 ユウ・ルクセンベールの右手に巻きついた粘着シートが、もぞもぞと動いている。どうやら、そこに小ババ様もいるようだ。
「そこにいるんだな。クァイトス!」
 閃崎静麻に命じられて、無言でクァイトス・サンダーボルトがユウ・ルクセンベールに近づく。
「ああ、だめ。この子は自分の……」
 言いつつ、思わずユウ・ルクセンベールが右手に力を込めてしまった。
 しゅわわーん。
「ああーっ、しまった!!」(V)
 粘着シートから光がもれてぺっちゃんこになる。
「もう少しだったのに!」
 ユウ・ルクセンベールと閃崎静麻は、同時に肩を落とした。
 
    ★    ★    ★
 
「いいですか、これ以上お師匠様の恥になるようなことは見逃しておけないのですよぉ」
 アルフォニア・ディーゼ(あるふぉにあ・でぃーぜ)が、強い調子で言い渡した。
「はいはい。まったく、なぜ、わしまでがつきあわされなくてはならないのだ」
 キラキラと色が変わる光ファイバーの玩具をゆらゆらと振り回しながら、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)がぼやいた。
「まったくです。こんなことよりも、アルマの本体の記述の解析の方が大切なのですが……」
 つきあわされているレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)も、やれやれといったふうだ。
「何か言いましたかあ。これはあ、みんなアーデルハイト様のためなのですよお。ボクがアーデルハイト様のミニチュア版である小ババ様を愛でるため……、こほん、もとい、小ババ様を守るために必要なことなのですう。なんとしても、捕まえましょう。はい、小ババ様の好きな光を発射あ!」
「はいはい」
 アルフォニア・ディーゼに言われて、レイナ・ミルトリアが光術で作りだした光球を、通路の先に飛ばした。
 ふわふわと進む光を追うようにして、廊下の角を曲がる。
「倉庫みたいな所が一番いそうですねえ」
 そう言って、アルフォニア・ディーゼが一室の扉を開けた。
「うわっ、まぶしいのじゃ」
 突然、中から強力なライトに照らされて、アルマンデル・グリモワールが手で目をかばった。
「なんだ、小ババ様じゃないのか」
 部屋の中から小型のサーチライトをむけていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、残念そうに言った。
「まぶしいです!」
「ああ、悪かったぜ」
 レイナ・ミルトリアに言われて、エース・ラグランツがライトのスイッチを消した。一気に暗くなって、レイナ・ミルトリアたちが一時的に視力を失う。
 ぱり、ぼり……。
「なんか、踏んだようじゃのう」
 足下で何かが踏み砕かれる音を耳にして、アルマンデル・グリモワールが言った。
「まさか、小ババ様では……」
 アルフォニア・ディーゼが青ざめる。
「ああ、すみません。それは、小ババ様の餌にと思って撒いておいたクッキーです」
 部屋の照明のスイッチを入れながら、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がすまなそうに答えた。
「えっ、これって、小ババ様用のだったの?」
「こばっ?」
 床の上のクッキーを拾い食いしていたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)と、小ババ様の群れが、一斉にエオリア・リュケイオンの方を振りむいた。
「小ババ様です。ようし、今動けなくします!」
 ここで逃げられては大変と、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が、奈落の鉄鎖を小ババ様たちに放った。
「こばぁぁぁ」
 しゅわわーん。
 幾人かの小ババ様が、その圧力に耐えきれずに光になる。
「ああっ! 小ババ様があ!」
 アルフォニア・ディーゼが、メシエ・ヒューヴェリアルをつかんでブンブンと振り回した。
「大丈夫、今俺が聖なる光を与えて、回復させちゃうから」
 クマラ・カールッティケーヤが言うなり、あろうことかバニッシュを唱えた。
「こばばばー」
 生き残っていた小ババ様たちが、胸の前で手を組んで光になっていく。
 しゅわわーん。
「わーん、みんな消えちゃったあ」
 小ババ様のいなくなった床を、アルフォニア・ディーゼは呆然と見つめるだけであった。
 
    ★    ★    ★
 
「ここまでだ。貴様が、親玉か」
 山葉涼司は、地下の一番深い所で見つけた金色に光る小ババ様を前にして言った。
「こばばばばー」
 ハイパーモードとも呼べるその小ババ様は、他の小ババ様よりも一回り身体が大きく、全身が金色で強い光を放っている。
「こばっ」
「こばー。こばー」
「こばばばー」
 クイーン小ババ様の周りには、彼女から分裂したらしい小ババ様が群れていた。
「これまでの屈辱の数々、すべて返させてもらうぞ、アーデルハイト!!」
 いや、山葉涼司よ、それは小ババ様だ。
「こばー! こばー! ばばばばば!!」
 小ババ様たちが、一斉に山葉涼司に襲いかかっていった。
「邪魔だ! 狙うはただ一つ!!」
 光条兵器を一閃させて襲いかかってきた小ババ様たちを薙ぎ払うと、突進した山葉涼司はクイーン小ババ様を光の刃で貫いた。
「こばばばばー!!」
 クイーン小ババ様が、光の粒子になって消えていく。
「こばー」
「こばー」
 周囲にいた小ババ様が、両手を上に突きあげて叫んだ。そのまま、クイーン小ババ様に同調したのか、次々に光の粒子となって消えていく。
「終わった……」
 どっと襲いかかってきた疲労に、山葉涼司はその場にしゃがみ込んだのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「ふふふふふ、かわいいなあ。かわいいなあ」
 手に持った小ババ様にすりすりと頬ずりしながら、トライブ・ロックスターは幸せだった。
「こばー」
 突然、小ババ様が両手を上にあげて叫んだ。
「どうしたんだい、アーデルちゃん?」
 訝しむトライブ・ロックスターの手の中で、小ババ様の輪郭が曖昧になっていき、光の粒子に変わっていった。
「うおおおおおお、アーデルちゃん。そ、そんなあ!」
 トライブ・ロックスターが絶叫する。
 小ババ様だった光の粒子は、トライブ・ロックスターの手を離れて、スーッと上空へと昇っていった。
 蒼空学園のあちこちから、生徒たちの声とともに光の粒子がたち昇ってくる。やがてそれは一つに合わさると、光の柱となって天空へと昇っていった。
「アーデルちゃんが、小ババ様が、還っていく……。我ながら、情けないぜ……」(V)
 美しい金色の光の柱を見あげながら、トライブ・ロックスターは涙があふれるにまかせていった。
 
    ★    ★    ★
 
「結局、小ババ様は一人として救うことはできなかったのか」
 クレア・ワイズマンと一本の箒に乗りながら、本郷涼介は世界樹イルミンスールへの帰途についていた。
「でも、それでよかったのかもしれないよ、おにいちゃん。小ババ様は、小ババ様でいられたんだから」
 そう言って、クレア・ワイズマンは、本郷涼介の背中にそっとしがみついた。
 がさっ。
 二人の知らないところで、箒の先の方が微かに動いた。
「こばっ?」
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 思ったより、カオスと言うよりホラーなリアクションになりました。
 ああ、でも小ババ様思ったよりかわいいよ。
 本気でアイテム化したいところですが、アーデルハイトと区別がつかなくなりそうですから、涙を呑んで見送りましょう。
 で、結局一匹だけ生き残った小ババ様が、こっそりと世界樹にやってきていますが、その後の消息は不明です。多分、運んだ本人たちもまったく気づいていません。
 世界樹と同化して消えたか、今もどこかでひっそりと暮らしているのか、あっけなく光になってしまったのか。ただ、あれが最後の一匹とは……。