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第五章 ジオブレイクドリルを探せ!

「なかなか見つからないねぇ……」
 ジオブレイクドリルの保管場所を探していた御凪 真人(みなぎ・まこと)が困惑を漏らす。
「う〜ん、大きいものだろうから、きっと階上のフロアにはないと思ったんだけど……」
 真人の後ろを歩くパートナーの少女、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)もまた、納得がいかない様子で歩いていた。
 ここは、一階の西棟。
 ゴーストコントロールルームとは正反対に位置する場所だった。彼ら三人は、リーダーらしきテロリストを締め上げ、場所を聞き出したのだが、『西棟の壁』という言葉だけを残して気絶してしまった。
故に、こうして自分たちの足で探しているわけなのである。
「トーマ、何か怪しい場所はわかったかい?」
 もう一人のパートナー、トーマ・サイオン(とーま・さいおん)に話を振る。
 首を横に振るトーマ。
「オイラの超感覚的には何かあるって言ってるんだけど……。詳しくはわからないなぁ」
 嘘の可能性も考えて、壁だけでなく床にも注意を払っているが、なかなか見つからない。
 何度も何度も行き来を繰り返しては、疲労ばかりが溜まっていく。と、その時。
「ん、お前ら、何か探してんのか?」
 脇の通路から、天城 一輝(あまぎ・いっき)が声を掛けてきた。彼は砦内を駆け巡り、構造を銃型HCに取り込んで、メンバーに情報を提供するという役目を買って出ていた。
「ジオブレイクドリルの場所がよくわからなくてさ……。一輝、君はわかるかい?」
「あ、なんだ。お前らもジオブレイクドリル探してんのか。案内してやるぜ。ついて来な」
 言うと、真人たちが来た道を戻っていった。


「ここだよ。ここ」
 一輝が連れてきたのは西棟の入口から少し離れた廊下の突き当たりだった。四人の目の前の壁には、鏡が掛かっている。
「明らかに怪しいだろ?」
「そりゃ、そうだけど……。でも、後ろに穴とか扉なんて隠してなかったわよ」
 廊下の、しかもこんなどうでもいい場所に、鏡――
 不釣合いこの上ないのだが、裏を調べたりしても特に何も無かった。
「物で遮って隠すだけが隠し方じゃないぜ――っと」
 一輝は、鑑の縁をなぞっていく。
 一部窪んでいた部分があった。その窪みを指で押す。
 すると、今まで何の変哲も無かった壁が、ゴゴゴ、という音と共に上がっていく。
 奥に見えたのは、先へと続く廊下だった。
「なるほど……こうなってたわけだ……」
 真人は感心してしまう。
 と、上がったはずの壁が、今度は下がり始めた。
「行くんだったら急げ。壁が閉まったら一時間は入れないぞ」
「ちょ、出るときどーすんのよ!?」
 セルファが文句を飛ばす。
「大丈夫だ。内側からならいつでも開閉可能だから」
「ん……ならいいけど……」
 そのまま真人たちは壁の向こうへ足を進めた。
「いろいろありがとう。一輝」
「礼には及ばないぜ。――気をつけてな」
「ああ」
 三人の姿が、一輝の前から、消えた。


 壁の向こう。
 廊下を歩いていると、
「ねぇ、真人。一輝は私たちに会ったとき、『“お前らも”ジオブレイクドリル探してんのか』って言ってたよね?」
 セルファが気になることを言った。
「そういえばそうだね」
「他にも中にいるのかな?」
「だろうね。協力できればいいけど……」
 ここにいるのは三人。もし戦闘になったとき、自分たち以外に誰もいなかったら、辛い戦いになるだろう。できればもっと戦力が欲しいと思う真人だった。
「大丈夫よ! この私がついてるんだから!」
「えっ、ああ。そ、そうだね……」
 えっへん、と胸を叩くセルファに曖昧な返事を返す。それが気に入らなかったのか、セルファは、
「な〜に〜よ〜。その態度。私じゃ不安だってーの?」
 ジト目で追及してくる。
「いや、そんなことはないけど……」
 心を読まれたのかと一瞬ギクリとしたが、ははは、と誤魔化す。
「ふん……まぁいいわ。見てなさい! 必ずかっこいいとこ見せてやるんだから! トーマ。あなたもがんばるのよ!」
「うん。オイラ、にいちゃんとねぇちゃんのために、戦うよ!」
 ぴょこぴょこと耳を揺らすトーマ。
「二人とも、ありがとう。お、誰かいるみたいだよ」
 長い廊下の果て。先に来ていたメンバーは、巨大な鉄扉の前で話し合あっていた。
「オレはジオブレイクドリルをぶち壊すぜ!」
 威勢のいい声で宣言したのは、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)であった。
「私も、シリウスと同じ意見ですわ」
 シリウスに賛同したのは、彼女のパートナー、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)であった。 彼女は十二星華のティセラに似ている。故に無用の誤解を避けるためフードをかぶっていたのだが、事情を話した今、その場で気にする者はいなくなっていた。
「わかった。ならオレはガディアスを貶めるような偽情報を吹いて戦意を削いでやるぜ! そうだな、オレは以前ガディアスの部下として働いていたが、ボロ雑巾のように使われた、この設定でいってみるか」
 傍にいたジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)がふふん、と息巻く。その様子に、シリウスとリーブラは苦笑いを浮かべた。
「確かに……。ジャジラッドなら、ガディアスの部下って感じだよな……」
「言ってしまっては悪いですが、悪役を地で行けますわよね……」
 ジャジラッドは三メートルを超える巨漢であると同時に、手配書に掲載されている写真のようなテンプレート通りの悪人顔なのだ。二人の感想は当然といえば当然だ。
「はいはい。みんな、新しいお仲間が来たわよ」
 三人の意見を聞いていた伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、そこでやっと、真人たちに意識を向けるよう促す。
「おお、ほんとだ。わりぃわりぃ……」
 シリウスが謝る。
「話は聞きました。俺たちもジオブレイクドリルを制圧するために来たんです」
「そうか。んじゃおまえら、中に入ったらどうする?」
 三人を見下ろしたジャジラッドが訪ねた。
 真人は自分の考えを述べた。手短に述べたが、四人は歓心したように頷いてくれた。
「……いいなそれ!」
「決まりね。善は急げよ。速やかに行動しましょう!」
 七人は、扉を開けた。