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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−3/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−3/3
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第3章 古の盟約、あるいは誇りの問題・中編



 空賊達がケンカに釘付けとなってる隙に、マダムを先頭にして一同は階段を上がっていく。
「……無事で良かったわ、マダム」
「心配かけて悪かったね、フリューネ。まあ、多少空気が悪くなったけど、相手にするのはいつもの空賊だ、あたしらに手を上げる真似はそうしないさ。しかし、驚いたのはザクロだよ。あの子がこんな事をしでかすとはねぇ、人を見る目にゃ自信があったんだが……、やれやれ……」
「外に大空賊団以外の空賊の姿があったけど……、彼らは?」
「人より肝の座った連中と、人より臆病な連中さ。肝の座った奴らは大空賊団を監視してる、単独でも大空賊団と渡り合おうって考えてるんだろうね。臆病な連中は自分の立ち位置を決めかねてる奴らさ、空峡で生き延びるために大空賊団に下るべきかどうかってね」
「その他の空賊団は?」
「最近は顔を出さないねぇ。大空賊団の連中とは距離を置いておきたいんだろうさ」
 二階席を通って、三階へ続く階段を目指す。
 白砂 司(しらすな・つかさ)はフリューネの隣りに並び、ふとその横顔に目を奪われた。
 毅然としてはいるが、どこか緊張を孕んでいるように思えた。それもそうだ、彼女はこれから空賊の大号令をかけようと、つまり、これまでずっと敵対してきた空賊達に助けを乞おうとしているのだから。
 司の視線に気付き、フリューネは口を開いた。
「……こんなところまで付き合わせて悪いわね」
「ここで負ければ、決闘どころではないからな」
 そっけない一言だったが、フリューネは小さく微笑んだ。
「……心配してくれてありがとう」
 彼との付き合いも長い、言葉の裏に隠された彼の優しさをなんとなく感じ取っていた。
「べ、別に心配など……」
「またそんな事言って……、嘘つきはドロボウの始まりですよ、司くん」
 眉を寄せる彼には気にも留めず、相棒のサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が会話に加わった。
「空賊の方々を説得するにあたって、私から一つアドバイスを……」
 そう言って、サクラコは言葉を続ける。
「フリューネさんは綺麗ですよね。でも、綺麗なだけじゃ物語ではダメなんですよ。綺麗な人には惚れ惚れしますけど、惚れてお終い。本当に憧れて付いていきたくなるヒーローってのは多分……」
「多分、なに……?」
「綺麗でも格好よくもない、巨乳じゃないかもしれないし、もしかしたら貧乳かもしれない。でも、同じ希望を持って揺るがない人。この人と一緒に、未来に行きたいんだと思わせるような人……」
 そこまで言うと、サクラコはニッコリ笑った。
「……かもしれませんねっ」
「……だそうだが、フリューネ、お前の願いは何だ?」
 ふと、フリューネに、司は問いかける。
「無論、色々な願いはあるだろう。だが、心の底から一番強く望んでいるもの。それ一つを精一杯伝えれば、俺はそれでいいと思う。お前は空賊であって空賊ではない、民からの信頼も厚い、そして、各学校の生徒とも絆で結ばれている。そんなお前なら、全てを一つに出来る……、俺はそう信じている」
 気が付けば、フリューネがじっと見つめている。ふっと視線をそらし、司は先を歩く。
「俺に言えるのはここまで、あとはお前次第だ」


 ◇◇◇


「おい、てめーら、そこで止まれ」
 階段へ急ぐ一同を不意に空賊が呼び止めた。
「悪いけど、あんた達の相手をしてる暇はないよ。とっとと修理屋に雨漏りを直してもらわないと、屋根裏部屋が腐っちまうからね。さあ、わかったらどいておくれ」
「ん? 別にマダムはどうでもいいよ、話があるのは後ろの見かけねえ連中だ」
 値踏みするような目つきの空賊達に、フリューネ達はぎくりと身を強張らせる。
「な……、なにも珍しい事じゃないだろ。遠くからきた連中だってよく店の中をうろついてるじゃないか」
「今まではな」と空賊はニヤニヤと笑う。「今じゃ空峡はザクロ大空賊団の縄張りだ。新顔は俺たちに挨拶するのが礼儀だろうが。俺たちに顔を売っとくのは悪い事じゃねえぜ、ほら、こっちに来いよ」
 ウザすぎる空賊を前に、フリューネ達はげんなりして顔を見合わせた。
「(ちょっと後ろ盾が出来たからって、こいつら調子にのって……!)」とフリューネ。
「(こいつは面倒だな、このタイプは話し始めると長くなるんだ)」と竜牙。
「(連中の無駄話に付き合ってる時間はありませんね……)」と巽。
「(かくなる上は、強行突破か……)」と司。
「……こうなれば仕方ありません」
 すこし引いた立ち位置で一同に参加しているガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が言った。
 そして、一同がその声に反応するより先に、フリューネの三つ編みを素早く解いた。パサリと黒髪がおろされ、いつもの髪型に戻ったフリューネ、さらに眼鏡を奪うようにして取り去った。そこに立っているのは、もはや大正浪漫な女学生ではなく、なんか和服を着たフリューネにほかならなかった。
「ゲェ! フリューネ!」
 驚愕の叫びと共に、周囲の空賊たちはテーブルから立ち上がった。
「フリューネ、先に行け!」
 誰よりも早く行動したのは、司だった。空賊たちが武器を構えるよりも早く、倶利伽羅の槍を一閃、周囲の悪党を薙ぎ払った。それから、フリューネと空賊の間にその身を投げ出し声を上げる。
「フリューネの道を塞ぐというなら、この白砂司を倒してからにしろッ!」
 彼とほぼ同時にティアは巨大な槌を地面に叩き付け威嚇をしていた。
「寄ってくるなら、ヘキサハンマーでどっかんいっちゃうよ〜!」
「……た、建物への被害は出さないようにな、後で修理代とか請求されると困る」
 心配そうな巽にウィンクしてみせ、ティアはフリューネを見た。
「ほら、おししょー、早く行って!」
「……ごめん。ここは任せるわ。でも、無理はしないで!」
 フリューネが階段に目を向けると、ガートルードはパートナーを引き連れ、階段を駆け上ってるところだった。その後をフリューネ達も追いかける。階段を駆け上り、最上階へ続く階段に目を向けて、フリューネは慌てて身を隠した。階段の前には数名の空賊がたむろしている。


 ◇◇◇


「……マズイわね」
 ガートルードは適当に挨拶を交わして、上がって行ったが、フリューネではそうはいくまい。
「大丈夫ですわ、フリューネさん。ここはわたくしに任せてくださいな」
 と言ったのは、佐倉 留美(さくら・るみ)だった。
 その姿にフリューネは目をパチクリさせた。彼女はフリューネと寸分違わぬ衣装を身に着けている。前回、とある女性の手によって量産されたフリューネの衣装だ。
「フリューネさんがあの方達の前にのこのこ出ていっては袋だたきに……、いえ、大空賊団の方達は男性ばかりですから、口では言えないような事になってしまいますわ」
 己の妄想にハァハァといたく興奮しつつ、留美は危険を主張する。
「わたくしはフリューネさんと背格好も似ていますし、髪の色も同じ黒、囮になるには最適ですわ。わたくしが彼らの注意をそらしますから、その隙に上へ行ってくださいな」
「だ……、ダメよ、そんなの。キミだって女の子なんだから危険でしょ?」
 止めるフリューネの肩に、留美の相棒のラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)が手を置いた。
「なぁに、心配はいらんよ。だってフリューネがすぐに鐘を鳴らしてくれるんじゃろう?」
「フリューネさんが鐘を鳴らすまで、逃げ回ってみせますわ、ご心配なく」
「あ……、ちょっと待って!」
 フリューネの制止を振り切って、二人は颯爽と階段に走った。
 空賊達は一瞬ポカンと口を開けるも、すぐに武器を構えて後を追う。顔を伏せていたので、偽物だとは気付かれなかったようだ。周りの空賊も巻き込んで注意を一手に引き受ける。
「留美、ラムール……。ごめん、すぐに助ける」
 目に強い色をたたえ、フリューネは階段を見据える。彼女たちの想いに応えるためにも先に進まなければ、そう自分に言い聞かせていると、ふと、この場に相応しくない言葉が耳に飛び込んできた。
「ふ、フリューネの奴、パンツはいてなくないか!?」
「な、なんだって! おい、みんな呼んで来い、こりゃあ一大事だ!」
 眉間にマリワナ海溝よりも深くしわを作り、フリューネは追いかけっこをする彼らを見た。
 よく見ると、留美の衣装はちょっと改造されていた。腰回りが超マイクロミニスカになっている。なんでも締め付けられるのが嫌だったとか。そして、留美はある界隈では『はいていない』疑惑が巻き起こるほどの有名人である。そんな開放感に包まれたスカートが走るたびにひらひらと揺れるので、空賊達はステータス異常『混乱』を引き起こす事になった。
「え? はいてない? ちゃんとスカートをはいてますわよ」
 ふふふ、と留美はからかうように笑った。
「おい、もしかしたら、横の親衛隊の女もはいてないんじゃ……」
「マジかよ、いつから蜜楽酒家はノーパン喫茶になったんだ! なんだこの世は天国じゃないか!」
 あらぬノンパンティー疑惑をふっかけられた、偽親衛隊ことラムールは動揺を隠せない。
「わ……、わしははいておるわ!」
「つーか、私もはいてるわよ!」
 なんとなくそれに便乗して、フリューネも抗議をする。
 それぞれの葛藤などお構いなしに、留美は雲を歩くがごとく軽やかに走った。
「大好きなフリューネさんのために囮を買って出るなんて……、ああ、わたくしって健気ですわ……!」
「お、おい、あのフリューネ、スキップしながら走ってるぞ」