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 第九章

「よし、寄せるぞ」
 カルキノス・シュトロエンデが運転する大型保冷トラックが動き出した。これは依頼主より借りてきたものだ。元々ペンギンの輸送用に用意していた車両ということだ。ハンドルを捌いて、トラックをデパート入り口にぴったりとつける。
「さすがペンギン用トラックだな。中はキンキンに冷えてやがるぜ」
「ほーらぺんぺんたち、涼しいトラックが来たよ〜。乗って乗って」
 ルカルカはペンギンを誘導しつつ、自ら率先してトラックに乗った。
「おいで〜」
 ひょこひょこクワクワとペンギンたちが列なり入っていく。
 デパート外のメンバーが確保したペンギンも、次々とこれに従った。
 九条風天もペンギンたちの手を引いて、
「そろそろ帰りましょうね。きっとまた、お寿司を握りに行きますから」
 すっかり仲良くなったお客さんたちを名残惜しげに送るのである。
 崩城亜璃珠と理紗、それにちび亜璃珠の姿も見える。おめかしペンギンはその格好のまま、優雅に手を振りながら冷凍車に入っていった。
 メイベル一行の散歩の到達点もここだ。ナナ一行も用心しつつ、ペンギンを連れてやってくる。
「一旦、船まで送り届けてくる」
 トラックが一杯になったので、カルキノスは運転席から首を覗かせた。 
「待ってー!」
 そこにサーフボードに乗った宇都宮祥子が飛来してくる。ところが彼女、勢い余ってトラックの荷台に激突してしまった。
「痛たた……やっぱ立ち乗りはやめたほうがいいみたいね……じゃなくて」
 祥子は立ち上がって告げる。
「正門方向から出るのはやめたほうがいいわ。まだ敵がどんどん攻めてくるの。あと、手が空いている人がいればカウンター攻撃に参加して!」
「なら、西方面から出るといい」
 カチェアを伴い、緋山政敏が姿を見せた。手には携帯電話を握っている。
「あっち側でもトラック一台くらい出られるスペースはある。西側は海から遠いせいか周辺の敵は少なかったんでな、軽く蹴散らしてきた。妨害もなく出られるはずさ」
 とまで言って、「大丈夫だよな、リーン?」と、手近な監視カメラを見上げつつ携帯電話に政敏は問うた。
「ええ、大丈夫。敵はないわ」
 館内放送でリーンが即答してくれたので、政敏はカメラに向かってグッと親指を立てる。
「了解。なら行ってくる。何人か、念のため西門までの護衛を頼むぜ」
 カルキノスは大きなハンドルを回して車を反転させた。
「良かったね。ペンギンたち、本来の場所へ帰れるね。さぁ、あともう少し残ってるみたいだから、皆で協力して早く終わらせてラーメンでも食べに行こうねー」
 これを見送りながら白波理沙は、パートナーのピノの手を握るのである。
「あれ? ピノ、ラーメン好きだったわよね? いつもなら喜ぶのに何故か返事がないわね……」
 よく見ると、なんだかピノとは体型が違うような……? まさか?
 それと前後して、夏侯淵がやたらとキョロキョロしているのも見えた。
「なぁ、ルカはどこだ?」

 ……そのころ本物ピノとルカルカは、トラックの中ですやすやと眠っているのだった。