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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「本当に、解毒剤があるんだろうな」
 疑いのこもった目で、椎堂 紗月(しどう・さつき)ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)を見ました。
「あー、まあ、薬で変化したって言うのであれば、きっと治す薬だってあるであろうよ」
 なんともなげ槍にラスティ・フィリクスが答えます。
「なきゃ困るんだよ。いつまでもこんな格好じゃいられねえぜ」
「いいではないか、サキちゃん」
「誰がサキちゃんだ!!」
 怒り狂った椎堂紗月が凄みました。
「サキちゃん、見える見える」
 椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が、あわてて椎堂紗月をなだめました。なにしろ、ラスティ・フィリクスの見立てで、今の椎堂紗月はミニスカートのたっゆん眼鏡っ娘です。椎堂アヤメの方は清楚なワンピースですから、これはもうラスティ・フィリクスのいじめでしかありません。
 椎堂アヤメとしては、たっゆん眼鏡っ娘の椎堂紗月はそそるものがあるのですが、いかんせん自分もたっゆん男の娘になってしまったのではバランスがとれません。そういう意味では、微妙に椎堂アヤメはノーマルなのでした。もちろん、それは裏を返せば微妙にアブノーマルということなのですが。
「しかたないぜ、なっちまったものは。でもまあ、あんたたちに出会えてよかったぜ。俺なんか下着まで着けられそうになって、一時はどうしようかと……」
 途中で一緒になった篠宮悠が、ほっとしたように言いました。
「ユウ子ちゃんも似合うわよ」
 笑いをかみ殺しながら、ラスティ・フィリクスが言いました。そして、小鳥遊椛に目で合図を送ります。すべて、この二人のけーかく通りなのでした。
「こっちじゃ、食中毒の一種って言われたんだが……」
 ちょっと不安そうに篠宮悠が言います。
志位 大地(しい・だいち)さんとこのシーラ・カンス(しーら・かんす)さんが料理が得意そうだから、ちょっと行って聞いてみるか。それに、食堂に行けば食中毒関係なら何か分かるだろう」
 椎堂紗月の提案で、一同は食堂にむかうことになりました。
 その食堂では、水神 樹(みなかみ・いつき)たちが志位大地たちとランチ中です。
「そのカレー美味しそうだね、少し分けてもらえる?」
 カノン・コート(かのん・こーと)の食べているカレーを見て、薄青 諒(うすあお・まこと)がおねだりしました。
「ああ、いいぜ」
「わーい」
 カノン・コートの皿から自分の皿にカレーを分けてもらって、薄青諒はパタパタと尻尾を振って喜びました。
 これが間違いの元でした。
「おお、いたいた。おーい」
 志位大地を見つけた椎堂紗月は、さっそく声をかけたのですが。
「なんですか、その格好は」
 椎堂紗月たちの姿を見たとたん、志位大地がこらえきれなくなって笑い転げます。
「シーラさん、カメラ、カメラ!」
「もう撮ってますよぉ」
 水神樹に言われるまでもなく、シーラ・カンスがパシャパシャとデジカメで写真を撮っていきます。
「や、やめろ!。篠宮、アヤメ、お前たちはいいのか!」
「もう諦めた」
 あっさりと、椎堂アヤメが答えます。
「それより」
「それよりじゃない」
 篠宮悠の言葉を椎堂紗月が遮りましたが、めげずに篠宮悠が続けます。
「お前たちの胸はなんだ?」
 指さされて、初めて、カノン・コートと薄青諒は自分たちの胸に気がつきました。みごとなたっゆんたっゆんになっています。
「こ、これは……」
 カノン・コートが、あわててテーブルにおいてある紙ナプキンで胸を隠そうとしましたが、そんなもので隠れるたっゆんではありません。
「ああ、大変なことになってしまいましたね」
 あまり動じることもなく、薄青諒が言いました。普段から見た目は女性ですので、本物の胸ができてしまえば、その容姿、仕種、共にパーフェクトです。
「負けたね……」
「勝ち負けじゃないだろう!」
 ぼそりと言う椎堂アヤメに、椎堂紗月が怒鳴りました。
「いや、負けたかも……」
 周囲の男たちのたっゆんを見て、水神樹がぼそっとつぶやきました。
 いや、こんな状況を楽しもうとして、女の子たちで陰謀を巡らせたはずなのですが、何か言いようのない敗北感を感じます。そして、それをもっとも強く感じていたのは、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)でした。
「なんで、諒たちがたっゆんになったのよ!」
 そういえば、メーテルリンク著『青い鳥』だけは詳細を知らされていませんでした。
「カレーなの? カレーなのね、カレーか!」
 やにわに、メーテルリンク著『青い鳥』は固まったままのカノン・コートが食べ残しているカレーを奪い取りました。もちろん、カノン・コートは固まったままです。それをいいことに、水神樹がやりたい放題を始めますが、メーテルリンク著『青い鳥』はガン無視でカレーの残りを飲み込みました。まさに、カレーは飲み物です。でも、物静かでまな板の美少女には似合いません。
「これで、私も念願のたっゆんに……。もう、まな板だの、グレートフォールだのと、誰にも言わさないわ!」
 メーテルリンク著『青い鳥』は勝ち誇りましたが、当然何も起こりません。
「きっと、量が足りないんだわ。そうに決まっている。おばちゃん、カレーちょうだい。全部よ、全部!!」
 どこか鬼気迫る勢いで、メーテルリンク著『青い鳥』が食券の束をおばちゃんに投げつけました。ちょっと怖くて、水神樹たちは本当のことが言えなくなってしまいました。
「こらこら、公共の食堂で騒がないでよね。迷惑だわ」
 近くで食事をしていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、やってきてメーテルリンク著『青い鳥』を注意しました。
「なあに、邪魔する気? 私だって諒ちゃんのようにたっゆんになるんだから!」
 メーテルリンク著『青い鳥』は聞く耳持ちません。
「無理なことはしちゃだめよ。偽物は本物には叶わないんだから」
 しかたないので、宇都宮祥子は、自分のたっゆんをメーテルリンク著『青い鳥』に見せつけました。
「むっきー!!」
 火に油が注がれたようです。
「ふっ、お嬢ちゃん。少し静かにできないのかな」
 葉巻を加えた樽原 明(たるはら・あきら)が、ニヒルに言いました。
「あのー、ここは禁煙だよ」
 背景にハートマークを乱舞させながら薄青諒が樽原明を注意しました。完璧です。パーフェクトです。
「構うな。シガーチョコなのだよ」
 渋く、樽原明が答えました。
「それよりも、あのお嬢ちゃんに教えてやんな。騒ぐ女は、たっゆんになれねえってな。それと……、おい、そこの女共、男を弄んじゃあいけねえな。見ろ、そんなことをするから、あんな胸のかわいそうなお嬢ちゃんが、暴れだ……」
「誰が、胸がかわいそうですって!」
 氷術を放ったメーテルリンク著『青い鳥』が、八重歯をのぞかせて唸りました。
「ふっ……、てめー、やりやがったな。くらえ、たっゆんミサイル!!」
 半身を被った氷を身震いして振り落とすと、キレた樽原明が身体をローリングしながらメーテルリンク著『青い鳥』に襲いかかりました。はっきり言って樽その物にしか見えない機晶姫ボディの顔のついていない方、便宜上背中と申しましょうか、そこにたっゆんな双房がむきだしになっております。
「胸はそこかよ!!」
 全員に突っ込まれる中、樽原明の乳ビンタ、自称たっゆんミサイルが、メーテルリンク著『青い鳥』の顔面に炸裂しました。
「うちの千雨に何をしやがる。サルヴィン川に流されたいか、この樽」
 さすがに、志位大地が椅子を蹴って立ちあがりました。
 たちまち、食堂が戦場と化します。
「祭りの会場はここかな!! わるいごばいねーがー」
 混乱に拍車をかけるように五月葉終夏が乱入してきます。
「見つけたぞ、終夏! おとなしく……うがっ!」
 追いかけてきたニコラ・フラメルが食堂に飛び込んできましたが、運悪く投げ飛ばされてきた樽原明のたっゆんミサイルをもろに受けて気絶してしまいました。