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【2020授業風景】カオスクッキング

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【2020授業風景】カオスクッキング

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第4章 バカばっか


 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、おにぎりに肉じゃがという家庭的なメニューで勝負に挑んでいた。レキにサラダを食べさせようとして逆に食べさせられたミア・マハ(みあ・まは)は、元々料理が得意ではないのでレキのお手伝いだ。
「梅干し苦手な人も居そうだし……よし、おにぎりは猫まんま風にしてみよう」
 レキが、醤油を加えた鰹節と塩もみしてやや粗めのみじん切りにしたキュウリを、ボウルでご飯と混ぜていく。
「ああ、もっと掻き回してぐちゃぐちゃにしておくれ!」
 ミアはなんだか興奮していた。
 ご飯を握って、丸っこいおにぎりのできあがりだ。レキは、次にじゃがいもの皮を剥く。
「よいではないか、よいではないか?!」
 ミアはレキが何かするごとにこんなことを言っているが、全く手伝っているようには見えなかった。
 レキはじゃがいも、玉葱、豚こまを鍋に入れ、やや薄めの麺つゆで味付けをし、鍋に蓋をした。
「面倒だし、適当に煮ちゃおう。多分、15分くらい煮込めば大丈夫。そのあとは火を落として暫く待って、味がしみるのを待とう」
「放置プレイじゃな。しかし、ただ待っているのも暇じゃ!」
 ミアはメガネを外すと、近くにいたカロル・ネイ(かろる・ねい)にセクハラをし始めた。
「ふふふ。そなた、なんとも扇情的な格好をしておるのう」
「あたしは、いつでもどこでもこの格好よ」
 いつも通りビキニアーマーを身にまとっているカロルは、エプロンもしていない。油でも跳ねたら大変だ。
 カロルは、うどんはうどんでも小倉発祥焼うどんを作ろうと考えていた。まずは、適当にチョイスした肉や野菜と一緒に、乾麺を焼く。
「長くてやり難いわね……えいっ」
 カロルは麺を折ってフライパンに投入すると、ソースや醤油、麺つゆなどをこれまた適当に加えた。
「味付け、味付け」
 そして仕上げは削り節だ。カロルは、皿が見えなくなるほどの削り節を、どさっと焼うどんの上からかけた。
「よし、でーきたっ」
 エヴァルトの料理に次ぐ、投げやりうどんシリーズその2ができあがった。
 そして、ここにもうどんを作ろうとする者がまた一人。ルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。うどん、思わぬ大人気である。
「おいしい料理を作るために必要なものは、真心と……筋肉です!!」
 ルイはうどん粉に塩水を投入すると、ビニールシートで包み、空中に放り出した。
「これぞ、うどんのコシを決める大事な要素! 私のマッスルクッキングとくとご覧アレ! はーっはっはっはっは!」
 うどん粉を激しく打つ! 打つ! 打つ! 伸びてきたら折り返してまとめ、再度打撃! きれいにまとまったところで少々寝かせたら、今度は麺棒で伸ばす作業だ。
「ふんっ、ふんっ、上腕三頭筋をフルに使って!」
 ルイ、通販番組で筋トレグッズの宣伝をしているおっさんにしか見えない。是非ラルクや{SFL0017772#闘神の書}と並べて鑑賞したいところである。
 ルイは生地を切り分けて麺を茹で始めると、その間に麺つゆの作成に取りかかる。
適量な水に鰹節、昆布、酒、醤油、そしてエリザベートの作った薬を加えようと思ったのだが、薬はもう残っていなかった。
「仕方ないですね。それでは代わりに、ルイ☆スマァイル! はい、これでばっちりです!」
 ルイは筋肉を強調するポージングをとりながら、暑苦しい笑顔を浮かべた。
「張り切っていますね。負けられません」
 ルイの様子に、美央も刺激を受ける。
「プリンに醤油をかけると、うにの味になるって聞きました。それでうに丼を作ることにしましょう」
 美央は、せっかくなのでプリンも手作りすることに決めた。
「プリンて、どうやって作るのでしょう? 取り敢えず、色んなものを全部ペースト状にすればいいのでしょうか」
 美央は持参したスカイフィッシュの干物、自称小麦粉、アリスの角の他にみかんや卵、じゃがいもなどを適当に選び、ランスバレストでぐちゃぐちゃに潰した。
「これにカラメルソースをかけて、それを炊きたてごはんの上に乗せる。ぱらぱらぱらっと海苔をまぶして醤油をかければ……私の特性うに丼の完成です! きっと美味しいです!」
 美央の料理には、是非とも光学モザイクをかけてほしいところだった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「砂糖は女の子の構成要素の一つだもん。せっかくだからそんなスイーツな料理に挑戦しようっと。……そうだねぇ、スイーツラーメンなんてどうかな!」
 そんな危険なことを口走ったのは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
 沙幸は、味噌ベースのスープに溶かしたミルクチョコレートをたっぷり混ぜると、そこに『神竜軒』と書かれた袋麺を投入した。
「あとはマシュマロとか色とりどりのゼリービーンズとかを乗せてっと……」
 そこまできたところで、パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)が口を挟んだ。
「沙幸さんたら、せっかくのラーメンにお菓子ばかり入れるなんて……果物が全く入っておりませんわよ!」
 美海は桃にさくらんぼ、季節の果物をラーメンに散りばめていく。
「でも、果物だけでは物足りませんわね。そうですわ、お野菜も入れましょう」
 更に、ブロック状に切ったスイカやメロンもトッピングした。
「後は仕上げにホイップクリームを添えれば……完璧なスイーツラーメンの完成ですわ」
「さすがねーさま! こんなにおいしそうなんだから、味見なんて必要ないよね。それに、お菓子ばっかり見てたら、なんだかお腹いっぱいな気分になってきちゃった」
 それは、沙幸の生物としての生存本能だったのかもしれない。

「分かってるねー」
 沙幸たちの作ったスイーツラーメンを見て、【大の甘党党首】佐伯 梓(さえき・あずさ)は感心の声を上げた。
「俺、前からでっけーパフェ食ってみかったんだー。校長もクレープとか柏餅とか食ってるの見たし、甘いもの好きなんじゃないかなー」
「大きなパフェですか。子供の夢ですね。しかし、となるとパフェグラスが必要ですが……これでいいでしょうか」
 カデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)は、大きな鍋を取って梓に渡した。
「教科書もってきたけど、パフェの作り方なんて載ってるわけないよな。よし、適当だー」
 梓は家庭科の教科書を放り出した。
「まずはコーンフレークとアイスと生クリームをべったりくっつけてー」
「はい、バニラアイスとコーンフレーク、それに生クリームです」
「バナナとチョコを突き刺してってー」
「バナナとチョコです」
 メイドのカデシュは、至れり尽くせりのスキルで梓の必要とするものを次々と用意する。
「みかんとかゆであずきとか、果物も色々入れて……」
「僕、メロンももってますよ」
「お、サンキュー。ん? このメロン、なんかメロンパンみたいだな。まあいいや。これをてっぺんに乗せて……でーきた」
 梓は、ぐらぐら揺れる巨大パフェに、クリスマスツリーの星のようにメロン(パン)を飾った。
「満足満足。採点とかどうでもいーやー」
 梓は満足そうに頷いた。
 梓とは正反対に、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は激辛料理に挑戦しようとしていた。
「校長のカレーを食べたら、なんだかスパイスの効いたものを作りたくなってきました。ここは、伝説の麺料理『痛胆火阿麺(つたんかーめん)』を作るしかないですね!」
 説明しよう! 痛胆火阿麺とは!?
 
 古代エジプトに伝わる激辛料理。その名称は、胆が痛くなり火を吹くほどの辛さに由来する。元々は暑さに負けないよう、辛さで体を活性化させる目的で作られていた。
 近年では、古代エジプト王の墓を発掘しに来た者が体調を崩した際、ツタンカーメンの呪いであると騒がれることがあるが、真の原因は本料理を食べたことであるのは言うまでもない。
 
                                                           波羅蜜多書房刊『古代に学ぶ激辛ダイエット』より引用

 ザカコはハバネロや胡椒、唐辛子で作った、赤いのを通り越して黒くなったスープを黄色い器に注ぐ。そこに小麦粉で作られた包帯の様な白い麺をつけ、氷水をお供にいただくのが、痛胆火阿麺の正しい食し方だ。
「辛いものと水を交互に口にしたら、止まらなくなりますからね。ふふふ、自分の理論が完璧すぎて怖いです」
 ザカコもまた、自らの理論にご満悦だった。
「なんか、重度の甘党、辛党の人に挟まれてしまいました。俺はまともな料理を作りましょう」
 カンナ様党の影野 陽太(かげの・ようた)は、これも環菜に相応しい男になるための修行だと考え、今回の調理実習に参加していた。
「今回俺が作るべき料理は……パンですね!」
 陽太はナゾ究明のスキルを使用し、そう答えを導いた。しかし残念、彼は既にお馬鹿になっていた。
「光る種モミをベースに、ナラカの果実と芋粥を練りこみましょう。蜂蜜を塗って、隠し味には蜂の毒針のエキスですね」
 パン生地ができあがると、陽太は星輝銃を取り出した。
「焼き上がるのを待つのも面倒です。これでいいでしょう」
 陽太が星輝銃でパン生地を撃つ。パン生地は灰になった。
「ああ、計算外です! もったいないので味見をしてみましょう。……う、うおおおおお!?」
 陽太が灰を一舐めした途端、彼の尻から黒い蜂の羽が生えた。
「お、俺はネクロマンサーにも蜂にもなる気はないですっ」
 羽は勝手に動き出し、宙に浮いた陽太は、逆さになった状態で梓の巨大パフェタワーにぶつかった。パフェは豪快に崩れ落ち、梓はクリームにまみれて真っ白になった。
「えーと……俺を食べて☆ なんつって」
 みんなの注目を浴びた梓は、そんなことを言ってごまかす。
「はいはい、片付けますよー」
 カデシュは梓ごと床を掃除した。