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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

リアクション


●第一章 大人という名の沈黙

「12歳の子供ほっぽり出して、親はなにしてやがるんだ!」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は親たちに憤りを感じ、電話口で怒鳴った。
 電話の向こう側では、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が何かを言っている。
「わかった…ラルクのせいじゃないもんな。わかったよ、パーティーだろ? 行くさ、当然」
 如月はイライラと机をシャープペンシルで叩きながら言った。
 じゃあなと一言言って、如月は電話を切った。
 画面の電気が消えるまで、如月は携帯電話を眺めていた。
 自室で勉強中にラルクから電話がかかってきたと思ったら、薔薇学の迷子少年――ルシェール・ユキト・リノイエの誕生日会があるという話を聞いた。
 素直に12歳の誕生日を祝おうと思っていたら、パートナーに拒否られて校長に泣きついたらしいと言うではないか。そんな話を聞き、如月はルシェールのパートナーであるソルヴェーグ・ヤルル・ヴュイヤールに対して怒りを覚えた。
 否。
 一番腹が立ったのは、両親に対してだ。
 財閥の総裁という立場で忙しいとはいえ、12歳の息子を放っておいて平気だなんて如月には信じられない。

(こっちに来ざる得ない状況を作ってやろう……)

 如月はそう思った。
 本来ならば、パートナーとの関係には口を挟むべきではないし、家族の関係ともなれば尚更だ。
 だがしかし、ルシェールは元気ではあるが、素直な子供だ。
 親や大人の言うことは聞いてきたに違いない。
 ストレスが堪って、雨の降る学校の裏庭で泣いていたとなると、相当に我慢していたのだろう。
 今までの常識の通用しない、パラミタという知らない世界へやって来た少年には、学校の中と言えど別世界だったはずだ。
 確かに、パラミタには日本らしい風景や、街中の古い路面電車や、夕暮れ時の商店街のコロッケの匂いなど、そういったものがない。
 空京でさえ、綺麗で整えられた人工的な雰囲気が残る。
 霧の魔都タシガンとなれば尚更だろう。
 一時的に危機は避けられたとはいえ、学校の目の前には吸血鬼の大元締めとも言えるタシガン宮殿があり、暗き裏道さえも街中にはあるのだから、少年はどんな思いだったろうか。
 自分に芽生えた能力の使い方も、世間の常識も、パラミタのことも、少年には未知数のものだ。
 如月はドンッと机を拳で叩いた。
 自分にできる全てを考えれば、自分の力のなんと小さいことか。しかし、そんなことを認めれば、一体、これから先も何ができるようになるというのだろう。
 そんなことは認められない。
 出来うることから問題を切り崩せばいいのだ。雪の積もった屋根から雪を退かすには、まず最初の一掻きが重要。一つずつ、落としていけばいい。
 如月は考えた。

 一つ、案がある。
 今考えていることは――非常識な部類にはいる考えだ。
 自分でもわかっている。
 それでも、やらなければ。

 如月はそう思った。
 コミュニティーの力を使えば、情報は多少操れる。
 こういう使い方をしても善いのかとしばし考えたが、如月にはそれしか思いつかなかった。

(ルシェール……お前に、プレゼントをやるからな)

 如月は机の上に置いたキーボードを引き寄せ、【薔薇の学舎の生徒、ルシェール・ユキト・リノイエが闇龍の攻撃を受けて瀕死】との情報を流した。