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どきどきっ、オータムパーティー!

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5、ダーツで大騒ぎ!


 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)の提案により、希望者が集まってダーツを楽しむことになった。壁際に設置されたダーツの機種を考慮し、2チームに分けて雑談を楽しみながら遊ぶ流れになったようだ。紫翠と同じチームになった藍澤 黎(あいざわ・れい)は物思いにふけっているようだが、頭上のあい じゃわ(あい・じゃわ)はそんなのお構いなしである。
「じゃわもやってみるです! にゅ!」
「うむ。ダーツなら以前やったことがあるんだ」
 じゃわと同じく気合を入れて的を睨みつけているのは朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)だ。彼女は悪気はないのだが、つい威圧的な口調になってしまうのが悩みだった。
「よし、景品にはデローン丼を提供しよう。襲われるだろうけど大丈夫、多分!!」
「うちの正悟は馬鹿ばっかりしてますけど、仲良くしてあげてくださいね」
 今回は各自で罰ゲームを考えよう、ということで如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は謎の物体を用意したようだ。鎖で絞められたどんぶりはカタカタと意思を持ったようにうごめいている。エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)はデローン丼を見ると、すでに始まる前から何かを諦めたようだった。
「千歳、そのダーツは何かとても危険な香りがするのですが……」
「ああ、うちの正悟が本当にすみません……」
 不安そうにするイルマ・レスト(いるま・れすと)にエミリアは深く頭を下げていた。申し訳なさそうにする彼女に気をつかい、橘 瑠架(たちばな・るか)が肩を優しく叩いて冷たい飲み物をすすめる。
「やっぱり、皆でやるなら楽しまなきゃ駄目よね〜。私はそういう罰ゲーム嫌いじゃないわ? あなたは?」
 瑠架は気さくに笑うとシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)に振り向き、一緒に遊ばないかと誘った。しかしジェイドはデジカメで撮影する方が性に合っているといい、丁寧に断ったようだ。
「野次馬ってか、観ているよ。ま、罰ゲームは派手な方が視聴者は楽しめるんでな」
 人の不幸は蜜の味。と、口の中で呟きながらイルマをパチリと撮影していた。黎にカメラを向けるが、相変わらず眉間のしわを深くしているのが気になった。
 ……改めて考えると、『趣味』と言えるものが自分にはあっただろうか。銀髪を手ぐしで整えながら、黎はダーツの1つをじっと睨みつけている。
「……黎、どうした。先ほどから気になっていたが、気分でも優れないのか」
 千歳は少し上あたりを狙いながら無心で投げている。現在トップの成績である彼女は、黙々と投げ過ぎていたため会話を忘れていたようだ。……しかし、よく観察するとそれは自分だけではない事に気づく。
「朝倉殿……朝倉殿の趣味を聞いてもいいでしょうか。考えてみると我には趣味と呼べるものがない。趣味と考えていたものが実は目標のための努力や特技だったのではと、考えていたところです」
「は? え、ええと。剣術の稽古……は、努力になるのか?」
 千歳は罰ゲームの用紙に『ネコミミを付けて応援歌を歌う』と書きこみながら、黎になんて答えればいいものか考えていた。イルマに助けを求めるが、彼女も『メイド服を着て給仕すること。語尾に〜でございます、ご主人さま』と付けること。と書きこみながら答えを探していた。
「……趣味。……如月は、多そうですね?」
 助け舟を出そうと紫翠は正悟に話題を振った。正悟は大きく生むと頷くと、ぱしーんと片手でデローン丼を叩く。ちょうど会場を間違えて遅刻したゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)もやってきた。
「あ、はじめましてー♪ 御主人さま、デローン丼買ってきましたよ〜」
「ええっ。あちゃー……。ゼファーが忘れたかと思って買ってきちゃったよ」
「私はそんなアホの子じゃありませんー。ぷんぷん」
「はははは、怒るなよー☆」
 ゼファーは瑠架達ににっこりと笑いながら自己紹介をしたあと、趣味についての会話の流れをふむふむと聞いていた。
「なら、黎さんはダーツを趣味にすればいいですよー」
「そうね。人との出会いがきっかけでそういう趣味ができるのは素敵なことだわ」
 ゼファーの提案に瑠架はにっこりと頷き、その様子をパシャリと写真に撮った。黎はなるほど、と頷いて千歳から効果的な投げ方を教わっている。真剣に、真剣に、真剣に、投げていた。
「……では、そろそろ本番を。……皆さんが書いてくれた罰ゲームを、使わせていただきます」
 紫翠はルーレットに1、2……と番号を振って行き、それを勢いよく回していった。最初のルーレットダーツで罰ゲームをやる人を決め、次のルーレットでどの罰ゲームをやるかを決めるそうだ。
「ここはひとつ、じゃわが見本を見せるですよ!」
「……え、これ本番。あ……」
 今まで静かに黎の頭に乗っかっていたあいじゃわは、紫翠、ジェイドの頭をぽんぽんと飛んでいき1つダーツを手に取った。あいじゃわ曰く、あいじゃわあたっくの使い手であるあいじゃわは狙い撃ちに関しての『えきすぱあと』なのだ。電車とか調べるあのシステムじゃなくて。
「にゅにゅにゅにゅにゅー!!!」

 ひゅんっ。

 ギャグ的な見た目に反し、ダーツはミサイルのように勢いよくルーレットに吸い込まれていった。回転が緩くなったところで罰ゲームを受ける人物の名前が確認できるようになる……。
「……『イルマ・レスト』」
「なぁっ!?」
「えっへん!」
 どんなもんだい! と小さな胸を張るあいじゃわ。黎の頭に飛びうつり、頬を嬉しそうにすり寄せている。対してイルマは降りかかった火の粉に平静ではいられないようだ。
「……千歳、投げていただけますね」
「わ、私か……善処する」
 イルマは千歳に自分が指示した罰ゲーム『メイド服で敬語』を当てるように頼んだ。……本当はメイド服をその辺の店で購入してくればと思っていたが。まあいい、この罰ゲームは私がやる分には問題ありませんわ。
「……あら」
「あわわ、どうしよう……エミリアちゃーん、どうしよぉぉ」
 悲劇!
 イルマの罰ゲームは『デローン丼を食べる』に決定した。イルマ以外の人もごくりと唾を飲み、どう声をかければいいかと考えている。……これは、本来ギャグ要員がこなす役割じゃないか!?
「……逃げてください! 被害者が増える前に、戦略的撤退、後ろに反転して全力前進!」
 エミリアはイルマに食べなくていいと言い、暴れるデローン丼を氷術の力で必死に抑えている……。その時、罰ゲーム対象を決めた第一のルーレットをじーっと見ていた瑠架が『あっ』と声をあげた。
「あの……これ、よく見ると如月さんだわ。最初に刺さった位置からずれてしまったみたい」
「なんですと!?」
 斜めに刺さったダーツが回っている間にずれてしまったらしい……そんな事があるのだろうか。こっそり裏事情を知ってしまったジェイドはニヤニヤするばかりだ。
「ああっ。良かったじゃない正悟!! って、神速で逃げるんじゃなーい!!」
 瑠架はこっそりサイコキネシスでダーツに細工をしたようだ。ターゲットが自分になると、正悟はクラウチングスタートで勢いよく会場を飛び出していった。
「あいじゃわあたーっく」
「ホゲー!!!」
「……如月殿には、さらにペナルティを付けましょうか」
 くすり、とほほ笑む黎。正悟はじゃわに威圧(?)されながら壁際でプルプルと震えていた。
「……バニーガール衣装が、あります」
 紫翠は自分が用意した罰ゲームのウサ耳、しっぽ、レオタード、ハイヒールを持ってススス、と正悟に詰め寄っている。面白がったジェイドが正悟を羽交い絞めにし、15分後には残念な1羽のウサギが誕生した。
「あれは、いいのか……?」
「みんな大騒ぎしていたから成功したと思うぜ」
 千歳の呟きに対してジェイドはお気楽にそう答え、胸のないバニーガールをデジカメで激写していた。ゼファーに『ご主人さま、かわいい〜』と褒められている正悟だが、涙で池ができている……。元気出せ。


 人数の都合上こちらは顔見知りばかりになってしまった。瀬島 壮太(せじま・そうた)は制服のジャケットの下に派手な柄シャツを着て、大きくあけたシャツの隙間からはシルバーのチェーンネックレスが見えた。
「スキルの類は禁止だからなー」
 壮太がのんびりと提案すると、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は心得たとばかりにこくりと頷いている。彼はいつも通りの白いタキシードに手袋……代わりと言っては何だが、彼のパートナーであるバスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)がやや緊張した面持ちで蒼空学園の制服を着込んでいた。
「初めまして……って、言うメンバーじゃないな。白花を紹介してもいいかな」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は壮太とエメに封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)を会せた。白のワンピースに白い花のコサージュを付けた彼女は、同色のストッキングを履いて可憐な印象である。
「白花です、よろしくお願いします」
「初対面の方もいるよ。漆髪月夜です、よろしくね」
 バスティアンに向って漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はにっこりと挨拶をした。彼女は白のブラウスの襟元に赤いリボン、黒のプリーツスカートに黒のストッキングだった。余談だが月夜も白花もガーターベルトで吊っている。
「私たちは刀真たちのダーツを見ているよ。頑張ってね」
 月夜はそう言うと少し離れた位置で、白花と一緒に皆の様子を見学することにした。
「エメ様、罰ゲームとはこれでよろしいのでしょうか……」
 バスティアンは緊張でしっぽをゆらゆらさせながら、羽ペンで書いたらしい罰ゲームメモを取り出した。『猫か犬耳を付け、次の順番まで語尾にわん、にゃんを付ける』と書かれたメモを見て、壮太はニヤリと笑っている。
「バスティ、分ってるじゃねえか。俺はこれだぜ!!!」
「……パラミタセンブリ茶、ですか」
 飲み物を運びにきた弥十郎が珍しそうに壮太のお茶を眺めている。給仕役の彼はノンアルコールを中心に優しい味のカクテルを作っていた。
「こんにちは弥十郎、カクテルを3つ貰えますか?」
「ええ、喜んで。ただ、3人とも未成年なのでノンアルコールのものにしますね」
 弥十郎は慣れた手つきでシェイカーを使い、刀真にサラトガ・クーラー、月夜にシンデレラ、白花にシャーリー・テンプルを作る。刀真は礼を言ってそれらをパートナーの元に運んで行った。
「では、私は『恥ずかしい必殺技名を叫びながら、ダーツを投げる』で……樹月君は『鼻でピーナッツを食べる』ですね」
「佐々木殿もやりませんかにゃ?」
「ワタシは……景品に使えそうな料理なら提供できるけど。そうだね、1回参加しようかな」
 結構頑張って仕事をしてたし、そろそろ休憩を取ろうと思っていたところだ。弥十郎は『準備してくるね』と言い、厨房の冷蔵庫から2つのパンナコッタを出してきた。
「何だそれ。食っていいのか?」
「いやいや、これが景品ですから。成績が上から2番目の方には美味しいパンナコッタ。罰ゲーム用の景品には残念な味のパンナコッタです」
「……くんくん。美味しい方がいいですにゃ」
 バスティアンは弥十郎が開発したブルーウィッシュという名の青いカクテルを飲みながら鼻をひくつかせていた。このカクテルはクラッシュしたアイスでシェイクしているため、喉越しの爽やかさに自信の1品である。
「さ、ではターゲットから狙いますね。皆さん準備はいいですか……それっ!」
 光条兵器が蒼薔薇、つまりある程度投げ慣れている事もあり、エメのダーツは流星の如く空を飛んで行った。タン、と止まった場所には『瀬島 壮太』の名前があった。
「うお……。じゃ、次は俺か」
 壮太は弥十郎にやはりノンアルコールのプッシーフットをもらって飲んでいる最中だった。グラスを近くのテーブルに置くと、片目をつぶって狙いを定めている。
「そらよっと……!」
 壮太自身はダーツの腕前は並と言ったところだ。今回は楽しく遊ぶ、をメインにしているので気楽に投げていた。
「ああ、早速パンナコッタですね。はい、スプーン。……味わって食べてくださいよ」
「……ところで佐々木君。何か珍しい材料でも入っているのですか?」
 ダーツ2位の刀真のパンナコッタはクリームチーズとレモンでさわやかな味付けがされている。しかし、壮太は匂いをかいだ瞬間『うぐっ』と顔をしかめた。
「罰ゲーム用なので、パクチーを入れておきました。さ、匂いはあれですがきっと美味しいですよ。さあ、さあ」
「う、ううう……」
 壮太は鼻をつまんで勢いよくスプーンでかき込み、口をハムスターのように膨らませた後青い顔をして一気に飲み込んだ。弥十郎に水をもらって腰に手を当て、それも一気に飲み干している。
「ん、そうだ。牙竜のタロットがあったな……挨拶してくるよ」
 刀真は皆に挨拶すると、月夜、白花を連れて武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)のタロット占いに向かっていった。
「わわっ、鼻でピーナッツは無理ですよ〜……」
「ははは、待ってくださいよ〜♪」
 次の罰ゲームはエメが鼻でピーナッツを食べる、に決まったようだ。エメは『絶対無理!』と言って会場内をドタドタと逃げ回っており、その後ろには面白がって追いかける弥十郎と壮太の姿があった。
「むしゃむしゃ」
 その隙にバスティアンは美味しい方のパンナコッタを盗み食いしている……のどかな午後だった。