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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

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秋だ! 祭りだ! 曳き山笠だ!

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「うわーい、水ヨーヨーだあ。いっぱい釣るんだもん!」
 ミニの浴衣ですっかり縁日モードのミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、ヨーヨー釣りの屋台を見つけて沿道にしゃがみ込んだ。頭にはヒーローのお面をななめに被り、焼きイカを口に銜えて、指には綿飴の袋の紐を引っかけて、お祭り仕様としてはもう完璧である。
「イカ焼きとか買ってきたぞ……」
 屋台巡りをしてきたユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が、両手にイカ焼きとお好み焼きのパックを持って神和 綺人(かんなぎ・あやと)たちの所へ戻ってきた。
「あっ、イカ焼きください」
 待ち構えていたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が、遠慮なく手をのばす。
「アヤも一つどう……、何を見てるんですか、えいっ!」
 たまさかヨーヨー釣りの方を見ていた神和綺人の頭をぐいとつかむと、クリス・ローゼンは彼の顔を自分の方へと強制的にむけた。
「ぐわ、首が、こ、壊れる……」
 破壊魔の異名をとるクリス・ローゼンにいきなりつかまれて、神和綺人が悲鳴をあげた。
 実際は、次々に紙縒の先の針でヨーヨーを釣り上げているミーナ・リンドバーグを感心して見ていただけなのだが。クリス・ローゼンとしては、ヨーヨー釣りに夢中になってミニ浴衣の裾がはだけるのも構わずにいるミーナ・リンドバーグの姿の方が問題だったらしい。
「えっと、たこ焼きはいかがかな?」
 なんだかよく理由が分からないまま、神和綺人が取り繕うようにクリス・ローゼンに言った。
「ちょうだい」
 そう言って、クリス・ローゼンが大きく口を開ける。
「はいはい。気をつけて食べてよ」
 苦笑とものろけともつかない微笑みを浮かべながら、神和綺人がちょんと楊枝に突き刺して取ったたこ焼きをクリス・ローゼンの口に運んだ。ぱくんと、勢いよくクリス・ローゼンがたこ焼きを頬ばろうとする。
「あちちちちち……!」
 なんともお約束通りに、クリス・ローゼンが火傷しかけて、あわてて口に入れかけたたこ焼きを吐き出した。
「おっとっと、だから言ったのに」
 さっとプラパックでたこ焼きを受けとめた神和綺人が、あらためてたこ焼きに爪楊枝を突き刺すと、フーフーと息を吹きかけて冷まし始めた。
「あの二人は何をやってんだか……」
 イカ焼きを片手に持ったまま、神和綺人に食べさせてもらったたこ焼きをはむはむしているクリス・ローゼンの姿を見て、ユーリ・ウィルトゥスが呆れたように言った。
「何かほしいなら、このリンゴ飴食べますか、食べかけですけれど」
 はいっと、神和 瀬織(かんなぎ・せお)が、自分が持っていたリンゴ飴をユーリ・ウィルトゥスに差し出した。
「遠慮する……」
 きっぱりとユーリ・ウィルトゥスが拒絶した。
「そうですか。美味しいのに」
 そう言うと、神和瀬織は、真っ赤に染まった舌でぺろんとリンゴ飴をなめた。
「それにしても、凄い人出ですね。ちょっと興奮してしまいます。私たちもレースに出た方がよかったんじゃないでしょうか」
 お祭りの熱気にあてられたようにクリス・ローゼンが言った。
「いや、レースなんかに出てたら、ゆっくりと買い食いができないじゃないか。それに、激しい山笠のぶつかり合いで怪我するかもしれないだろ」
「そうだな……。相変わらず、攻撃とか邪魔とか、何でもありのパラミタのレースだ……。巻き込まれて怪我するから、あまりコースには近づかないことだ……」
 ユーリ・ウィルトゥスが神和綺人に同意した。
「その通り。僕は秋祭りを楽しみに来たんだからね。怪我したら楽しめないじゃない」
「そうですね。参加してたら、今ごろはこうしてイカ焼きを食べる暇もなかったかも……」
 たこ焼きはもうこりごりだと、イカ焼きを囓りながらクリス・ローゼンが言った。
「そろそろ始まるのでしょう。でも、遠いと見えないですね。というわけで、ユーリ、だき上げてください」
「なんでオレが……」
「わたくしを含むこの四人の中で一番背が高いのはあなたです」
 そう言うと、神和瀬織が、ユーリ・ウィルトゥスの背中をガシガシと登り始めようとした。
「こ、こら……」
 仕方なしに、ユーリ・ウィルトゥスが神和瀬織を肩車する。
「よく見えます。ああ、そろそろ始まるようです」
 
    ★    ★    ★
 
「みんなー、頑張ってくださーいですぅ。特に、雪だるま、頑張れー!」
「頑張るのだぞ!」
 スタート地点にある簡易ステージの上に立って、ギターをかかえた咲夜 由宇(さくや・ゆう)が、マイクを持った咲夜 瑠璃(さくや・るり)と共に叫んだ。純和風の浴衣を着た咲夜由宇だが、今どきの和風ロック調でギターを持つ姿もなかなか様になっている。咲夜瑠璃の方は、着物ドレス風の浴衣で、ミニの浴衣の裾がスカート状になっている小洒落た物だ。
 本当は、咲夜瑠璃は山笠を曳いて参加する気満々だったのだが、咲夜由宇に止められて泣く泣く断念している。その分、応援で頑張るつもりだった。
「そろそろスタートが近づいてきましたですぅ。最後の曲はみんなへの応援歌、いきますですー」(V)
 咲夜由宇がギターをかき鳴らし、咲夜瑠璃がちょっと民謡風の応援歌で場を盛りあげていった。
「いよいよね。みんな頑張れー。あたしも一緒になって走っちゃうんだもん」
 タッタッタッとサラシに半被姿で軽快に足踏みをしながら、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が叫んだ。危険なので、部外者による山笠との併走は禁止されているが、このお祭りの熱気の中では、そんなこと関係ねえという状態であった。
 さすがにミルディア・ディスティンは褌姿ではなかったものの、今回の百合園女子の祭り装束の露出率は異様に高かった。