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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 26&4 ・・・ 行きつけの場所&拉致の問題  騎沙良 詩穂(きさら・しほ)南 鮪(みなみ・まぐろ)

 古森あまねです。くるとくんとあたしは、秋葉原四十八星華のリーダー、騎沙良詩穂さんとマジェスティックの領主の娘さん、オーレリー姫を街に探しにきたんですけど。
「街で一番大きな教会が、暴徒の襲撃にあって崩壊しているとは、意外だったわね」
「ですね。どうしましょう」
 詩穂さんの推理だと姫は、住民に匿われて教会にいる、だったのですが、教会はいま、壊れたての状態で、瓦礫の山と化しています。
「他の教会に行くしかないですね」
「そうしますか」
 あたしたち三人が歩きだすと、志穂さんの携帯がなりました。着メロは、志穂さん自身の持ち歌、「フルネルソン☆監獄ロック」。
「お疲れさまでーす。志穂は、マジェスティックで探偵してます。あの記者会見、見たんですか。すいません。ウチのサド侯爵がお見苦しいものを。彼、普段は紳士なんですよ。はい。えー! そうなんですか。どうりで教会にいないわけね。わかりました。エッグマンのマジェスティック店で、パラ実生の南鮪さんがオーレリー姫と従者を拉致して、蒼空の絆にたてこもってるんですね。了解です。志穂はそちらへ急行して、アイドル事件レポーターとして、事件の実況をします。パラミタ全土に生中継。うわあ。大きなお仕事、ありがとうございます。あ、そうそう、少年探偵のくるとちゃんと介助者のあまねちゃんがいま、ここにいるんですけど、志穂と一緒でもいいですか。はい。じゃ、手伝ってもらいます。はあ。はい。はい。犯人側として名前がでているニコ・オールドワンドさんや霧雨透乃ちゃんたちについては、AKBのメンバーってことでなにか聞かれても、ノーコメントですね。わかりました」

 というわけで、志穂さんと、大型アミューズメントセンターへむかいました。
 エッグマンは、マジェスティックの住民の人、ヤードの人、報道陣で、外も中もすごい人です。
事件自体は、いつものように、女の子によからぬことをしようと街を徘徊していた鮪さんが、たまたま捕まえたのが姫様だったって話なんでしょうけど、鮪さん、ついに年貢の納め時かもしれませんね。まったく、早く、おとなしく投降しなさいってば。
 簡単にメイクをすませ、テレビ局のスタッフの人たちと短い打ち合わせを終えた詩穂さんが、カメラさんの前に立ちました。
「では、はじめますね。三、二、一。こんばんは。AKB48のリーダー騎沙良詩穂です。志穂はいま、マジェスティ
 パン。パン。
 銃声が二発、響きました。
 鮪さんと姫が中にいる蒼空の絆の筐体をぐるりと囲んでいる人々に、緊張が走ります。
「銃声です。なにがあったんでしょう」
「God save the Queen! モヒカンを許すな」
「God save the Queen!」
「膠着状態を我慢しきれなくなった警官の人が天井にむけ、発砲したようです。室内には、異常な緊感が漂っています。現場に調査にきている少年探偵の弓月くるとさん、この状況をどう思われますか?」
 志穂さんに話を振られて、ウチの探偵小僧は、あたしの足にしがみつきました。
 パラミタTVデビューがこの姿というのは、この子らしい、というか、情けないけどしかたないよね。
「くるとさん。一言、コメントを」
「スペーストラベラーズ。サミュエル・L・ジャクソンの交渉人。サブウェイ・パニック。フォーン・ブース。たてこもり犯は、犯人との対話が大切って映画。特殊な事情を抱え込んでる犯人の真意は、対話の繰り返しでしかつかめない」
 マイクをむけられ、くるとくんは、ゆっくり小声で話しました。それでも、案外しっかりしていたので、あたしとしては、うれしいです。
「なかなかちゃんと言えたわね」
 あたしのジーンズにくっついたまま、頷きます。
「くるとさん。ありがとうございます。志穂は、できることをやってみますね」
 志穂さんが捜査の責任者の方のところへ走ってゆきます。志穂さん。どうするつもりでしょうか?
「あまねちゃん。あ」
 くるとくんにズボンの裾を引っ張られ、そちらをむくと、そこには、ああああ。
「マドモワゼル。ご機嫌はうるわしいかい」
「くるとくん。あなたがいると本当に事件ばかり起こりますね」
 仮面で顔の上半分を隠しているけど、黒の夜会服のその人は、間違いなくラウール総支配人で、彼の横にはシャーロット・モリアーティさんと、なぜかウェデイングドレス姿の一ノ瀬月実さん。さらに、昼間、カフェで舞さんたちとランチしていた少年が貴族服を着て、おめかしして立っています。
「ラウールさん。無事だったんですか。シャルさんは、なにしてるんです。月実さん、ボク、その格好は」
「いろいろあったのよ。ここのゲーセン。爆破したい気分だわ」
 花嫁衣裳の月実さんがやさぐれてる感じでこわいです。
「俺は姫を助けにきたんだ。ここにいるのが、本物だといいけど」
 ???
 今回の事件は錯綜しすぎてて、あたしには、難しいわ。一段落したら、くるとくんがまとめて話してくれるといいんだけど。
「南鮪さん。聞こえていますか?」
 拡声器を手に、志穂さんが筐体内の鮪さんに語りかけはじめました。
「あなたのお話が聞きたいんです。鮪さーん。お声を聞かせてください」
 現場が手詰りなので、ヤードが、志穂さんの提案を呑んだのでしょうか。うまくいくといいな。
「うるせーんだよ。俺様は、お取り込み中だ。邪魔するんじゃねぇ!」
 中から鮪さんの怒鳴り声が。やはり女の子に話しかけられると、黙っていられないんでしょうね。
「すいません。お取り込み中だったんですね。お忙しそうですね」
 おそらく、話を引きだすため、志穂さんが鮪さんに調子を合わせています。
「おう。今夜の子猫ちゃんたちは、生きがよすぎて大変なんだよ。一匹さらったら、もう一匹までついてきやがった。世話が大変なんだよな。へへへへ」
「はあー。猫ちゃんと一緒にそこにいるんだあ」
「ヒヤッハァ〜。逃げ場はねぇんだ。そろそろ、おとなしくしたら、どうだ」
 鮪さん。本当に、もう、ここで射殺されますよ。
 筐体を包囲する輪がだんだんとせばまってゆきます。鮪さんの隙をつき、突入するのでしょうか。すでに、隙だらけな気がしますけど。
「その猫ちゃんは、どこで捕まえたんですか」
「まだまだだぜ。いまからしっかり、二人とも俺の腕の中に捕まえてやる。ヒヒヒ」
「わあー。ワイルドですねえ。志穂も捕まりたいかな」
「こっちがすんだら、入ってこいよ。そうだ。探偵の助手のあまねにもくるように言ってくれ。俺は、まだ、あまねとお楽しみしてねぇからな。ここでたっぷり、かわいがってやるぜ!」
 鮪さん。頭、おかしいです。
 さあ、捜査陣が突入寸前です。どうなるのかしら。
「ラウール殿。貴公の正体、我輩にはわかっております。貴公は怪盗紳士。我輩は変態紳士。同じ紳士として、貴公の力になりたいですな」
 なんだかヘンなことを言ってる人がいるな、と思って横をみると、ラウールさんに話かけているのは、ストーリーキングとして逮捕され、ヤードの留置場にいるはずの志穂さんのパートナー丸城戸 佐渡(まるきど・さど)さん。
 脱走したのね。
 穏やかな物腰、知的な話し方、一見、高貴そうな人にみえますが、その実体は、あのサディズム&マゾヒズムの元祖、性的快楽の探求者マルキ・ド・サド公爵です。
 たぶん、また、ロングコートの下は、全裸で、体に荒縄を巻いてるんでしょうね。
「公爵殿下。貴殿の高尚な趣味で、パートナーのお嬢さんまで困らせるのは、どうかと思うが」
「なになに、ああ見えて志穂は悦んで我輩を連れ歩いておるのです。我輩が自分のパートナーであるのを見せびらかして喜びを感じているのですよ」
 それは、絶対、違います。
「フン。女心は難しいからな」
「まったくです」
 ラウールさんに軽蔑のまなざしをむけられても、佐渡さんは平気そうです。蔑まれて内心、悦んでいるのかも。
「鮪さん。志穂、鮪さんのお話を聞いていたら、子猫ちゃんたちと一緒に鮪さんに遊んでもらいたくなっちゃいました。もう待ちきれません! そこを開けて、志穂を中に入れてくれませんか。志穂。脱いでもスゴいんですよ」
「うれしいこと言うやつだな。罠とみせかけて、それがおまえの本音なんだろ。俺にはお見通しだぜ。さあ、服を脱いで入ってこいよ。おっと、パンツは脱ぐんじゃねぇぞ。それは俺のお楽しみだ」
「は、はい。恥ずかしいから、ドアは鮪さんが開けてくださいね」
「グギャー!」
 怪鳥じみた悲鳴。でも、これは間違いなく鮪さんの声です。
「鮪さん。どうしたんです。鮪さん」
「これ以上、一秒足りとも、この愚か者と閉じ込められているようであれば、私は、この者を殺して、自ら命を絶ちます」
 筐体内から聞こえてきたのは、気品のある、はっきりとした女の子の声でした。オーレリー姫?
「姫様。早まっては、なりません。私を助けるために、姫様までこんなところに、私はどう償ったら」
「私自身を狙うばかりか、お友達たちや従者まで次々と被害にあわせて。そうまでして、宝が欲しいのですか。しかも、この辱め、もう我慢できません。私が亡くなれば、宝は二度とあらわれますまい。マジェスティックのみなさん。アル。許して」
 え。まさか、自殺。
「姫! あきらめちゃダメだ」
 貴族服の少年が、ラウールさんが、筐体へ駆けだします。月実さんは、拳銃を手に筐体をにらみつけてて。
「ヒ、ヒヤアー。子猫ども、俺の魂を踏み潰すなあ〜。かわいがってやってんのに、俺を殺す気かあ」
 鮪さんの悲鳴が合図になって、警官が筐体に突入しました。
「犯人確保! 犯人の身柄確保です!」
 パーン。
「あ、犯人の南鮪が何者かに狙撃された様子です。傷は、肩でしょうか? 鮪はのたうちまわっています。姫は、オーレリー姫は無事です。目つきの鋭い、気の強そうな、いえいえ、かわいらしいお姫様ですね。知り合いでしょうか。少年と抱き合って喜んでいます。従者の方も保護されました。うわっ」
 あかりが消え、場内は真っ暗になりました。
 誰かがあたしの手を引っ張ります。
「あまねさん。くるとくんもこちらへ」
 シャルさん? あたしはくるとくんの襟首を?んで、シャルさんについていきました。