薔薇の学舎

リアクション

●月は見ている


　オペラハウス　最奥の部屋。
　校長専用の控え室にて、会談は続く。


「この方がヒラニプラの……」
　老貴族は言った。
「別に隠していたわけではなかったというわけだな…なるほど」
「おわかりいただけて助かります」
「欲しいのは協力か？　わしの力の【及ぶ限りなら】、考えなくもないぞ。…だが」
「ご不満でも？」
「不満ならある。今少しばかりわしが若ければ、と」
「ほう…貴方からそのような言葉が聞けるとは」
「それは誰もが思うこと。そこの若獅子はどうじゃな…若さはあるゆえ、力が欲しいか？」
「守る力なら」
　若獅子と呼ばれた男――ルースは言った。
「ふむ…無欲だと言いたいのだな。しかし、守る力が一番難しい」
「……」
　その言葉にルースは目を伏せた。
　それはよく分かっている。
「無欲になるなら、真に無私無欲になるがいい。中途半端はやめることじゃな」
　フォルスブロム伯は窓の外を見た。
　相変わらず、タシガンの街は時が止まったように見える。
　夕映え映す窓の端の方に、小さな月が映っていた。
　忘れ去られた小さな月は愛おしい者たちを見下ろしている。



　薔薇の学舎校長　ジェイダス・観世院
　本校代表（イエニチェリ）　ルドルフ・メンデルスゾーン、藍澤　黎、メサイア・ツェンデュ・ユーグ・ニコラ＝マリー・エグゼビオ
　タシガン夜警団（ナイトウォッチ）エーヴェルト・フォルスブロム伯
　タシガン　警察機構担当　シャンバラ教導団【鋼鉄の獅子】小隊隊長　ルース・メルヴィン

　そして、ヒラニプラ南部の貴族　パルボン・パルボノワールブランシュ二十四世。

　部屋の隅にて控える東と西の執事、本郷　翔（ほんごう・かける）、清泉　北都（いずみ・ほくと）。
　両名は沈黙をもって従事した。
　そして、会談後も沈黙を持って従事する。

　落つる陽は薄闇を最後の光で燈す。
　遠く、空はコンロンへと暗雲を運ぶ。

　誰も動かない。
　誰も動けない。今は。
　ただ、時が人を飲み込んでいく。

　次なる戦いの野へ　時は進む……