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一角獣からの依頼

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一角獣からの依頼

リアクション

 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は広がり舞う土煙の中に『神速』を用いて飛び込んだ。狙うはアーミーショットガンを持つパラ実生だ。
「きゃははははっ! ダメだよ、武器は選ばなきゃっ!!」
 ショットガンを持ちながら、接近戦が予想される先陣の中にいる。まったく、分かってないよねー。
「さぁさぁさぁさあさあ! みんなじょきじょきじょきん~くっくくきゃはははっ!」」
 『神速』と『残心』を使い分けて身をこなす。間合いに入ると舌切り鋏で銃を構える手の甲を斬り抉る。
 抉っては離れ、抉っては離れる。ラズンの奇声が響く中、銃を雫して蹲るパラ実生の姿が次第に増えていった。
「うわーうわぁーーー!!」
 叫び声をあげてアリス・ミゼル(ありす・みぜる)はウォーハンマーをブン回していた。本人はただ必死に近付けさせないように振り回しているだけだろうが、極地乱戦ではこれが意外と効果的だったりするわけで。
「来ないでー来ないでよーーー!!」と言いながらも主に敵を背後から叩き飛ばしていた。
「ちょっと何なの?! 何なのよォ!!」
 苛立ちを見せる鼻の尖った男に、ホルス・ウォーレンス(ほるす・うぉーれんす)ロア・メトリーア(ろあ・めとりーあ)が飛びかかった。
「なっ!! またアンタたちなのっ?!」
「あぁ、決着をつけようぜ」
「しつこい男は好きだけど。アンタたちは嫌いだヨっ!!」
 男は長槍で払い斬りに来たが、2人はそれを『受ける』ではなく『避ける』を選択した。リーチのある槍の方が有利、そうみて男が踏み込んで突きを放った瞬間、ロアが槍の杖を斬り落とした。
「すでに太刀筋は見切っている」
「そういう事だ」
 ほぼ同時にホルスが男の顔に拳を叩き込んだ。「ふぎゃッ」という声と共に男の尖った鼻が力無く曲がり寝そべった。
 鼻の尖った男が倒れた。倒れ込むパラ実生たちも多く見られる。一気に傾きそうな戦況をみて、バイモヒカンの男は「『石化薬』を使ってでもコイツ等を黙らせろ!」との指示を出した。
 『待ってました』と志気を盛り返したパラ実生だったが、そう甘くはいかなかった。いくら『石化液』を振りまいても液体を浴びる生徒は皆無であり、それどころかみな上手くそれらを避けると反撃にうって出るのだった。
「何だ?! どうなってやがる!!」
「まだ分からないのかなっ!!」
 ロートラウトが『クレセントアックス』で叩きかかった。バイモヒカンの男は間一髪で『バトルアックス』を滑り込ませて受けた。しかしそれでもロートラウトは力比べでも負けていなかった。
「液体に触れなければ『石化』しないってことが分かれば十分。さっきみたいにはいかないわっ!」
 『加速ブースター』を全快にして男を押し切った。何とか倒れずに踏みとどまった男に、ロートラウトは『クレセントアックス』を投げつけた。
 上体を折って避けた瞬間が終り点、懐に入ったロートラウトの拳が、男の腹部を重く殴り上げた。
「く…そ……が……」
 バイモヒカンの男が沈んだ。その時、源 鉄心(みなもと・てっしん)の一行が到着した。
「待たせたな、みんな。来てもらったぜ」
 鉄心が空を指さした。そこに『ユニコーン』の姿を確認したアルコリアラズンを呼びつけると自らに纏わせて駆けだした。
 『神速』で加速したままに『地獄の天使』で生んだ影の翼を羽ばたかせて一気に戦場を抜けた。
 アルコリアは現状の説明を、鉄心は『ユニコーン』の角の力で石化を解除できることを伝えた。
「なるほど、それならやっぱり『石像』の保管場所に直接行った方がよさそうね。行ってくれる?」
 『ユニコーン』が頷くのを見て、アルコリアミューレル・シンクレア(みゅーれる・しんくれあ)を呼んだ。『カモフラージュ』で身を隠していたミューレルがすぐに姿を現した。
「ミューレル、お願い」
「わかったよー」
 ミューレルは別荘の白柵に『量産型パワーランチャー』の銃口を接地させると、一気に撃った。
「うわーぁー」
 被弾と爆波に衝撃で彼女も吹き飛ばされたが、コロリとした顔ですぐに起きあがると、
「ひゃっはー! やっぱりすごーいこのぱわーらんちゃー。もっともっといくよ~」
 次弾も接地してから放ち、威力をその身で体感しては吹き飛ばされていたが、それでも確実に柵も吹き飛ばしていた。
「攫った乙女は別荘の中だね? っと!!」
 段ボールユニコーンであるハンブンコーンは襲い来るバトルアックスを、その背で受けた。直前に唱えた『風の鎧』が受け止めるに大いに助力したのだが。
「身よ! この力!! この丈夫さこそが、新作段ボール『いるみんのほし』の力なのだっ!!」
「それは段ボールの力や無いやろ! つーか、ボサッとすな!」
 コウ オウロ(こう・おうろ)が匕首で追撃のアックスを受け止めた。「さすがに城門前は敵が多いで……こらキッツイかもな……」
「おらおら退けよっ!!」
 別荘内には入れさせまいと立ちはだかるパラ実生の中に、リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)がバイクで突っ込んだ。コウたちも一気に敵を振り払った。
「惇! エリス!!」
 夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)はソニックブレードで、水橋 エリス(みずばし・えりす)はファイアストームを放って道を開けた。
「今です皆さん!!」
「ここは私たちが」
「助かったぜ!」
「行きましょう」
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が先頭を切って駆けた。2人はともにパートナーを『石化』されていた。
「どうだ?」
「ダメです。やはり『石』になった状態では『召喚』できないようですね」
「ちっ、片っ端から調べるっきゃねぇか」
「リビングよ!!」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は併走しながら言った。「から聞いたわ。『石像』はリビングにある!」
「さすがだねぇ」
「ローザ」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が別荘の扉を見つめて言った。
「扉の向こうに殺気を感じる。待ちかまえているのであろう」
「そう…………なら、頼んだわ」
「任された」
 グロリアーナは扉に一直線に駆けると、『則天去私』の拳で扉をブチ破った。
 幾人かのパラ実生が吹き飛んだ。正面にリビングは見えない。一行は別荘内へと踏み入った。
「うゅ……」
 一行が強硬に突き進む中、吹き飛ばなかった残党の前でエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は宙を舞った。不規則な動きと困った顔で残党の注意を引くと、『サイコキネシス』で一斉に動きを止めた。
「はわ……まだ早いけど……眠ってくださいなの」
 動けない相手に『ヒプノシス』を唱えた。おっとりと、そして慌て困った顔をしながらも、しっかりと残党狩りを成したのだった。
「ここねっ!!」
 リビングの扉を破ったローザマリアに、小さな影が弾け飛びきた。
 貫かれる!!
 そう覚悟したローザマリアを救ったのは長原 淳二(ながはら・じゅんじ)だった。
「またお前~? 芸がないぞ~」
「不意打ちをするような奴が何を言うっ!!」
 チェーンソーと雅刀を打ち合う音が響く。
「天井を」
 エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は七支刀型光条兵器で轟雷閃の構えをとった。「破ります」
 破砕音の後に天井の一部が崩れ落ちた。
 夕空の見える程にしっかりと開いた穴から、『ユニコーン』が入ってきた。
「ユニコーン! こっちだ!!」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が呼びつけた。室内には大量の『乙女の石像』が雑多に置いてあったが、トライブはその中から夕条 媛花(せきじょう・ひめか)の像をいち早くに見つけた。
「できるか?」
「………………無論だ」
 『ユニコーン』は角を媛花の像に近づけたが、そのままのままでじっと目を細めていた。
「……………………」
「頼む! 石にされたコイツ等は何も悪くねぇ、頼む、この通りだ」
 片膝を立てたままだが、トライブは頭を下げた。
「………………わかった」
 ゆっくりと角に明かりが灯る、そこから照射される光りを浴びると、媛花の肌は次第に血の気を取り戻していった。
「媛花ぁ!!」
「トライブさん……? って、ひゃあぁっ」
 拳を振り上げたまま石になったから、服がはだけて腹部が見えてしまっていた。
「おわっ、お、俺は見てねぇぞ。形良く割れた腹筋なんて俺は見てねぇ」
見られた……女の子なのに割れた腹筋してるの……見られたよぅ
 赤らめた顔を逸らす2人を余所に、ローザマリアは『ユニコーン』と共に『石化』の解除を行っていった。
 ローザマリアエシクがパラ実生たちの抵抗を抑えている。『ユニコーン』は『石像』の解除を終えようとしていたその時、桐生 円(きりゅう・まどか)が飛び込んできた。
「待って! パッフェル! パッフェルも治して!!」
 抱えてきたパッフェルの像に『ユニコーン』が光りを当てると、こちらもみるみるうちに生身の姿へと戻っていった。
「パッフェル~パッフェルぅぅぅ~」
 いきなりに抱きつかれて驚いていたが、彼女を驚かせたものが目の前にもう一つあった。
アルディミアク……?」
 パッフェルが見たのはエシク・ジョーザだった。彼女は普段は隠している顔をあえて晒していた。その顔は正に十二星華双子座のアルディミアク・ミトゥナに瓜二つだった。
「残念ながら私は当人ではありません。ですが」エシクはフッと笑んで見せた。「目は覚めましたでしょう? 十二星華蠍座のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)さん」
 瞳に鋭き眼光を宿して、パッフェルは辺りを見回した。復活した『乙女』たちにもおおよその現状が伝えられると、一行は急いで開けた天井の穴から脱出した。
 別荘の外で戦う者にもその様は見えた。『ユニコーン』の背に乗って『パワーランチャー』を構えるパッフェルを見て、意図を理解した者たちは一斉に別荘に向いて構えを見せた。
 今一度パッフェルは事件を思い返した。万病に効くという『ユニコーン』の角をダシに使い、まんまと騙されて『石』にされて連れ去られた『乙女』たち。自分自身も『石』にされた、しかもその理由は『売り払えば金になるから』という身勝手極まり無いものだった。
「……久しぶりに、全開」
 放たれた特大波動砲が別荘を貫く。生徒たちも各々の最大出力で別荘を攻撃した。
 ひとたまりもなく。跡形もなく、とはいかなかったが、大破して崩れた別荘に巻き込まれ、パラ実生たちもほぼ全滅だった。
 意気消沈しきった残党を捕らえてしまえば、とりあえずに。事件は収束を迎えたのだった。