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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 レッサーワイバーンは店と店、ビルとビルの間を飛び、やがて人が来ないような薄暗い空地に降り立った。夜に猫が集まって会議をしそうな、ぽっかりと空いた狭い路地。
「さて、と、ここなら大丈夫かね」
 半獣化を解いたチェリーを降ろし、トライブは続いて地面に降り立つ。
「何故……」
「言ったろ? 同じ鏖殺寺院のよしみだってな。まあ、やり方は気に入らねぇが」
「鏖殺寺院……白い仮面……」
 仮面をしばし見詰め、チェリーは心当たりを思い出したのか、言う。
「林 紅月の隣にいるというやつか……」
 トライブはそれには答えず、彼女の持つバズーカをひょいと取り上げた。
「あっ……」
 声を上げるが、それを取り返す気力はもう無い。トライブはバズーカを観察するように見て、言う。
「あんた、面白いモン持ってるな。これ、俺がもらってもいいか?」
「……なんだと?」
 チェリーの表情が変わる。これは今、手元に残った唯一の武器だ。寺院として活動するための拠り所でもある。それを渡すというのは――
「シャンバラが東西に分裂した今、空京だけ落としてもイコンや残りの勢力に潰されるのがオチさ。案外お前ら、利用されてるだけだったりしてな」
「…………」
 悔しそうに、チェリーは下を向いた。そんなことは分かっている。アクアにも、寺院にも、自分達は利用されている。歯牙にもかけられていないのかもしれない。
「……なあ、ちょっと訊きたいんが、これで機晶姫のエネルギーを補填できたりしないか?」
「機晶姫……?」
 何故、突然機晶姫が出てくるのか。眉を顰めるが、チェリーは言われたことについて考える。
「確かに、その機械はエネルギーを自動で蓄積できる。山田 太郎は、それをポータラカで造った……機晶姫も同様に、ポータラカで造られている。だが、それには機晶石は使われていないし、エネルギーの用途も全く違うものだ。機晶姫に流用出来るかは分からない」
「ふぅん、でも、可能性はあるってことだな? 自動で蓄積、ね……」
 一応持っていくか、とトライブは仮面の中で呟いた。
「まあいいか。せっかく助けてやったんだ。あんた、ちゃんと生き延びろよ」
「…………」
 言われなくても、と思うチェリーの前に彼はしゃがみ、くくっていたゴムをするりと取った。赤茶色の髪が、ぱさりと広がる。
「お、かわいいかわいい」
「……! な、何を……!」
「コートも脱いだ方がいいだろ、目立つからな」
 そう言って黒いコートを脱がせ、一部を破く。それで、怪我をしている彼女の両足に巻いてやった。
「こ、こんなもの、舐めていれば……」
「犬に戻って、か? まあそれもかわいいかもな」
「な……口説いているつもりか……!?」
 若干顔を赤くしてチェリーは言う。こいつ、紅月に惚れてるんじゃなかったのか……!
「俺は、思ったことを言っただけだぜ?」
 立ち上がると、トライブは彼女に背を向けた。
「じゃあな」
「…………」
 チェリーは暫くして、立ち上がった。空京を出ようと、表通りへ――
「く……!」
 全身を襲う衝撃に、彼女は再び膝を付いた。
「何……だ……これは……」
 身体が思うように動かない。誰かに攻撃されたのか。いや、そんな気配は――
 痛みに苛まれながら、チェリーは気を失った。

「あの竜みたいなの、どこに行ったんだろう……チェリーさんを捕まえないと、また被害が……」
 ファーシー達はデパートを出て、裏路地へと繋がる道に入っていた。チェリーを探していた。あれは目立つ。通行人に聞けばすぐに見つかると思ったのだが、裏路地の方に行ったという以外に情報は無く、こうして道もよく分からないまま進んでいるのだ。表通りから近く、夜営業の店が両側に立ち並んでいて道幅は割と広い。
「あ……」
 正面から男が歩いてくる。先程、突如現れてチェリーを連れて逃げた仮面の男。鮮血隊副隊長と言っていた。
(鮮血隊って、何……? チェリーさんを助けたっていうことは……鏖殺寺院?)
 男はバズーカを持っていた。チェリーから預かったのか。否が応にも、ファーシーの中で緊張が高まる。いや、それだけではない、一瞬、彼女の目には……
「……そのバズーカを渡して。じゃないと、この車椅子で攻撃するわよ」
「攻撃?」
 表情が見えないものの、きょとんとしたような声を出す男。そんなものあるわけない、と言っているかのようだ。
「な、何よ……本当よ! 本当にすんごいのがあるんだから! それに、みんなが容赦しないわ!」
「……ほらよ」
 彼は、バズーカを弓なりに放り上げた。ちゃんと、ファーシーの手元に落ちるように。
「……え?」
 あっさりと渡されて、ファーシーはびっくりした。バズーカと男を見比べる。
「何? わ、罠?」
「それ、あんたの脚を治すのに使えるかもしれないぜ。ちょいと調べてみたらどうだ?」
「え……これが?」
「ファーシー」
 男は近付いてきて、彼女の正面で立ち止まると、言った。
「もっと自分の可能性を信じろ。俺が言えるのはこれだけだ」
 そして、用は済んだとばかりに、ファーシーと友人達の間を通って表通りに出て行った。慌てて追いかけたが、その姿はもう、何処にも無かった。