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リアクション
第14章
総合管理室。
「……面白くないですぅ」
統括席からモニターを眺めながら、ボソリとエリザベートは呟いた。
「やられっぱなしですぅ。シャトルがいいように暴れ回っていて何だか癪ですぅ」
「だからと言ってまた『超帝』として登場するのは、もう止した方がいいですよ?」
ゼレンはやんわりと注意した。
「あれはラビットホールのシステムにかなりの負荷をかけますし、今度やったら総合管理室でリアルな戦闘が発生します」
「……そんな事はしないですぅ。ちょっと参加者と話をするだけですぅ」
言いながら、エリザベートは統括席の操作盤にある水晶に手を伸ばした。
「OvAz」2号機。
「前回とは全然雰囲気が違いますね」
赤羽美央が呟くと、「戦略が成功しているのでございましょう」と『サイレントスノー』は呟いた。
「戦いは、前線だけで行われるわけではありません。後方からの支援がなければ、あっという間に孤立してしまいます」
「通信回線とか情報戦は、私の領域ではありません。こちらはやれる事をやるだけです」
「戦いは数なのデース。一芸に秀でた者達が集まって力を合わせれば、多方面に隙はナシデース。気分は水滸伝なのデース。フハハハ」
ジョセフ・テイラーの台詞に、『サイレントスノー』は内心で(不吉な事を)とツッコんだ。
(水滸伝だと最後に全滅するではありませんか)
「今回はエリザベートちゃん出ないんですかねぇ?」
神代明日香が、後ろの方の動力席で溜息をついた。
「超帝ちゃん見たかったなあ……」
「……誰か私を呼んだかですぅ」
操縦室内に声が響いた。
室内の一画にぼんやりとした光が現れ、それが凝って形を作る。
「わぁ、エリザベートちゃん。会いたかったですよぅ」
(……ちょっと待て!)
操縦席にいる清風青白磁は内心で叫んだ。
(あんた今度は何しに来た!?)
本当は口に出したい所だが、イルミンスール生も多い。校長に対して「あんた」呼ばわりは彼らの気分を害するかも知れない。無用な諍いの種は作りたくなかった。
「明日香、見事な活躍ですぅ。感心するですぅ。校長として鼻が高いですぅ」
「ありがとう、エリザベートちゃん。喜んで貰えて、私とっても嬉しいですよぉ」
「私はもっと、明日香の力が見たいですぅ」
「うん、明日香の大活躍、ちゃんと見ててねぇ?」
「明日香の乗っている『OvAz』と、今宇宙を飛んでいるもう一機の『OvAz』って、強いのはどっちですぅ?」
その質問に、操縦室内の空気が凍り付いた。
「えーと、それは……」
「どっちが強いのか、私は見てみたいですぅ」
「……」
「明日香はお願いをきっと聞いてくれると、私は信じてるですぅ」
「エリザベートちゃん、見たいんですかぁ?」
「見たいですぅ。明日香の大活躍を見たくてたまらないですぅ」
管制室で、どがん、と操作盤がぶん殴られる音がした。
「間の抜けた口調で何恐ろしい事話しあってるのよ、あんた達はッ!?」
操作盤の隅をまたぶん殴りながら、管制室でルカルカは怒鳴った。
「落ち着け、ルカルカ。マイクを声が拾ってしまう」
「いいじゃないの、ダリル!? ここまで来て寝返りイベントなんて勘弁して欲しいわ!」
「だからこそ、下手に刺激するのはまずい。今は現場のヤツらに任せるしかない」
「その判断はどうかな、ダリル?」
エースが緊張した面持ちで言った。
「このミッションはもともと『仮想』だ。しかも、『宇宙飛行』の経験なんて、今後のパラミタで応用の効くようなものじゃない。俺も含めて、今回ここに集まった奴らはそれを知った上でこのミッションに参加してる」
「何が言いたいの、エース?」
「みんなお祭り騒ぎが好きって事だ……超絶機体『OvAz』同士の対決なんて、面白そうなイベントだろうな」
「しかも、同型機の2号機というのは、敵方に盗まれたり裏切ったり、というのが一部のフィクションでは様式美となっているとか。
――立ち位置としては、相当美味しい役割ですよね」
エオリアが唾を飲み込んだ。
管制室の隅でひっそりと、翠門静玖と風羽斐がアイコンタクトを交わす。
(オッサン。今の台詞、意味分かるか?)
(そういうフィクションも様式美も俺は知らん)
「……あ、野武! あなた『説得』するの上手じゃなかった!?」
「神代明日香嬢は、エリザベート校長と大変仲がよろしいと聞いている……面識もない相手からの説得と仲良しからの誘惑となら、どちらの話を聞くのかは考えるまでもない」
「消え去りなさい、悪霊! 宇宙に潜む、偽りの神!」
2号機の操縦室内に声が響いた。
シートベルトを外し、床に立っている者がいる。
オルフェリアだった。彼女は糾弾するように、エリザベートの幻影を指さしていた。
「あなたはイルミンスール魔法学校のエリザベート校長ではありません! 校長ならば、教え子に仲間を裏切らせるような頼みをするはずがありません!
イルミンスール生のみなさん、そうでしょう? 人を導く、校長という立場の人が、こんな事を言ってくるはずがないじゃないですか?」
が、オルフェリアの問いかけに、イルミンスール生の面々は、
(あの校長なら絶対やる)
と、微妙な表情を見せた。
室内の緊張に、言いようのない気まずさが混じった。
「ふ、ふふっ、ふははははは、ですぅ」
不意に、エリザベートの幻影が高笑いした。
「さ、さすがは〈契約者〉ですぅ、この私の悪魔の誘いをはね除けるとは見事ですぅ。
これは可愛い生徒の心の強さを試した、ちょっとしたイタズラですぅ。引き続きこのミッションの健闘を祈るですぅ」
と言って姿を消した。
2号機での危うい会話は地上管制のみならず、1号機の操縦室内にも聞こえていた。
「……危ない所だったわねぇ」
「まったくだ。同士討ちなんてシャレにもならねぇぜ」
「搭乗員の戦力は、2号機の方が上ですからね。戦ったら勝ち目はなかったかもです」
「それはどうでしょう? 2号機は防御系スキルのみならず幻惑系スキルも実装しておりますが、こちらには『遠当て』使いのアスカがいます。射程無限大の武器を持っている上に『先の先』で先手を取れれば、十分優位を確保できます」
「ルーツぅ? お世辞を言っても何も出ないわよぉ?」
「……なぁ、操縦席のみなさん」
天城一輝は動力席から声をかけた。
「ひょっとしてあんた達、2号機と戦いたかったのか?」
「バ、バッカ野郎! ンなわけねぇじゃねぇか!」
「そ、そうですよ! 私達には、同士討ちをしている余裕なんてないんですから!、ねぇ、永太さん!」
「も、もちろんですよ、ルーツさん! 例えば! そう、あくまで例えばの話ですよ、ねぇ!」
「でも、まあ、エリザベート校長の意思を受けた『OvAz』に勝てば、校長の宇宙を克服した、と言えるかも知れないわねぇ」
「……まぁ、そんな事にならないで良かったですね」
「……そうだな。『OvAz』同士の戦いなんて、SPばっかり派手に消費するだけで意味ねぇしな」
「……大気圏際に相手引き込んで、摩擦熱でプレッシャー与えるなんてやっても仕方ないですしね」
「……スキルで固められたガッチガチに防御に、私の『遠当て』が通用するかなんてどうでもいいし、ねぇ」
「「「「ああ、2号機が裏切らないで良かったなあ」」」」
(紫音)
綾小路楓花は「精神感応」で御剣紫音に呼びかけた。
(お訊ねしてもよろしゅうおますか?)
(何だ?)
(操縦席のみなさんの言葉、えらい棒読みに聞こえるんは、私だけどすかねぇ?)
(心配するな、俺もなんだ)
この時、仮想宇宙の中で、少なからぬ者達がオルフェリアに対して同じ事を思った。
(空気読め)
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