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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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   魂の器・第1章 上 山田太郎の遺したモノ

       〜長いエピローグの始まり〜

 夜、山田太郎が死亡した後。報道前。
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は、デパート近くのファーストフード店で大学ノートに聞き込み内容を書き記していた。状況を暫定的に整理する為である。それが一通り終わると、普段とは違うショートカットの美女であるエミリアは、顔を上げて向かいの如月 正悟(きさらぎ・しょうご)に言った。
「少年。今回の一件や事件を纏めるにあたって……まだやるべき事があるぞ」
「? でも、撃たれた後の症状や状況については充分に調べただろ。犯人は捕まり、バズーカを再度撃つことで元に戻ることも判ってる。店員や目撃者にも聞き込みはしたし……」
「確かに、様々な状況から調べたが調べていないものがある。私に撃ち込んだバズーカを使ったと推測出来る存在からの見解だ」
「……平たく言うと犯人ってことか。山田……? いや、そうか……」
 正悟はそこで気が付いた。エミリアは笑みを浮かべる。
「チェリーという女性がいるはずだ。状況からみて発端だろう。獣人がバズーカを持っていたという証言も数多く取れている」
「そうだな。いろいろ聞いて仕入れた情報から考えて、そのチェリーって人が関係してるのは推測出来るが」
「山田は死んだ。犯人側……彼女から詳しく今回の一件を聞いてみるべきだろう」
「……なるほど、分かった」
「では、デパートに戻って監視カメラの内容を確認するか。彼女の動きを正しく把握しておきたいからな」

 その30分程後、空京のデパートの警備室。剣の花嫁事件の一部始終を目にすることとなった警備員は、正悟とエミリアに一連の映像を見せていた。警察の方からも資料の提出を求められているのだが、正悟が根回しによって、提出前の視聴をこぎつけたようだ。何でも、彼等は事件の詳細なレポートを作って後に残しておくつもりらしい。犯人が死亡し、事件が終わったと考えている警察は報道への対応を重点的に考えているようで、ろくに調べていない警察よりも余程まともなレポートが出来そうだった。
 ――というよりも、あの担当警部が特別ダメなのか? ボケボケ成分が出まくっているような気はしたが。
 自身も改めて映像を流し見ながら、警備員は思う。
(この2人のうちの1人、さっきのカメラ映像に映ってたよな……。女の子の方が撃たれていたような。だとすると、彼女は……?)
 映像が最後の場面に近付いていくのに気付き、警備員は目を逸らした。やがて、エミリアは彼に言う。
「ふむ、参考になった。邪魔したな」
「……いや、構わないよ」
 その妖艶な笑顔にどきりとしながら警備員は答える。2人が警備室を出て行った後、彼はやれやれと機材に向き直った。
「さて……じゃあ、これをコピーしようかな」

「少年、次は病院だ」
 廊下に出たエミリアは、先を歩きながら正悟に言う。
「病院!? 確証があるのか?」
「確証、ではないが、あれだけの怪我をしていて未だ捕まっていない、ということは、そうだろう。パートナーロストの事もある。病院に収容されている可能性は高いな」
「……まあ、いい。俺も気になる事があるし、行こう」

「よし……出来た」
 やがて、警備員は機材から吐き出されたCD−ROMをケースに入れて息を吐いた。
「あの場面は……当分忘れられそうにないなあ……」
 仰向けになった人間に振り下ろされる、3本の刃。カメラ越しとはいえ、その後の光景も全て見てしまったのだ。悔いが残るのは、一緒に居た小柄な少女までがその瞬間に立ち会ってしまったこと。全ての意識をディスプレイに注がず、彼女の目を塞いでいれば……
 もう一度息を吐いて、警備員は立ち上がり廊下に出た。このROMを警部に届けなければならない。
 前方から、1人の男が歩いてきた。ラフなセーターとジーパン姿の、自分と背格好の似ている男。大きなサングラスを掛けていて、顔立ちは判らない。ロープと、黒いケースを持っている。デパートの職員か……否。
「……!」
 胴のど真ん中を思い切り殴られ、警備員は吐き気と痛みに悶絶した。廊下に転がり、呻く。
「う、うう……」
 計り知れない力。ただの人間じゃなく、契約者だ。男は床を滑ったROMを拾うと、警備員を元いた部屋に引き摺り戻した。蹴りを一発加えてから身包みを剥ぎ、警備員の制服に腕を通す。代わりに、セーターとジーパンを警備員に着せてロープできつく身体を縛った。黒いケースからモバイルパソコンを出し、ROMを突っ込む。何やら操作をしながら、男は言った。
「これ以上足がつくのは勘弁願いたい所だな。この獣は放っておいてものたれ死ぬだろうが……逮捕は避けたい所だ」
 そして、警備員に変装した男はパソコンを仕舞い、ROMを手に警備室を出て行く。混濁する意識の中、警備員は思う。
(あいつ……カメラの映像を……?)