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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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           4~2

「射線、合いましたぁー!」
 睡蓮が火天魔弓ガーンデーヴァを構え、向かってくる集団に矢を放つ。炎に包まれた矢は、サイコキネシスで加速と軌道修正を加えられて敵を貫く。
「次、行きますよーっ!」
 彼女が弓を撃つ度に、巫女服に見える葦原明倫館制服が炎に照らされて翻る。次々と、敵は倒れていった。
 ズドン! ズドン! ズドン! ずど……
「……狙撃巫女、ですか」
 プラチナムが見たままの感想を漏らす。
「ちゃんと狙ってるから、たぶん味方には当たらないですよぉーっ! ゴーレムはまかせてくださいーーっ」
「そこはかとない不安があるんだけど……」
 唯斗がそう言いつつ、神速で敵の群れに向かっていく。
「ひゃっはぁーーっ! ここは今日から俺達のシマだぜぇーーっ!」
「今日からかよ!」
 ハイテンションになったパラ実生らしきモヒカンに軽身功で素早く近付き、己の拳で一撃を決める。
「こ、このぉ!? くそ、見えねえ!?」
 パラ実生もどき(?)の野盗は、反撃をかまそうとするが唯斗の動きを捉えきれずになかなか手が出せない。普段のんびり動いてるだけに、そのギャップで余計速く見えたりする……のかどうかはともかく、彼は1人ずつ生身の人間を気絶させていく。
 プラチナムも得意のバイクテクニックで彼らを翻弄した。
「運転ならお任せ下さい」
 そう言って集団に突っ込んでいくと、ドラテクを駆使して連携をめちゃくちゃにしていく。表情は極めていつも通りだが――
「や、ヤバいぞこいつ!」
 速度計を見ると、100とか超えている。しかし、そこまでスピードを出す必要も無い気がしないでもない。
「なんで、またゴーレムなんだ? 原点回帰か……?」
 司は、かつて巨大機晶姫(ゴーレム版)を止めようと腕部分を地道に砕いていた時のことを思い出す。あの時は、中にも丁度この位のゴーレムが出たと聞いているが。
 ……いや、違いますよ? 遠慮なくやれるモンスターなんてゴーレム位しかいないじゃん、とかいう理由じゃないですよ?
 ……まあ、それはともかく。
 幻槍モノケロスを使い、司はゴーレムを倒していった。
「うわっ……!」
 武器を持ったモヒカンの攻撃を、樹はパワーブレスをかけたフェイスフルメイスで迎撃する。跳ね返した所で、フォルクスがサンダーブラストを使ってモヒカンと、ついでにその周囲のデラックスモヒカン達とゴーレムを攻撃する。そこで、改めて樹は光術を使って牽制した。後ずさる彼らに、フォルクスがブリザードでとどめを指す。
 とどめとはいっても命までは取らないが。
「フォルクス、そっち!」
 視覚と殺気看破を併用して相手の補足に努めていた樹の声に反応して、フォルクスが火術を連続で放った。樹は仲間の防御、フォルクスが攻撃という役割である。
「マスター!」
 敵の攻撃が掠った所を、セーフェルがヒールで援護する。そして、バニッシュを使ってモヒカン達を遠ざける。
「あ、ありがとう……」
「……マスター、無理しないでくださいね?」
「うん、動ける相手も減ってきたし、後少しだから大丈夫だよ。強力な仲間もいるしね」
 そう言う樹の視線の先には、アイアンメイデンを背負って六連ミサイルポッドをぶっぱなしているメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)の姿があった。脚にダッシュローラーを装備しているので動きも素早い。彼女は、続けてロケットパンチをゴーレムに繰り出す。ゴーレムは、どことなく『あの時』の事を思い出させた。しかし、これは違う。魂の無い、年度細工のように人の形を取っただけの、土くれだ。
『あの時』――ファーシーの故郷、機晶姫製造所の地下にて、メティスは製造途中で放置されていた漆黒の機晶姫を破壊した。5階建てのビルに相当するそれを、レン・オズワルド(れん・おずわるど)と共に。
 壊すべきなのだと、その時は信じていた。永い永い時をただ独りで過ごしてきた彼女を、戦闘用として造られていた彼女を解放することが、壊すことが唯一の救いなのだと。兵器として甦っても、幸せにはなれない――
 しかし、今、メティスは機晶姫を破壊した事を後悔していた。事件の後に出会ったリンス・レイス(りんす・れいす)との交流の中で、彼女は変わることが出来たのだ。
 人は成長する……それは機晶姫も同じこと。
 ――幸せになっても良いんだよ。
 リンスはそう教えてくれた。その言葉が、今のメティスの支え。
 今なら判る。あの時の行動がいかに自分本位であったかを。
『この依頼……受けるのか?』
 出掛ける前、レンに確認された時に彼女は言った。
『あの時の事は……忘れられません。もしかしたら、私はファーシーさんに顔向けできるような立場じゃないのかもしれません。戸惑っていた彼女の顔も、忘れられません。私は彼女に言いました。“死によって安らぎが得られる時もある”と。……ですが、今は理解しています。あの時に破壊以外の方法を見出すことが出来れば、巨大機晶姫にも幸せになれた道があったかもしれないという事実があったことを』――
 そして、今、自分はここに居る。
 機晶姫絡みの事件が冒険屋に来た時は、率先して引き受ける。
 過去の自分を否定するように。
 ――その誰かを、幸せにする為に。
(メティス……変わったな……)
 レンは、メティスの動きを遠くで確認する。彼女は、モヒカン達を傷つけようとはしない。攻撃する時は逃がす為に。この戦場から撤退させる為に、牽制するだけだ。この仕事を引き受けたのはメティスの意志。冒険屋ギルドへの依頼にファーシーの名前を発見した彼女は、すぐにそれを受けることを決めた。
 漆黒の巨大機晶姫の一件以来、自分達はファーシーに会っていない。お互いに気まずいものもあるだろうに、メティスは迷わなかった。
 それは、彼女なりのケジメの付け方。
 真摯にこの依頼に向き合い、そしてファーシーと向き合うことを彼女は選んだ。
 それならば――俺が逃げるわけにはいかない。
「う、うわあああっ、痛えっ!」
 レンは、負傷したモヒカンの腕を取り、押さえた。リジェネレーションをかけてやりつつ、訊く。
「おまえ達はただの……といっては何だが、そこらのちんぴらに見える。なぜ、ゴーレムなどと、ゴーレムを操る男と一緒に行動している? 『今日から俺達のシマ』と誰かが言っていたな。元々はここで活動しているわけではないのだろう」
 モーナを無事に機晶技師のライナスの元に送り届ける。まずはそこから始め、積み上げていこう。そう思う。その為には、この妙な集団の目的を知らなければ。
「お、俺達は……あいつにそそのかされたんだ!!」
「あいつ、とは……今、一騎打ちをしている契約者のことか?」
「そ、そうだ。突然やってきて……誰の縄張りでもなくそれでいて通行料の取りやすい場所があるって言うから、ここまで来たんだ……。通るのは、ただの商人ばかりだからだって……」
「商人……確かに、普段ここを通るのは商人の一団なのかもしれないな。だが……」
 ライナスの研究所と街を行き来するのだから、『ただの』ではないだろう。
「あいつ、すげー強いし、モンスターも操れるみてえだし……、鬼に金棒だって思って……!」
 勢力が多いと見せかけるための捨石として、彼らは誘われたのだろうか。
 怪我の癒えたモヒカンが逃げていく。彼は逃げる時にモーナ達の傍を通ったが、既にどうでもいいようで一顧だにしなかった。モーナは戦闘の余波が来ない離れた場所で、月夜と彼女の持つ機晶犬、そして隼人の犬、ハヤテに護られていた。
 月夜はラスターハンドガンを構え、時折こちらに来るゴーレムを攻撃していた。
「狙い……撃つ!」
 弾を発射した先で、ゴーレムの頭が砕け散って土を撒き散らす。
「弱いモヒカン……契約者じゃなくって、あたしと同じ一般のシャンバラ人かな?」
 飛空艇の中から、すれ違うモヒカンを見てモーナはそんな感想を抱いた。既に、戦場にはモヒカンもデラックスモヒカンも光るモヒカンも散り散りになって殆どいなかった。残るは、あの契約者の男のみである。
 そこで――
「あっ、モーナ!」
 飛空艇から降り、モーナは剣を交し合う刀真と男の方へと走っていった。見た所、男はかなり疲弊している。決着は近いだろう。しかし、何か嫌な予感もした。のんびり見ているだけではいられない、嫌な予感が。
 刀真は男の攻撃をスウェーで受け流し、男の手から剣を弾いた。
「ぐっ……!」
 一瞬、男の目が飛んでいく剣に逸れた。その隙を突き、刀真はバスタードソードを確実に男の心臓に――
「殺しちゃダメだよ!」
「……!?」
 しかし、早々勢いは止まらず、攻撃は男の脇腹を深く裂いた。乾いた土の上に、男が倒れる。モーナは、急いで声を上げた。
「早く止血して!」
「はーい、治療担当の出番ですね!」
 先程までずどんずどんと火矢を放ちまくっていた睡蓮がナーシングを使って治療をしていく。まあ、ナーシングだけでは心許ないのでレンやセーフェルも手伝ったのだが。
 治療が終わっても動けなさそうな男に、モーナはさて、と質問した。
「ねえ君、ただの通りすがりの野盗じゃないよね……何者?」
「……そのバズーカを渡せ。剣の花嫁を攻撃する武器など、不要じゃねえのか? あ?」
「これまた口が悪いね……ん? この顔……」
 モーナは男をまじまじと見詰めた。どこかで見た事がある。どこだったか……
「あ、そうだ」
 ふ、とそこで思い出す。
「テレビで公開されてた、モンタージュだ。デパートで夜、警備員と女の子を襲ったっていう男だね」
「…………」
 皆が顔を強張らせる。と、いうことは――
「否定しないんだね。証拠映像を改竄しようとした、とか言ってたけど……鏖殺寺院の所属、と考えていいのかな」
「寺院は、バズーカを回収したがってんだよ。といっても、他で利用されたり研究されたりするのが我慢なんねえだけで、回収したら壊すつもりらしいけどよ」
「壊す……? ふーん……ということは、寺院……っていっても色々あって複雑らしいけど、君の所属、及び山田太郎が関係している所ではこれは用済みってことなのかな? じゃあ……」
 モーナは間を空けて、男に言った。
「これ、壊したってことにして引き下がってくれないかな? それが、お互いに一番幸せな道だと思うんだけど。君は寺院からの命令を完遂したってことになるし、あたしは無事にバズーカの解析が出来る。どうかな」
「……そんな甘いもんじゃねえよ。証拠品がねえのに、報告だけで信じてくださるわけねえだろ? あいつらがよお!」
「そうかなー。意外とそれで済む気がするけどね。……まあ、ゆっくり考えるといいよ。ここじゃ携帯も通じないから……あ、あたし持ってないけど……警察にも教導団にも連絡出来ないし、だからといって連れて行くわけにもいかないし。置いてくしかないんだよね」
「置いてくだとお!?」
「心苦しいけど、しょうがないね。ライナスさんの所に着いたら何か連絡手段もあるだろうし、そうしたら回収されるように手配するよ。ま、治療しといたから死ぬことは無いと思うよ」
「…………鬼畜女……」
「そうかな? 妥当だと思うけど……。何なら、鬼畜かどうかここでアンケートでも取ってみる?」
「…………」
 黙ってしまった男に、モーナは最後に言った。
「帰るにしても捕まるにしても、二度とあたし達の前に現れないで。もう用は済んだでしょ? あ、あと念のため、名前教えといてくれる?」