|
|
リアクション
★ ★ ★
「第二十試合、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)選手対、ウルガータ・グーテンベルク選手です」
「ほら、ウルガータ、出番だぞー。行ってこーい」
「はい、また全力で行ってくるでございます!」
片良木冬哉に声をかけられて、ウルガータ・グーテンベルクが張り切って武舞台にむかった。
「お手合わせ、よろしくお願いいたします」
闘技場の天井近くからそんな声が聞こえたかと思うと、ナナ・ノルデンが軽身功で空中をトン♪トン♪トン♪と見えない足場でステップをふみながら駆け下りてきた。その一足ごとに、空中に蹴られた大気が水面のような波紋を広げる。
ストンと、ナナ・ノルデンが武舞台の上に下り立った。軽くスカートの裾が翻り、下に穿いていたスパッツが垣間見える。
「ナナ・ノルデン、参ります」(V)
一礼して、ナナ・ノルデンが言った。
わずかに重心を低くして身構えると、両手の間に火球を生み出す。
「我が手に集いし炎よ、気高き赤の煌きを持って、我が前に立ち塞がる障害を打ち砕け!」
ドラゴンアーツをも使って火球を圧縮すると、ナナ・ノルデンが両手を前に突き出して火球を撃ちだした。
「神の名においてどかーん!」
負けじと、ウルガータ・グーテンベルクも得意の雷術を放つ。
ナナ・ノルデンの真下から雷光が襲いかかったが、バリアによって弾かれた。
正面からまっすぐに飛んでいったナナ・ノルデンの火球は、狙い違わずウルガータ・グーテンベルクに命中した。爆発こそ小さかったものの、次の瞬間ウルガータ・グーテンベルクの足許から巨大な炎の柱が吹き出して、彼女の全身をつつんだ。
「あちっ、あちっ、あちちちちちっ!」
全身を火につつまれたウルガータ・グーテンベルクが、あわててスライムの海に飛び込んでその火を消した。
「きゃああああー……な、なんですか、これは!? 水じゃなくて、ぬるぬる……。ひゃあああ!?」
火は消えたものの、気力と魔力まで消えて、ウルガータ・グーテンベルクがほけっと気絶した。
どうやら、ウルガータ・グーテンベルクの野望はここで潰えてしまったらしい。
「お手合わせ、ありがとうございました」
ナナ・ノルデンが、ぺこりと試合後の一礼をする。
「一撃か。しかたないなあ」
さすがにすっぽんぽんを晒したままではかわいそうだと思うので、片良木冬哉がコートを投げてやった。だが、普通にイルミンスールで売っていたコートなので、当然のように分解されてバラバラになる。不幸中の幸いは、布地が大きめであったので、かろうじて肝心の所は布の端っこが被って隠すことができたということだろうか。だが、ぎりぎりのところで無理矢理隠したかのようで、これはこれで色っぽい。
「大丈夫。俺は見ないでやるぞ。見ない! 絶対に見ないからな!」
そう叫んで顔をそむける片良木冬哉は、ウルガータ・グーテンベルクがよけいに注目されていることには気づかないままであった。
「勝者、ナナ・ノルデン選手!」
★ ★ ★
「いよいよ、第二回戦最終試合、麻上翼選手対、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)選手です」
「ほっ、葵は今ごろ救護室でのびているだろうから、また魔法少女扱いされることはなさそうですね」
セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)と同じ格好をして魔法少女じゃないもんと言いはろうとしていたフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、ちょっと胸をなで下ろした。
「今度も、撃ち落とします」
魔銃を持った麻上翼が意気込む。紅の魔眼を開放すると、魔銃に火弾を込めた。
「さて、今度はどんな戦いを見せてくれるのかな」
観客席の月島悠が、興味深そうに試合を見守る。
「燃え尽きてください!」
「氷の刃よ、我が敵を切り裂け!」
二人同時に攻撃する。
フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の右側で火弾が弾け、麻上翼の頭上のバリアが白く凍りついた。
「接近戦とかできたら、また違う戦い方とかもできたのになあ」
せっかくセイニィ・アルギエバの格好をしてきたのにと、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』がちょっと物足りなそうにつぶやいた。
「雷帝招来!!」(V)
広げた掌を勢いよく上に突きあげ、勢いよく振り下ろす。その動きに合わせたように生まれた雷球が、麻上翼の正面で弾けた。その閃光の中から飛び出てきた火弾が、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の背後に回ってバリアを打つ。
「氷の刃よ、我が敵を切り裂け!」
薄氷の円盤が、麻上翼の右側で砕ける。フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の左側に火弾の花が弾けた。
「雷帝招来!!」(V)
「今度こそ、燃え尽きてください!」
麻上翼の眼下から、雷球が迫った。
「はうっ」
雷球にアッパーカットを食らうような形になって、麻上翼が顎をのけぞらせて空中に浮いた。そのまま後ろに飛ばされて落下していく。
「翼!」
思わず、月島悠が椅子を蹴って立ちあがる。
やったと思ったフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』であったが、頭の上で何かがくすぶっていた。
「ん? あちちちち!」
いつの間にか、頭の上に落ちていた火弾がくすぶっている。あわてて手で払い落とそうと暴れて、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が武舞台を踏み外した。
「くっ、こんなゲームで負けても悔しくない! おしくなんかないんだから。だが、次回大会があれば……」
アルギエバ・ブラキャミやチャイナドレスを剥ぎ取られてすっぽんぽんになったフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、ぷかあっとスライムの海に浮かびあがった。
すぐそばに、パーカー一枚にされた麻上翼もうつぶせに浮いている。まったく魔力のないパーカーのおかげですっぽんぽんはまぬがれてはいるが、全身を被っているわけではないので、片尻だけ半分顕わになってしまっていて、それはそれで色っぽい。
「まったく、なんで水着ぐらいちゃんと着ておかないのよ」
顔を真っ赤にしながら、月島悠があわてて救護室へとむかった。
「両者、相討ちです!」