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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

リアクション

 続いて行われたのは、今大会で最も男性観客の胸を熱くさせたと言われている華麗な美少女同士の空中戦であった。
 共に宮殿用飛行翼を使って華麗に空を舞うヘクススリンガーの火村 加夜(ひむら・かや)とスナイパーの毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の闘いは、観客達の興奮を一層もり立てていた。
「加夜、特に怨みも無いけど組織の命令だからサクッと死んじゃってね?」
 そう言って毒島は前髪ぱっつんロングの黒髪を揺らしながら、加夜にむかって対イコン用爆弾弓を連射するも、迷彩防護服を纏った加夜も【行動予測】と【超感覚】を使ってその攻撃を読み、8の字を描くようにかわしていく。
「負けるわけには行きません! 子供達の為にも勝ちたいんです!」
 いつもは優しい顔をしている加夜が真剣な眼差しを毒島に向け、両手に持った魔道銃と魔銃カルネイジを放つ。
「それくらい、かわせないわけがないであろう?」
 毒島も【蝶感覚】を用いて、無駄のない動きで加夜の攻撃をかわす。
「!! ……流石キマクの穴といったところでしょうか?」
「組織の構成員として仕事するんだから、これくらい朝飯前でなきゃ駄目なのだよ」
 そっと着地し、警戒をしつつも、巡りあった好敵手に対して互いに微笑みあう二人。
「加夜、もう一度聞いておくけれど、キマクの穴に来ない? 王に味方してもこの先、良いことなどあるはずなかろうに」
「……確かに、どんな理由上納金を支払わないのはダメですし、良くないお金でランドセルを貰っても子供達は嬉しくないと思います……。けど、私も子供達に贈り物をしたいと考えていました。だから王さんの側で戦おうって、そう決めたんです!」
 言い切った加夜の青い瞳が毒島を見つめる。
「子供なんて放っておいても勝手に育つものなのだよ。たとえそれが富豪の家に生まれようが貧乏な環境で育とうとも。違う?」
 毒島の問いかけに加夜が目を閉じて首を横に振る。
「誰かに助けて貰った子供達は、将来きっと誰かを助ける人になるはずです。だから私は闘います」
「……随分、お子様な考え方を持っているのだな……まぁ、いい。我は我に与えられた仕事を遂行するだけだ」
 毒島の目が光り、加夜は決着の時が近い事を悟った。
 急加速し空へ舞い上がった毒島にワンテンポ遅れて加夜が追走する。
 加夜に向かい、弓を引き絞る毒島。難なくかわす加夜。
 リング上に爆弾をつけた矢が着弾し、爆発する。
「それくらいで!」
「毒虫たちよ!!」
 毒島が呼び込んだ大量の蛾や蝶が、その鱗粉を上空から加夜に向かって降り注ぎ始める。
「!? ……氷術!!」
 直ぐ様、氷術を唱え、虫の大群を叩き落す加夜。
「弓の装填より、銃の方が早いですから!!」
 二丁拳銃を毒島に向かって放つ加夜だが、毒島も即座に宙を逃げる。リングの上空で、逃げる毒島を加夜が追いかける華麗なチェイスが繰り広げられる。
「(……しつこいな。でも、多少は毒を吸い込んだはず。執の幻覚により意識を逸らすがいい)」
 不敵な笑みを浮かべた毒島が振り返って加夜を見る。
 視界に逃げる毒島を捉えていた加夜が、口を軽く押さえ、目を瞬かせる。
「(少し、吸い込んじゃった……けど、まだ……え!?)」
 そこには見覚えあるショートの銀髪の男の幻影が見えていた。
「(あの人は!? え……!?)」
 加夜の脳裏を走る、いつかの光景。
 男が蒼空学園の生徒達に囲まれ笑っている中、加夜だけが、そっと校舎の傍に一人ポツンと立っている。そして走りだした加夜だが、その距離が縮まる事無く、どんどん遠くに行ってしまう。
「(違う! これは幻覚!!)」
 頭を振った加夜に毒島の声が響く。
「隙ありぃぃー!!」
 ハッと我に返った加夜に、バーストダッシュで距離を詰めてきた毒島のサイドワインダーの二本の矢が左右から迫る。
「クッ……!!」
 空中で急旋回する加夜が右の矢を寸ででかわすも、左の矢が宮殿用飛行翼に激突し爆発する。
「きゃあああぁぁーっ!!」
 左の翼を失った加夜がリングに落下し、バウンドする。
「我の毒虫を多少は吸い込んでしまったようだね。その妄執の幻覚は『最近あった一番怖かった事』なのだよ」
 空中をゆっくりと舞う毒島が笑う中、何とか身を起こした加夜がハッと目を見開き、その頬を一筋の汗が流れていく。
「怖かった事……」
「もう負けを認めるのがよかろう? 折れた翼では我に勝てぬ」
「負けません!!」
 加夜が叫び、銃を放つ。その弾丸が毒島の肩をかすめていく。
「これくらい、【リジェネレーション】でどうとでもなるが、そのお子様な態度はいただけないな……いいだろう、大人の世界を見せてやろう!!」
 毒島が弓を引き絞り、リングに向けて雨あられと放つ。
 立ち上がった加夜がリング内を走りながら爆弾を打ち消そうと二丁拳銃で応戦する。
 二人の間で弓矢の爆弾が次々と爆発していくが、応戦する加夜の足元に、爆弾とは違うものが落ちる。
「? ……こ、これは!?」
 加夜が目をやった先には、某蒼空学園の新校長の男と、どこかで見たことのある男が描かれた同人誌であった。
「これが我の反則技、禁断の同人誌(R−18)なのだよ!!」
 本を拾い上げた加夜が一読し、持つ手をワナワナと震わせる。
「な……何ですか!? 涼×金とか、ルドルフ×涼とか……こ、こんな破廉恥なものを!! 毒島さん、18歳未満でしょうッ!?」
「我はもう18歳なのだよ。わかるか17歳!? これが大人の世界なのだよ!!」
 そう言って毒島は矢に同人誌をくくりつけ、さらに加夜に放つ。
 そのジャンルは彼女の趣味なのか、ノーマルからハード、さらには801、劇画風からアメコミタッチまで幅広く網羅されていた。
 ペタンとリングに座り込んだ加夜が、次々と投下されていく本をやや血走った目で見ている。
 元々小説好きであり最近の愛読書がミステリ小説から料理本になりつつある加夜だが、当然ながらこの手の物は買ったことも読んだこともない。
「あああああ……」
 同人誌の中で描かれる身近な人間たちが繰り広げる禁断で濃密なでグチャグチャな愛の世界に、加夜の思考が段々と止まっていき、
「ボンッ」と頭の上から湯気があがる加夜。
「も、もう駄目……です」
 コテンと、可愛い音を立てて加夜がリングに倒れる。
「ふむ……理性が思考のショートする前にブレーカーを落としたか? ういヤツだ」
 ニヤリと笑う毒島の前に、加夜が敗北していくのであった。
「ところで、加夜はどれがお気にめしたのだろうな?」
 勝ち名乗りを受けながら毒島は、そのドSな本性を再び垣間見せるのであった。