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またゴリラが出たぞ!

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 ドクター田中と言う名をご存知だろうか。
 かつて医学部生でもないのに研修を偽ってスーパードクターの元に潜り込んだ伝説の研修医である。
 治療中の事故で指ををバキ折られ行方を眩ましていたが、2021年初頭、不死鳥のように蘇ることになった。
 彼の名はドクター田中……またの名を如月 正悟(きさらぎ・しょうご)と言う。
「む……、君はたしか……?」
「ご無沙汰してます。ドクター。不肖田中太郎、形成外科より復帰完了っす。また実習をさせてください」
 白衣姿で現れたドクター田中はペコリと挨拶。
 ちなみにこの田中太郎なる偽名は、医療ミスを犯した際にバックレられるよう名乗っている名前である。
「ちょうど良かった。立て続けに患者が来ててろくに食事ができていないんだ。しばらく代わってくれないか」
「え、でもまずは先生の診察を見て勉強したいんですけど……」
「ナニッ!? 私に飲まず食わずで診察を続けろと言うのか!?」
「そんなこと言ってないっすけど……、てか、治療中に飲んじゃダメでしょ……」
「とにかく任せる。大丈夫だ、一度私の研修を受けた君ならやれる」
「はぁ……」
 他の医師との雑談に加わろうとするスーパードクターはふと思い出して振り返った。
「おっと忘れるところだった。彼女を紹介しておこう、ナースとして手伝ってくれることになったリース君だ」
「えっ!?」
 紹介されたのはナース服を着たリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)
「彼女は私の患者だったのだがすっかり良くなってね。恩返しをしたいと申し出てくれたのだ」
「はい、記憶はちゃんと戻ったし、素敵な旦那様はできたし……」
 あとお医者さんの新年会は美味しいものがあると思って……と心の中で付け足した。
 それから、スーパードクターにあとを任せれた二人はどことなく気まずい様子で顔を見合わせた。
「なにしてるんです……正悟さん?」
「お互い妙なところで合うな……、今日の俺はドクター田中だ。そういうことにしてくれ」
 実は顔見知りなのだ。
「構いませんけど……、次の患者さん、田中さんですよ
「まじで!?」
 そうこうしてる間に武神 雅(たけがみ・みやび)に連れられ、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が座布団に通された。
「愚弟の診察をお願いしたいのだが……む、梅先生はどちらに?」
「あ、向こうでドンペリカッ食らってます。でもご心配なく、彼にあとを託された男、ドクター田中がおりますので」
「まぁいいか……」
 雅は首をひねって話を始めた。
「『お見舞いに行こう! せかんど』の19Pで診断された『突発性フラグ乱立症候群』の治療を頼みたいところなのだが、その前に愚弟のちぃぱい好きの治療をお願いしたい。『卜部先生の課外授業〜シャンバラの休日〜』の5P、11P、13P、この時にセイニィを怒らせたことがショックだったようで……先生、ちぃぱい好きを治療できませんか?」
 流石にでっぱいとしてはプライドの傷つく案件のようだ。
「なるほどなるほど、じゃあ田中さん……じゃねぇーや、牙竜さん、詳しく話してください」
「田中さん?」
 まじまじとドクター田中を見つめ、次にリースを見る。
「おまえら、ここで何をしてる? と言うか、ドクター田中ってどういう……」
「ストップだ。今のお前は患者、俺は医者だ。細かいことは気にせず、俺と彼女を頼ってくれ」
「全然意味わかんないんだが……?」
 まったく腑に落ちないが、紙面の都合により、しぶしぶ納得して病状を話し始めた。
「ドクターもご存知のとおり、セイニィに告白してがんばってるんだが……。先日、彼女が気にしてる『ちぃぱい』を褒めたら、思いっきり蹴りられて……、言い方が悪かったんだろう、『セイニィが好き』じゃなくて『セイニィのちぃぱいが好き』に受け取られてしまった。謝ったものの『みんなオマエが、ワルいんだぁ!!』と言われてしまって……」
「でも、ちぃぱい好きなんだろ?」
「好きだが……、別にロリコンとかそう言うんじゃないぞ?」
「ほう」
「イラストの感じだと幼く見えてそっち方面だが、外見年齢は22歳だぜ! 綺麗なちぃぱいのお姉さんじゃないか! あの脚線美からの引き締まったお尻のラインが一番綺麗なんだ! 素足が綺麗だから黒いタイツとか似合いそうだし!」
 熱弁したあと、雑談中の医師たちにも振ってみた。
「あ、大学病院の先生方はどっちが好きですか?」
私は肛門が好……
あ、菊ノ門先生は混ざらなくていいです
 ドクター田中はピシャリと言った。
「しかし、聞いてるとアレだな……、おまえリア充だな……」
「ん? まあ彼女と出会ってからの日々は充実してるが、これはこれで気苦労も多いんだぞ」
「ふーん」
 ドクター田中は鼻くそをほじりながら答えた。
「ツンと言う名の装甲をぶち抜いて、デレと言う名の至宝を手に入れるのは大変だが、でも、あの瞳を見ると少しも気にならなくなるんだ。嫌われるのを覚悟で親友のために戦った……あの決意に満ちた瞳に惚れちまったんだからなぁ……」
 春にはすこし早いが、牙竜はうっすら桜色に頬を染めた。
「はい、リア充確定。完全に『恋の病』です。余命半年ぐらいっすかね、知らないけど
「うえええ!? 恋の病って死ぬの!? てか、それちゃんと診察してんの!?」
「うん、しぬしぬ」
 ドクター田中。彼の診察基準は実に革新的である。
 リア充かリア充じゃないか。リア充なら病気にするし冷たくするし、違うなら病気じゃないし優しくすると言うもの。
 無論、そんなアホな治療が許されるはずもない。
「ソイヤーッ!!」
 外から帰ってきた神楽授受のハイキック一閃、ドクター田中こと如月正悟は畳に沈んだ。
「ラルクさん、あの報告書のほう……」
「ああ、大丈夫。スーパードクターに報告するのにさっきのは一部始終メモってある」
 記録係のラルク・クローディスはニカッと秘書のエマ・ルビィに微笑んだ。
「……で、俺の治療はどうなったんだ?」
「まあ、あれですよ、武神さん。おっぱいを揉めばいいんですよ」
 どさくさまぎれにリースは適当なことを言った。
「セイニィさんのおっぱいがおっきくなればもう武神さんがちぃぱい好きなんて言われなくなるし、解決だよねっ。おっぱいってもまれると大きくなるって言うしねー……、恋人になったらいっぱいもんで育ててあげるといいと思うよ!」
 なんというコロンブスのたまご。
「それってつまりおまえみたいにか?」
 結婚してから大きくなった彼女の胸を見つめる。
「牛乳飲んだり、豊胸体操したりしてたけど、やっぱり旦那様に育ててもらったのが大きいかなぁ……えへへ」
どおりで旦那が職場でひからびてるわけだ……
「あの……、好きな人に育ててもらうとおっきくなるって本当ですか??」
 ふと、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が話にまざってきた。
 ちょうどよくスーパードクターも戻ったのだが、ハイキックで転がった正悟の姿に顔をしかめた。
「田中太郎め……、仕事を言いつけたのに寝るとはどうしようもないやつだな」
「はじめまして、貴方がスーパードクター梅先生ですね」
 詩穂のパートナー、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は握手を求めた。
「わたくしも医学と心理学を心得ています、同じような立場ですね。よろしくお願いします」
「ほう……、それで私に何か相談かね?」
「ええ、最近詩穂様のわたくしに対する態度が変わったと言うか……。わたくしのカットインがノーブラおっぱいだとか、全身図がどうみても履いてないだとか、無意識に詩穂様がいろいろと言ってくるんです……」
ほう、ノーブラですか……
「初期の頃の紅月ゆわり絵師さん、狙ってますよね……って話がそれました。体格……、身長に対しては女性としてわたくしもコンプレックスはありますのに、ちっぱいちっぱいと連呼されたとわたくしを親の敵のように言うのです……」
「とのことだが騎沙良さん、なにがあったのか詳しく話してもらえるかな?」
 振られた詩穂はすこし戸惑うも話し始めた。
「あれは確か年末に下着マニアの神殺しに行ったときです。『秋葉原四十八星華討ち入り』の5P目ですね。あのとき、下着マニアだと思ってた神の腕をひねりあげたら『生のちっぱいが背中に触れておる!』とか幻聴が聞こえたんです」
「なるほど」
「物凄く失礼じゃないですか! ちっぱいですよ、ちっぱい! 詩穂にだってまだ×2成長性はあると思うんです!」
「成長性だと……?」
「でも最近は『スレンダーなアイドル』も好まれてるから迷いますね、うーん」
「うーん……って、君に選択の余地なんてないだろ。15歳で小6体型じゃ先なんてない、常識的に考えて」
「う、うそです! 未来は詩穂の手の中です! 何だったら先生も今すぐにこの場で触診して確かめて下さい!」
 時は今、場所はここ、すぐに! と迫る。
 上着をめくろうとするが、スーパードクターはまったく興味がなさそうである。
「服の上からでもわかるから結構。つまらんものに時間を割くほどスーパードクターは愚かではない」
「ひ、ひどい……」
「牛乳を処方しておくので毎日飲んでください。Fカップになったら触診することもやぶさかではありません」
「う、う……、うえええーん!」
 侮辱された彼女は牛乳をがぶ飲みしながら、夜のセンター街に消えていった。
「はい、お大事に」