リアクション
5.すいーとのおわり
ネット上に呪いの解除方法が流れると、ライラックはプリムローズを大佐のいる部屋へ連れて行った。
「キス」
「はぁ?」
「……それで、元に戻るって」
と、プリムローズは簀巻きから解放される。しかし、大佐の身体はどう見てもおかしかった。
「……えーと」
「上手く行かないからそれで妥協してやったわ」
と、呟くのはアルテミシア。大佐の股間についているものをもぎ取ろうとした結果、半分ほどのサイズになったところで諦めたのだ。
そのことはあまり気にしないことにして、プリムローズは意を決する。そして大佐の唇にキスをしたところ、バランスを崩して大佐を押し倒す形になってしまった。
生身を取り戻した大佐は今目が覚めたかのようにはっとして、自分を押し倒しているプリムローズを見る。それから、股間の違和感に気づき、問うた。
「……一体、何が?」
「よし、くっついた」
と、安堵の息をつく千百合。
日奈々の右腕はどうにかこうにかくっついて元通りになったが、まだ呪いは解けていない。
しかし、千百合は安心しきっていた。そのせいか、どっと疲れが出て溜め息をついてしまう。
「……えっと、とりあえず」
と、日奈々に向き合ったところで千百合の足がもつれた。
「っ!」
ちゅっと唇が重なって、日奈々の身体が人間の色へと戻った。
「千百合ちゃん!」
「え、あれ、日奈々? 元に戻ったの!?」
ぎゅっと抱きついてくる日奈々を抱きしめ返し、千百合は笑みを浮かべた。右腕も戻ったし、一件落着だ。
エリクシルが手に入ったという情報を得て、それを取りに向かっていた春が部屋へと戻ってきた。
「もらって来たよ!」
と、由唯に駆け寄る春。しかし、それを由唯へ渡す直前に瓶を床へ落としてしまった。
「きゃあ、春たん!?」
「あわわ……せっかく分けてもらったエリクシルが」
春は由唯をちらちらと見上げた。こうなれば、キスで呪いを解くしかない。
「……由唯さん、やるしかないよ」
「……っ」
ドキドキと高鳴る鼓動を手で押さえ、由唯はエッツェルの正面へ立った。
しかし、なかなか顔を近づけようとしない。そんな由唯を見かねて、春がそっと背中を押した。
「わわっ」
ちゅっと唇が重なり、慌ててエッツェルから離れる由唯。
「ありがとうございます、由唯さん」
と、呪いから解放されたエッツェルが微笑む。由唯は顔を赤くすると、渡すつもりで持ってきたチョコを差し出した。
「っ、ここ、これ……っ」
今度こそ、本物のバレンタインチョコレートだ。
エッツェルはそれを受け取ると、由唯を優しく抱きしめた。
「あなたの想い、確かに受け取りましたよ」
いつの間にか、春と浚の姿が消えていた。二人きりの室内に、甘い時間が訪れる――。
「ああもう、我慢できないっ」
綾乃のアホ毛に手を伸ばしかけたシャローンは、はっとして顔を見た。
どこからどう見ても、誘っている表情。
「……」
今なら何をしても許される、誘惑に負けたシャローンは綾乃へキスをした。
チョコレートの香りが鼻をついたかと思うと、すぐに綾乃の匂いへと変わる。
びくっとしたシャローンが彼女から離れ、生身を取り戻した綾乃はシャローンを見て首を傾げた。
「あら?」
「……分からないなぁ」
欲しかった情報になかなかたどり着けず、一度携帯電話を閉じる北都。
「チョコ化の呪い……」
おとぎ話では呪いというと、王子のキスで解けるのが王道だ。キスなんてされるばかりで自分からはしたことがなかった北都だが……それなら、有りだろうか?
「……いい、よね?」
と、クナイの真正面へ立ち、ちょっと背伸びをして顔を近づける北都。クナイは彼が何をしようとしているのか気がついて、今はないはずの心臓がドキドキするのを感じた。
ちゅっ、と唇が触れて、北都は甘い匂いを感じ取る。
そして顔を離す北都。
全身チョコレート色だったクナイが徐々に人の色を取り戻し、北都はびっくりしてさっと彼から離れた。
ようやく身動きできる状態になったクナイへ北都は言う。
「の、呪いが解けて良かったね」
「……そうですね、ありがとうございます」
にっこり微笑んで、クナイはどきまぎしている北都へ謝った。
「呪いに掛かってしまってごめんなさい。ですが、これは呪いというよりも祝いでしたね」
「い、祝いって……っ」
恥ずかしさに声をうわずらせる北都。
「全部、見ていましたよ」
と、クナイは笑った。
朱美は祥子へキスをした。
すると、話に聞いたのと同じように、祥子の身体が人間のそれへと戻った。
「良かった、祥子」
と、安心した様子で笑う。
チョコ化した間も意識のあった祥子は、にっこり笑って朱美を抱きしめた。
「ありがとう、朱美」
と、感謝の言葉を贈り、祥子は朱美へキスをした。
「これからも、よろしくね」
「ルシェン、ごめん」
と、朝斗は謝った。
「思ったよりもエリクシルの量が少なくて、手に入らなかった」
チョコレートになっているルシェンを見つめ、覚悟を決める朝斗。
つま先立ちをして、そっと彼女の唇に唇を重ねる……。
「……本当に戻った」
「ごめんなさい、朝斗」
と、ルシェンはまず初めに謝った。それからにこっと微笑んで朝斗へ言う。
「私のためにいろいろしてくれて、ありがとう」
ぎゅっと抱きしめられて、朝斗は困惑した。
「ルシェン……」
それから、顔を見合わせた二人はぎこちなく口を閉じた。――もう一度、お互いが生きているという幸福に感謝と、甘い口付けを。
エリクシルを飲ませると、パッフェルはすぐに呪いから解き放たれた。
「心配したで、パッフェル」
「良かった、元に戻って」
一同が喜びにざわめき、パッフェルを取り囲む。
セイニィはそんな彼女たちを見て、息をついた。
「美緒」
名前を呼ばれて美緒ははっとした。目の前にいるラナが安心した様子で息をつく。
「良かった、呪いはきちんと解けたようです」
と、そこに集う仲間達へ告げるラナ。
だが、それにしても何だか違和感がある。美緒は自分が裸でいることに気がつくと、とっさに両腕で胸を隠した。
「……あらっ?」
何となく胸が大きくなっている気がするのだが、気のせいだろうか?
美緒は恥ずかしさに耐えつつも、首を傾げた。
もらってきたエリクシルを四人に飲ませたヴァーナーは、全員が元に戻ったのを見て喜んだ。
「これで呪いは解けましたです。良かったのです」
にこにこ笑うヴァーナーと裏腹に、一はすっかり疲れ切って倒れていた。ハーヴェインは呆れて笑う。
「誰か酒もってこい、祝いだ」
沙幸とひなは自分たちの身体がでこぼこになっているのを見て恥ずかしいやら嬉しいやら、困惑していた。
一方の美海とナリュキは、そんな彼女たちを見てにやにやしている。チョコ化の呪い、恐るべし。
「パパ、お薬を手に入れてきました!」
と、戻ってきたソフィアはエリクシルの小瓶を取り出した。
椅子を引いてラルクのそばへ置き、そこに立ってエリクシルを飲ませる。
見る見るうちに呪いが解けていき、ラルクはソフィアを見て笑った。
「ありがとうな、ソフィア」
チョコ化している間、ずっと恋人のことを考えて雑念に悩まされていたラルクだが、無事に人間へ戻ることが出来た。
ソフィアはラルクに頭を撫でられ、にっこり笑った。
「元に戻って良かったです、パパ」
「よし、これで元に戻るんだな」
と、鴉はエリクシルをアスカの口へ流し込んだ。
オルベールとルーツに見守られる中、アスカの身体が生身へ戻っていく。
「っ、鴉の馬鹿ぁ!」
アスカは身動きできるようになった途端、鴉を叩いた。
「な、何だよ!?」
意味が分からず目を丸くする鴉。アスカはぷいっとそっぽを向いて、オルベールからタオルを受け取って身体を隠した。
「苦労して元に戻してやったっていうのに」
と、文句する鴉。やはり、あの校長からのキスで呪いを解くべきだったのか?
考えてしまうと複雑な気分で、鴉はアスカから目を逸らした。
「……違うわよ、そういうことじゃないもん」
と、アスカは小声で呟いた。
シャムシエルの行方は分からないが、これにて呪いのチョコ事件は無事に終わった。新たな被害者も確認されていないことから、シャムシエルは呪いのチョコを仕掛けるのを諦めた様子だ。
「あ」
帰り道、ふと目に付いたチョコレート像を見て、ヴァーナーは足を止めた。
それはリボンでデコレーションされた武だった。しかも、場所は見せ物小屋である。
ヴァーナーは武の方へ行くと、ちゅっとキスをした。
「今日はバレンタインですよー、はやく起きてくださいです」
参加していただいた皆様、お疲れ様でした。
本当にありがとうございました。
今回は運営さんからいただいたシナリオガイドだったので、とても不安でいっぱいでした。
ですが、こう……書いている内に楽しくなってしまいまして、あはは。
基本的にマイナー路線でやらせていただいてますが、たまには良いかもしれませんね。
ちなみに、解除方法がネットに流されましたので、チョコ化したPCは全員、無事に元に戻っております。
整形された方は、データ上の変更はございませんので、自由設定の方に説明を加えていただけたら、と思います。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
ありがとうございました。