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学院のウワサの不審者さん

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学院のウワサの不審者さん

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 さて、この辺りで少しばかり思い出していただきたい人物がいる。
 そう、犯人一覧マップを作りたいと行動していた水鏡和葉、そのパートナーたちであるルアーク・ライアーとメープル・シュガーの3人である。
 果たしてこの3人の「成果」はどうだったのであろうか。
「い、いろいろと回ってきたけど……、ねえ和葉ちゃん、もう怖いものって出ないよね……?」
 和葉の腕にくっついた状態で、何か物音が聞こえるたびにとっさに抱きつくなど挙動不審を隠せない様子でメープルが震えた声を出す。
「大丈夫だよ、めぇ。もうこの辺は怖いものは何も無いからね」
 メープルにされるがままの和葉が、そんな彼女の頭を優しくなでてやる。するととたんにメープルの表情はほころび、恐怖などどこかに飛んでいってしまうのだ。
「あ〜と、お2人さん。イチャついてるとこ悪いけど……」
 地図の読めない和葉の代わりに、不審者情報を地図に書き込んでいたルアークが2人を呼び止めた。
「なに、ルアーク? もしかして地図できた!?」
 きっと完成されているはずの地図を心待ちにしている表情で和葉が迫ってくる。
 だが、ルアークの口から紡がれた言葉は、和葉を失望のどん底にまで突き落とすのに十分な威力を持っていた。
「……それが、無理だった」
「……へ?」
「いやな、1つ書き込もうと思ったらすぐ別の不審者情報が入ってくるし、色んな所で戦闘とか起きるものだから……」
「……どこで何が起きたのかよくわからなくなった?」
「まさにそれ」
 地図に不審者発見ポイントと、その不審者の名前を書き込もうとすれば、すぐに別の不審者情報が入ってくる。しかも3人は極力戦闘に巻き込まれるのを回避し続けていたが、余波である「流れ弾」が飛んできたりと、それなりに大変な思いをしてきたのである。
 そのような状況だったから、地図の読めない和葉は当然、きちんと地図に情報を書き込もうとしていたルアークであっても地図は完成しなかったのである。
「一応、不審者らしい知り合いの名前だけは控えられたけどな」
「……なんていうか、知り合いばっかりだね、これ」
「知り合いばっかりなんだよねぇ」
「ん〜、それはつまり、みんな面白い人たちだってことだよねっ!」
「……だといいけどねぇ」
 こうして3人の努力はほぼ水泡に帰した。もっとも、地図が完成したとして、その地図を一体誰が有効活用するのか、また活用できるのかどうかという問題が残っていたが。



 学生たちの調査活動により、イコン・超能力実験棟の全ての部屋においての不審者騒動は解決されたといってもよかった。
 捕まった不審者たちはロープで縛られた上、全員まとめて【天御柱学院風紀委員会】のメンバーである夕条 媛花(せきじょう・ひめか)によって機械的に連行されていった。
 彼女は最近受けた記憶消去措置により、かつては快活だった性格が今では完全な無愛想となってしまっている。そんな彼女がここにいるのは、学院から命令を受けたから、ということになっている――実際には、参加は生徒の自由意志に委ねられていたため、明確に学院から命令が下ることは無い。もっとも現在の彼女には、能動的な騒動参加の意思など全く無かったため、どうしても学院からの命令として遂行するしかできなかったのだが……。
「この後素直に罰を受けるなら良し。そうでないなら指定された以上の罰をこっちから加えるからそのつもりで……」
 人を殺し殺されることに恐怖を感じたがために、その恐怖を乗り越える――あるいは感じなくするために措置を受けた彼女に、情けを求めるなど無益なことだった。仮に慈悲を求めれば、即座に得意の八極拳を食らって、心身ともにボロ雑巾にされてしまうだろう。

 そして、不審者たちが連行される様子を遠巻きに眺める人影があった。イルミンスール魔法学校に所属する天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)と、そのパートナーであるフィオナ・ベアトリーチェ(ふぃおな・べあとりーちぇ)である。
「おいおい何だこりゃ。天学に定期診断に来たら、何でこんな騒ぎになってんだ?」
 彼らは、特に強化人間であるフィオナの定期診断という名目でたびたび天御柱学院に来ていたのだが、不審者騒動については何1つとして知らなかった。
 それで深夜だというのに騒がしい一区画を訪ねてみればこの有様である。耳に飛び込んでくる言葉の端々から、どうやらこの実験棟で不審者騒動があったらしく、今日はその解決のために人員が導入されたらしいことを知った。
「こりゃ、診断どころじゃないな」
「そうだね。また明日、出直そうか」
 見た目がとある牡牛座の十二星華に似ているフィオナも今夜は引き下がることに決めた……。