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カナンなんかじゃない

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カナンなんかじゃない
カナンなんかじゃない カナンなんかじゃない カナンなんかじゃない

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                              ☆


「ふっふっふ……どうやら役者が揃ったようだなぁっ!!!」

 と、カメリアがネルガル役からイナンナ役として目覚めた時、場の空気を切り裂いて叫んだ男がいた。
 その男の名は、クド・ストレイフ――いや――最後のネルガル!!

「はーっはっはっは!! お兄さんが、いやこの俺こそが、ネルガルだったのだ!!!」
 その言葉にパートナーのハンニバル・バルカは驚きの声を上げた。
「なにぃっ!? き、貴様もネルガルだっただとぉっ!?」
 パートナーの驚きに動じることもなく、クドは続けた。
「その通り、この俺こそがこの肥沃な大地をモヤシで埋め尽くすためにやって来た、征服王――いやさ、モヤシ王・ネルガル!!!」


 その言葉に、唖然とする一同。


「えーと、すまんクドにぃ。イマイチ意味が分からん」
 と、カメリア。
「……あー。ついに頭にモヤシの毒が回っちまったかねぃ」
 切はすでに諦めモード。
「ううむ……前からおかしなヤツじゃとは思っていたが……」
 さほど違和感なく受け入れていいのかヒラニィ。
「……すまんクド、これからはもうちょっと手加減して殴ってやるから……」
 麻羅さん、殴るのは変わらないんですね。
「だが貴様……ボクたちの邪魔をするからには、覚悟は出来ているんだろうな!?」
 と、バルカは凄んだ。

 しかし、そんな唖然とした一同に向けて、クド――いや、モヤシ王ネルガルは叫んだ。
「そぉれ、行けぃ、我が従順なるモヤシ兵よ!!」
 クドの手にしたモヤシがばら蒔かれ、驚くべきことにそのモヤシひとつひとつが兵隊の姿に変身していく。
 言っていることはまるで冗談だが、その兵隊たちにはそれなりの兵力があった。
「はーっはっはっは!!!
 さあ、手始めにこの王国から手に入れようじゃないか!!
 そしてゆくゆくはパラミタ全土をモヤシで埋め尽くす!!
 三食は全てモヤシ食!! 国民一人一人がモヤシを栽培し、おはようからおやすみまでモヤシの成長を見守るのだ!!
 そうして全ての人間はモヤシと共に生き、モヤシを忘れることなく一生を送るのだーっ!!」

 それに対し、カメリア・イナンナはぽつりと呟いた。
「あー、儂あんまりモヤシ好きじゃないんじゃよー」
 だが、モヤシ王ネルガルはひるまない!!
「大丈夫、大丈夫だよカメリア……この俺が優しくモヤシの良さを教えてあげるから……さあこっちにおいで……」

 だが、それを許す英霊イナンナと地祇イナンナではなかった。
 差し伸べられた手をばちんと弾いて、カメリアはヒラニィの隣に立つ。
「残念じゃったなクドにぃ、今日の儂はこちら側らしいのでな」
 その言葉に、笑みを見せるヒラニィ。
「おお、良くぞ言った! さあ、わしらの地祇イナンナタッグの実力を見せつけてやろうぞ!!」

 対する英霊イナンナタッグも負けてはいない。
 麻羅も傍らの友、バルカのに並ぶ。
「ふ、わしらの神聖なるイナンナ決定戦を邪魔するとは……。
 いい度胸じゃ、地祇イナンナよ、ここは一時休戦じゃな!!」
 カメリアとヒラニィも、こくりと頷いた。
 麻羅は続ける。
「ようし、行くぞハルカ、休戦したとは言えライバルには違いない。
 ここは奴らよりも多くのモヤシ兵を狩ってやろうぞ!!」
 麻羅は、バルカのことをいつもハルカと愛称で呼んでいる。
 バルカは、友の呼びかけに両手の指をバキバキ鳴らして答えた。
「――当然!! ボク達を敵に回したこと、たっぷり後悔するがいいのだ!!!」


 そこに、椎堂 紗月と鬼崎 朔の二人も加わった。
 紗月は呟く。
「あー……なんか俺たち置いてかれてるよなー……どうする?」
 と、朔の横顔を見ながら告げた紗月に、朔は笑みを返す。
「どうもこうもない、私たちは全てのネルガルを倒し、このカナン王国に平和を取り戻すためにいるんだ。
 ――やるしかないでしょ!!」
 その返事を聞いて、紗月は笑った。
「……そう言うと思ったぜ」
 二人はそれぞれの手を取り、がっちりと指を絡ませた。
 そのまま、空いたほうの手を大きく振り上げ、叫んだ。


『ダブル・セフィロト・ウェーブ!!!』


「――え?」
 二人以外の一同が、その言葉に振り向くと、紗月と朔の二人は眩しい光に包まれた。
 朔の胸元の約束のペンダントが光り、紗月の胸元のラピスラズリネックレスも同様の光を放っている。
 やがて、その光が二人の身体を包みきったとき――二人は光の戦士に変身していた。

「セフィロトの使者、イナブラック!!」
 鬼崎 朔はビシっとポーズを決める。
「セフィロトの使者、イナホワイト!!」
 椎堂 紗月も同じくポーズを決めた。


「ふたりはイナキュア!!!」


 そう、紗月と朔の二人はカナン王国の世界樹であるセフィロトから力を受けて、カナン王国に平和をもたらすために戦う光と闇の戦士『イナキュア』だったのだ!!!


 イナンナでキュアキュアだったのだ!!


 ぶっちゃけありえない。


「……無茶もいいとこじゃな」
 と、その様子を見たカメリアは呟いた。
 だが、モヤシ王ネルガルが操るモヤシ兵たちは一斉に襲いかかって来る。


 さあ、戦いだ!!

                              ☆


 モヤシ兵と英霊イナンナタッグ、地祇イナンナタッグ、そしてイナキュアとの戦いは続いていく。

「わはははは!! どうしたどうした!!」
 ヒラニィ・イナンナは手にしたパチンコで次々とモヤシ兵を狙い撃ちにしていく。
「ふん、こっちも負けてはおらんぞ!!」
 カメリア・イナンナも火術を駆使して兵隊をこんがり焼いた。

「ならば、こちらは接近戦じゃな!!」
 と、麻羅イナンナは壁をも壊せるゴールドマトックで燃やし兵を薙ぎ払った。
「おうとも、勝つのはボクら英霊イナンナなのだ!!」
 バルカ・イナンナは得意の回し蹴りでモヤシ兵を派手に蹴り飛ばした。

 その様子を見ながら、朔――イナブラックと、紗月――イナホワイトは、互いに頷く。

「よし!! やろう、ホワイト。今こそ全てのネルガルを倒し――カナン王国に平和を取り戻すんだ!!」
 イナブラックの声に、イナホワイトも力強く応えた。
「ああ――俺たちの力、全部出し切ってやろうぜ!!」
 互いの手を握りあい、気合を入れる二人。

 握られた手から、清らかな光が溢れていく。
「イナキュアの気高き魂が!!」
「悪しき野望を打ち砕く!!」
 その光はそれぞれの全身を駆け巡り、大きな力となった。

 イナブラックの右手から光の閃刃がほとばしる!
「ブラックブレス!」

 イナホワイトの左手から龍の波動がほとばしる!
「ホワイトブレス!」

 これがイナキュアの必殺技だ!!
「イナキュア・スパイラル・トルネード・マックス・ハート!!!」

 二人の手から放たれた波動は、互いに絡み合い、一筋の光となってモヤシ兵たちを一掃し、モヤシ王ネルガルの身体を一直線に撃ち抜いた!!!

「マックス!!」
「ハート!!」
 二人の掛け声とともに、爆発を起こすモヤシ王ネルガル。


「ぐわあああああぁぁぁーーーっ!!!」


 飛空艇の内部であまりに暴れたものだから、当然のように飛空艇はバランスを崩し、落下していく。
「危ない!! どうにか不時着させるから、みんな何かにつかまるんだ!!」
 切は、暴れる操縦桿を握って、なんとかして制御しようとする。
 それに伴って激しく揺れる飛空艇。

「うわあっ!!」
 バランスを崩して倒れかかるイナブラック――朔を、イナホワイト――紗月が抱きとめた。
「――大丈夫か?」
「う……うん……ありがと……」
 まだ飛空艇は揺れている。何となく顔を合わせ辛くうつむく朔の顔を、カメリアはニヤニヤしながら見つめていた。
「ほほう……こりゃあいいものを見たわい」


 言ってる場合か。


 切の懸命の操縦でどうにかこうにか不時着した一同。
 なんとか飛空艇を降りると、そこは他のネルガル達と南カナン国軍、カナン義勇軍とゴライオン帝国の義勇軍が戦っていた戦場の跡であり、その一行を南カナン領主、エシク・シャムスは微笑みと共に迎えた。


「ようこそ……南カナンへ。
 ……ようやく……長かった戦いは終わったのだ……」


 だが、その一言が。
 その一言が、最後の戦いの幕開けだとは、誰も思わなかった。


 不穏な空気に、メキシカンな衣装を着込んだやたら目立つ背景、橘 恭司と半ケツ サボテンは揺れていた。