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コンビニライフ

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コンビニライフ

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 ゲブーによる襲来を乗り切り落ち着いた店内では、店員として働く桐生 円(きりゅう・まどか)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、このコンビニをより良くするための話に花を咲かせていた。
 彼女たちが談笑する合間もセッセと店内の掃除を行っているのは、円の下僕、ダークサイズの戦闘員にして西カナンの「砂イルカ牧場」の従業員であるDSペンギンである。
「いらっしゃーせ〜」
「違うって、円ちゃん! いらっしゃいませー、だよ?」
「えー、難しいよ」
「……そうかな?」
 元々、友人である二人は、それぞれお嬢様同士という事も相まってか、のんびりとレジ打ちに従事していた。ただ、もっぱら歩が円にレクチャーしながら、である。
 そもそも円は背の高さが微妙なので、空のビールケースの上に立っている。そのため、レジの向こう側からでは歩より身長が高く見えている。
 またレジの裏には円の伝統のショットガンを置いてあるも、幸いな事にまだ未使用状態を保っていた。
「ねぇ、円ちゃん。あたし考えたんだけど……」
「何を?」
「商品を買うまでの流れが分かるようなイラストを作って貼ってみない?」
「どうして?」
「ホラ、まず荒野には、お金を払って物を買うって習慣があんまりなさそうじゃない?」
「そう……じゃあボクのペンギン達にさせてみようよ」
 掃除をしていたペンギンが円の視線を感じたのか、トタトタと走ってくる。
 店内で円以上に働く無給のペンギン達を見ていた歩が慌てて言う。
「で、でもね。ペンギンさん達に絵は難しいかも……」
 歩の忠告に、円がペンギンを見て「そうなの?」と問うと、ペンギンは必死に頷く。
「(うーん、円ちゃんてば自分で働くよりも人使う方が得意なのかも……)」
 歩は円を見ながらそう考えていた。しかし、円も社会勉強の一環として来ているので無下には出来ないし、何より友人である。
 今は立ち読みする客しか居ない店内を見渡した歩は小首を傾げ円に問う。
「そう言えば、セルシウスさんは何処?」
「さぁ? ご飯じゃないかな?」


 その頃、コンビニの店の外でセルシウスは若葉マークの付いたエプロンを脱いでいた。
 先ほどまでモヒカンにするかどうか本気で悩んでいた彼は、疲労困憊の表情で故郷のエリュシオンを眺める。
「やはり文化がエリュシオンと違い過ぎる……」
 それがセルシウスの出した結論であった。
 空腹のため腹からグゥーと音が鳴り、腰を地面に下ろしたセルシウスは、思えば、もう八時間以上座っていないという事に築いた。
「店長という激務に耐えられる人間がエリュシオンにいるのであろうか?」
 ポツンとそう呟くセルシウスに、駐車場で「本日も見回り終了!」と、ペガサスから降りてきた伏見 明子(ふしみ・めいこ)が声をかける。
「あなた、ホームステイに来て文化の違いで悩んでる学生の様な顔してるけど、大丈夫?」
「……まさしくその通りだ。私のプライドは蛮族達によって紙くずの如く打ち破られてしまったよ。コンビニとは恐ろしい文化だな」
「そう? 私はここにコンビニがあると、ご飯の心配しなくて済むからホント楽だわー」
 楽しそうに明子はコンビニへと入っていく。

 そんな明子と入れ替わりで店内から出てきたのは、買い物袋をさげた夢野 久(ゆめの・ひさし)である。
 久はしゃがんでいるセルシウスを見て、
「(ん? あそこで座ってるトーガの奴……ひょっとしてエリュシオン人じゃね? しかも見た感じ民間人か。珍しいな)」
と、何やら感じるところがあったのか、彼の傍に無言で腰を下ろす。
「コンビニが出来たのは良いが、使いかたが分からねえ奴が多いのは困りモンだなあ。にーちゃんもそう思わねえか?」
 久の声をかけられ、静かに頷くセルシウス。ふと、彼の鼻孔を香ばしい匂いが襲う。
「(……なんだ?)」
 セルシウスが久の方を向くと、久の傍には蓋を閉じられたカップ麺が置かれてある。
 カップ麺が出来るまでの三分間待っていた久が、セルシウスの視線に気づく。
「(ふむ。観光か仕事かは知らんが、折角帝国くんだりからわざわざ来たんだ。御節介の一つ位ぇ焼いとくか)」
 そう考えた久はセルシウスにカップ麺を見せる。
「おい、にーちゃん? コレが珍しいか?」
「ああ……確かこの容器は店内で置かれていたが、家に持って帰って食うものではないのか?」
 真面目すぎるセルシウスの顔を見た久が豪快に笑う。
「家? まぁ、そういうヤツもいるだろうな? だがな、このカップ麺てのは熱湯さえありゃいつでも何処でも食べられるものなんだよ!」
 そう言って久はもう一つ買ってあったカップ麺を袋から出し、セルシウスに渡す。
「持ってみろ?」
 受け取ったセルシウスが驚愕する。
「か、軽い!!」
「汁物の癖に軽ぃだろ? 日持ちする様に揚げたり乾燥させたりしてあんだよ。それを湯で戻すのさ」
「何ッ!? スープだけではなく、麺をもか?」
 久が店内に置かれたポットを指差す。
「ほれ、店の入口に電気ポットがあるだろ。湯沸しと保温機能完備のが。直ぐ食う時はそれで湯を入れられる様になってる。興味あったら食ってみたらどうだ?」
 更に久は同じくコンビニで購入した『チャーハン』のトレイを出し、何かに気付いた様にセルシウスに再度向き直る。
「ああ、それと日持ちの為っつったが、それだけじゃねえ。「温かい食事を」っつー目的もある。このチャーハンも冷たいのと温かいのじゃダンチだろ? 第一、冷めたままだとマズいしな?」
「温めるだと? ……失礼!」
 セルシウスが久のチャーハンの容器にピタリと触ると、彼の指に熱さが伝わってきた。
「あ、熱い!?」
「他にも温めた方が良い食いもんは買う時に温めて貰えるぜ?」
「魔法か!?」
「いや……すげえ微妙な発音で「温めますか?」って聞かれるから、首を縦に振りゃ良い。直ぐに食わねえ時は断りゃいいだけだ……お、そろそろ出来たか?」
 久がカップ麺の蓋を開けると、中の醤油色のスープに浸った麺や具材が、セルシウスの視覚と嗅覚を激しく直撃する。
「くぅ……気が狂いそうだ!!!」
 空腹で辛抱たまらなくなったセルシウスは、自分の食事を購入するためコンビニ店内へと走っていく。
「助かった! 平たい顔の男よ!」
 セルシウスの言葉に久がズズズッと麺をすすりながら、片腕を挙げる。
「コンビニってのは、兎も角便利に選べて個々人の生活を豊かに、っつーコンセプトだからな。ま、よろしく活用してくれや!!」