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暴走の眠り姫―アリスリモート-

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暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 ――天御柱学院 イコン管理棟内

 天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)曰く、彼はアリサに会いに来たわけではない。パートナーである強化人間のフィオナ・ベアトリーチェ(ふぃおな・べあとりーちぇ)の定期健診の為に、彼女と貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)と天御柱に来ていただけだ。
 確かに前回、アリサの回収に立ちあっているが、彼女目的ではない。彼女に会いに来たのはヒロユキではなく、貴音だ。自分の執刀した初期強化人間の残りとして、かなりの興味があるらしい。前回のアリサが暴れたことを聞いて「アミトリプチリンとイミプラミンをちゃんと摂取させてたのかしら」と呟いていた。ヒロユキにはそれが何か分からないが、如何わしい薬の一種だろうと思った。
 それはさておき、ヒロユキは天御柱に来たが故に、機晶姫と剣の花嫁の暴動に巻き込まれてしまった。図らずとも、それがアリサの起こしている事らしい。ともかく、これではフィオナの定期健診どころではない。
「天御柱の面倒事に駆り出されたみたいなったが、道を阻むなら止むを得ないか。この暴動を止めるぞ!」
 ヒロユキが【賢者の杖】を構える。
「あ、ごめん。わたくしはフィオナとアリサを探しますわ。ここはヒロユキによろしく頼みますわよ」
「まー《フォースフィールド》位はかけれあげるから。じゃあねー!」
 薄情にも程があると思うが、彼女らは危機的な今よりも興味の対象を観に行くことのほうが最優先だった。
「お前のパートナーも暴走している口じゃないか?」
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)が《ポイズンアロー》を放ち、言う。貴音は剣の花嫁だし、フィオナは強化人間だ。アリサに操られていても不思議ではない。しかし、大丈夫だ。彼女たちは自分の好奇心で暴走しているだけだ。貴音の執刀の結果、アリサがどのような力を持ったのか間近で確かめたいのだ。
 魔法を使えばいいものを、ヒロユキは杖を持った手を《龍鱗化》して、機晶姫を殴り飛ばした。少し苛立っていた。《凍てつく炎》を重ね、機晶姫一体を氷漬けにした。
「うむ。血を吸えないのは些かつまらぬが…… 学校見学よりは面白い」
 レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が機晶姫の頭を掴み《サンダーブラスと》を放つ。機晶姫はスパークすると、その動きを止めた。自分に掛かる幾らかのダメージは気にしない。
「私はちっとも面白く無い! 書類は出したんだから早く帰りたいのに!」
 林田 樹(はやしだ・いつき)は帰り道を塞ぐ機晶姫に苛立ちを覚える。《二丁拳銃》《スナイプ》で彼女らの機晶石を壊してやろうかと考える。未契約の機晶姫だから遠慮することも無い。とにかく、イコン書類を学院に提出するのは終わったし、一秒でも早く、教導団に帰りたかった。連れの緒方 章(おがた・あきら)も大いに賛成する。「あんなヤツのいる学院だからね」と。
 樹と章は兎に角、この学院に居る“アイツ”には会いたくなかった。
 しかし、そういった時にあってしまうのが、世の常だ。大抵のいい事と悪い事は、人の都合を無視してやってくる。
 章の《殺気看破》が警鐘を鳴らす。抜刀の姿勢を作り、樹の背後へと回った。
「教導団から来客が来ていると聞いていましたが、それがキミだとは驚きです。樹――。そして緒方くん」
 教員服に身を包む。アルテッツァが微笑む。彼に対し章は眼光鋭い目を見せ「……やはりお会いしましたね、先生」と挨拶する。
「あら、ゾディ丁度見つかったのね」
 と、遅れて登場するヴェルが言った。
「ヴェル。何かわかりましたか?」
 アルテッツァがアリサについてわかったことを訊くが、ヴェルは「ゼンゼンよ」と答えた。
「ま、詳しいことは校長室に居る子たちがどうにかするでしょ」
 ヴェルはそんな事よりも、ここの切迫感をみたくてたまらなかった。樹と章のアルテッツァに向ける険しい目を見て、いい時に来たと思った。
 「アルト……お前正気か?」と樹が尋ねる。研究所で有ったときの野獣のような彼と別人のような穏やかさだ。
「正気も何も、ボクは昔から変わっていませんよ。寧ろ、一度キミに撃たれたことで、聖人にでもなれたのかもしれませんね」
 その銃創に悪魔の契約印を刻んだ男が微笑み言う。樹の心に自身への疑念が湧く。
「あなた方、学院の先生なんでしょう? なら手伝ってくださいよ。面倒な剣の花嫁まで来ましたよ」
 ロアがそう云う。彼の武器は【和弓】であるため、機晶姫の装甲に矢が阻まれやすいし、この場の人間は章を除いて近距離戦向きではない。
「わかりました。確か、見学にきたドゥーエ君でしたね。ボクが緒方くんと前に出るとしましょう」
 アルテッツァは【処刑人の剣】を抜いて、構えた。
「我々と共闘されるなら、背中から討つのはご容赦下さい。先生――」
 そう、願う章に対して「大丈夫ですよ」とアルテッツァが言い、続けてこうも言った。
「キミを討ち倒す時は、正面から完膚なきまでに叩きのめして上げますから」
「アキラ! 私も前に出る! 【ヒロイックアサルト】で一気に畳みかけるぞ」
 アルテッツァを警戒しての判断だ。後衛はもとより、多くいる。
 ロアはドロドロの大人の恋愛模様を見て、少し嫌気が刺した。