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リアクション
第四章 深夜の来客
「ねぇ、ボク、ちょっとお願いがあるんだけど……」
帽子を目深に被った2人が、近くを歩いている男の子を手招きする。子供は怪しんだものの、好奇心が優ったのか、ゆっくり2人に近づいた。
「これで、ラムネとアイスクリームを2つずつ買ってきて欲しいの。おつりはお駄賃にして良いから」
「わかった!」
男の子はお金を受け取ると駄菓子屋へ走る。
やがて戻ってくると、ラムネとアイスクリームの入った袋を差し出した。もう一方の手にはお菓子の入った袋を握っている。
「どうもありがとう」
男の子が駆け出して行くのを見送った2人は、周囲への警戒を怠ることなく、ラムネとアイスクリームを取り出した。
「冷たくっておいしいですねぇ」
「そうね」
駄菓子屋の一角を借りて、子供達の相手をしているのが、火村 加夜(ひむら・かや)とパートナーのミント・ノアール(みんと・のあーる)、蓮花・ウォーティア(れんか・うぉーてぃあ)だった。
『涼司くんの頼みなら……』と、加夜がそこで子供達の勉強を見ている。
丁寧で要点を付いた説明に、最初そわそわしていた子供達だったが、次第に大人しく勉強するようになってきた。
ミントは村木お婆ちゃんを始め、働いている学生達にお茶や冷水を配っている。蓮花はパソコンを使って、在庫管理や売れ行き調査を行っていた。多くの学生の協力もあって、ラムネもアイスクリームも在庫が確実に減っている。
「加夜、この分ならかなり売れそうよ。盆踊り大会もあるそうだし、良い線いくんじゃないかな」
「よかったぁ」
「山葉くんのお願いなら……だもんね。そんな加夜を手伝う私も苦労性よね」
「きちんとお礼はしますから」
「じゃあ、はい」と蓮花目を閉じては唇を突き出した。冷たい感触がしたかと思うと、アイスクリームだった。
「それを食べて休憩してくださいね」
子供達のところに戻っていく。
「はーい」
蓮花はアイスクリームを食べようと思ったが、ミントが見ているのに気付き、「ほら」と差し出した。ミントは「良いの?」と言いたげだったが、おいしそうに食べた。
そんな加夜のところに、アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)が覗きにきた。
「面白いことやってるね。これもお手伝いかい?」
「はい、みんなの手助けになればと思って」
「どれ……」
アトゥも子供達の宿題を見る。小学校の中ほどはなんとかなりそうだが、高学年の、それも算数や理科となるとおいそれと手を伸ばせなかった。
「今はいろいろと変わってるんだね」
「はい、私も苦労してます」
「伸び伸びと遊べるのは子供の内だけなんだけどね。でも小さい時から苦労をしておけば後々楽だし、難しいところだよ」
ラムネを飲みながら、アトゥは遠い目をした。
ラムネを使ったオリジナルドリンクもいろいろ発売されたが、大人に好評だったのが和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)の作ったラムネと野菜水を混ぜたものだった。
── 逆に健康面に気を使ったラムネ ──
そう考えた絵梨奈はビタミンなどがたっぷり入った野菜ジュースやフルーツジュースをラムネに混ぜてみた。
「少し……甘ったるい……かも」
試行錯誤の末、野菜水を使うことを思いついた。
「ビタミン豊富なだけでしたら野菜ジュースでも良いですけど、微炭酸で食欲増進なのもウリになりそうですね」
恐る恐ると言った来店客も、飲みやすさや飽きることの少なさで、評判は上々だった。ただし子供達には野菜と聞くだけで、敬遠されてしまうのが絵梨奈には悩みとなった。
芦原 郁乃(あはら・いくの)と荀 灌(じゅん・かん)は移動屋台を引きながら、ラムネとアイスの販売に精を出していた。ただし今回は健気な姉妹風である。
郁乃はちぎのたくらみで幼女になり、姉役の荀灌を手伝う形を装う。
荀灌は「お姉ちゃん、やっぱりやめようよ……恥ずかしいよぉ」と最後まで抵抗したが、郁乃に引っ張られる形で協力することになった。
その売り方も手が込んでいる。
あるところでは……
「お姉ちゃんつかれたよぉ〜」
「お母さんが全部売るまで帰ってくるなって言ってたでしょ、我慢してね」
「はぁ〜い ラムネとアイス買ってくださぁ〜い」
のように幼い妹としっかりものの姉な体を演出。
別な場所では……
「おにいちゃん、買ってくれると嬉しいな」と上目遣いに口元に握りこぶし当てて甘えてみる。
また違うところに行くと……
「買ってくれないの…(グスン)泣いちゃう…」なんてうるうるお目目で訴える。
それがどこかネタと分かるように過剰な演技を織り交ぜて展開されていた。
「あのね、女の子2人で売って歩いても面白がって買う人だけでしょ? そ・こ・で、ちょっと貧しい姉妹風にして売り歩くというわけ」
「それは分かるんですけど……」
「あぁ、もちろんほんとに貧しい体にしたら、だましちゃうことになって後味悪いからネタってわかるようにはしようね」
「あのぉ……それなら最初から普通に売った方が……」
「普通に売ってちゃつまんないじゃん!」
郁乃のたくましさに引っ張られて、郁乃&荀灌の2人劇場は町のあちこちで開催された。
「ラムネとアイスクリーム、いかがですかー」
セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は空京の町を売り歩いた。
ティーンエイジの女の子とリヤカーの組み合わせは、否が応でも人目を引く。暑い最中とあって、ラムネもアイスクリームも飛ぶように売れる。
「駄菓子屋にもどうぞ。盆踊り大会もありますよー」
宣伝にも熱がこもった。
「ラムネとアイスを3つずつ貰えるかな」
パートナーの2人を連れた樹月 刀真(きづき・とうま)がセシルに注文する。
「ごめんなさい、もうこれだけしかないんです」
セシルがクーラーボックスを開けると、ラムネが2本きりになっていた。
「そうか……」
「もしよろしければ、村木お婆ちゃんの駄菓子屋さんまでご案内いたしましょうか。そこならたくさんありますし、私も取りに戻るところですから」
「ついでがあるのなら頼もうか」
パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)を含めて、4人で駄菓子屋へと歩いた。
「こちらお客様です。ラムネとアイスクリームを3つずつお願いします」
「もう売れちゃったの? 無理してないだろうね」
「はい、皆さん、たくさん買ってくださるので」
セシルはラムネとアイスクリームを詰め込むと、再びリヤカーを引いていった。
「手伝ってくれる子もいれば、買いに来てくれる子もいるし、本当に果報者だねぇ」
ラムネとアイスクリームを3つずつ持ってくる。
「さ、そこに座って食べとくれ」
刀真達に日蔭にある長椅子を勧めた。月夜を挟んで白花と刀真が座る。
「ゆっくりしてってくれて良いからね」
村木お婆ちゃんは店の中へと戻っていった。
「たまには、こんなのも良いですねー」
ポツンとした白花のつぶやきに、刀真も月夜もうなずく。
白花がラムネのビンを光にかざしていると、横から月夜が白花のアイスクリームをペロリと舐めた。
「つ、月夜さん、ひっ、酷いです……」
「ごめん、いたずらしたわけじゃないの、ほら溶けかかってたから。ほら、私のあげるよ、あーん」
月夜は自分のアイスクリームを白花の口元に持っていくが、ショックが大きすぎたのか、白花は固まったまま。
「何、遊んでるんだよ。子供かよ、ほら、こっち向け」
刀真が月夜の顔を向かせると、口元から流れつつあるクリームを親指で拭った。そのままに親指をペロッと舐める。
その行為が月夜の心をピンと弾いた。顔が赤らむのを感じて、とっさに俯くとアイスクリームに没頭したフリをする。
── 別に普通のことだよね クリームが付いてたから指で拭いただけだし それを口に持っていくのだって ──
そこで刀真の“子供かよ”の言葉にも引っかかる。
── やっぱり私のこと子供に見えるのかな ううん 子供かよってことは子供じゃないってことだよね あーもう分かんなくなっちゃった ──
そんな風に考えている月夜の頭を、刀真がポンポンと撫でた。2人を羨ましそうに見ている白花の頭にも刀真は手を伸ばす。
しかし白花の反応は刀真の考えていたものではなかった。
「そろそろ行くか」
刀真がラムネのビンを返す。月夜はアイスクリームの棒を片付けるものの、刀真のだけはこっそり隠し持った。
「あっ!」
つまずいて転びそうになった白花を刀真がタイミング良く抱きとめる。白花はそのままに左手を抱きしめる。
「えいっ!」
今度はそれを見た月夜が刀真の右腕に抱き付いた。
刀真は『歩きにくいなぁ』と思ったものの、『こんな風が良いのか?』とさせるがままにして帰り道を歩いた。
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