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とりかえばや男の娘 三回

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とりかえばや男の娘 三回
とりかえばや男の娘 三回 とりかえばや男の娘 三回

リアクション

「4つ目の封印が解かれた!」
 竜胆が喜色をたたえて言う。
「後一つで、聖剣が手に入る!」

「させるか!」

 ヤーヴェがほたえた。そして、奈落人達をけしかける。

「何をグズグズしている。奴らを殲滅せぬか!」

 しかし、奈落人達は契約者達の敵ではないようだ。次々に倒されていく。それを見たヤーヴェはついに実力行使に出た。

「いくら、封印を解いても、5つ揃わねば剣にはならん。さらに、9つの封印を解かねば我を倒すほどの力にはならん。そうなる前に、自らの手でうぬらを倒してくれよう」

 そして、ヤーヴェは部屋中を火の海に変えんとばかりに炎を吐いた。炎は竜胆達にもせまり、その身を包まんとする。

「竜胆!」
 藤麻が竜胆をかばうように前に出た。とてつもない熱さが二人を苦しめる。
「危ない!」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は二人にダッシュローラーで駆けつけると、とっさにファイアプロテクトを唱えた。竜胆達の炎熱魔法への抵抗力が高まる。
 やがて、炎が収まった。
 藤麻が泰宏に礼を言う。
「かたじけない。おかげで竜胆の命が救われた」
「なに、たいした事じゃない」
 泰宏が答える。
「私は、純粋に藤麻さんを救ってやりたいと思ってきたぜ。その自己犠牲の精神に大いに感心させられたぜ。お前はまさに「漢」と呼ぶに相応しい人物だな」
「それほどの事はない」
 藤麻が謙遜する。
「それにしても……」
 と、泰宏は辺りを見回した。
「惨憺たる状態だぜ。氷結属性の魔法をつかえる奴や、炎に強い者は辛うじて難を逃れたようだが、他の者の多くは気を失ってしまっているぜ。なんとかしてやらなきゃな」
 泰宏はそう言うとリカバリを唱えた。多くの傷ついた者達の傷が癒され目をさます。
「おのれ」
 ヤーヴェは再び火を吐こうとした。
「そうは、させないよ!」
 と、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が飛びかかっていった。
「ついにヤーヴェに仕掛けるんだね! 魂だけになっても呪いをかけるくらいだから弱いことはないよね? 烈火の戦気がピンクに燃え盛るような楽しめる強敵だといいな〜」
 どうも、戦いを楽しんでいるように見える。
「なんだ? お前は?」
 ヤーヴェは燃えさかる指先で、透乃を捕まえようとした。
 普通なら、この暑さの中耐えきれるものではない。
 しかし、梟雄(ラヴェイジャー)である透乃は、元々炎熱耐性持ちで更に武装とスキルに全部合わせて5つの炎熱耐性を持つものがあるから炎は大して問題ではない。透乃に炎が効かぬと見るや、ヤーヴェは口から毒の息を吐いた。
 透乃は不動の護気と肉体の完成で毒に耐えきる。
「それだけ?」
 透乃は首をかしげて言うと、
「じゃあ、今度はこちらからいかせてもらうね!」
 と、炎熱の烈火の戦気を纏わせ、金剛力でヤーヴェの腹を打つ。
 この戦い方は、相手も炎を使うからあまり効果的ではないかもしれないが、それでも、透乃が透乃らしさを貫くために、この攻撃方法を使っていく。
「ぐはあ……!」
 打たれたの痛みに、ヤーヴェが炎を吐く。
「これは、いけませんね」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はそう言うと、絶対闇黒領域で強化したブリザードを撃った。見る見るうちに炎が氷の嵐にのまれて消えていく。
「貴様ら!」
 ヤーヴェは目を血走らせて透乃に襲いかかって来た。そして、目にもとまらぬ早さで手にした剣を次々と繰り出して来る。透乃は行動予測で巧みに剣をかわした。
 しかし、ヤーヴェの攻撃が早すぎて、防御に徹するばかりである。
 そこへ、再び陽子が絶対闇黒領域で強化したブリザードを撃った。氷の嵐がヤーヴェの肩を撃つ。
「ぐは……!」
 ヤーヴェはうめき声を上げて肩を抑えた。その隙を狙って、陽子は絶対闇黒領域で強化したアルティマ・トゥーレでヤーヴェの反対側の攻撃。
 透乃は、地面を蹴り上げて高くジャンプするとチャージブレイクした烈火の戦気ヤーヴェの肩に一発入れた。氷の嵐を受けた後の炎熱攻撃である。さしものヤーヴェもその痛みに悲鳴を上げる。
 息をつかせる間もなく、透乃はヤーヴェの腹に一発入れた、さらにみぞおちに一発。次々繰り出される拳打にヤーヴェは翻弄されているようだ。とはいえ、強大な敵だ。どれだけダメージを受けてもすぐに回復してしまう。
「こうでなきゃ!」
 透乃は完全に戦いとスリルを楽しんでいた。その証拠に、彼女の烈火の戦気がピンクに燃え盛っていた。



 山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)は、仲間のうちの誰よりも早く聖剣の封印を解くために走り出していた。
 彼女の心境としてはこんなところだった。

 聖剣!なんて主人公らしい武器!!
 ふふ〜ん、あたしが持つにふさわしい武器ね!
 ……よーし、竜胆を護ってやるついでに鬼退治といきますか!

 3つの質問への答えはもちろん用意してあった。

『生きる上で一番大切な事は、目立つ為よ!…だって、そうしないと誰もあたしを見てくれないでしょ!

 一番嬉しかった事は、あたしに付き従ってくれる部下を見つけた時よ!(パートナーで友達とミナギが思っている玲の事)

 生まれてから一番悲しかった事は、誰もあたしを見てくれない…そんな退屈で寂しい時なんてもうごめんよ!(玲達と会う前全般)』

 しかし、肝心な宝玉をもらってくるのを忘れた事に獅子神 玲(ししがみ・あきら)に指摘されてがっかりしたところだ。おまけに、玲は封印を解く事よりも目の前で繰り広げられるヤーヴェの戦いに目を奪われているようだ。

「……ああもう……あなたの様な存在……イラつきます……」
 玲はヤーヴェを見上げてつぶやいた。
 イラつく……確かに玲はヤーヴェにイラついている。が、しかし、その実、自分がヤーヴェに一番影響を受けやすい人間だという事も自覚していた。
 同族嫌悪とても言うのだろうか? いや、むしろ魅かれているといったほうがいいのかもしれない。ヤーヴェを見るたびに、自分の中の鬼神力が暴走しかけるのを必死で押しとどめている。幸い、彼女には理解者がいるので、それも彼女の暴走をとどめるに至っていた。

 玲は、サラマンダーの加護とエンディアで防御を固めると、ゲシュタルを持ち、ヤーヴェに向かってかかっていった。そして、その足元をなぎ払おうとする。とてつもない重さの斧がヤーヴェの脛を打ち炎がほとばしる。
 
 ヤーヴェはギロリと玲を見下ろすと、笑いながら喉首をかっきろうとした。その目にはなんの良心の呵責もない。ただ、殺戮を楽しむのみ。ヤーヴェとて、かつては生んだ母もおり、愛する家族もいたであろう平凡なマホロバの住人だったはず。その事に思い至ると、玲の心は激しく波打った。

「……あれは絶対に倒すべきです。……心を欠いた存在など許さない。……私はあれみたいになってたまるか!」

『何を抵抗する?』

 ヤーヴェが玲に語りかける。驚く玲の顔をヤーヴェは深淵を覗くがごとき目で見つめた。全てを見通すような目……。

『何を逆らう? 心の流れのまま生きよ。お前の中の邪悪さに身を任せよ』

 その言葉に、玲の中の鬼神力が反応する。そして、目の前におぞましい幻が見え始めた。それは、玲が一番見たくない光景だった。それは、過去。哀しい過去だ。

 玲は、祖先がマホロバ人との混血で、地球において力の暴走により、当時の親友(沙織)と剣道を失った。

 今、目の前であの日の光景が再び繰り広げられる。

「やめろ!」

 玲はそれを振り払おうとした。しかし、幻覚は消えない。

「どうしてこんなものを見せる?」

 悲しみ、後悔、慚愧。

 そして、玲は叫ぶ。

「……力の暴走で…私の一番大事だった人と志(みち)を失った事…この半人半鬼の血が憎い……」

 普段の旺盛な食欲は戦闘衝動を抑える為のもの。

『何も悔やむ事はない。お前は間違っていない。お前は自分の力の欲するままに生きればいい』

「言うな!」

 玲はその言葉に耳を塞いだ。


 その時、誰かが背中をたたく気配がした。そして、明るい声が聞こえる。

「……って、ほら! 玲!! 何、ぼさっとしてるの! それでもあたしの相棒なの!?」
「!」
 ふいに我を取り戻し、振り返ると、ミナギが立っている。
「ちっ」
 ヤーヴェの舌うちが聞こえた。そして玲は気付いた。どうやら、自分はヤーヴェの術にかかっていたらしい。そして、自分は再びあの悪夢を繰り返すところだったのだ。
 ヤーヴェが炎の腕を振り下ろして来る。
「いっけぇ〜!」
 ミナギは女王の加護と銃舞で攻撃回避すると、アルティマ・トゥーレを放った。
「ありがとうございます。ミナギ」
 玲はミナギに礼を言った。自分は操られかけた。その事を思うと、尚更この邪鬼が許されない。
「そのまま、私を支えていてください」
「大丈夫よ、ホラホラ」
 ミナギがパンをさしだす。
「ありがとう」
 玲は一瞬だけ笑顔を見せると、ヒロイックアサルトで金鬼を展開。金色の髪と一本角を生やした狂戦士となる。そして、ヤーヴェに向かって言った。
「……聖剣とか魔剣なんて関係ない。私の心の平穏の為に……死ね」

 それから、スタンクラッシュでゲシュタルをヤーヴェに叩きつける。

 ……あれの様な存在になりたくないと自分に言い聞かせて。



「さて……争いは好まないが友の為に頑張らせて頂きますか」
 獅子神 ささら(ししがみ・ささら)は宝玉を手に走っていた。目的は、もちろん封印の解除だ。
「ヤーヴェとの戦いは玲達にまかせておけばいいですからね」
 ささらの言葉に藤原 千方(ふじわらの・ちかた)が答える。
「ふむ……我はどちらかと言うと鬼を従えさせてきた方だからな……鬼退治など性に会わん。仕方ないので聖剣を取りに来る奈落人の相手でもするか……」
 その二人を狙って、四方から手裏剣やくないが飛んで来る。どうやら、忍び達の来襲らしい。しかし、姿が見えない。
「どこだ?」
 ささらは辺りを見渡した。
「我にまかせよ」
 と、千方は広目天の霊眼を使った。忍び達の隠れ身が解除され姿が露になると共に光輝属性の魔法が襲いかかる。
「痛いかろうさ」
 千方は笑った。さらに、ヒロイックアサルト、三鬼招来「隠形鬼」で強化したブラインドナイブスで忍者達を攻撃。忍び達は悲鳴を上げて次々に倒れて行く。
「さすが」
 ささらは走りながら言った。
「これならすぐに石像にたどり着けます」
 ところが、
「うん?」
 千方は倒れている忍び達の中に女がいるのを見つけてふと足を止めた。
「……そこに居る貴様はお蝶か?」
 そう。そこには、前回千方達が戦ったくのいちのお蝶が紛れ込んでいたのだ。
「ああ……私は、なんでこんなところにいるの?」
 お蝶は哀しげに首をかしげる。
「私は、イルミンスールに向かったはずなのに。知らないうちに変なお屋敷に入ったと思ったら、変な穴に吸い込まれて……」
 実は、お蝶は道に迷った上に日下部屋敷に入り込み、さらにナラカに通じる穴に迷いこんでしまったのだ。
「本当に駄目ね。目的地を間違うなんて」
「何を言っているのだ?」
 千方はお蝶に近づき、その顔を持ち上げた。
「きゃあ!」
 お蝶が恐怖に身をこわばらせた。
「あなたは……!」
 お蝶の脳裏に恐ろしい記憶が蘇って来る。千方は笑いながら言った。
「ククッ……愛しすぎてつい殺してしまったが……我に会いに来たのか? まあ、最後まで抵抗して我のものにならなかった貴様が悪いが」
「ち……違います。わ……私は、まだ、死んでなどいません……」
 そう、あの後、お蝶は変わり身の術で巧みに千方の魔手を逃れていたのだ。
「どちらでもいい……どれ、もう一度愛してやるから来るがいい。存分に愛してやろう」
「ああ! ……許して下さい」



「まったく……何をやっているんでしょうか……」
 ささらは呆れたようにつぶやくと、石像に宝玉を捧げた。
 そして、3つの問いかけに答える。

「大事な事は、仁義、友愛、人情ですね。……模範解答? ぷくく……そう見えるんだったら、あなたねじ曲がってますよ。……人たるもの大事にしなければいけない要素ですよ、両刀遣いを舐めないで頂きたい。
 嬉しかった事は、今この時この瞬間、友の為、愛する者の為に行動している今こそが最高に嬉しいんです。
 哀しかった事は、自分が男だったと知った時。……でもね、吹っ切れましたよ。今じゃ、感謝すらしている。ワタシは両性を愛させると知りましたからね」

 聞き終わると石像は言った。

 ……汝の言葉、胸に響いた。聖剣の欠片を受け取るがいい。これで剣は本物の聖剣となった。魔剣になる事はないだろう。