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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード! 【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

リアクション

 パレードが続くコース上には、警備員の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)がいた。
 警備員も仮装という指示を受けていたが、パワードスーツ等で完全武装した彼の場合、「そのままでもハロウィンぽい」という特例で、いつもの姿で警備の任務に当たっていた。
「しかし、この姿。不審人物を間違えられるのではないでしょうか?」
 最初はそう危惧していた剛太郎であるが、思いの外、観客に「ここはパレードがいつ通る?」や「トイレどこ?」といった質問を受けていた。
「トイレはここから少し行ったところですよ」
「ありがとう! 警備頑張ってくれよ」
 去っていく観客に手を振る剛太郎がふと彼を呼び止める。
「あの? 何故……自分がパレードの警備員だとわかったのでしょうか?」
「え? だって頭に書いてあるじゃん?」
「?」
 観客が剛太郎に手鏡を見せると、彼のパワードヘルムに黄色のペンでカボチャの落書きが書かれてある。
「ソフィアの仕業か……」
 ハロウィンの魔女のコスプレをしていたパートナーのソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)を思い出し、少し頭にきた剛太郎であるが、どうしようもないし、寧ろ警備員だとわかって良いか、とそのまま雑踏警備を継続していた。巡回しながらも、たまにチラチラと可愛い女の子がいないかチェックしながらの警備である。
と、パワード装備付属の無線から、ソフィアの声がする。
「剛太郎? こちらソフィアですわ。聞こえますか、どうぞ?」
 無線を取る剛太郎。
「剛太郎です。何かありましたか?」
「あら、少し不機嫌ですわね? あ、わかりましたわ! 可愛い女の子に近づいてみたら、実はトイレに行ってた彼氏付きだったてところかしら?」
「それはあなたでしょう? 自分が不機嫌なのは誰かにされた落書きのせいです」
「ふふふ……それがハロウィンならではですわ。剛太郎、わたくしにお菓子をくれませんでしたもの。トリックオアトリートですわよ?」
 剛太郎とソフィアの警備業務は、パレードのコースの決められた範囲内をソフィアと巡回する事である。この際、剛太郎は地点xからyへ向かい、ソフィアは地点yからxへ向かい、概ね二人の中間地点で二人が交差する様に何往復も巡回するという風にしていた。
 ソフィアが今いるのは、タイムスケジュールから言えばパレードコースの先。まだパレードの先頭が到着したかしていないかの地点である。
「それで、何のようです?」
「ええ。実はわたくし、いつでもナンパOKの勢いで来ましたのに、思い切ってイケメンに逆ナンしようと思っても、所々で剛太郎から無線が入ってはいちいち応答してて、なかなか逆ナンが出来ませんわ」
「……ソフィア。仕事しましょう」
 剛太郎の無線を聴きつつ、イケメン探しに余念がないソフィアは道行く人間観察をしていた。
「してますわよ。イベントの雰囲気を堪能しようつつの警備を。と、それでですね。今わたくしの居る地点で、またわたくしのイケメン探しを邪魔する存在が現れたのです。……いえ、正確に言えば、まだ現れてはいらっしゃらないですけど、確実に来られますね」
「どういう意味です? 少し暴れる観客ならば上品に尋問するのでしょう?」
「……相手が人間ならば、です。剛太郎? 空をご覧になって。綺麗な月の下に、何か蠢く物が見えませんか? わたくしのポイントでははっきり見えてしまいますのよ」
 剛太郎が空を見上げ、目を凝らす。
 確かに、月の下に何かいる。しかも、移動している。
「あれは……?」
「恐らく、パレードの光に集まる虫ですわね……」
 剛太郎は即座にソフィアとの無線の他に用意していた警備本部の無線を手にする。
「こちら、剛太郎。警備中の全警備員に告ぐ。現在、上空より飛来する物多数! 即座に対応に当たられたし! 繰り返す……!!」


「そうか……わかった。宜しく頼む」
 衿栖と未散の放送が続く中、TV局から借りた携帯を切る統。
 ちなみに、ハルのカンペは、本番直前に統によってすり替えられていた。
 その中身は『教導団団長の顔に落書きした絵』等、見たら思わず吹き出しかねない物がトラップとして入っており、アイドルの二人に大きな試練として立ちふさがっていた。
 丁度、CM休憩に入った時、未散がハルに詰め寄る。ハルの狼の尻尾が怯えたように丸まる。
「ハル!! あのカンペは何だ!! ちゃんと……」
「未散!」
 統の声に突進していた未散が振り向く。
「何、神楽さん?」
「少しプラン変更だ。おまえは衿栖と別れ、空へ上がって貰う」
「へ?」
「衿栖の地上と未散の空のダブル中継をするんだ」
「ちょ!? ちょっと待って!! 神楽さん。そう言うのは衿栖の方が絶対向いてるよ! 第一私、スカートだし……」
「未散さーん! がんばろうねー!」
 既にやや遠いところに避難していた衿栖が手を振っている。
「衿栖!? いつの間に!? あ、逃げた!?」
「ほら、行くぞ?」
 衿栖が「……頑張ろうね、本当に」と呟きつつ、統と共に小型飛空艇へ乗り込む未散を見送るのであった。


 剛太郎とソフィアから伝えられた『虫襲来』の速報は警備員達に直ぐ様拡散されていた。
 ただし、全ての人員を総動員するわけにはいかず、主に空中警備担当者が動員された。
 小型飛空艇オイレで警備に当たっていた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)も動員を受けた一人である。
「警備しながら、パレード見物しようと思っていたけど……何か面倒な事になってきたなぁ」
 借り物のヴァンパイア風コスプレをした淳二が飛空艇の舵を切りながらそう呟く。
 上空から見ると、パレードの列だけは煌々と明るいが、後は殆ど闇の大荒野である。沿道の屋台の光や灯りがわずかに見える程度である。
「満月だから少しは視界も見やすいけど……さてさて、どうなるのかな?」
 そう呟いた淳二に、精神感応で呼びかける声が聞こえる。
「淳二?」
「芽衣か……御免ね。退屈だろう?」
 地上に置いてある淳二のイコン疾風迅雷のサブパイロット席には、パートナーの如月 芽衣(きさらぎ・めい)の姿があった。こちらも借り物の魔女のコスプレをしている。
「退屈で死にそうやわ。しかも何かトラブル起こっていよいよ出動! ……て思うたら空やん!」
「疾風迅雷じゃ空はちょっと移動出来ないからね」
「はよ、地上まで誘いこんでや! そしたら私がランチャーで破壊したるから!」
「地上まで呼び寄せたらハロウィンパレードにも被害が出るだろう? 何もないといいけど、何かあったらすぐに動けるようにしておいてくれ」
「了ー解!」
 芽衣との精神感応の会話が終わる。
「さて……俺も俺の出来ることをしようか……」
 愛用の妖刀村雨丸を片手にした淳二が、虫の大群へ先陣を切って小型飛空艇を走らせる。
 その傍を二つの光が小型飛空艇を追い抜いて高速で駆け抜けていく。
「な、何だ?」
 淳二が呆気に取られていると、小型飛空艇の傍に、ハロウィン用に妖精ぽくデコレーションされた赤いパワードスーツ姿のセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が近づく。
「淳二ちゃん、元気ぃ?」
 ヒラヒラと手を振るセラフ。
「セラフ? どうして?」
「あたしは下でのんびり楽しみたかったんだけどなぁ〜。まぁ、警備特権でお互い上からの眺めを楽しみましょぉか? じゃ、淳二ちゃん、頑張ろうねぇ!」
 のんびりした口調でそう言うと、セラフは淳二にウインクして速度を上げて飛び去る。


「そうだ。お前たちは作戦通り行動しろ。動きは僕の銃型HCでモニターしているんだ」
 通信を終えて眼鏡をクイと直したのは、警備員の湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)である。
「(学校の広報として目立つのは悪くはないけどな……山葉先輩の従兄弟ってせいか、最近、聡さん絡みの仕事が多いぜ)」
 凶司の目の前では、ダンサーとしてパレードに参加していた山葉 聡(やまは・さとし)サクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)の乗るコームラントがダンスの真っ最中である。
 先ほどまで周囲を飛び回る赤・緑・青の妖精姿のメカ娘と共に踊って上機嫌だった聡から、凶司に通信が入る。
「はい? 何です、聡さん?」
「凶司! あのカワイコちゃん達は何処行ったんだよ!」
「……ええっと。少し空で問題が発生したのでその対処に向かわせましたが……」
「何ぃーー!? パレードを放っといてかよ!?」
「(有事の際はちょっと出かけますよって言っただろうがぁぁーッ!!)……聡さん。僕達本来は警備員なんです。どうかご理解の程を……」
「チッ、テンション下がったぜ」
 そこにサクラが通信に割り込んでくる。
「聡さん。仕方ないですよ。ホラ、凶司さんを困らせると、校長に怒られますよ?」
「(そうだ! よく言った、サクラ!!)ハハッ……でも聡さんとサクラさんのイコンを使ったダンスは大ウケしてますよ。彼女達が居なくても全然平気ですよ」
「……そうか? なら、後でナンパする時、成功確率がアップするか?」
「(……三次元の事なんて知るか)ええ、間違いないですよ!」
 聡が上機嫌に戻り、通信を切る。
 一層激しく踊り狂うコームラントを見つつ、凶司はバックアップとして上空の情報を三姉妹と他の警備担当に伝達し、効率的な警備がひけるような管制を再開した。
「西南西の方向より大型昆虫が来ています。こちらから三人向かわせましたが、状況は未だ不透明です。各自、地上のパレードに虫達を近づけない事を最優先に対処して……」
 そこまで凶司が言った時、銃型HCに通信が入る。
「凶司ちゃぁぁん!! なんかぁ、この作戦駄目っぽいよぉ、あたし達の照明よりパレードの光の方が……えぇ!? キャアアァァ!! ……ザーザー……」
「セラフ? どうしました? ……おい、応答しろ! セラフ!!」
 途絶えた無線に凶司が舌打ちし、空を見上げる。巨大昆虫の群れは、ここから肉眼でも確認出来るほど大きく広がっていた。