校長室
【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
リアクション公開中!
ツァンダ(5) ツァンダのハロウィンパーティーが無事に終わり、ヤチェルたちは帰り道を歩いていた。 里也に誘われて入った道には街灯が少なく、人気も無かった。歩きやすいのはいいことだが、わざわざこんな道を選ぶ意味が分からなかった。 「おや、どうやら忘れ物をしてきたらしい。二人とも、ここで待っていてくれないか?」 と、ふいに言い出す里也。 「すぐ戻ってくる」 そう言って、二人の返答も聞かずに来た道を戻り始めてしまう。 道に二人きりで残されて、叶月は思わず溜め息をついた。今日は厄日かもしれない。 「こんなところで待ってろと言われても……」 と、周囲を気にするヤチェル。ベンチなどの腰掛けられそうなものは一切見当たらなかった。 すると、どこからか物音がした。 「ハロウィンにいちゃいちゃデートしてるリア充、爆発しろ!」 と、目の前へ現れる謎の人物。 はっとした叶月はとっさにヤチェルの前へ立つと、身構えた。 「何者だ、てめぇ」 「真・月光蝶仮面だ!」 と、こちらへ向かって光条兵器を振り上げる。 叶月は突っ立っているヤチェルを連れて攻撃を避け、安全な場所へ誘導した。 「お前はここで待ってろ」 「え、ええ。でも、月光蝶仮面ってどこかで聞いたことあるような……」 記憶を探るヤチェルだが、パートナーはすでに戦闘モードへ入っている。 光条兵器を避けつつ、相手との距離を詰めていく叶月。しかし相手からはあまり本気を感じられなかった。むしろ、八つ当たりされている感覚に近い。 お互いに攻撃を避け続けていると、月光蝶仮面が挑発した。 「愛しい彼女を守る気があるなら、もっと頑張れよ」 「はぁ!?」 一瞬心を乱された叶月がキックを繰り出すが、あっさりと避けられてしまう。 仮面の下で相手が笑う。挑発に乗らないよう、冷静に努める叶月。 「月光蝶仮面……って、あれよね?」 ようやく思い出したらしいヤチェルだが、今さら叶月が動きを止めてくれるとは思えなかった。 光条兵器をしまった月光蝶仮面は、拳を握った。堂々と勝負しようというらしい。それならこちらも、と、握った拳に力を入れる叶月。 そして両者が拳を突き出した、その直後――! 地面へ倒れたのは真・月光蝶仮面だった。だが、叶月は違和感を覚えてもやもやする。わざとやられたような気が……気のせいか? 「やっぱり朔ちゃんじゃない! もしかして悪戯?」 と、駆け寄ってきたヤチェルが仮面の外れた顔を見て首を傾げる。一方、叶月はぴんと来た。 「またお前らかっ! 隠れてないで出てきやがれ!」 がさり、物陰でカメラを回していた里也が姿を現す。すぐに叶月は怒鳴り散らした。 「わざわざこんな真似しやがって、ふざけんな! っつか、何度言えば分かるんだよ!?」 「ああ、いや、これは……その」 と、しどろもどろになる里也。 すると鬼崎朔(きざき・さく)扮する真・月光蝶仮面が立ち上がった。 「叶月の方こそ、何度背中を押せば――」 「うっせぇ、黙れ!」 ヤチェルは一人、状況を理解できないでいた。どうやら自分の知らないことのようだが、叶月がここまで動揺するのを見たのは久しぶりな気がする。 里也と朔にじっと見つめられ、今度は叶月がたじろぐ。 「な、何だよ」 「……良かれと思ってやったことなのに、まったく」 「相変わらず進歩が無さすぎだな」 そう言って二人は溜め息をついた。 「……っ、俺にだっていろいろあるんだよ!」 と、彼は怒鳴ると、ヤチェルへ言った。 「行くぞ」 さっさと歩き出す叶月。何だかよく分からないまま、ヤチェルは仕方なく彼の後を追った。 里也と朔の姿が見えなくなったところで叶月の歩みが少し遅くなる。 「ねぇ、カナ君。さっきのって……?」 「気にするな」 彼は苛立っていた。大人しく口を閉じたヤチェルだったが、見慣れた通りへ出たところでふと顔を上げる。 「あたし、嬉しかったわ。カナ君にとっては当然のことかもしれないけど……もしもあれが朔ちゃんじゃなくて、あたし一人きりだったら、確実に襲われてたと思う」 「……」 ちらりと彼女を見た彼は、突然その場に立ち止まった。決意にぐっと拳を握り、振り返る。 「そういえば、俺……言ってなかったよな」 「え?」 「……トリック、オアトリート」 叶月にしては珍しく、彼女をまっすぐに見つめていた。 目を丸くしたヤチェルは、ごそごそとポケットから手作りクッキーを取りだした。 「お菓子が欲しいなら早く言ってくれればいいのに。はい、どうぞ」 と、彼へ差し出す。 思わず叶月は受け取ってしまった。いや、こうなることは何となく分かっていたのだが、はっきり言えなかった自分が悪い。 「良かったわ、渡しそびれなくって」 にこっと笑い、先に歩き出すヤチェル。 心の中で舌打ちをして、叶月もすぐに隣へ並ぶ。 今度こそ彼女に言ってやろうと勇気を振り絞り、叶月は口を開いた。 「お前、さ……恋人、作らねぇのか?」 「何よ、いきなり。まぁ、欲しくないわけじゃないけど」 と、ヤチェルはどちらでもないような返答をした。 「じゃ、じゃあ――」 「あ! でも子どもは欲しいわ」 「は?」 言葉を急に遮られ、叶月は目を丸くした。 ヤチェルは彼の気も知らずに、無邪気に笑う。 「だって可愛いじゃない、小さい子って」 「お、おう……そうか」 と、叶月は俯くばかりだ。三度目の挑戦をする元気は、もう残っていなかった。 残念ながら、彼らが前へ進む日はもう少し先の話になりそうだ。 こうして、ハロウィンの夜は更けていくのだった……。
▼担当マスター
瀬海緒つなぐ
▼マスターコメント
参加して下さった皆様、お疲れ様でした。 その他の方も含め、ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 スウィートなハロウィン、お楽しみいただけたでしょうか? 今回はルールが少々ややこしかったため、判定に迷ったり悩んだりしましたが、お気に召していただけると光栄です。 それでは、またの機会にお会いしましょう。 ありがとうございました。