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悩める夢魔を救え!

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茸狩りへ行きましょうその2

 温泉旅館の経営を軌道に乗せ、お家再興をとパラミタにやって来ているテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)はひとりごちた。

「温泉旅館とは直接関係ありませんが、人助けも何かの縁。がんばるのです」

「ではよろしくお願いします」

美緒に声をかけられ、ゲートをくぐる。参考資料の茸の特徴をしっかりともう一度焼き付ける。

(1匹で暮らしてるハチなら、留守のときもあるでしょう。そのすきに茸を取ってくればいいのです!)

ひとつの巣穴から、ハチが飛び立ってゆくのが見えた。

「チャンスですねっ!」

巣穴にごそごそと潜り込む。ライトを使い、最奥部の栽培室に生えた茸の中から夢幻茸を選び出し、数本を摘み取った。ゆっくり方向転換し、巣穴から這い出したが、そこへハチが戻ってきてしまった。

「……!!」

羽を震わせ、メアービーは侵入者に容赦なく襲い掛かった。

「瑛菜さん…… あの、刺されてしまいましたのです……

 帰還お願いします……」

巣穴から這い出したままの格好に、にこやかな笑みを貼り付けたままテレジアは公園に帰還した。採取した夢幻茸はしっかりとその手に握られていたのであるが。


 笹野 朔夜(ささの・さくや)のパートナー、笹野 桜(ささの・さくら)は瑛菜から話を聞いて二つ返事で快諾したのだが、そこには裏があった。

(ハチさんに刺されても間抜けなことになるだけみたいだし、人助けもできるし。

 朔夜さんがこの間私のおやつを無断で食べた仕返しをするにはもってこいのシチュエーションですよ♪)

そ知らぬ顔で桜は言った。

「人助けのため茸狩りに行きたいので、朔夜さん、体貸してください♪」

「なんだかよくわからないけど……人助けなら」

桜はまんまと憑依に成功したのであった。

空京に遊びに来ており、ちょうど公園を通りかかかかったったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、夢魔の窮状を知ってすぐに茸取りの手伝いを申し出た。

「こんなの、パッと行ってサッと取っちゃえばいいのよ! 

 あたし、これでもピンポンダッシュが得意なんだから!」

セレンフィリティの言葉に、セレアナは呆れたように目をくるりと回した。

「……それってこういう場合、ヒット・アンド・アウェイって言うんじゃないの?

 第一、ピンポンダッシュとか迷惑なこと……

 ……それはさておきこの場合、それだけではは大雑把過ぎるわ」

そばで話を聞いていた桜は朔夜に憑依したままセレアナとセレンフィリティに声をかけた。

「お手伝いいたしましょう〜♪ 

 私が囮になりますから、その隙に茸をとってこられたほうが安全でしょう?」

「それはありがたいわ」

クールなセレアナが即座に話に乗った。

「ピンポンダッシュの要領で平気よぉ……」

セレンフィリティはあくまでも軽く考えているらしい。そこへ冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が声をかけてきた。

「私はノクトビジョンで巣の中の視界を確保できるし、神速も使えますからご一緒させてくださいな。

 面倒なことになったら蹴り技も使えますし」

「そうね。1人2人でするよりはそのほうが成功率も高そうですし」

確実性という点では確かにハチを相手にするメンバーがいたほうが良いとセレアナは頷き5人(現段階では4人+1だが)は協力しあうことにした。

「ではこちらからどうぞ」

美緒が声をかける。

「相変わらず、美緒は凄い格好をしているな」

セレンフィリティが言う。そういう本人も初冬だというのに、コートの下はメタリックブルーのビキニだけという露出度過多な身なりなのだが。
小夜子がふふっと笑って美緒に言った。

「サキュバスの格好とは大胆ですね、美緒さん。

 瑛菜さんが選んだみたいですけど、色っぽくてよく似合いますよ」

そしてふっと美緒の耳元に顔を寄せ、

「もし寒いのでしたら、いつでも私が温めて差し上げますよ?」

とささやいた。美緒が驚いて目を見張る。

「あはは。無論冗談ですよ。行って来ます」

ハチの巣そばに全員そろったところで、桜が言った。

「じゃ、私がハチをひきつけたところで声をかけますから、皆さん茸の方をお願いしますね〜♪」

セレンフィリティらが巣から少し離れたところに潜伏する。桜はそこでおもむろに憑依を解いた。憑依されている間、朔夜本人には意識がない。桜は巣から一匹のメアービーが出てくるのを見つけ、朔夜に言った。

「ここは夢の世界なんですけどね。あそこにいるハチさんを倒したら元の世界に帰れるそうですよ〜」

朔夜はそのシチュエーション的に不自然かつ情報の欠如した話を、何も、一点の疑いもなく素直に受け取った。

「ああ……そうなんですか。 ふーむ」

そして即座に対策を練りはじめた。

「……昆虫なら多分炎が弱点でしょうね。

 ハチさんの隙をついて蜂さんの背後から炎術で蜂さんを攻撃してみましょうか」

結論を出した朔夜は隠形の術を使ってメアービーの背後に回りこみ、炎を放った。

「……!」

いきなり攻撃されたメアービーは面食らい、次いで攻撃されていることに気づくと、すばやく反撃に移った。桜は本来の姿で、茸担当の3人に声をかける。

「今です〜!」

それからその場にいない誰かに向かって桜は言った。

「ハチさんが攻撃された事に怒って襲い掛かってくるかもしれません。

 皆さんはこういう風にいきなり攻撃とか、絶対にやらないで下さいね〜♪」

一方巣穴に潜り込んだ3人。小夜子があらかじめ頭に叩き込んでおいた特徴から、すぐに幾種類かある中から夢幻茸を選び出す。

「これですね」

セレアナが頷いて、大雑把なセレンフィリティが適当にむしった中から夢幻茸をより分けた。
外ではハチの激しい羽音と、桜ののんびりした声援が聞こえてくる。3人が茸を手にして出るまでわずか数分であった。外では朔夜が殺気看破でハチの攻撃を避けつつ、炎術で応戦している。小夜子がすぐに援護に回った。炎を避け、バランスを崩したメアービーに歴戦の武術で蹴りを見舞う。強い衝撃に吹っ飛んだメアービーに、セレアナがシーリングランスを見舞った。

「キミに罪はないけど、しばらくおネンネしててねー」

ほぼ同時にセレンフィリティが放電実験を食らわせると、さしものメアービーも気絶して落ち葉の絨毯の上に転がった。小夜子が夢線機に向かい、すぐに声をかけた。

「任務完了。全員帰還します。瑛菜さんよろしくお願いします!」

事情をすっかり誤解したままの朔夜が真相を知ったのは、それから随分経ってからだったという。