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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第13章 その温度は無限…アダマンタイトに限界なし!?story2

「また魔法少女の格好で作業なんて…」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)はしくしくと涙を溢しながら、炉の取っ手を回す。
「仕方ないだろ?人手が足りないらしいし」
「フィリップくんも手伝ってくださいよ!」
 さっきから待合室の椅子に座ったまま動かないパラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)をじっと見る。
「勘が鈍っている俺なんか、ツカサに比べたらいてもいなくても同じだ」
 むしろ足手纏いになるだけだ、と言い放つ。
「ま、人手が足りないなら俺も手伝うしかなさそうだが」
「じゃあ今、手伝ってくださいよっ」
「んー…そうしたいが、修理担当がたくさんいるわけじゃないから。俺は動かなくてもよさそうだ」
「いえ、何日も作業するんですけど」
 2・3日で終わるものでもないから、働いてもらわないとまたバテてしまう。
「まぁ、安心しろ…アイも手伝わせるし。シオンだっている」
 後者の助力はまったく期待できないが、いないよりはマシか…という感じで言う。
「いや…フィリップくん、勘が鈍ってるって、前回の作業で少し取り戻してるじゃないですかっ」
 サボリたいだけじゃないんですか!?と声のボリュームを上げる。
「いや、俺まだレベル1だから。お前みたいなレベル20と比較にならねぇから」
「うっ、ソレを言わないでくださいっ!!」
「…おとうさん、それ禁句…」
 追い詰められていく司を哀れに思ったアイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)が言う。
 彼だって好きで魔法少女になったわけではない。
 日々パシられ続け…気ついた時には、そのクラスになる相応の能力を身につけてしまった。
 ほぼシオンの企みなのだろうが、気づいたらそこまでレベルが上がったようだ。
「アイ、パシられるほうが悪いんだ」
「…そうとも言う…」
「ひ、酷い…アイくんまでっ」
「…ツカサ、手伝う…」
 フィリップにフォローしろと言われていたアイリスは、せめてお仕事を手伝おうと、すぐに溶かし始められるように、歩夢が炉に金属とそれを溶かす熱量となる液体を入れて用意しておいてくれた炉を掴む。
「ありがとう、アイくん…っ」
 今、この場にいるパートナーの中で、頼れるのはもはや彼女だけだ。
「はぁ…フィリップくんはそれでも…」
「ちゃんと監視しててやるから安心しろ!」
「監視って…ただ見ているだけじゃないですかーっ」
「そうよ、フィリップ。サボってばかりいないで、ちょっとは手伝ったらどうなの?」
 ふぅと嘆息したシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)はフィリップを睨みつける。
 だがしかし、シオンも同じようなものだ。
 中途半端に溶かしたやつを司に渡し、その後は炉にすらふれていない。
「互いに意見を出し合えば1人で観察するより、多くの事が見えてくる。つまりコレも立派なアゾートの嬢ちゃんの手伝いだぞ♪」
 明らかに誰が見てもサボリなのだが、人聞き悪いと顔を顰める。
 説得力がありそうな言葉を並べ、納得させる魔法の言葉になりそうな“アゾートのため”と言う。
「(えぇ…それは違うような…)」
 これ以上言っても、のれんに腕押し状態で動かないだろうと諦めた。
「壁の傷を隠したいから、アダマンタイトいっぱいくれる?」
「ぁ、はい。どうぞ!」
 ゼリー状になるまで冷気で熱を調節した金属を、コテにつけて美羽に渡す。
「…これも…」
「たっぷりつけちゃっていいわ」
「ん…分かった……」
「あぁ、もう炉の中が空っぽに…」
 片面を塗り終わる頃には、司のSPがつきかけてしまっている。
「もうっSPがー…」
「ってあら、ツカサってばもうへばったの?仕方ないわね。じゃぁ早速コレあげるわ♪
 司のために用意した枕団子と緑茶を、シオンがテーブルの上に置いてやる。
「美味しいです、ありがとうシオンくん」
「…ぁ、まだ沢山有るからツカサは安心して。これを飲めば、SPが回復するわよ」
「ぇ、シオンくんが回復アイテムを?…えぇ〜と…どうも…」
 彼女にしては珍しい善の行いだが、見るからに縁起の悪そうなアイテムだ。



 いつまでも休んでいないで動きなさい、とシオンに半ば強制的に待合室の外へ出された司は、アダマンタイトを溶かす作業に戻された。
「(さっきの妙なアイテム、どうしましょうか…)」
 ドクロマークのタブレットを見つめ、使おうか使うまいか考え込む。
 どうみてもSPタブレットの紛い物で、回復力があるとは思えない。
「…コレ、使う…」
 へなへなと座り込む彼にアイリスが本物の回復アイテムを渡す。
「うぅ、アイくん…ありがとう。って…これはー…」
 SPルージュを唇に塗ろうとするアイリスから、サッと離れる。
「アイが折角心配してくれてるのに、ソレはないんじゃない?」
「そ、そんな…」
「使わない……?…でも、SPがないと…、溶かせない…」
「(何のバツゲームなんですかぁああ!?)」
 心の中でそう叫びつつ、止むを得なくそれを使うと……。
「アダマンタイトの溶解作業がもう始まってるやないかぁー!」
「そこでやってるみたいだから、まずは見学させてもらおうよ」
 間の悪いことに奏輝 優奈(かなて・ゆうな)と、レン・リベルリア(れん・りべるりあ)が司の方へ駆け寄ってきた。
「あの、見学させてもらいたいんやけど」
「はい?ぁっ」
 唇に真っ赤なルージュを塗ったその顔で、振り返ってしまう。
「(はわわわー…!!?)」
「女の人みたいだから、聞きやすそうやね」
「(わ、私が女!?)」
 その格好で間違われた司は心に200のダメージを受けた。
「よかったじゃない、ツカサ。見学してもらいなさいよ」
「(こんな格好だから今日は…って、断るのもなんか感じ悪いですし。見てるだけっていうわけでもなさそうですから、この羞恥に耐えるしかないですね…)」
 興味津々に目を輝かせる優奈のために、ツカサは再び取っ手を握る。
 ファイアストームの炎が、司の手を回りに激しく渦巻いたかと思うと、それは炉に触れている彼の指先へ集まっていく。
「なんて激しい炎なんや…、つーか、熱くないんか…?」
 普通に考えたら大火傷してそうな紅蓮の炎を目の前に、優奈はごくりと唾を飲み込む。
「大丈夫ですよ。魔力の熱の気は取っ手を通して、炉の中に送り込まれてますから」
「やばいよ紅蓮、炉の中の温度の数値が!!」
「どれどれ?―…げっ、うっかり蓋なんか開けたらもうアウトやないかっ!?」
 鋼の溶解温度を遥かに超えるヤバさに、紅蓮は顔中から冷や汗を流す。
「危ないので、蓋は絶対に開けないでくださいよ」
「分かった、絶対に開けない!死ぬまで開けてやらんっ」
「蓋を回したら、開いちゃうんじゃないの?」
「いえ、これは開けるわけじゃないですよ。蓋についている針の位置を、炉の中へ送る魔法の属性を選択するんです。溶かしたら氷系の魔法で少し冷やさなければいけないんですよ」
「冷ましたら固まっちゃうんじゃないのかな…」
 せっかく溶かしたのになぜ冷却しなければならないのか、とレンは不思議そうに首を傾げた。
「それは…魔法の冷気の作用のおかげですね。それと溶かしてる時は、炉の中の温度が外側まで熱しないように、氷系の魔法のスキル分もSPを消費するんです」
「針で選択してないのに?」
「えぇ、その辺りはこの道具が判断して、行ってくれるようです」
「へぇ〜……。ずいぶんと賢い道具なんだね」
 使用者に合わせて判断してくれるなんて便利だなぁ、と炉を眺める。
「冷却効果を維持するために魔力を消耗するので…。高位のクラスの人が溶かしたやつとかは、受け取らないほうがいいです」
「何でや?ウィザード系のクラスなら関係ないと思ったんやけど。その辺はちゃうんか?」
 ウィザード系なら誰でもよいというわけじゃないのか?と優奈が司に質問する。
「確かに溶かしたり、冷却するのはウィザード系なら誰も出来るんですが。他の人の熱の気をおさえたり、冷却する場合はちょっと大変なんです」
 司的には前回カルキノスから受け取り、とんでもない熱量をおさえるだけでも精1杯だった。
 その結果、動けないほどSPを消耗し、倒れてしまったのだ。
「ではそろそろやってみますか?」
「まぁ、扱いに気をつければえぇってことやね」
「アダマンタイトとビリジアン・アルジーを入れておきましたから、これをどうぞ」
「ありがとう、エリセルさん。これって今、蓋開けても平気なんか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「じゃあちょっと中を拝見させてもらおうっと。わぁー…サファイアみたいやね!」
 指でつまみ日の光で照らしてみると、キラキラと宝石のように輝いてみえる。
「溶かしちゃうなんてもったいないね、紅蓮」
「これも魔法修行の1つや!そこに試したいものがあるなら、やるしかないやない?」
 確かにもったいない気もするが、そこはやはり魔法の修練を積むには仕方ないと、アダマンタイトを炉の中へ戻す。
「僕もやってみようかな」
「分量と針の位置を調節してありますから、そのまま回してくれていいですよ」
「うん」
 エリセルからもらったレンは、さっそく回してみる。
 取っ手に手をしっかりと握る手に、渦巻く炎が指先へ集まり、炎の気が炉の中へ吸収されていく。
「うわぁ〜っ、どんどんSPが減ってる感じがするんやけど!」
「僕もそんな感じかな。でも…それだけ、かなりの温度まで上げる必要があるってことだねぇ」
「くぅ〜〜〜っ。魔法の道って、こんなにも険しいものなんか!?」
 日々訓練を重ねなければならないことは理解しているつもりだが、いきなり厳しい試練にぶちあたってしまったようだ。
「SPきれなんかに、負けてたまるかぁああぁああ!!」
「うわぁあ〜…なんだか紅蓮が燃えてるよ」
 すでに冷却する手順まで進んだレンが、ど根性魂に燃えるパートナーを見つめる。
「もうそれくらいでいいんじゃない?司さんの時もそれくらいだったよ」
「よーし!そんじゃ、針を水色の点に位置に合わせてっと」
「うん、順調に冷えていってるみたい」
 彼女が手にしている炉のメーターを覗き込む。
「温度を調節したら、このコテにつければいいんかな?」
 溶かしたアダマンタイトをそれにつけた紅蓮は美羽へ渡す。
「まだたくさん必要だからよろしくね」
「任せてやっ。これって的に向かって放つように、意識を集中させる訓練になりそうやね」
「頑張ってください!」
「あ、ツカサがサボろうとしてるわ」
 助っ人が来て作業が楽になったのだが、それはシオンにとっては面白くない状況のようだ…。
「あぁ〜、レベル20のくせにペースを緩めやがった」
「助け合うことは、いいことじゃないの?フィリップ」
 錬金術師として彼と意見を出し合っていたアゾートが、なぜ面白くなさそうに言うのか不思議そうな顔をする。
「まぁいいや。何度もそう、上手く助けてもらえる機会なんてないだろうしな」
「―……」
「ツカサのことはさておき、アゾート嬢ちゃん。こういう作業って、やっぱり錬金術的なものが関わってたりするのか?」
「うーん…。魔力の流れを読む知識が必要だったりするから、そっちは補助用としての役割くらいかな」
「魔法の知識かー…。レベル20のツカサと比べたら、俺はまだ修行を積まなきゃいけなさどうだなぁ」
 またもや強調して大きな声で言い、その言葉は司の耳にも当然届いた。
 他の人の前で一々反応しては負けだ…と、スルーして作業に没頭している。