First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「この前はプレゼントを頂きありがとうございました。これはそのお礼です」
笹野 朔夜(ささの・さくや)はパーティー会場でポミエラ・ヴェスティンにプレゼントを渡した。
以前、朔夜達はポミエラの母親が誘拐された際に彼女を励まし、感謝の印としてガーベラの花ヘアピンをもらったのだ。
ポミエラは大喜びで包装を解き、中から手作りの暖かさが伝わってくる薄桃色のマフラーを取り出した。
「寒くなる季節ですのでよろしければ使ってください」
「ありがとうございます! 大切にしますわ!」
ポミエラは朔夜からもらったマフラーを大事そうに抱きしめていた。
すると朔夜の横にいたアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)が、ポミエラの手を掴んで再開を喜んでいた。
「わたくし、ポミエラと一緒にお菓子を食べて回りたいですわ!」
アンネリーゼの髪には黄色と白のガーベラの花ヘアピンが咲いていた。
「あ、わたくしがプレゼントしたヘアピン、使ってくれていたんですね! 嬉しいですわ!」
「似合っていますか?」
「ええ、今日の素敵な服と一緒で、可愛らしいアンネリーゼさんにとってもお似合いですわ」
ポミエラに褒められてアンネリーゼは少し恥ずかしそうに照れていた。
会場に香ばしい匂いと共に新しい料理が運ばれてくる。
「は、そうでしたわ。わたくしポミエラと一緒にお菓子を食べに行くんでしたわ」
「そうでしたわ。すっかり忘れてましたわ」
「ポミエラさん俺からもお願いします。アンネリーゼさんと一緒にパーティーを見て回ってもらえないでしょうか?」
「はい。もちろん、いいですわ! むしろわたくしがお願いしたいくらいですわ!」
朔夜に渡したプレゼントを一端預けると、ポミエラとアンネリーゼは手を繋いで走り出した。
「ポミエラ、急がないとなくなってしまいますわ!」
「そうですわね。急ぎましょう」
楽しそうに駆けまわるポミエラとアンネリーゼ。
「アンネリーゼさん、周りをよく見て! 走ったりしたら危ないですよ」
そんな二人の少女の後を朔夜は来賓の間を抜けながら追いかけた。
朔夜の注意など耳に入らなかったのか、ポミエラとアンネリーゼは来賓の間を抜けて右往左往に駆け回る。
その結果、二人はアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)にぶつかって尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか?」
アイビスがアンネリーゼに、近くにいた(ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)によってネコ耳メイドにさせられた榊 朝斗(さかき・あさと)こと)あさにゃんが、ポミエラを手を差し伸べた。
「ポミエラさん、怪我はない?」
「はい。ありがとうございました。メイド癖(へき)のお兄さん」
「え、ちょ、ちょっと違……!」
あさにゃんが訂正するより速く、ポミエラとアンネリーゼは人混みの中を駆けて行く。
ガクリと項垂れるあさにゃん。
「……しまった」
「そうですね。注意すべきでした」
アイビスがポミエラ達が走って行った方向を見つめる。
「そうだ。後でちゃんと言っておかなきゃ」
あさにゃんはアイビスと同じ方向を見つめながら考える。
どうやって弁解したらいいのだろう。
なんと言ったら納得してもらえるのだろう。
何て言ったら僕が……
「はしゃいで走らない」
「そうそう……って、そうじゃない!」
突然叫びをあげるあさにゃんにアイビスは目を丸くしていた。
「ネコ耳のメイド服ではしゃぐって、それ完全に変態だよ! 違うよ、そういうことじゃないよ! 僕がそういう趣味の人間じゃないってちゃんと伝えるんでしょ!」
アイビスはなんのことか全くわからないという表情をしていた。
てっきりアイビスが共感してくれたと思っていたあさにゃんは頭を抱えて余計に落ち込む。
するとドレスを着た女の子があさにゃんに話しかけてきた
「あなたはネコ耳メイドのあさにゃんよね。私はシャンバラ教導団の弓彩妃美」
弓彩妃美と名乗ったあさにゃんと同じくらいの身長の女の子は、強引にペンと色紙を押し付けてきた。
妃美の顔が真っ赤になる。
「と、友達がネットであなたを見てファ、ファンになったの。あ、あなたの……サ、サインと、……写真、もらえる」
「え、ネット?」
質問を投げかけるあさにゃんだったが、胸にさらに色紙を押し付けられ、答えを聞くためにもサインを書いてあげることにした。
携帯で写真も撮り終わった所で、ようやく話が聞ける雰囲気になった。
「あの、妃美さん。さっきネットで見たって言ってたけど、どういうこと?」
あさにゃんの質問に妃美は無言で携帯電話の画面を突きつけた。
「……なっ、なんだこれ?」
あさにゃんは慌てて携帯電話を掴むと、穴が開きそうなほどに凝視した。
そこにはあさにゃんの画像が大量に投稿されたサイトが映し出されていた。
「誰がこんな……あれ、どこか見覚えがあるような……」
あさにゃんは乗せられた画像をどこかで見たような気がした。
あさにゃんはページを送って投稿者名を確認……投稿者『ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)』。
「やっぱりかぁぁ!!」
「あ、ばれました? 仕方ないな……てへっ?」
「可愛く誤魔化そうとしてもダメだから!!」
ルシェンは知り合いに頼まれて写真を渡していたら、いつの間にかサイトが出来ていたのだと話した。
他にもサイトが出来てるかもよとルシェンは楽しそうに笑っていた。
妃美が先ほど携帯で撮影した写真を自身のブログに乗せようとする。
「や、やめてこれ以上は――!?」
妃美を止めようとするあさにゃんは袖を掴まれて振り返った。
すると背後に色紙やカメラを持った来賓が集まっている。
気が付けば周囲を来賓に囲まれ、あさにゃんは身動きが取れなくなっていた……。
その様子を見てルシャンが満足そうにしていた。
すると妃美がやってきてルシャンの取った写真から強い想いを感じると褒めた。
「あんな風に素敵な写真を撮るコツはなんですか?」
「さ、さぁ、なんでしょうね。……情熱とかかな?」
メイド服のルシャンは恥ずかしそうに答えていた。
あさにゃんは会場の片隅で長蛇の列を相手にサイン会を行わされていた。
「はい、次の人!」
少しでもお見合いの妨害になるのならと、頑張るあさにゃん。
サインをして、また次の色紙が目の前に出される。
「あ、最後には『親愛なる海音シャナちゃんへ』って書いておいてくださいね」
「はいはい。親愛なる……って何、混ざっているんだよ!」
顔を上げたあさにゃんの目の前には富永 佐那(とみなが・さな)が立っていた。
佐那はブルーのウィッグとグリーンのカラーコンタクトを着用して海音シャナになっているだけでなく、ブルーの猫耳&猫尻尾を付けた海音シャにゃん(或いは海音シャナver.あさにゃん)の格好をしていた。
「私もサインと写真が欲しいです!」
「それはいいけど、別に今じゃなくてもいいと思う。と、いうかそんな恰好でいたらさ……」
周囲の来賓が騒がしくなってきた。
パーティー会場の中で海音シャにゃんの格好はとてもよく目立つ。
すぐにコスプレネットアイドル海音シャナだということはバレてしまった。
来賓の話し声が聞える。
「どうやら、歌って欲しいみたいですよ、あさにゃん」
「そうみたいだね」
面倒なことになったと困り果てる、あさにゃん。
逆に海音シャにゃんは楽しそうに笑って言った。
「じゃあ一緒に歌いましょうか!」
「え、僕も!? む、無理だって……」
海音シャにゃんはあさにゃんの手を引っぱっていく。
「大丈夫ですよ☆ あさにゃんは私に合せててくれれば、絶対巧く行きます★」
あさにゃんは無理矢理海音シャにゃんと一緒に舞台に立たされた。
舞台には既に準備が整っていた。
来賓から拍手が巻き起こり、余計に多くの人の舞台に目を向けた。。
歌う歌えないの前に、とにかく恥ずかしい! とあさにゃんは思った。
「さぁ、「猫娘娘(ねこにゃんにゃん)」のオンステージですよ!!」
曲が流れ始め、あさにゃんは見よう見まねで歌って踊った。
それでも来賓はノリノリだった。
「最後は二人でキメのポーズですっ★ いきますよ〜」
いきなりそんな言われてあさにゃんは慌てながらも……
「「キラッ☆」」
どうにかポーズを決めた。
あさにゃんは最後まで恥ずかしい思いでいっぱいだった。
「何をしていますの?」
ポミエラと一緒に走り回っていたアンネリーゼは、料理の前で真剣にメモを取るイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に声をかけた。
「色んな料理を味見しているのですわ」
イコナは小さく切り分けた料理の一つを口にすると、【超知性体】を使って何が使われているかを調べてはメモを取った。
「料理には隠し味という物がありますわ。わたくしはそれを調べて……ん?」
次の料理を口にしたイコナの顔が青ざめる。
「どうかしたのですか?」
アンネリーゼが心配そうに声をかける。
「カリ……これは青酸ペロ……!」
イコナの言葉にポミエラとアンネリーゼが驚愕した。
アンネリーゼが慌てる。
「きっと誰かがポミエラの命を狙っているのですわ」
「恐らく、そうですわ。……他の料理にも入ってるかもしれませんわね」
「ど、どうしたらいいのですの!? もう食べてしまったかもしれませんわ」
アンネリーゼとイコナの言葉にポミエラ本人はオロオロしていた。
「少しくらいならきっと大丈夫ですわ。今は早急にわたくし達でどうにかするしかありませんわ」
「でもどうしたら……」
三人は一生懸命頭を捻って考えた。
すると、イコナがテーブルに並べられた料理から、お子様ランチについてくる小さな旗を大量にとってきた。
「味見してみて危ないと感じたらこの旗を立てるのですわ」
「なるほど。そうすればポミエラも安心ですわね」
「そ、そうですわね。ありがとうございます。アンネリーゼさん、イコナさん!」
ポミエラ、アンネリーゼ、イコナは旗を分けると、イコナが毒が入っていると判断した料理を摘まんで味を覚えた。
そして手を合わせて気合を入れると、一緒に料理を毒見するためにテーブルを回り始めた。
「なんだか大変な事になってますね」
三人の後を追いながら朔夜は隣で一緒に見守っていたティー・ティー(てぃー・てぃー)に同意を求めた。
「そうですね。でも、子供らしくていいと思いますよ。毒は……入っていないようですし、問題ありませんね」
ティーはイコナが先ほど食べた料理を食べながら笑って答えた。
朔夜とティーは手を出さずに、怪我だけしないように見守ることにした。
「それにしてもなぜポミエラさんが狙われていることになったのでしょう? 狙われているのはミッツさんなのに」
「え、そうなんですか? あれは冗談ではなかったんですか?」
「あれ、あれれ?」
朔夜はティーから初めてお見合い妨害や暗殺の話を聞かされた。
ポミエラ、アンネリーゼ、イコナは次々と料理を口にし、お腹がいっぱいになってきた。
壁際でその様子を見ていた源 鉄心(みなもと・てっしん)がため息を吐く。
「やれやれ、目的を忘れてるんじゃないだろうな」
鉄心はミッツの護衛に来ていた。
鉄心はいつ襲撃があるかわからない状況で気を緩ませるわけにはいかないと思っていた。
そこへ、鉄心の言葉を聞いていたミッツが近づいてくる。
「別にいいだろ、あれぐらい。常に気を張られちゃ、パーティーが台無しだぜ」
ミッツは笑いながら飲み物を鉄心に渡した。
「確かにそうですね。……でもミッツさんはもう少し狙われている自覚を持った方がいいですよ?」
「まぁ、考えておくよ。でも、いざって時は鉄心達が頼りだ」
全然自覚がなく先ほどからウロウロしているミッツに呆れる鉄心。
会場内の警護隊長に指名されてしまった以上、やはり自分がしっかりしなくてはと鉄心はさらに気を引き締めた。
「あ、そうだ。良かったら後で付き合ってくれよ」
ミッツは立ち去り際にお酒を飲むふりをしながら笑って言った。
鉄心は暫し考えた後――
「無事に終わったら考えます」
と口元を緩めて答えた。
「ちょっと、そこのおじさん!」
鉄心の元を立ち去り料理を口にしていたミッツは、突然「おじさん」と声かけられて飲み物を噴き出しそうになった。
「誰がおじさんだ! 俺はまだ二十代、って……ポミエラじゃないか」
ミッツは本気で怒鳴ってしまった自分が情けなく思えた。
ポミエラはそんなことなど気にせず、正面の出入り口付近に置かれた大きなモミの木を指さして尋ねる。
「あそこの木はなんですの?」
「ん、あれか? あれはクリスマスツリーだよ。飾りつけはもう少し先だけどな」
「クリスマスツリー……」
ポミエラは自分の何倍も大きい木を見上げながら呟いた。
そしてミッツのズボンを掴むと、目を輝かせて叫んだ。
「わたくしが飾りつけしますわ!!」
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last