校長室
波乱万丈勉強会
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◆社会の章「歴史は英霊に聞くのが一番だと思う最近」 「ももかっちゃんと集中せんか」 「やってるよ」 ちょっと上の空だったけど。 そんなやり取りをしているのは片野 ももか(かたの・ももか)とモリンカ・ティーターン(もりんか・てぃーたーん)だ。追試は免れているももかだが、成績はギリギリ。なんとか赤くはないけれど、という点数が並んでいる。 モリンカはいい機会なのでももかに勉強会へ参加させてギリギリな成績をなんとかしようと、思ったのだ。 「追試はないのに」 「なくとも、あんなギリギリはセーフとはいわん。赤点じゃろうが!」 「むー。だってパラ実で使ってた教科書と全然違うんだもん」 モリンカに反論しつつ、ももかは教科書を読んでいくが……すぐに集中力が切れる。一体どこをどう勉強したらよいのか分からない。モリンカにしても、効率の良い勉強方は知らないため、困ってしまった。 その隣で同じように教科書を睨んでいるのはアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)だ。 「よしっがんばるぞ!」 気合を入れてがんばろうとしているアレックスを見て、モリンカはももかに言う。 「ほれももか。彼を見習わんか」 「でも何勉強したらいいのかわかんない」 「それは、だな」 「どうしたのじゃ。何か困り事かの?」 見回っていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が、ももかたちに話しかけた。ルファンは、雅羅に頼まれて教師側として参加した1人。学年や学校まで違う生徒が集まったため、分からない生徒がいればその箇所を教えようと全体を見守っていたのだ。 「何をどう勉強したらいいのかわかんないの」 ももかが歴史の教科書を見せながら言うと、ルファンはなるほどと頷いた。 「そうじゃな。歴史とは流れじゃ」 「流れっスか?」 隣のアレックスも興味を引かれたのか。会話に入ってきた。ルファンは2人にコツを教えていく。 「流れ……簡単に言うと理由じゃな。たとえば、お主が今開いておるページに契約者のことが載っておるが、なぜ契約者のことがここまで大きく書かれるのか。そのなぜをたどるとまた別のなぜ、が出てくる。この連続。それが歴史を学ぶということじゃ。 じゃから、流れを理解せず試験の範囲だけを学ぼうとしても頭に入り辛い」 「ええっじゃあ最初からしなきゃだめなの?」 「なるほど! そうだったんっスね」 嫌そうな顔をするももかと、納得しているアレックス。両極端だ。ルファンは軽く笑い 「なに。すべてを知れ、ということではない。すべてを知るなど、何年かかっても不可能じゃ」 「むぅ。じゃあどうするの?」 「試験範囲を、物語と思って覚えればよい」 首をかしげる2人に、ルファンは説明していく。時折ぼーっとするももかだが、熱心なアレックスの姿に何か感じるのか。すぐにルファンの話を聞く体勢になる。アレックスもまた集中力が切れそうになると話を聞いているももかを見て、意識を切り替える。という良い影響を与え合っていた ルファンの教え方もいいのだろう。問題なく勉強は進んでいるようだ。 (なるほど、物語、ね) アレックスの様子を心配して見に行ったサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は、感心した様子で何度を頷いていた。社会というあいまいな教科も、物語にするとたしかに頭へ入りやすい。 問題なさそうな様子にホッと一息ついたサンドラの近くでは、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)と高峰 雫澄(たかみね・なすみ)がお互いの苦手な場所を教えあいながら勉強していた。 「それで気づいたら解答欄が1つずつずれていて、後の祭りだった」 「うわぁ。先生もそれぐらい追試勘弁してくれてもいいのにねぇ」 トマスが苦笑しながら言うと、雫澄が災難だったねと慰めた。トマスは彼が言う通り解答欄のミスで追試になり、雫澄は追試はないが誰かの役に立てればと参加した。 「しかし君のおかげで助かったよ。僕はこの年代がどうも苦手で」 歴史の流れを理解しているトマスだが、やはり不得意な箇所もある。 「そっそうかな。何か役に立てたなら良かったよ。でもトマスさんは全体を理解してるし、僕からしたらそっちの方がすごいよ」 お互い謙遜しあいながら和やかに復習をしている。この2人は問題ないな、とサンドラは思いつつ 「分からないところがあったら気楽に聞いてね」 「うん。そうするよ」 「ありがとう」 そう声をかけ、別の生徒を見に向かった。 「あの、すみません。僕、追試とかではないんですけど」 「気にしなくていいわよ。勉強は追試のためだけにするものじゃないし」 マラク・アズラク(まらく・あずらく)が苦笑しながら言うと、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が気楽に答えた。リカインが勉強会のことを知ったのは今日だったが、元蒼空学園の生徒として放っておけず、参加したのだ。 「で、何を勉強したいの?」 「僕、最近パラミタに来たばかりなのでこちらの歴史とか、文化とか」 「そうねぇ。なら」 リカインは持ってきたテキストの中から、1つを選び出して机に置いた。そして適当にページをめくっていき 「ここら辺かしらね。テストにもよく出るところよ」 「これは、遺跡、ですか?」 どこか楽しそうにはじめてみる遺跡の写真を見るマラク。新しい知識を学ぶのが好きなのだ。 リカインにしても、やる気のある生徒に知識の出し惜しみはしない。写真を示しながらこの地域にはこんな文化があって、建物は。などと話していく。途中からテスト範囲など関係ないマニアックなものにまで話が発展するも、もともとマラクには追試がない。2人とも気にせず、授業は熱中した。 「そうね。文明に関してはサンドラの方が良く知っているかも。サンドラ!」 「なにー?」 「文明とか詳しかったでしょ? 彼に話してあげてくれない? 見回りは変わるから」 「あのマラクっていいます。追試じゃないんですけど、興味があって」 「そうなんだ。うん。分かった」 「よろしくお願いします」 「雅羅先生、よろしくお願いします」 「先生ってそんな、止めてよ」 「(先生してる雅羅ちゃん。レアだわ! 抱きつきた……分かってるわよ)」 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)と想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)の2人は、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に勉強を見てもらっていた。どこか緊張した様子の夢悠と、スキンシップがしたくてたまらない瑠兎子。今日は真面目に勉強しようとわざわざインミンスールからやって来た。瑠兎子には今日は大人しくしてるように、と夢悠が釘を刺している。 「じゃあ政治経済について勉強するけど、まずは現在の状況について復習していきましょうか」 「はっはい! 先生」 緊張している夢悠に、雅羅は苦笑しつつ机に置いた教科書を指差しながら説明を始めた。1つの教科書を一緒に覗き込む体勢になり、すると必然身体は密着する。 (うわぁ、雅羅さんが近い! ドキドキする。いや、駄目だ。勉強に集中、集中……) 必死に勉強へと意識を向ける夢悠。瑠兎子は、すでに雅羅しか見ていない。うずうずした様子で椅子に座っているのが救いだ。 (ワタシだって雅羅ちゃんのことが好きだもの。嫌われないように) そんな2人の葛藤に気づいているのかいないのか。雅羅は淡々と授業を進めている。おそらく、気づいていないのだろう。 「だからこれは……夢悠。聞いてる?」 「は、はい、聞いてます!(近い!)」 「雅羅ちゃん、この問題が分からないんだけど(ユッチーばっかズルイ)」 2人は競い合うように雅羅に勉強を教えてもらった。 ◆ 「むっ? どこかで私を呼ぶ『きゃっきゃうふふ』な空気が」 「そこ間違ってますよ」 「あ、すみません」 その時別の場所でそんな会話があったかどうかはさておき。 社会の授業は比較的平和に進んでいた。 ◆ 「ぐぬぬっこうなれば最終手段。突撃するぞ」 教室の様子を見ていた山葉 聡(やまは・さとし)が拳を突き上げると、なんとか生き残ったOBKのメンバーも拳を突き上げた。 「がんばってみなさんの緊張を解いてくださいね」 火村 加夜(ひむら・かや)は微笑んで見守っている。そしてOBKたちは手作りの仮面(材料:ダンボール)をつけ、教室へと飛び込んでいった。 「お前たちもおバカさんとして世界を救うんだ!」 そんなことを叫びながら乱入してきたOBKたちに、誰もが唖然とした顔をした。言っている意味がよく分からない。 しかしながら何か良からぬことをしていると察知し、トマスと雫澄が彼らの前に立ちふさがる。みんなが一生懸命勉強しているのを邪魔するのは許せない。 「先ほどから邪魔をしてきたのは君たちか。これ以上妨害する気なら、僕らが受けて立つよ!」 「くっ悪(勉強)の手先め! 成績を上げてどうする。そんなことをしても無駄だ」 先頭にいる仮面の男がトマスに反論する。雫澄がそんなことないと口を開く。 「ねぇ、こんな事しても何にもならないよ? 君たちも一緒に勉強しないかな。僕でよければ手伝うよ」 優しくOBKたちを諭す。心が若干揺れ動くOBK。しかし、 「耳を貸すなよ。これは罠だ。作戦を実行に」 「ちょっと待ってください、聡くん」 諦めずに指示を出そうとしたリーダー格……聡に、加夜がニッコリ笑いかけた。トマスや雫澄の話を聞いて、どうも変だぞ、と気づいたのだ。 「勉強の邪魔をしてたんですか?」 「いっいや、その」 「あのっちょっと待ってください。彼らにも何か事情があるかもしれないし」 聡に詰め寄る加夜を雫澄が制止する。トマスは他のOBKが邪魔をしないように見張る。 「僕でよければ話してくれないかな?」 雫澄の優しい言葉に、OBKたちは仮面を外し、ぽつりぽつりと話し始めた。 学校の授業は、生徒の大半が理解したとなれば次から次へと進んでいく。 しかしその時、理解が追いついていない生徒もいる。そういった生徒たちは分からぬまま学年だけが上がっていき、基礎が分からないために新しいことを学んでもまったく理解できず、どんどん取り残されていった。それがOBKのメンバーたちだ。 「それなら今から学んでいけばいいじゃないか」 話を聞いたトマスが言った。雫澄も横で頷く。 「そうよ。ここには勉強できる人が大勢いるし、逆にあなたたちのように勉強が苦手な子もいるはずよ」 「学びなおすなら早いほうが良いしの」 リカイン、ルファンが続けていった。勉強を阻害された生徒たちにしても、授業から置いていかれる辛さは知っているため、そう怒ってはいないようだ。 「みなさんが怒ってないみたいので今回は反省文だけでよしとします。もうしちゃダメですよ」 加夜も、みんなが怒っていないなら、といいつつ。反省文だけは外せないと主張。 OBKのメンバーたちはもちろんだと頷き、彼らもまた勉強会に加わった。 いや、1人。聡だけ逃げようとしていたが 「聡くん、がんばろうね。大丈夫だよ。要点さえ抑えれば」 「さあ勉強しよう」 善意しかない雫澄の笑顔に捕まり、トマスに引きずられて椅子に座った。 数日後、勉強会に出席したメンバーたちは、無事全員追試に合格した。 ちなみにOBKのメンバーは、大学を目指すそうです。……めでたしめでたし。
▼担当マスター
舞傘 真紅染
▼マスターコメント
みなさん、ノリノリですね! わたくし、そういうノリが大好きです。 いろいろありつつ、なんとか無事に終わったようです。OBKのメンバーは心を改めてがんばるようですし、追試も乗り切れましたし、いやぁ良かった良かった。 忙しい季節にもかかわらずご参加いただき、楽しいアクションを読ませていただき、ありがとうございました。 まだ寒さは続きますので、みなさまどうか体調にお気をつけて。 では、またどこかで。