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リアクション
第6章 辰年に踊る独楽
「んで、こうやって巻いて、投げればいいんだな?」
丹羽匡壱(にわ・きょういち)はじめ、参加者達は独楽の使用方法を確認中。
この場にいるのは、初めて触る者ばかりなれば。
「校長をまわせるんでしょ?
参加するしかないわね」
俄然、張り切る緋姫崎 枢(ひきさき・かなめ)は、怖いくらいに笑んでいた。
朝から何度も何度も、独楽を投げて練習を繰り返している。
もちろん目指すは優勝の一枠にて、時代劇の一幕を演じたい気分。
「あなたの策略勝ちね」
枢のパートナーであるナンシー・ウェブ(なんしー・うぇぶ)が、くすっと呟いた。
見学席の真ん中に設けられた実況席で、巫女や総奉行と談笑なぅ。
されどこの一言に巫女は、なんのことかと素知らぬ風だ。
「こんにちは、あなたも独楽をまわすのね。
昨日の、除夜の鐘つきには参加したの?」
「除夜の鐘?
あたし、煩悩じゃなくて本能で生きてるから関係ないわっ!」
「そういう考え方もあるのね、面白いわ。
独楽まわしを選んだことのにも、理由がありそうね」
「羽根つきはあたしの柄じゃないの。
こっちもどうかとは思ったのだけど、優勝すれば校長をまわせると聴いて。
それは参加するしかないわねって!」
こちらも独楽を持ち、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が話しかけてくる。
包み隠さず、枢は自身の考えを伝えた。
「さて、それでは始めましょう!
皆さん、準備はよろしいでしょうか!?」
「では、お互いにがんばりましょうね」
「負けないわよ!」
そんな校庭に響き渡る、ナンシーの高音。
セレアナと枢が、善戦を誓い合った。
「それでは……よ〜い、始めっ!」
「たぁっ!」
マイクをとおしての号令に、参加者達は一斉に独楽をほうる。
最も威勢のいいのは、枢だ。
居合のごとく高速で腕を振り、得物を大地に叩きつける。
「全力は尽くしたわ……」
(通常よりも細い縄を使ったことで、より多く独楽に巻くことができた。
これすなわち、より多くの回転力を与えられるようになるということ!)
自身の独楽をみつめ、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は胸中に零した。
【チャージブレイク】で溜めていた力も加わり、回転は絶好調。
(お正月の遊びだし気楽に、と思っていたけれど……やっぱり参加したからには……)
「どうか優勝できますように!」
フィールドを見渡し、優勝の対価を大きな瞳に焼きつけて。
胸の前で両の手を組み、天に祈った。
「校長であるハイナをまわす機会なんてそうそうないっ!」
と、堂々と言ってのけるは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
拳を、それはそれは強く握りしめているではないか。
「お年玉やサイン入り羽子板なんぞ、と言ってはいけないかもしれないが、所詮は物!
あとでいくらでもつくったりできるだろう。
だが、こんな機会がなければハイナをまわすことなど到底不可能。
私はこの独楽まわしで優勝し、記録よりも記憶に残る男となってみせます!」
最後はいよいよ、放送席のマイクを奪わん勢い。
未だ涼しい顔の総奉行へ向かって、自信満々で語ってみせた。
それもそのはず。
小次郎も、祥子に負けず劣らずな策士なのだから。
「回転時間を長くするための条件はクリアしています。
あとは、独楽を信じるのみ!」
小次郎の考える条件とは、回転スピードが速いことと、地面に対して垂直になるよう回転させる技術の2つ。
これは極力、独楽を動かさず、地面との摩擦でスピードが落ちないようにするためらしい。
また同じ条件でも、より低重心の方が回転を持続できると。
ゆえに小次郎は、用意された独楽を1つひとつ手にとり、より低重心かつある程度重量のある独楽を選んでいた。
「ボクが一番……ボクが一番……ボクがやらねば誰がやるっ!」
これまた気合いの入りようが、ほかの皆とは違うベクトル。
ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)を突き動かすのは最早、新年早々の煩悩のみである。
「ふふふ……本当の『デキる男』とは、勝負どころが分っている男のことを言うのだよ」
「はぁ〜」
(これが、ブルタの来年へのモチベーションになればよいのだけれど……)
ノリノリなブルタ、だがしかし。
左斜め後方に控えるジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)は、無表情のままで呆れていた。
(ブルタが呼ぶからなにかと思えば、年越しの合宿とは。
低俗でくだらないことにつきあわされて、正直まだ気分が乗らないのよね)
せめても、ブルタの目的意識がもう少しフツウであれば、喜んで協力したかも知れない。
「すべては、クリスマスの無念を晴らすためにっ!」
(ボクのなかのシャンバラの3乳記憶が塗り替わるまで、もうすぐだ……)
こんな、ジルからすれば、なにをどう考えたとてどうでもよいという結論にしかいたらないことを実行しようとされても。
正直、面倒くさすぎて困る。
「まだまだだよ〜っ!」
独楽を見つめるブルタは、ひっそりと【サイコキネシス】を発動した。
小次郎とは対照的に、アビリティ頼りな一戦となる。
「いけいけっ!
俺だって、伊達に蒼い嵐(ブルー・テンペスト)と呼ばれてたわけではないのですよっ!」
絶賛脱落拡散中なフィールドに、響き渡るは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の雄叫びだ。
なるほど牙竜の独楽は、一片の曇りもない蒼に塗られている。
「若かったな、あの頃は……いま名乗るとすごく心に突き刺さる痛い通り名です!」
牙竜も小次郎よろしく、独楽選びから拘った1人だ。
最重要視したのは、独楽自体のバランスがとれていること。
心棒を掌に乗せ、芯のブレないものを選んでいた。
「まぁ名はどうあれ、独楽の質は抜群です。
俺の見立てでは、こいつが最強でしたから!」
(胴がツルツルした材質なら、紐に接触しても摩擦が少なくなりますしね)
誰にでもなく豪語する牙竜は、けれども背後から迫る脅威への反応が遅れてしまった。
「えぇ、ちょっとした事故はつきものですよね。
まわそうとした独楽が参加者の後頭部にぶつかるとしても、事故ですよね」
龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、鬼のような形相で、しかし殺気は決して発さず。
牙竜の頭を目がけて、独楽を投げ放った。
「とぅわぃてっ!?」
振り返るとそこには、灯の独楽が落ちている。
「あの〜灯さん?」
「はい、なんでしょうか?」
「いまなにか、俺の頭にあたりませんでしたか?」
「存じ上げませんが……」
「では、なぜこのようなところに灯さんの独楽が?」
「さぁて、羽が生えたのでしょうかね〜」
「そうですか、羽がね〜ってそんなわけないだろうがっ!
灯っ!
俺を的にしやがったな!?」
「だってなんか腹が立ったんだもの!」
「はぁ!?」
かくして、喧嘩のそばでも、独楽がその回転を止めることはない。
孤児院時代に身につけた独楽まわしのスキルは、やはり伊達ではなかったということだろうか。
「さぁて白熱した独楽まわし勝負ですが、いまっ!
1対1の対決となりましたっ!」
ナンシーの実況も、いよいよ熱を帯びてくる。
机に手をつき、立ち上がった。
「まだかっ……どうかっ……きっ、決まったぁっ!
栄えある優勝者は、戦部小次郎選手ですっ!」
「やりましたっ!
私、やりましたよっ!」
歓喜と感嘆の音が、校庭中を駆け巡る。
小次郎に向けて飛び交うは、祝福の言葉の数々。
「おめでとう!
う〜ん、けど残念だわ。
ねぇ、この衣装、着せましょうよ!」
「いいですね。
それで勢いよく帯をひいてしまいましょう!」
「そのときにはやはり、お約束の台詞を言うのかしら」
「もちろんです」
「では、総奉行が『あーれーお代官様〜』とか……叫ぶのね……」
枢が差し出したのは、可愛らしい町娘風のお着物だった。
受けとる小次郎に、セレアナも訊ねる。
ずっとずっと、ルールが公開されてからずっと気になっていたことは、やはり現実となるらしい。
「無事に終わってよかったわ。
それにしても、優勝者にあなたをまわす権利を与えるなんて、すごい大胆ね。
私、感心しちゃったわ……でも気をつけて。
『まわす』って、こんな意味もあるから……」
なお実況席にて、勝負の余韻に浸るナンシー。
かくれて巫女の耳許に囁いたのは、放送禁止になりそうな一言だった。
「始まるからっ、ジルっ!」
「はいはい、いつでもどうぞ」
「皆さんいきますよ〜えいっ!
よいではないか、よいではないかっ!」
「ぁ、倒れたわね」
「近寄ってまさかの……」
(『おっぱい星人』の名にかけて!
これくらいは、正月だしいいよね……)
「大きな胸って罪だよな!?」
ブルタからの令とあらば、ジルは【ソートグラフィー】にて総奉行の恥ずかしいかも知れない写真を念写する。
小次郎がやらかしたにもかかわらず、灯と牙竜は妙に冷静だったり、匡壱は不思議を口走ったり。
「でも、これだと不公平ですよね?
年末年始の無礼講ということで、ねっ!」
とまぁ最後は、祥子の発言から巫女もくるくると帯を巻かれ、そしてまわされるのである。
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