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招かれざる客、解き放たれたモンスター

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招かれざる客、解き放たれたモンスター
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ラビュリントス

 街の中心部から少し外れたところに、モンスターハウス『ラビュリントス』は聳えていた。
 今まで数多のカップルや学生たちを恐怖のどん底に陥れ、常に男女の悲鳴が館外へと響き渡っているラビュリントスも、オープン時間前ともなると実に静穏なものである。
 が、重そうな鉄製の扉の前に多くの学校から生徒たちが垣根を越えて集まっている。彼らの表情はまさに緊迫そのものであった。
「よくぞ集まっていただきました……」
 ラビュリントスの管理責任者が生徒たちに小さく会釈をした。
「本日は私どもの不手際により……」
 ミノタウロスが拘束を抜け出し、ラビュリントス内を徘徊している。
 多忙の中このミノタウロスを確保しにやってきてくれた君たちに感謝する。そういった内容の話を滔々と続けていた。生徒たちも神妙な面持ちで聞いている。
「よっしゃ、潜入成功だぜ!」
 ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)を除いては。
「迷宮があるなら誰より早く潜伏しとくのが工作員の務めってもんだろうよ」
 ヴェルデはピッキングでこじ開けた非常口を後ろ手で乱暴に閉めると、まさに意気揚々、大またでずんずんと迷宮内を進みだした。
「やっぱり迷宮と言えばトラップだからな。トラップのない迷宮なんてハンバーガーの売ってないバーガーショップみたいなもんだろ、……っと」
 ヴェルデは突然上体を反らした。
 瞬間、弓なりになった腹のわずか上を棘のついた鉄球が通り過ぎた。
「そうそう、こういうコテコテなのが醍醐味ってわけだ」
 鉄球には太い鎖がつながっており、天井から釣り下げられ振り子運動を繰り返している。通常ならコンピュータ制御により決して入場者に当たらない軌道をとる。管理システムのダメージは相当なものらしい。
「最初に遭遇したのも何かの縁だ。こいつに細工するぜ。今から俺がファンタスティックに改造してやるからな。そうだな……爆弾でも仕込むか」
 その瞳のきらめきはおもちゃを目の前にした子どもそのものだった。
「よし。ついでに高圧電流地雷も追加で設置してやる。トラップ解除をしても取り除けない優秀な代物だぜ。二重にトラップを敷けば安心だ」
 その後もヴェルデの天才的な技術によりトラップが改造されてたり、新たに設置されたり……。
 後々、義を以って入館してくる生徒たちの障害となるか、ミノタウロス捕獲の手助けとなるか分からないが、ヴェルデを追って来たエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)にとってはいい迷惑だった。
「きゃあっ!」
 右足で地面を踏み込むやいなや、レンガを巧妙に模した床板が回転し落とし穴がばっくりと口を開けた。
「ば、バンジステーク……。こんなマニアックなことをするのはヴェルデしかいないわ。案の定この中にいるようね。独断専行だと報酬はもらえないのに」
 落とし穴の底からは鋭利に削られた竹が何本も天井に向かって立てられていた。
「さすが罠に関しては超一流だわ。注意していかないと……あれは」
 薄暗い通路の曲がり角。
 ゆらりゆらりと、両腕を垂れ下げて機晶ロボが現れた。
「やりすごすことは……」
 対人センサーが働いたのか、エリザロッテの方に向き直る機晶ロボ。
 突如、弾かれたように諸手を振り上げエリザロッテを襲う。
「できないようね! てやああああ!」
 しかしエリザロッテの槍穂一閃、機晶ロボは真っ二つになってしまった。
「こいつらが館内にうようよしてるのかしら……。ヴェルデはどこに行ったか分からないし、出口までの機晶ロボを排除しておこうかしら」

 その頃、諸注意を受けた生徒たちがラビュリントスへ流れ込んだ。
 各々が正義、もしくは欲望を抱きながら。