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リアクション
「なるほど、嫌な感覚の正体はコイツだったのか。さて、どうするかねぇ……」
散弾銃型の強化光条兵器・スプレッドカーネイジを肩に乗せた月谷要がそうつぶやく。
すると彼の左腕の肘から先が、突如としてその形状を変えていく。
普段は普通の腕をしているので分かりづらいが、要の両腕は流体金属で構成されている特殊な可変型流体金属腕だった。
その可変型流体金属腕は、あっという間にその形を盾へと変える。
「ま、この状況でやることは決まってるか――んじゃま、行きますか」
戦う準備を終えた要はそう言うと、N‐1に向かっていく。
「みんな、大丈夫ですか!?」
そう言って傷ついた仲間に駆け寄ったのは風森望。
彼女はヒールの呪文を唱えて、仲間の傷を癒していく。
そして皆が戦う敵、N‐1へと視線を向けた。
「見た感じ、とっても嫌な感じが……というか、嫌な感じしかありませんね」
「そうね」
望の隣でノート・シュヴェルトライテが相づちを打つ。
そんなノートを見やり、望が言った。
「ではお嬢様、頑張って下さい」
「えっ、それはどういう意味ですの?」
「ほら、私、どちらかというと後衛組ですし……お嬢様が前に行って戦ってくれないかなと」
「ちょっと望!? 主人を前に出そうとするとはどういう事ですの!?」
「――さあ、悠長に冗談を言い合っている場合でもありませんし、少々真面目にいきますか」
「ちょっと、話をそらさないでくださる!?」
そんな二人のやり取りを見て、伯益著 『山海経』(はくえきちょ・せんがいきょう)がため息をついた。
「全く……毎度毎度飽きのない事じゃ」
彼女は緊張感のない二人から目を逸らしてN‐1へと視線を向ける。
「中々に面白そうな妖物の類ではあるのぅ。久方ぶりに、山海経本体に描き込むに値する妖怪じゃて」
そして『山海経』はそうつぶやくとニッと笑うのだった。
「……醜い」
女性の姿で顕現している禁書 『フォークナー文書』(きんしょ・ふぉーくなーぶんしょ)はN‐1を見て顔を歪める。
魔道書である彼女は禁術で生み出されたN‐1のことを快く思っていなかった。
しかもN‐1はどう見ても”出来損ない”だ。
彼女はそれがさらに気に入らない。
「セシル、遠慮は要らないわ。あのクソッタレの出来損ないを全力で叩き潰しなさい」
やる気を見せる『フォークナー文書』は、契約者であるセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に命じる。
「オーケーですわ。ぶっ飛ばしてやります」
フフッ、と笑みを洩らし、セシルは両手に持った超電磁トンファーを構える。
そして彼女は、得意の軽身功を使って素早く舞うようにN‐1へと接近していく。
『フォークナー文書』は、そんなセシルにパワーブレスをかけて援護をした。
「あの怪物……手強そうです」
カスタムされた黒い魔法弓”ディス・キュメルタ”を得物とするレイカ・スオウ(れいか・すおう)は、難しい表情でN‐1を見つめる。
その頭の中では、どうやってN‐1に接近するかという考えが巡らされていた。
弓を持っているのだから接近する必要などない――レイカを見た者の大半はそう思うだろう。
だがそうもいかない。
なぜなら、彼女の手にしている魔法弓は弓の形をしてはいるが、遠距離からの攻撃力は皆無に等しいかったからだ。
超至近距離魔術――ディス・キュメルタは、かつて極めて非実用的と言われ、日の目を浴びなかったその魔術理論を再現するために作られた弓である。
そしてそれを扱うレイカは、その超至近距離魔術の使い手だ。
彼女の放つ魔術は強力だったが、ほぼ零距離からでなくてはその威力を発揮しない。しかもその反動が凄まじく、連発することができない。
だからこそ接近できるかできないか、そこが勝負となってくる。
「――行きます」
と、戦い方を考え終えたレイカがつぶやいた。
すると彼女の背中から強化光翼が雄々しく生じる。
体への負担を考えると長くは動けない。
彼女は一撃必殺を狙いつつ、もの凄いスピードで空へと舞い上がった。