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リアクション
庭園を駆け抜けた炎は、全体にいきわたった時点で生徒達によって消火された。
周囲に大きな被害はなく、庭園には黒い灰が覆いかぶさっていた。
そんな庭園を緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が斧で耕す。
「よいっしょっと、掘って返して耕してぇ〜♪」
透乃は灰を被りながらも、斧を振り下ろして豪快に庭園を耕していく。
「陽子ちゃんそっちはどう?」
「大丈夫です。こちらも問題ないですよ」
緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はリビングアーマーにクワを持たせて手伝ってもらってもらう間、肥料になるが多すぎるても困る灰をスコップでいくらか回収していた。
すると陽子がひっくり返した土から何かを見つけた。
「あら、これは……」
「どうしたの陽子ちゃん?」
陽子はハンカチで見つけた物を拾いあげると、表面の灰を拭った。
透乃が覗きこむ。
「これって球根?」
「そのようですね」
「≪食人植物グルフ≫の球根ですわ」
透乃達が≪食人植物グルフ≫の球根を見つめていると、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が近寄ってきた。
透乃は球根を掌に乗せて多方向から観察する。
「へぇ、土の中にあったから燃えないで済んだのかな?」
「そうかもしれませんわ。ちなみに食用にすると結構おいしいらしいですわ」
イコナの言葉に、透乃の耳がピクリと反応し目に輝きが満ちる。
「陽子ちゃん、これ食べられるんだって!?」
「よかったですね、透乃ちゃん」
「うん♪」
透乃は唇を舌でひと舐めすると、「まだあるかも!」と掘り返した土を注意深く調べ始めた。
「確か、この辺りでしたわ」
リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は庭園が燃える前に歩いていた場所を、源 鉄心(みなもと・てっしん)達と一緒に調べていた。
庭園から脱出する前にリリィは、近くに墓があることを突き止めていたのだ。
「もしかしてこれじゃないですか」
すると、【ダウジング】を行っていた鉄心が、自身の足元に固い石版を見つけた。
鉄心は踵で数回踏みつけて確認をとると、屈みこんで被った灰を取り除く。
そうして鉄心達は文字の掘られた墓石を見つけた。
「お、こっちもなんか見つけたわよ」
鉄心達が墓の灰を取り除くのに夢中になっている中、【トレジャーセンス】を発動していたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)も何かを見つけた。
「何を見つけたんだ?」
マリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)は近づいて覗きこむ。
そこには何やら湯船にお湯を溜めるための『栓』のようなものが地面から見えていた。
「……なんだか嫌な予感がするな。そっとしておこうぜ」
あまりに不自然なことからマリィは、シオンと相談してそのままにしておくことにした。
見つけた墓は一つではなかった。鉄心達は等間隔で地面に埋めるように、墓石を見つけた。
そんな中、一つだけ他と違った装飾が施された墓石を見つけた。墓石の表面には≪首なしの豪傑騎士≫レイゼルの名が刻まれていた。
「この下に首がきっとあんですわね。それでは、さっそく……」
「待ってください」
鉄心が墓石に触れようとしたリリィの細い手を掴んだ。
「ここは用心してサイコメトリを使っておきましょう」
「わ、わかりました」
手を離されたリリィが一歩身を引き、鉄心が【サイコメトリ】を行おうとした。
その時、鉄心の目の前にシオンの足が突き刺さる。
「待ちなさい! そういうことなら、ここはツカサに任せなさいな!」
鉄心は踏まれそうになった手を戻しながら、ふんぞり返るシオンを見上げた。
「いくよ、ツカサ! コード『魔法装女』よ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ、シオンさん。何もここで変身しなくても――」
シオンは変身携帯たるたろすを取り出すと、慌てる月詠 司(つくよみ・つかさ)などお構いなしにボタンを押す。
「『2』『9』『3』『*』……強・制・変・身、『ENTER』!! 」
シオンがボタンを押し終わった瞬間、司の身体から淡いピンク光があふれだす。
光の包まれ、蝶のように空中に舞い上がった司の服が弾けた。そして光は凝縮して帯状になると、司の身体に纏わりつく。
光の帯は徐々に服の形を形成し、空中で回転する司は全身に満ちる魔法装女の力に悩ましい声をあげだす。
生徒達の前に一人のヒロイン(?)が舞い降りた。
「たるたろ系ラブリー魔法装女ツカサちゃん、ここに参上です♪」
魔法装女になった司は、自身の意志とは関係なしにポーズを決め、ウインクしていた。
「……って何いっているんですかぁぁぁぁ!?」
司が絶叫する。
薄らと胸板がのぞかせる上半身。腰に大きなリボンとフリルのついたミニスカート。手を肘まで覆う白い手袋。そしてすね毛を隠す二―ソックスに、子供が履けば可愛いだろう愛らしい靴。そして青ざめた表情の上には両側に可愛らしいリボンのついた帽子が乗っていた。
司が知り合いでなければ、この場にいた人間は間違いなく通報していたことだろう。
シオンが嬉しそうに目を細めて微笑む。
「フッ、ついにツカサの魔法装女としての本能が目覚めたようね」
「いや、目覚めるも何も元々ありませんから!」
「ツカサさん……」
必死に否定する司に鉄心が控えめな声で呼びかけた。
「キミは色々苦労をしているんだな。俺は心から同情するよ」
「……せめて目を合わせて言ってください。なんだかすごく悲しくなりますから」
司は精神的に大きなダメージを受けた。
なんだかんだで司は皆から譲られて墓の【サイコメトリ】を行う役を引き受けた。
「よかったね、ツカサ。これでサイコメトリが出来るよ」
「別に望んでないし、それに失ったものの方が大きかったよ」
司は汗が瞳から流れるのを堪え【サイコメトリ】を行う。その結果、墓にはロックがかけられていることがわかった。
すると、リリィが声をあげる。
「では、ここはうちのマリィにお任せください」
「え?」
「ほら、マリィ」
「ムリムリムリムリムリ! ムリだって!!」
リリィにいきなり【ピッキング】の仕事を押し付けられたマリィは、両手を振りながら後ずさった。
「どうして無理なのですか?」
「だって、お墓だよ。ロックがかかってるくらいだし、開けちゃだめだよ。それにほら、せっかくよく寝てるんだし、起こすことはないよ」
マリィは必死に言い訳をして、どうにか墓に触れるのだけは避けようとしていた。
「もしかして……怖いのですか?」
「ちっ、違う! ただ、もっとスマートにできるんじゃないかって……ほらこれとか、引っ張ったら――!」
「ちょっとマリィ!?」
極度の緊張の為に目の前に真っ白になりかけたマリィは、シオンが見つけた栓に手を伸ばし、思いっきり引っ張ってしまった。
「あれ?」
しかし、栓はチェーンで繋がっており、限界まで引っ張ると何かが外れる音と共にそれ以上引き抜けなくった。
何も起きないことに疑問を抱いていると、突然地面が揺れだした。
そして、次の瞬間。庭園のあちこちから地下水が吹き出し、水路を作りはじめた。
「ど、どうよ?」
「どうって――」
乾いた笑いを浮かべるマリィに、リリィが返答しかねていると、水を浴びたことで灰の中で息を潜めていた≪腐敗の魔草≫が周囲に顔を出してきた。
「皆さん、伏せて!!」
リリィが叫び、生徒達が指示に従って一斉にしゃがみ込んだ。
リリィが両手を左右に伸ばす。
「このバニッシュは、邪草を焼切る聖なる光ですわっ!」
瞬間、眩い光が周囲を包み込んだ。
邪悪な者を退かせる光は、≪腐敗の魔草≫だけを行動不能にした。
「どうよ、ですわ」
「お見事……」
マリィは呆然とリリィを見つめていた。
結局、マリィは墓に触れたがらず、代わりにナナユキ・シブレー(ななゆき・しぶれー)が【ピッキング】を行った。
ようやく墓石が退けられ、その下に棺桶を見つけた。
だが――
「あら、今度はなんでしょうか?」
棺桶にはアルファベットを入力する基盤が取り付けられていた。
「ここまで厳重だと中身は期待できそうですわね」
「かもしれませんが、これを解くのは苦労しそうです」
開くためには何らかの文字を入力する必要があった。
しかしそのためのヒントは何も残されていない。
いっそのこと強引に解体してしまう方法もあった。
しかし先ほどの仕掛けといい、何かよくないことが起こるかもしれないと生徒達は危惧していた。
「あ、鉄心。コタローさんですわ」
鉄心達が困っていると、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)のノートパソコン『TOUGH BOY』に、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)から連絡が入った。
「みなしゃん、きししゃんのおはかまでたどりついたれすか?」
「ええ、一応墓はみつけたんですが、今は暗号解読に苦戦している所なんです」
「それたったらおやくたれるれす」
コタローは他の生徒達と一緒に廃墟で≪首なしの豪傑騎士≫について調べていた。
おかげでそれらしいヒントをいくつか得ていたのだ。
鉄心はコタローの指示に従って、文字を入力する。
そして、二度間違い、三度目に「HOSIZORA」と入力したことで、ようやくロックが解除された。
「開いたぞ!」
鉄心達が慎重に棺桶の蓋を取り外す。
そこには――≪首なしの豪傑騎士≫の鎧の頭部分だけがひっそりと置かれていた。
「頭しか入っていませんわね」
「そうですね……いや、他にもあります。職員のカードとそれに……便箋か?」
鉄心が防具の内側に隠すように置かれていたICカードと便箋を手に取った。
「あ、それ見せてもらってもいいですか」
遠野 歌菜(とおの・かな)は鉄心から便箋を受け取ると、丁寧に中から手紙を取り出す。
手紙に書かれていたのは、≪首なしの豪傑騎士≫レイゼルがキリエを星夜に誘った時の内容だった。
歌菜は胸に手を当てながら、じっくりと手紙を読みふけった。
「閃いた!」
そして歌菜は手紙を持ったまま廃墟に走って行く。
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