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「うぅむ……科学と魔術を完全な一本線で結ぶにはどうするべきか……」
「それは難しい事だと思うな。完全に解明できているわけじゃないし」
「……あの、そろそろいいですかね?」
「え? ああ、そういや居たんだっけね……ってごめんごめん」
 アゾートの言葉に、ずーんと伝道師が落ち込む。
 買い物帰りのドクター・バベル(どくたー・ばべる)に質問をしたはずなのだが、何故か途中でアゾートと科学と魔術についての論争が始まってしまったのだ。
 その間、伝道師はハブられており、いじけて地面にのの字を書いていたのだが、それにも飽きたため話を中断させたのであった。
「つい話に夢中になっちゃって」
「全くだ。いや有意義な時間を過ごせた。感謝するぞ」
 満足そうにバベルが言う。
「……しかし、よく話が合いましたね。専門外なんで良くはわからないんですが、魔術と科学って相反する物だと思っていましたが」
「そうでもないぞ? 考え方を変えれば魔術も立派な科学だ。科学では『入力』という物を魔術では『呪文』、というようにな。その昔の錬金術師は最先端の科学者、なんて見方もされてる」
「まあ、似ている所もあるからね」
「行き過ぎた科学も、昔は魔法扱いされていたからな」
「うーむ、複雑ですねぇ」
 腕を組み伝道師が唸る。
「まあ専門外なら仕方ない……思考の助けだ、チョコ食うか?」
 そう言って、バベルがチョコを差し出し、はっと何かに気付いたような顔になる。
「ばばばばば馬鹿野郎! これはそういうのではなくてだな……ああもういい! 勘違いするんじゃないぞ!」
 そう言うと、バベルは顔を真っ赤にしてチョコを押し付けて逃げるようにして去っていく。
「……どうしたんだろ?」
「さて……? ところで、私これマスクあるんで食べられないんですが」
「いや脱ごうよ」



「全く、何処まで買いに行ったんだろうねぇあの娘は……」
 人通りの多い道、早乙女 彩奈(さおとめ・あやな)がぼやく。今、彼女は娘のように可愛がっている乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)を探していたのだ。
 彩奈と七ッ音は、空京に買い物に来ていた。一通り回った後『クレープを食べたい』と七ッ音が言い出し、一人でも大丈夫という彼女に任せて彩奈は待っていたのだが、何時まで経っても戻ってこない事に心配し探しに来たのである。
「ぼんやりしている所があるからねぇ、あの娘は」
 呆れたように言いつつも、すれ違いにならないよう通りを歩く人の顔を確認しつつ歩く。
「確か、こっちだったね」
 目的のクレープ屋は表の通りから外れた所にある。横道にそれ、人通りが一気に減る道を彩奈は歩く。
「……ん?」
 やがて店に近づこうとした時、彩奈の目にとある者達が映った。
「七ッ音……と、あれは誰だい?」
 それはクレープを手に持った七ッ音。そして、彼女の前にはトレンチコートを着て変なマスクを身に着けた明らかに怪しい人物。
――その人物を認識した直後、彩奈は走った。
「七ッ音!」
 そして、怪しい人物から七ッ音を守るように間を割って入る。
「あれ、彩奈さん?」
 七ッ音が驚いたような声を出す。
「もう大丈夫だよ……アンタ、うちの可愛い娘に何のようだい!?」
 そう言って彩奈が怪しい人物を睨み付ける。
「……保護者の方ですか?」
 怪しい人物――伝道師が、言葉を発した。
「ああ、そうだよ!」
「……ああ、丁度良かった」
 伝道師が、安堵したように溜息を吐く。
「あの、引き取っていただけないでしょうか?」
「……はい?」
 伝道師の言葉に、彩奈は首を傾げる。
「いえ、お嬢さんから『音楽に対する愛』のお話を聞かせて頂いたんですが……中々止まらなくて……」

――少し前に話は遡る。
「……愛、ですか?」
 クレープを買った帰り道、七ッ音は出くわした伝道師に質問されていた。
「ええ、何かありましたら」
「ありますよ……そうですね、一番愛しているのはクラリネットでしょうか」
「ほう、音楽ですか」
「ええ……クラリネットはロマンティックな音色を奏でるんですが、ただ吹けばいいという物ではありません。良い音を出す為に、曲や季節に応じてリードを選んだり、楽器の構え方の工夫なんかも必要です」
 捲し立てる様に言うと、七ッ音は拳を握り、
「いかにこの美しい音を活かし、演奏するかが私のクラリネットに対する最大の愛です!」
力強くそう言った。
「……ふむ、いいお話を聞けました。お時間を取らせてすみませんでしたね……ん?」
 そう言って去ろうとする伝道師の腕を、七ッ音が掴む。
「――まだお話は終わってませんよ」
 その言葉通り、まだまだ七ッ音の話は始まったばかりであった。

「そうです! まだまだお話しする事はありますよ!」
 ヒートアップする七ッ音とは対照的に、手に持ったクレープは冷め切っていた。それを見て、彩奈が溜息を吐く。
「……何か、すいませんねぇ」
「いえいえ、引き留めた私も悪かったのですから」
 苦笑するよう言うと、伝道師が頭を下げる。
「それじゃ……ほら行くよ!」
「待ってください! 私のクラリネットや音楽に対する愛はまだまだ語りつくしてないんです!」
 そう言う七ッ音を無理矢理引き摺る様にして彩奈が去っていった。
「……さて、終わりましたよアゾートさん」
 あまりに長い話に寝てしまったアゾートを、伝道師が揺すって起こす。
「あ、終わったの? 随分長かったね……」
「ええ……流石にちょっと疲れましたねぇ」
 欠伸をするアゾートに伝道師がゴキゴキと首を鳴らした。